遺言書を書くメリットは何?書き方と注意点は?

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遺言書を書いておくメリット

相続は、法律で相続の割合が決まっており(法定相続分)、それに生前贈与(特別受益)や亡くなった方への貢献(寄与分)で修正した相続分(具体的相続分)を相続人間で分配するのが原則です。

しかし、遺言書を書いておけば、亡くなった方の生前の意思が尊重され、法律上の相続割合とは異なる遺産の分け方を決めておくことができます

具体的なメリットとして考えられるのは、以下になります。

  1. 同居の親族に自宅不動産を残すことができる。
  2. 会社の後継者に株式を引き継がせることができる。
  3. 相続人以外の人にも財産をあげることができる(息子の嫁、孫、世話になった人など)。
  4. 遺産の分け方で相続人が話し合う必要がなくなり、無用な相続争いを回避できる。
  5. 亡くなった方の想いを相続人に伝えることができる。

①同居の親族に自宅不動産を残すことができる。

亡くなった方と同居していた親族は、そのまま親の自宅に住み続けるのが通常です。しかし、遺言書を書かずに相続が発生すると、親の自宅も遺産分割の対象となり、他の親族と分け方を話し合う必要があります。他に遺産があれば、すんなり自宅を相続できるかもしれませんが、主な遺産が自宅のみであれば、同居の親族に相続が偏るため、なかなかうんと言ってくれない可能性があります。多少のお金を払って解決できる場合も多いですが、最悪、自宅を売却し、売却金を分けるということにもなりかねません。

遺言書を書いておけば、遺産の分け方を決めることができますので、親の自宅を同居の親族に相続させることができます。遺産分割の話し合いをする必要はありません。最低限の取り分として認められている遺留分はありますが、請求をした相続人にだけお金を支払えばいいですし、金額も法定相続分より少なく済みます(通常、2分の1)。
なお、主な遺産が自宅だけの場合、相続税の支払いをどうするかという別の問題が起こりますので、別途考える必要があります。

②会社の後継者に株式を引き継がせることができる。

亡くなった方が会社の経営者だと、自分の会社の株式を持っている場合があります。しかし、遺言書を書かずに相続が発生すると、その株式も遺産分割の対象となり、他の親族と分け方を話し合う必要があります。そして、遺産分割が成立するまで、いわば宙に浮いた遺産共有の状態になり、株主総会決議などのために権利行使者を決めなければなりませんので、会社経営に支障が生じかねません。

遺言書を書いておけば、後継者に株式を引き継がせることができますので、遺産分割までの空白期間を避けることができます。遺留分の件は自宅と同様ですが、会社の経営状況が悪ければ、株式の評価額は低く、遺留分では問題になりにくいです(遺留分をお金で解決するようになった平成30年の相続法改正以降は特に)。また、株式の評価額が高い場合は、相続税対策として生前贈与をするなりしておく必要がありますので、むしろ生前対策が重要になります。

③相続人以外の人にも遺産をあげることができる(息子の妻、内縁など)。

相続人となる人は法律で決まっていますので、逆に言えば、遺言書を書かずに相続が発生すると、法律で決まっている相続人だけで遺産を分け合うことになります。しかし、ほとんど交流がなかった親族や代襲相続人が相続人になったりする一方で、世話になった相続人以外の人(息子の妻、内縁など)は何も相続できない事態になります。平成30年の相続法改正では、相続人以外の親族も、相続人に対して、貢献した分を特別寄与料で請求できるようになりましたが、特別の貢献や親族であることなどの要件がありますし、権利行使に期間制限もあります。

遺言書を書いておけば、世話になった人に、自分が考える貢献分を分け方に反映できますし、お金だけでなく、特定の財産をあげることができます。遺留分の問題ややはり生じますが、より自分の意思を実現しやすいといえます。

④遺産の分け方で相続人が話し合う必要がなくなり、無用な相続争いを回避できる。

遺言書を書かずに相続が発生すると、遺産の分け方を話し合う必要がありますので、意見の違いなどで揉める場合があります。特に、インターネットで中途半端に知識を仕入れていたり、裏付けのない話を一切譲れなかったり、遺産分割とは関係ない過去の遺恨があったりすると、柔軟で合理的な落としどころを見いだせなくなり、無用な相続争いが長引きます。遺産分割が長引けば、遺産の管理や経費負担が続きますので、相続争いによる精神的な負担のみならず、金銭的な負担も大きくなります。

遺言書を書いておけば、遺産の分け方を話し合う必要はなくなり、あとは遺留分を請求したきた場合の金銭的な問題になります。金額の部分でなかなか折り合いが付かない場合でも、遺産が宙に浮いた状態になり、処分もできないという事態は避けることができます。

⑤亡くなった方の想いを相続人に伝えることができる。

遺言書を書かずに相続が発生すると、亡くなった方の生前の意思や意向が分からないため、相続人同士の利害ばかりが先鋭化しがちです。

遺言書を書いておけば、「付言事項」という形で、遺言書を作成した経緯、分け方の理由、自分の想いを残しておくことができますので、無用な疑心暗鬼をなくしたり、解決の指針や拠り所にすることができます。法的な効果があるわけではありませんが、感情面で無用な相続争いを避けるための手段として有効です。

遺言書に書くことができる内容

遺言書に書ける内容は様々あり、認知、未成年後見人の指定、相続人の廃除、相続分の指定、遺産分割方法の指定などがあります。もっとも、遺産の分け方という点で言えば、相続分の指定と遺産分割方法の指定が重要です。

相続分の指定とは、法定相続分とは異なる相続割合を定めることをいいます。たとえば、相続人が妻と子1人だった場合、法定相続分は2分の1ずつですが、相続分の指定により、妻3分の1、子3分の2などに変えることができます。

遺産分割方法の指定とは、その名のとおり、遺産の分け方を指定することで、たとえば、「預貯金を妻に相続させ、不動産を子に相続させる」などです。なお、遺産分割方法を指定しておくと、相続分も法定相続分から変わるのが通常ですので、その場合、相続分も指定もワンセットで行っていることになります。

遺言書の書き方

遺言書は、自分で書くこともでき、これを自筆証書遺言といいます。ただし、法律で細かく形式が決まっており、形式を間違えると無効になりますので、注意が必要です。法律で定まっている形式は、以下のとおりです。

  1. 「遺言書の全文」を手書きで書くこと
    ※財産目録(財産のリスト)は手書きでなくても可
  2. 「日付」を手書きで書くこと
  3. 「氏名」を手書きで書くこと
  4. 「押印」をすること

①遺言書の全文

「遺言書の全文」については、紙の種類や筆記用具は決まりがありませんが、鉛筆など消すことができるものは避け、ペンやボールペンで書いた方がいいでしょう。

また、以前は財産の内容も全部手書きで書く必要がありましたが、平成30年の相続法改正により、財産目録(財産のリスト)はパソコンで作成したり、通帳や不動産登記簿などの資料を添付することが可能になりました。ただし、毎ページに署名・押印が必要です。
遺産を全部あげる場合、それだけ書けば有効ですが、もらう人はどのような遺産があるか分からない可能性もありますので、遺言書とは別に、財産のリストなどを用意するなり、事前に伝えておくなりした方がいいでしょう。

②日付

「日付」については、「●●吉日」など特定できない日だと無効になりますので、令和●年●月●日などのように、いつ書いたのか特定できるようにしましょう。

③氏名

「氏名」については、特定できるのであれば通称でも構わないのですが、様々な手続のことを考えますと、戸籍上の氏名にしておくのが無難です。また、一つの遺言に一人だけしかできませんので、連名にすることはできません。

④押印

「押印」については、拇印や認印でも構いませんが、印鑑照合ができるため、実印の方が好ましいです。

加除訂正の方法

加除訂正のやり方も法律上決まっており、形式に従って修正する必要があります。
①加除訂正した場所に押印をし、
②加除訂正する文字を書き、
③どこをどのように加除訂正したのか余白などに書き
④その場所に署名
します。具体的には、「〇行目〇文字削除〇文字追加」などで加除訂正個所を特定します。

もっとも、形式が厳格に決まっていますし、加除訂正は無用な疑念を引き起こしますので、下書きをしっかりし、間違えてしまったら書き直した方が好ましいでしょう。

遺言は万能ではない

遺言は自分の意思を相続に反映させるためにとても有効ですが、遺言は万能ではありません。

遺言だと、亡くなった時に遺産を移すことになりますが、認知症になってしまった場合には、財産の管理や有効活用が困難になります。成年後見人が本人のために財産処分をし、遺言の内容を実現できなくなる場合もあります。

賃貸物件など有効活用したい財産がある場合、遺言だけではなく民事信託(家族信託)も組み合わると、相続におけるより細かいニーズを実現できます。

また、遺留分や相続税の支払いについても意識しないと、不動産を売却しなければならず、せっかく遺言をした意味がなくなります。遺留分対策、節税対策、納税資金対策のため、死亡保険に加入しておくことも有効です。

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