公平な相続を実現するための遺産相続の流れと必要な手続き

法律どおりの公平な相続を実現するためには、遺産相続の流れと必要な手続きを正しく把握しておく必要があります。もっとも、専門家のように、細かいところまで理解していなくても大丈夫です。ポイントを絞って把握するだけでも、公平な相続に近づくことができます。

以下は一つのモデルケースですが、ポイントを押さえておくだけでも役に立ちます。

STEP
「相続承認」リスクへの対応
  • タイミング
    相続開始後、即時
  • 調査・対応すべきこと
    安易に遺産を処分、解約、隠匿しない
  • 解説
    安易に預貯金の引き出しなどをすると、相続を承認したことになり、相続放棄ができなくなります(「単純承認」といいます)。そして、相続放棄は相続が開始した3か月以内に手続をする必要がありますが、相続を承認してしまうと、3か月以内であっても相続放棄できなくなります

    そのため、相続放棄をする可能性があるのであれば、相続が開始した瞬間から遺産の取扱いには注意し、相続承認を避ける必要があります
STEP
遺言書の調査・検認手続
  • タイミング
    相続開始後、早い段階で
  • 調査・対応すべきこと
    ①遺言書の有無を調査する
    ②自筆証書遺言を発見したら、家庭裁判所で検認手続をする
  • 解説
    亡くなった方の自宅、貸金庫、公証役場などで遺言書の有無を調査します。遺言書があれば、基本、遺言書通りに分ける手続をすればいいのですが、遺言がないと、遺産の分け方自体を話し合う必要がありますので、遺言書の有無を早い段階で調査する必要があります。

    自筆証書遺言(手書きの遺言)は家庭裁判所で「検認」という手続をする必要があります。なお、公正証書遺言は検認不要です。また、手書きの遺言書のうち、自筆証書遺言書保管制度で法務局が預かっている遺言書も検認不要です。
STEP
相続財産・債務の調査
  • タイミング
    相続開始後、1か月後くらいには着手
  • 調査・対応すべきこと
    ①通帳、保険証券、権利書、請求書、契約書等を確認する
    ②亡くなった方の預金口座の動きを精査する
  • 解説
    通帳等は、相続財産・債務の裏付けになる重要な資料で、これらを確認することは税務申告や遺産分割を行う上で前提となります。

    亡くなった方の預金口座の動きを精査し、株式取引、生命保険の支払いやローンの支払いなど相続財産・債務に関する痕跡を確認します。遺産分割や相続放棄の大前提となりますので、漏れが生じないように記載内容を一つ一つ確認します。
STEP
使途不明金(使い込み)・生前贈与の調査
  • タイミング
    相続開始後、1か月後くらいには着手(相続財産・債務の調査と同時並行)
  • 調査・対応すべきこと
    亡くなった方の預金口座からの出金状況を精査する
  • 解説
    亡くなった方の預金口座を精査し、多額のお金の引き出しや口座振込みの有無を調査します。おかしな引出しがある場合には、引き出したと思われる親族に理由や使い道を確認します(生前贈与や使い込みの可能性を調査)。

    なお、預金口座の精査は、相続手続において必須の作業ではなく(特に、相続税申告の必要がない場合)、大々的に必要性がアピールされることはありません。しかし、お金を引き出したことにより遺産が減ってしまったわけですから、その減ってしまった遺産をいくら公平に分けたとしても、本当に公平な相続は実現できません。

    税務調査の可能性もありますので、少なくとも3年分はやっておいた方が安全です。
STEP
相続人の調査・確定
  • タイミング
    相続開始後、1か月後くらいには着手(相続財産・債務の調査と同時並行)
  • 調査・対応すべきこと
    戸籍を集め、相続人の調査・確定をする
  • 解説
    相続人が一人でも漏れると遺産分割はやり直しになりますので、代襲相続人(本来の相続人が先に亡くなった場合に相続人になる人)を含めて調査する必要があります。

    なお、相続放棄をした場合、次順位の相続人が相続人となりますので、自分は相続しないと思っていた人が相続人になる場合があります。相続債務を引き継がないよう、相続人の順位も意識し、次順位の相続人にも相続放棄を促す必要があります。
STEP
相続財産の評価
  • タイミング
    不動産など主要な相続財産が確定したら
  • 調査・対応すべきこと
    不動産査定などで相続財産の評価額を算出する
  • 解説
    預貯金の残高証明書、保険の解約返戻金計算書、不動産の査定書などで相続財産の評価額を算出します。

    なお、相続税評価額は、あくまでも相続税申告のための評価額であり、遺産分割や遺留分のための評価額ではありませんのでご注意ください。
    たとえば、小規模宅地の特例という税務特例で不動産の評価額は大幅に下がりますが、遺留分や遺産分割での評価額は違います。「通常の評価額」で不動産の評価をしたいとお考えであれば、不動産業者2~3社から簡易査定書をもらい、市場での評価額を確認してみた方がいいでしょう(無料でもらえます)。
STEP
相続放棄の検討・手続
  • タイミング
    相続開始後、3か月以内
  • 調査・対応すべきこと
    家庭裁判所で相続放棄の手続をする
  • 解説
    相続財産・債務を調査した結果、相続しないことに決めた場合、家庭裁判所で相続放棄の手続をします。相続したい財産がある場合には、限定承認という中間的な方法を検討します。

    なお、相続手続の中で、他の相続人から相続放棄の書面が送られてくることがありますが、正式な相続放棄にはなりません。最悪、遺産はもらわないのに、借金は支払いを求められる可能性がありますので、安易に相続放棄の書面にサインするのは避けましょう
STEP
特別寄与料の算定・請求
  • タイミング
    ①金額算定:相続開始後、遅くとも3か月後ぐらいには着手
    ②請求手続:相続開始後、6か月以内
  • 調査・対応すべきこと
    相続人「以外の」親族から亡くなった方への貢献を金額算定し、相続人に請求する
  • 解説
    遺産分割における寄与分に似ていますが、平成30年の相続法改正により、相続人「以外の」親族の貢献についても金銭請求できるようになりました。

    もっとも、寄与分同様、どのような貢献でも対象になるわけではなく、いくつかの要件がありますので、要件を満たしているか慎重にチェックする必要があります。

    また、相続の開始等を知った時から6か月以内に裁判所に申立てをする必要がありますので、金額算定の時間も考慮すると、早い段階から着手した方が無難です。
STEP
寄与分の算定
  • タイミング
    遺産分割協議の前までには着手
  • 調査・対応すべきこと
    相続人から亡くなった方への貢献をピックアップし、金額算定する
  • 解説
    亡くなった方に対する貢献は寄与分といい、遺産分割でもらえる相続分が多くなりますが、どのような貢献でも対象になるわけではなく、特別な貢献が必要です。

    寄与分になる貢献か、その裏付けはあるか、寄与分の金額算定は合理的かなどを交通整理しないともめる原因になりますので、慎重な対応が必要です。
STEP
(遺言がない場合)遺産分割協議
  • タイミング
    (可能であれば)相続開始後10か月以内
  • 調査・対応すべきこと
    遺産の分け方を相続人同士で話し合い、遺産分割協議書を作成する
  • 解説
    特別受益、寄与分だけでなく、使途不明金(使い込み)、相続した賃貸物件の賃料分配についても、遺産分割の中で金額の話し合いができます。

    相続税の申告期限は10か月ですので、期限に間に合わせるためには、早めに遺産の調査と遺産分割の話し合いを進める必要があります。

    もっとも、間に合わない場合は、未分割で仮に相続税申告をし、協議がまとまったら改めて申告することもできます。納得できない部分がある場合には、とりあえず未分割で税務申告をしておき、納得できない部分を解消した上で、遺産分割協議書にサインすることも可能です。
STEP
(遺言がある場合)遺留分侵害額の調査・請求
  • タイミング
    相続開始後、1年以内
  • 調査・対応すべきこと
    遺留分侵害額を調査し、侵害されていれば金銭請求する
  • 解説
    相続財産・債務の調査、相続財産の評価、生前贈与の調査の結果から遺留分の侵害額を計算し、遺留分が侵害されているのであれば、多くもらった相続人に金銭請求をします。

    重要なことは、
    ①生前贈与があれば、遺留分が多くなる可能性があること
    ②不動産の評価額は路線価・固定資産税評価額ではなく、時価であること
    です。

    なお、遺留分を正しく計算するためには、通帳の精査や不動産査定の取得が必須です。
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遺産分割調停・審判
  • タイミング
    遺産分割協議がまとまる見込みがないとき
  • 調査・対応すべきこと
    家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てる
  • 解説
    遺産分割協議がまとまらない場合、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てます。裁判所のスケジュールに乗りますので、調停を申し立てた方が早い場合もあります。

    もっとも、裁判所の手続ですので、自分の言い分を通すためには法的な論理構成と裏付け(証拠)が重要になります。調停でもまとまらない場合は、裁判所が審判で決着を付けますが、こちらは裏付けが必須です。
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