共有不動産を売りたいのに他の共有者が反対… 交渉や訴訟で持分を現金化する方法

相続などで複数の人が共有名義となった不動産。
ご自身はその不動産を売却して現金化したいと考えているのに、他の共有者が反対している場合、一体どうすれば良いのでしょうか?
共有名義の不動産は、単独名義の不動産とは異なり、売却には原則として共有者全員の同意が必要となるため、話がまとまらないと身動きが取れない状況に陥りがちです。
本記事では、共有不動産を巡る共有者間の対立に直面し、共有持分の現金化を検討している方に向けて、法的根拠に基づいた解決策を分かりやすく解説します。
共有者との交渉から、共有物分割請求訴訟、そして共有持分の売却といった、ご自身の状況に合わせて取り得る手段を知ることで、共有不動産の問題解決に向けた一歩を踏み出せるはずです。
共有名義の不動産は単独では売却できない!
相続などで複数の人が共有名義となっている不動産は、原則として共有者全員の同意がなければ売却することはできません。
これは、法律によって定められたルールです。
共有名義とは、一つの不動産に対して複数の所有者がいる状態を指します。
たとえば、ご兄弟で親御さんから相続した不動産や、ご夫婦で共同購入した住宅などが該当します。
不動産全体を売却するには、共有者全員の同意が必要となります。
もし共有者の中に一人でも売却に反対する人がいれば、その不動産全体を売却することは原則としてできないのです。
この法的根拠となるのが、民法第251条です。
民法第251条では、「各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない」と定められています。
この「変更を加える」行為には、不動産の売却、つまり「処分行為」も含まれると解釈されています。
(共有物の変更)
第二百五十一条 各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。
2 共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、当該他の共有者以外の他の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができる。
しかし、共有名義の不動産であっても、ご自身の持つ共有持分(共有している不動産全体に対する権利の割合)だけであれば、他の共有者の同意を得ずに単独で売却、贈与、または担保設定などの処分をすることができます。
これは、民法第206条が定める所有者の権利に基づくものです。
民法第206条では、「所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する」と規定されており、共有持分もこの「所有物」に含まれると解釈されるためです。
(所有権の内容)
第二百六条 所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。
このように、共有不動産全体の売却には共有者全員の同意が必要ですが、ご自身の共有持分のみであれば単独で処分できるという点が、共有不動産の問題を複雑にしている要因の一つと言えるでしょう。
共有者全員の権利を保護するために、不動産全体の売却には全員の同意が必要となる一方、個々の共有者の財産権も尊重されるため、自己の持分については自由に処分できるというバランスが図られています。
共有不動産の売却を巡る共有者間の対立:よくある事例と解決策
共有不動産の売却を進めるにあたっては、さまざまな理由で共有者間の意見が対立することがあります。
以下で、よくある事例とその背景にある原因を見ていきましょう。
- 売却の意思の変更
当初は売却に同意していた共有者が、途中で考えを変えて売却に反対するケースがあります。
これは、経済状況の変化や個人的な事情の変化などが原因として考えられます。 - 売却価格への不満
共有者間で売却自体には同意しているものの、提示された売却価格に納得がいかないというケースも少なくありません。
特に、不動産の査定額に対する認識のずれや、それぞれの希望する売却価格に開きがある場合に起こりやすいです。 - 売却代金の分配方法への不満
売却代金の分配方法について、共有者間で合意が得られないことがあります。
法定相続分や共有持分割合とは異なる分配を希望する共有者がいる場合などに生じます。 - 連絡が取れない共有者がいる
相続から時間が経過し、共有者の中に連絡先が不明な人や、認知症などで意思能力がない人がいる場合、売却の手続きを進めるための同意を得ることが困難になります。 - 不動産の利用意向の違い
一方の共有者は売却を希望している一方で、他の共有者はその不動産に住み続けたい、賃貸に出したい、またはリフォームして活用したいなど、不動産の利用方法について意見が対立するケースもあります。 - 感情的な対立
過去の遺恨や人間関係の悪化などが原因で、合理的な理由なく売却に反対する共有者も存在します。
これらの対立の根底には、共有者それぞれの経済状況、ライフプラン、不動産に対する思い入れなど、さまざまな要因が複雑に絡み合っています。
共有不動産の売却をスムーズに進めるためには、これらの対立の原因を理解し、それぞれの立場を尊重しながら解決策を探っていくことが重要となります。
他の共有者が売却に反対する場合の持分現金化の主な方法
共有者が共有不動産の売却に反対している場合でも、ご自身の共有持分を現金化する方法はいくつか存在します。
主な方法としては、以下の3つが挙げられます。
- 共有者との交渉
まずは、他の共有者と直接話し合い、ご自身の希望や状況を丁寧に説明し、理解を求めることが基本となります。 - 共有物分割請求訴訟
共有者との交渉がうまくいかない場合、裁判所に共有物の分割を請求する訴訟を提起することを検討します。 - 共有持分の売却
ご自身の共有持分のみを第三者に売却するという方法もあります。
これらの各方法には、それぞれメリットとデメリット、手続きの流れ、注意点などがあります。
ご自身の状況や他の共有者の意向などを総合的に考慮し、最適な方法を選択する必要があります。
方法 | 目標 | メリット | デメリット | 手続き | 主な考慮事項 |
---|---|---|---|---|---|
共有者との交渉 | 他の共有者に自分の持分を買い取ってもらう、または不動産全体の売却に同意してもらう | 関係が悪化しにくい可能性がある、不動産全体の適正な価格で売却できる可能性がある | 他の共有者の協力が必要、時間と精神的な負担がかかる可能性がある | 直接的な話し合い、調停など | 他の共有者の協力意欲、譲歩の可能性 |
共有物分割請求訴訟 | 裁判所の判決によって共有状態を解消する | 交渉がまとまらない場合に強制的に解決できる、裁判所が公平な分割方法を決定する | 時間と費用がかかる、分割方法が希望通りになるとは限らない | 訴訟提起、裁判所での審理、判決 | 訴訟費用、裁判期間、分割方法の種類(現物分割、代金分割、競売分割) |
共有持分売却 | 自分の持分を第三者に売却してすぐに現金化する | 他の共有者の同意は不要、比較的早く現金化できる | 売却価格が市場価格より大幅に低くなる可能性が高い、他の共有者との関係が悪化する可能性がある | 買い手を探す、価格交渉、契約締結 | 買い手の見つけにくさ、売却価格の低さ、他の共有者への影響 |
共有物分割請求訴訟の詳細:3つの分割方法
共有者との交渉がうまくいかない場合、法的な手段として共有物分割請求訴訟を検討することができます。
これは、共有者の一人が他の共有者に対して、共有物の分割を求める訴訟です。
裁判所は、共有物の性質や状況、共有者の意向などを考慮し、以下のいずれかの方法で分割を命じます。
- 現物分割
共有物を物理的に分割し、それぞれの共有者が単独で所有できるようにする方法です。
たとえば、広大な土地であれば、共有者の持分割合に応じて区画を分け、それぞれが単独で登記することができます。
しかし、建物や狭い土地など、物理的な分割が難しい場合や、分割によって不動産の価値が著しく低下するおそれがある場合には、この方法は選択されません。 - 代金分割(賠償分割)
共有者の一人または複数人が共有物全体の所有権を取得し、代わりに他の共有者に対して、それぞれの持分割合に応じた金銭(代償金)を支払う方法です。
この場合、不動産の価値は不動産鑑定士などによって評価され、その評価額に基づいて代償金の額が決定されます。
ただし、不動産を取得する共有者には、他の共有者に対して代償金を支払うだけの資力が必要となります。 - 競売分割(換価分割)
共有物全体を競売にかけて売却し、その売却代金を共有者の持分割合に応じて分配する方法です 。
これは、現物分割や代金分割が難しい場合、または不動産の価値を著しく損なうおそれがある場合に、最終的な手段として選択されることが多いです。
ただし、競売による売却価格は、通常の市場価格よりも低くなる可能性があることに注意が必要です 。
競売分割の手続きは、まず裁判所に申し立てを行い、その後、不動産の評価、入札、落札、代金納付、そして代金の分配という流れで進みます。
分割方法 | 内容 | 裁判所の考慮事項 | 手続き | メリット | デメリット |
---|---|---|---|---|---|
現物分割 | 共有物を物理的に分割し、個々の共有者が単独所有する | 物理的な分割の可能性、分割後の不動産の利用価値の維持、共有者の希望 | 測量、分筆登記などの手続き | 各共有者が単独で不動産を所有・管理できる | 分割が物理的に不可能または困難な場合がある、分割によって不動産の価値が低下する可能性がある |
代金分割 | 一部の共有者が共有物全体の所有権を取得し、他の共有者に代償金を支払う | 不動産の適正な評価、取得者の資力、共有者間の公平性 | 不動産鑑定、代償金の額の決定、所有権移転登記 | 特定の共有者が不動産を維持できる、他の共有者は現金を得られる | 取得者に十分な資力が必要、代償金の額で争いが生じる可能性がある |
競売分割 | 共有物全体を競売で売却し、売却代金を共有者間で分配する | 現物分割や代金分割が困難または不適当な場合 | 競売の申し立て、不動産評価、入札、代金納付、分配 | 共有関係を確実に解消できる | 売却価格が市場価格より低くなる可能性がある |
共有持分のみを売却する際の注意点
共有不動産全体の売却が難しい場合や、共有物分割請求訴訟の手続きに抵抗がある場合、ご自身の共有持分のみを第三者に売却するという選択肢も考えられます。
ご自身の共有持分は、他の共有者の同意を得ることなく自由に売却することができます。
これは民法第206条に基づく権利です。
しかし、共有持分のみの売却には、いくつかの注意点があります。
まず、共有持分だけを購入したいという買い手は、一般の不動産市場では非常に見つけにくいという点です。
なぜなら、共有持分を購入しても、その不動産全体を自由に使えるわけではなく、他の共有者との協議が必要になるなど、権利行使に制約を受けるためです。
そのため、共有持分のみの売却では、不動産全体の市場価格に持分割合を乗じた金額よりも、大幅に低い価格でしか売却できない可能性が高いです。
買い手としては、将来的に他の共有者の持分も取得する必要があるなど、リスクを考慮して価格を低く設定する傾向があります。
また、ご自身の共有持分を売却する際に、他の共有者に事前に通知する法律上の義務はありません。
しかし、他の共有者に何の相談もなく売却した場合、後々トラブルに発展する可能性も否定できません。
売却後に、見知らぬ第三者が突然共有者として現れることになるため、他の共有者との関係が悪化したり、共有不動産の管理や利用を巡って新たな紛争が生じたりするおそれがあります。
共有持分のみの売却の主な買い手としては、共有持分専門の買取業者や投資家などが挙げられます。
これらの業者は、共有持分を安く買い取り、他の共有者から残りの持分を買い取って不動産全体の所有権を得たり、共有物分割請求訴訟を起こして共有状態を解消し、不動産全体を売却して利益を得ることを目的としている場合があります。
そのため、買取業者との交渉では、提示される価格が相場よりも大幅に低い可能性があること、そして、売却後に他の共有者との間でトラブルが生じる可能性も考慮しておく必要があります。
共有不動産の売却・共有持分の現金化に関するQ&A
Q1: 他の共有者の許可なしに自分の持分だけを売却できますか?
A: はい、民法第206条に基づき、他の共有者の許可を得ずにご自身の共有持分のみを売却、贈与、または担保設定などの処分をすることができます。
Q2: 共有者が共有不動産の売却に反対しています。どうすればいいですか?
A: まずは他の共有者と交渉し、ご自身の希望や状況を丁寧に説明することが重要です。交渉が難しい場合は、共有物分割請求訴訟を検討するか、ご自身の共有持分のみを第三者に売却するという方法もあります。
Q3: 共有物分割請求訴訟にはどのような費用と時間がかかりますか?
A: 費用は、裁判所に納める手数料(不動産の評価額によって変動します)、弁護士に依頼する場合は弁護士費用、そして不動産鑑定が必要になった場合は鑑定費用などがかかります。時間は、訴訟の内容や裁判所の状況によって異なりますが、1年以上かかることもあります。
Q4: 共有持分を売却する際に、他の共有者に通知する義務はありますか?
A: いいえ、法律上、共有持分を売却する際に他の共有者に通知する義務はありません。しかし、通知せずに売却した場合、他の共有者との関係が悪化する可能性があるため、慎重に判断する必要があります。
Q5: 共有不動産全体の売却には、共有者全員の同意が必要ですか?
A: はい、民法第251条により、共有不動産全体を売却するには共有者全員の同意が必要です。共有者の中に一人でも反対する人がいる場合、原則として売却はできません。
Q6: 共有物分割請求訴訟では、どのような分割方法が取られますか?
A: 裁判所は、共有物の状況に応じて、現物分割、代金分割(賠償分割)、または競売分割(換価分割)のいずれかの方法で分割を命じます。原則として、現物分割が優先的に検討されます。
Q7: 共有持分を売却する場合、相場よりも安くなりますか?
A: はい、一般的に、共有持分のみを売却する場合、その価格は不動産全体の市場価格に持分割合を乗じた金額よりも大幅に低くなる傾向があります。
まとめ
共有不動産の売却を巡る共有者との対立は、多くの方が直面する複雑な問題です。
しかし、法的な知識と適切な手段を用いることで、共有持分の現金化は決して不可能ではありません。
共有者との粘り強い交渉、共有物分割請求訴訟という法的手段、そして共有持分の売却といった選択肢を理解し、ご自身の状況に合わせて最適な方法を検討することが重要です。
共有不動産の問題は、個々の状況によって最適な解決策が異なります。
もしご自身だけで判断に迷う場合は、専門家である弁護士に相談し、具体的なアドバイスを受けることをお勧めします。