「共有者と何年も連絡が取れない。この不動産はもう動かせないのか」――諦める前に検討したい2つの裁判

この記事のポイント

共有者の一人と連絡が取れなくても、裁判所の手続で不動産を動かす道はあります。使える裁判は2つ。行方不明の共有者の持分を買い取る「持分取得の裁判」(民法262条の2)と、不動産全体を第三者へ売るための「譲渡権限付与の裁判」(民法262条の3)です。持ち続けたいなら前者、売却が目的なら後者が基本ですが、供託金の額や期限の縛りが違うため、売却目的であえて前者を選ぶ判断もありえます。

ご相談に来られたのは、親から実家を相続した50代の方でした。土地と建物は、親と共有名義だった叔父との共有のまま。買いたいという不動産業者が現れましたが、その叔父とは20年近く音信不通で、住所も分かりません。「共有者全員の同意がないと契約できない」と業者に言われ、話はそこで止まりました。

目次

共有者の一人と連絡が取れないと、なぜ売れないのか

共有不動産の全体を売るには、共有者全員の同意が要ります。持分が100分の1の共有者でも、一人欠ければ売買契約は成立しません。抵当権の設定や建物の取り壊しも同じです。残る共有者がどれだけ売りたくても、ハンコがひとつ足りないだけで、法律上、不動産は動かせなくなります。

とはいえ、行方不明の人から同意を取ることはできません。そこで令和5年(2023年)4月施行の改正民法は、本人の同意の代わりに、裁判所の決定とお金で先へ進められる仕組みを2つ用意しました。

ひとつは、行方不明の共有者の持分を、残った共有者が買い取る方法です(持分取得の裁判)。持分が自分に移れば、同意を取るべき相手そのものがいなくなります。あとは通常の不動産として、売ることも貸すこともできます。もうひとつは、行方不明の共有者の分も含めて、不動産全体を第三者に売る権限を、裁判所から与えてもらう方法です(譲渡権限付与の裁判)。全員のハンコが揃ったのと同じ状態を、裁判所の決定でつくるわけです。

どちらの裁判も、行方不明の共有者から持分をただで取り上げる制度ではありません。持分に見合うお金をあらかじめ法務局に預けておき(供託)、本人が現れたときに受け取れるようにします。本人の利益を守るからこそ、同意なしで進めることが認められているのです。

ただし、この2つの裁判は、誰でもすぐに使えるわけではありません。かといって放置すると、空き家の管理責任と固定資産税の負担は残り続けますし、行方不明の共有者に相続が起きれば、持分はさらに細かく分かれます。時間が経つほど、探す相手も同意を取る相手も増えていき、ますます解決が難しくなります。

動く前に確認する3つのこと

1.その共有者は、法律上の「所在等不明」か

最初の分かれ目です。電話に出ない、手紙を無視される、不仲で話し合いに応じない――これらは所在等不明にあたりません。連絡先が分かっている以上、「所在を知ることができない」とはいえないからです。

裁判所が求める調査は、具体的なものです。登記簿や住民票・戸籍の附票で住所を特定し、そこへ手紙を出しても戻ってくる、訪ねても住んでいる形跡がない。加えて、他の共有者など心当たりのありそうな人にも聞いて回る。ここまで調べて初めて、調査を尽くしたと認めてもらえます。実務では、裁判所が公表している探索結果の報告書のサンプルに沿って調査し、記録を残していきます。

よくあるのは、登記名義人がすでに亡くなっていて、戸籍で判明した相続人の所在がつかめないというパターンです。この場合、探す相手は名義人本人ではなく、相続人に変わります。他方、「共有者と話が進まない」というご相談の多くは、連絡自体は取れるケースです。その場合は、共有物分割請求(共有関係の解消を裁判所に求める手続)など、別のルートを検討することになります。

2.相続による共有が10年経過しているを確かめる

対象の持分が相続によって生じた共有(遺産共有)の場合、相続開始から10年を経過していないと、この後で説明する2つの裁判はどちらも使えません(民法262条の2第3項・262条の3第2項)。相続人に遺産分割の機会を保障するための制限です。

ただし、相続が絡んでいても、遺産共有にあたらないケースがあります。相続人がもともと1人だった場合、遺言や相続放棄、相続分の譲渡で結果的に1人になった場合、相続人がいない場合です。これらは10年を待たずに使えます。共有になった経緯と時期を、登記簿と戸籍で確かめるところが出発点です。

10年未満で例外にもあたらないなら、家庭裁判所で不在者財産管理人を選任して遺産分割を進める方法が検討対象になります。

3.供託金を先に用意できるか

どちらの裁判でも、裁判所が定める額の金銭を法務局に供託しなければ、決定は出ません。目安は行方不明の共有者の持分の時価に見合う額で、供託命令に従わなければ、申立ては却下されます。「不動産が売れてから、そのお金で払う」という順番は、原則として認められません。

譲渡型に限っては、工夫の余地があります。買主に代金の一部を先に出してもらってそれを供託の原資にする方法もありますし、買主側が直接供託する方法もあります。ただし買主に先行負担を求める以上、担保の設定などとセットで考えることになります。いずれにしても、資金の見通しは申立て前に固めておく必要があります。

持分を買い取るか、全体を売るか――2つの裁判の使い分け

3つの確認が済んだら、どちらの制度で進めるかを決めます。ここが、この手続のいちばんの判断ポイントです。

自分の名義にして持ち続けたい、あるいは活用したい場合は、持分取得の裁判(民法262条の2)を検討します。行方不明の共有者の持分を、供託金と引き換えに自分が取得します。二人共有なら単独所有になり、以後の売却も賃貸も自分の判断だけでできます。売却まで考えていなくても、持分を集めて過半数を確保し、共有不動産の管理をしやすくするという使い方もあります。

不動産全体を売って現金化したい場合は、譲渡権限付与の裁判(民法262条の3)を検討します。行方不明の共有者の持分を第三者に譲渡する権限を裁判所から与えてもらい、自分たち他の共有者の持分と合わせて、不動産全体を買主に売却します。

一見どちらでも売却にたどり着けそうですが、条件も負担もかなり違います。

持分取得の裁判(262条の2)譲渡権限付与の裁判(262条の3)
向いている場面持ち続けたい・名義を一本化したい全体を売却して現金化したい
他の共有者の足並み自分だけで請求できる全員が同じ買主へ持分全部を売ることが条件
買主の目処不要(取得後に探せる)事実上必須(下記の期限があるため)
期限特になし裁判の効力発生から2か月以内に譲渡まで至らないと失効(伸長は例外扱い)
供託金の目安持分の時価相当額。取得後も共有が残る場合は2〜3割程度の共有減価が入るとされる不動産全体の時価×持分割合。減価なし
供託金の取戻し決定の効力が生じた後は取り戻せない期限徒過で裁判が失効した場合は取り戻せる
分割手続との関係他の共有者が共有物分割・遺産分割を申し立てて異議を出すと止まる他の共有者による異議の仕組みはない

譲渡型で特に注意したいのが、2か月の期限です。裁判の効力が生じてから2か月以内に売買まで至らないと、裁判自体が効力を失います。つまりこの制度は、買主と契約条件の目処が立ってから動かすものです。逆に、連絡が取れる共有者の中に「売りたくない」という人が一人でもいれば、全員譲渡という条件を満たせないため、譲渡型は使えません。

売却が目的の場合でも、あえて持分取得を選ぶ判断があります。理由は2つ。まず供託金の額です。取得後も共有者が残る形なら、供託金は共有減価の分だけ譲渡型より低く抑えられます。もうひとつは時間です。いったん取得してしまえば2か月の期限に追われませんし、売却の時期も価格も自分のペースで決められるので、買主から足元を見られにくくなります。売却先の目処がある事案でも、取得で名義をひとつにまとめてから通常の売却に進む方法と、譲渡型で一括して売る方法があります。供託金の立替え負担と期限のリスクを比べて選ぶことになります。

手続の流れと、各段階の判断ポイント

進み方は、どちらの裁判もおおむね共通しています。手続の細部よりも、各段階で何を判断し、何を準備しておくかを押さえてください。

  1. 共有者の特定と調査
    登記簿から共有者を特定し、住民票・戸籍の附票をたどり、判明した住所への郵送や現地確認、他の共有者への聞き取りまで行います。この調査資料が、「所在等不明」を裁判所に認めてもらう土台です。調査が甘いと、裁判の入口で止まります。
  2. 申立て
    不動産の所在地を管轄する地方裁判所に、評価額に関する資料を添えて申し立てます。
  3. 公告と異議期間
    裁判所が「異議があれば届け出るように」と公告します。この期間は3か月を下回りません。行方不明の共有者本人から異議が出れば手続は止まりますし、持分取得型では、他の共有者が分割手続を申し立てて異議を出した場合も止まります。
  4. 供託命令と供託
    裁判所が定めた額を、期間内に供託します。ここが資金準備の締切です。額に不服があれば、この段階で即時抗告により争います。決定が確定した後に「高すぎた」と取り戻すことはできません。
  5. 裁判の効力発生
    持分取得なら、持分が申立人に移転し、登記を経て通常の不動産として扱えるようになります。譲渡型なら、ここから2か月の期限が動き出すので、決済まで一気に進めます。

期間は事案によりますが、順調に進んで申立てから半年から1年ほどが一つの目安です。生死不明が原則7年続かないと使えない失踪宣告や、選任後も管理コストがかかり続ける不在者財産管理人と比べると、手間も費用も抑えやすい手続です。

やってはいけないこと・よくある失敗

「反応がない」を「行方不明」として申し立てる

いちばん多い誤解です。要件を欠く申立ては通りませんし、調査が不十分なまま出しても入口で止まります。行方不明でないのであれば、任意の交渉か共有物分割請求が本来のルートです。

買主未定のまま、譲渡権限だけ先に取りにいく

2か月の期限で裁判が失効し、かけた時間と費用が無駄になりかねません。譲渡型は売却の段取りが先、裁判は後です。

期限に追われて、相場より安く売る

譲渡型で安売りしても、行方不明の共有者に支払う額は客観的な時価を基準に計算されます。値引き分は自分の負担になりますし、逆に高く売れても、その分が自分の利益になるとは限りません。

供託金を「売却代金から後払い」で考える

原則としてできません。買主の先払いや第三者供託という方法もありますが、いずれも、事前に資金計画を立てておいて初めて使えるものです。見通しがないまま進めると、供託命令の段階で申立てが却下されます。

現状維持で放置する

行方不明の共有者が亡くなっていれば、持分はその相続人へ分かれていきます。5年後に動くときには、探す相手が1人から4人に増えている――実際に起こることです。

よくある質問

共有者が話し合いを拒否しているだけの場合も、この裁判で持分を取得できますか?

できません。所在等不明とは、公的記録の調査を尽くしても氏名や所在が分からない状態を指します。連絡先が分かっていて応じてもらえないだけの場合は、共有物分割請求など別の手続を検討することになります。

持分取得と譲渡権限の付与は、どちらを選べばよいですか?

不動産を持ち続けたいなら持分取得、全体を売却したいなら譲渡権限の付与が基本です。ただし譲渡型は、買主の目処と他の共有者全員の同意が前提で、2か月の期限もあります。供託金の負担や時間の自由度を比べて、売却目的でも持分取得を選ぶことがあります。

供託金は、不動産が売れたお金から支払えますか?

原則としてできません。供託は裁判の前提として先に行うもので、供託命令に従わないと申立ては却下されます。譲渡型では買主の先払いや第三者供託という方法もありますが、事前の資金計画が前提です。

行方不明の共有者がすでに亡くなっていたら、手続はどうなりますか?

持分はその相続人に引き継がれるため、探す相手が相続人に変わります。相続人が特定できて連絡が取れれば通常の交渉になりますし、相続人の存否自体が分からなければ、なお所在等不明共有者として扱える場合があります。時間が経つほど共有者が増えて複雑になりやすいです。

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