相続人がいないときに選任する「相続財産管理人」とは?

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相続財産管理人とは?

相続人がいない場合(いるか分からない場合も)、遺産を引き継ぐ人がいないため、その遺産はいわば宙に浮いた状態になります。
たとえば、相続人がいないのに自宅が残っていた場合、誰も処分できないまま空き家だけが残されることになります。

そのような時は、相続人の代わりに遺産を整理する人が必要になります。
相続する人がおらず、宙に浮いた状態の遺産を整理する人のことを「相続財産管理人」といいます。

後述しますが、たとえば、相続人ではないのに事実上遺産を管理している人や、特別縁故者として遺産の分与を受けたい人がいる場合には、相続財産管理人の選任を検討します。

相続財産管理人の選任要件は?

相続財産管理人は家庭裁判所が選任しますが、以下の3つの要件が必要です。

  1. 相続の開始
  2. 遺産の存在
  3. 相続人のあることが明らかでないこと

この中で特に検討が必要なのが、③の「相続人のあることが明らかでないこと」です。

「相続人のあることが明らかでない」とは?

戸籍上の相続人が存在しない場合

「相続人のあることが明らかでない」とは、相続人の「存否が」不明であることをいいます。
典型的には、戸籍上、相続人が存在しない場合や、戸籍上の相続人が全員相続放棄をし、相続する人がいない場合です。

もっとも、戸籍上、相続人が存在しなかったとしても、相続財産管理人を選任する必要がない場合もあります。
たとえば、遺言書があり、相続人以外の人が全ての遺産を相続する場合です。
遺産を相続する人がいますので、不動産登記手続で必要になる場合などの例外を除き、「相続人のあることが明らかでない」には当たらないことになります。

生死や所在が不明の相続人がいる場合

戸籍上、相続人がいるようだが、その生死や所在が不明である場合があります。
しかし、このような場合でも、相続人の「存否が」不明とはいえませんので、「相続人のあることが明らかでない」には当たりません。

このような場合には、生死や所在が不明である相続人について、不在者財産管理人の選任や失踪宣告といった別の手続が必要になります。

相続財産管理人の選任を申し立てる「利害関係人」とは?

相続財産管理人の選任を申し立てるのは、「利害関係人」です(民法952条1項)。
*検察官も申し立てることができますが、ここでは割愛します。

利害関係人とは、相続財産について法律上の利害関係を有する人のことをいいます。
たとえば、以下のような人が考えられます。

事務管理者

事務管理とは、簡単に言えば、義務ではないことを事実上やってあげた場合のことをいいます(民法697条)。
たとえば、相続人以外の親族が、亡くなった方の自宅を管理してあげていた場合などです。

本来、義務ではないことを善意でやっていたとしても、一度事務管理を始めたら、法的な権利義務関係が生じますので、「利害関係人」に当たります。

成年後見人

成年被後見人が亡くなれば、成年後見人の任務は終了します。相続人がいれば、遺産を相続人に引き継ぎますが、相続人がいない場合には、引き継ぐ先が必要になりますので、成年後見人も「利害関係人」に当たります。

相続債権者

債権者が債権回収を行ったり、担保権を実行したりする必要がありますので、「利害関係人」に当たります。

相続債務者

被相続人に対して債務を負担していた人も、相続財産について法律上の利害関係を有していますので、「利害関係人」に当たります。

葬儀費用を立て替えた人

厳密に言えば、葬儀費用は相続債務ではありません。しかし、葬儀費用を立て替えた人も「利害関係人」に当たると解されています。

特別縁故者

特別縁故者とは、亡くなった人の療養看護に努めるなど特別の関係を有し、相続人ではないのに遺産の分与を受けられる人のことです。たとえば、甥は相続人ではありませんが、生前、亡くなった方の世話をしていた場合には、特別縁故者となる可能性があります。

(特別縁故者に対する相続財産の分与)
第九百五十八条の三 前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
2 前項の請求は、第九百五十八条の期間の満了後三箇月以内にしなければならない。

特別縁故者が遺産の分与を受ける前提として、相続財産管理人が遺産の整理をする必要があるため、申立権が認められています。

その他

遺言執行者 、登記権利者 、国・地方公共団体などが「利害関係人」となる場合があります。

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