遺産分割とは、相続の開始によって共同相続人の共有となった相続財産について、誰がどの財産を取得するのかを確定させる手続です。相続人が複数いる場合、個々の遺産は相続分に応じた共有状態(遺産共有)になるため(民法898条1項)、この状態を解消する手続として遺産分割が必要になります。
遺産分割の意味と趣旨
人が亡くなると、その人に属していた権利義務のうち承継できるものは、相続人にまとめて引き継がれます(民法896条)。これが相続で、亡くなった方を被相続人、引き継ぐ人を相続人といいます。
相続人が1人しかいなければ、その相続人が被相続人の権利義務をすべて引き継ぐため、誰が何を取得するのかという問題は起こりません。ところが相続人が複数いる場合、個々の相続財産は、共同相続人が相続分に応じた割合で共有する状態になります(民法898条1項)。相続によって生じるこの共有を遺産共有といいます。
共有とは、複数の者が同じ物を共同して所有することをいい、共有者はそれぞれ、所有権と同じ性質をもつ持分権をもっています。この持分権を「持分」または「共有持分」といい、その割合は相続分によって決まります。なお、預貯金のような債権については、正確には「準共有」といいます(民法264条)。
遺産共有のままでは、個々の財産を相続人1人の判断で使ったり処分したりすることはできません。相続した建物を第三者に賃貸しようとしても、他の相続人の持分を無視して単独で決めることはできず、管理の方法をめぐって相続人の間で意見が食い違えば、財産の管理が滞ります。
そこで法律では、遺産共有の状態を解消し、相続財産を効率よく利用したり自由に処分したりできるようにするため、遺産分割という手続が定められています(民法907条)。遺産分割の目的は、相続の開始によって共同相続人の共有となった相続財産を、各相続人の単独所有とするなどし、相続財産の帰属(誰がどの財産を取得するのか)を確定させることにあります。
【設例】被相続人Eの相続人が子A・子Bの2名で、
遺産が預貯金3,000万円と自宅マンション1棟のケース
Eの死亡により
預貯金3,000万円 → A・Bが2分の1ずつの割合で共有(準共有)
自宅マンション → A・Bが2分の1ずつの割合で共有
遺産分割により
自宅マンション → Aの単独所有
預貯金3,000万円 → Bが取得
→ それぞれの財産の帰属が確定する
共有状態を解消する手続には、共有物分割(民法256条)という手続もあります。共有物分割が個々の共有物を分割の対象とするのに対し、遺産分割は、遺産全体を各相続人の相続分に応じ、その事案の一切の事情を考慮して分割します(民法906条)。分割の対象も基準も異なるため、遺産共有の解消は、原則として遺産分割によって行います。
遺産分割の対象と決める内容
遺産分割の対象となる財産
遺産分割の対象になるのは、分割の時点で遺産共有の状態にある相続財産です。不動産、預貯金、株式などの有価証券、自動車や貴金属といった動産が代表例です。
これに対し、遺産共有の状態にない相続財産は、原則として遺産分割の対象になりません。金銭債権のように、相続の開始によって当然に相続分に応じて分割されると解されている遺産がこれにあたります。もっとも、相続人全員が合意すれば、本来は対象外の財産を調停や審判で分割の対象とすることもできます。
なお、遺産の全部を一度に分割しなければならないわけではありません。共同相続人は、遺産の一部だけを先に分割することもできます。
遺産分割で決める5つの事項
遺産分割の結論を出すには、その前提となる事柄を順に確定させなければなりません。各地の家庭裁判所は、調停・審判で取り上げるテーマの標準的な順序を定めており、これを段階的進行モデルといいます。複数の争点が同時に議論されて話合いが混乱するのを防ぐための進め方で、協議で分割する場合の順序としても参考になります。
| 段階 | 確定する事項 | 内容 |
|---|---|---|
| 第1段階 | 相続人の範囲 | 遺産分割の当事者となる相続人を確認する。あわせて相続分(遺言による指定がなければ民法900条以下の法定相続分)も確認する |
| 第2段階 | 遺産の範囲 | 分割の対象となる財産を確定する |
| 第3段階 | 遺産の評価 | 個々の遺産を金銭的に評価する |
| 第4段階 | 各相続人の取得額 | 特別受益(被相続人から生前に受けた贈与や遺贈などの特別な利益)や寄与分(被相続人の財産の維持・増加に特別の貢献をした相続人に認められる上乗せ分)があれば、これを考慮して相続分を修正する |
| 第5段階 | 遺産の分割方法 | 誰にどの遺産を、どのような方法で帰属させるかを決める |
この順序は、期日で主要な協議事項として取り上げる順番を示すものにとどまります。前の段階の合意ができていなければ次の段階に一切触れない、という硬直した運用をするものではありません。
第4段階の特別受益・寄与分については、期間の制限があります。相続開始の時から10年を経過した後にする遺産分割では、原則として特別受益・寄与分を考慮した具体的相続分による分割を求めることができず、法定相続分(または指定相続分)によって分割することになります(民法904条の3)。
第5段階の分割方法には、現物分割・代償分割・換価分割などがあり、実務ではこれらを組み合わせて結論を導いています。
遺産分割の3つの方法と効果
協議分割・調停分割・審判分割の違い
遺産分割を行う手続には、協議分割、調停分割、審判分割の3種類があります。下に行くほど、当事者の意思に反してでも分割の結果を実現する度合いが強くなります。
| 全員の合意が必要か | 家庭裁判所の関与 | 決まった内容を強制的に実現できるか | 根拠条文 | |
|---|---|---|---|---|
| 協議分割 | 必要 | 不要 | できない(原則) | 民法907条1項 |
| 調停分割 | 必要 | 必要(調停委員会等) | できる | 民法907条2項、家事事件手続法244条・268条1項 |
| 審判分割 | 不要 | 必要(裁判官) | できる | 民法907条2項、家事事件手続法39条・別表第2 |
協議分割は、共同相続人の話合いによる分割です。裁判所など第三者の関与なしに、相続人だけで内容を決められます。反面、成立には共同相続人全員の合意が必要で、第三者による説得や助言が予定されていないため、対立が深刻な場合には合意に届かないことも少なくありません。合意に至っても、その内容を強制的に実現することは原則としてできません。
調停分割は、家庭裁判所の家事調停の手続による分割です。調停委員会が第三者の立場で介在し、合意の形成をサポートします。当事者全員が納得し、解決の内容が相当である限り、審判では採用が難しい方法による分割も含め、事案に即した柔軟な解決ができます。ただし、当事者が1人でも反対すれば、調停による分割は実現しません。調停が成立した場合、調停条項の内容によっては裁判所による強制執行もできます。
審判分割は、家庭裁判所の家事審判の手続による分割です。裁判官が分割の方法などを判断するため、当事者全員の合意がなくても分割の内容が定まります。その反面、当事者の一部の意に沿わない内容になることもあります。調停が不成立で終了したときは、調停の申立ての時に審判の申立てがあったものとみなされ、そのまま審判の手続に移ります。
調停と審判は、いずれも非公開の手続で進みます。家庭の秘密やプライバシーを守り、当事者が事情を打ち明けやすくするためです。
遺産分割の効果
遺産分割が成立すると、対象となった財産の帰属が確定します。各相続人の単独所有とするほか、複数の相続人の共有とする分割方法もあります。
遺産分割の効力は、相続開始の時にさかのぼって生じます(民法909条本文)。遺産分割で不動産を取得した相続人は、相続開始の時からその不動産を所有していたものとして扱われます。ただし、この遡及効によって第三者の権利を害することはできません(同条ただし書)。

