遺言書がある場合でも遺産分割協議は必要ですか?

回答

遺言書があっても、遺産分割協議が必要になる場合があります。特定の財産を特定の相続人に「相続させる」遺言(や、特定遺贈・全部包括遺贈がされている場合は、その財産が相続開始と同時に取得者に移るため、協議は不要です。これに対し、相続分の指定(民法902条)にとどまる遺言や、遺言が触れていない遺産がある場合には、遺産分割協議が必要になります。

目次

結論

遺産分割協議(相続人全員の話し合いによって遺産の分け方を決めること)が必要かどうかは、遺言書があるかどうかではなく、遺言の内容によって決まります。

遺言によって遺産の帰属が確定する場合、その財産は遺産分割の対象から外れるため、協議をする必要はありません。一方、遺言があっても遺産の帰属が確定しない類型の遺言や、遺言が触れていない遺産が残っている場合には、その部分について相続人全員で遺産分割協議を行うことになります。

遺言書があれば協議は一切不要という理解も、遺言書があっても常に協議が要るという理解も、いずれも正確ではありません。

根拠と条件

遺言で定めることができる事項は法律で限定されています(法定遺言事項)。このうち遺産の分け方に関わるものは、相続分の指定(民法902条)、遺産分割方法の指定(民法908条1項)、遺贈(民法964条)、特定財産承継遺言(民法1014条2項)の4つです。遺言がこのどれにあたるかによって、遺産分割協議の要否が変わります。

遺産分割協議が不要になる場合

遺言の効力が生じると同時に財産の帰属が確定する類型では、その財産は遺産分割の対象になりません。

特定財産承継遺言(民法1014条2項)

「遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の1人又は数人に承継させる旨の遺言」をいいます。「甲土地は長男に相続させる」といった書き方がこれにあたります。特段の事情がない限り、何らの行為を要することなく、被相続人(亡くなった方)の死亡の時に直ちにその相続人に承継されるため、その財産は遺産分割の対象になりません。

なお、最高裁は、特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言があるときは、特段の事情のない限り、遺産分割の協議や審判を経ることなく、被相続人の死亡の時に直ちにその遺産が当該相続人に承継されると判断しています(最判平成3年4月19日)。

特定遺贈(民法964条)

遺産の中の特定の財産を与える遺贈です。遺贈の効力が生じると、その財産は何らの行為を要することなく受遺者(遺贈を受けた人)に帰属するため、遺産分割の対象にはなりません。遺産のすべてが特定遺贈されている場合には、分割すべき遺産が残らないことになります。

全部包括遺贈(民法964条)

遺産の全部を包括して与える遺贈です。遺産の全部について直ちに受遺者が権利を取得するため、遺産分割の対象となる遺産が存在しないことになります。

遺産の全部を特定の相続人に相続させる遺言

「すべての財産を長男に相続させる」という遺言は、全部包括遺贈ではなく、その相続人の相続分を100パーセントとする相続分の指定を含む遺産分割方法の指定と解されています。この場合も、分割の対象となる遺産は残りません。

遺言があっても遺産分割協議が必要な場合

相続分の指定にとどまる場合(民法902条1項)

「長男に3分の2、次男に3分の1」のように、割合だけを定めた遺言です。各相続人の相続分は遺言のとおりに決まりますが、どの財産を誰が取得するかは決まらないため、遺産分割が必要になります。遺産の一定割合を示して「相続させる」と書かれた遺言も、基本的にはこの相続分の指定と解されています。

遺産分割方法の指定にとどまる場合(民法908条1項)

現物分割か換価分割かといった分割の方針を示すにとどまる遺言や、法定相続分の枠内で取得先を割り付けるにとどまる遺言では、この指定によって相続人への権利移転の効力までは生じません。財産を割り付けられた相続人も、その時点では遺産共有持分を有するにすぎず、権利移転の効力を生じさせるには遺産分割の手続(協議・調停・審判)が必要です。

指定された分割方法は、協議や調停では合意形成の基準となり、合意が成立しない場合には、指定された方法を基礎とした遺産分割審判がなされます。

割合的包括遺贈(民法964条)

「遺産の3分の1をAに遺贈する」のように、割合を示して包括的に与える遺贈です。個々の遺産の帰属は遺産分割によって決まるため、遺産分割が必要になります。包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有し(民法990条)、遺産分割手続の当事者となります。

遺言が遺産の一部にしか触れていない場合

遺言に書かれていない遺産は遺産共有のままなので、その部分について遺産分割が必要です。

遺言が無効な場合・有効性に争いがある場合

遺言は要式行為であり、法律で定められた方式に従わなければすることができません(民法960条)。方式を欠く遺言は無効となり、遺産全体について遺産分割が必要になります。遺言能力(民法961条、963条)を欠く場合も同様です。遺言の有効性について当事者の合意で解決できない場合には、遺言無効確認等の民事訴訟でその有効性を確定させることになります。

遺言の内容と遺産分割協議の要否

遺言の内容根拠条文遺産分割協議の要否
特定の財産を相続人に「相続させる」遺言(特定財産承継遺言)民法1014条2項その財産については不要
特定遺贈民法964条その財産については不要
全部包括遺贈民法964条不要
遺産の全部を特定の相続人に相続させる遺言民法902条、908条1項不要
相続分の指定(割合的に「相続させる」遺言を含む)民法902条必要
遺産分割方法の指定(分割の方針の指示にとどまるもの)民法908条1項必要
割合的包括遺贈民法964条、990条必要
遺言が触れていない遺産がある場合―その遺産については必要

要否は遺産ごとに判断されます。1通の遺言の中に、協議を要しない財産と協議を要する財産が混在することもあります。

相続人全員の合意があれば、遺言と異なる分割もできる

共同相続人は遺産共有持分を自由に処分できるため、指定相続分に従わない内容の遺産分割協議・調停を成立させることができます。遺産分割方法の指定がある場合も、共同相続人全員の合意があれば、指定と異なる方法で協議を成立させることが可能です。特定遺贈を受けた相続人は、遺贈を放棄したうえで(民法986条1項)、遺贈と異なる内容の協議に加わることもできます。

ただし、遺言執行者が指定されている場合、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができません(民法1013条1項)。遺言と異なる内容の遺産分割協議がこれに違反して無効となるかどうかについては、裁判例・学説とも見解が分かれています。

具体的な場面での適用

設例1:遺言が遺産の一部にしか触れていない場合

被相続人Aの相続人が子B・Cの2名で、Aの遺言には「甲土地はBに相続させる」とだけ記載されており、ほかに預貯金3,000万円があるとします。

甲土地は特定財産承継遺言によってAの死亡の時に直ちにBが取得するため、遺産分割の対象になりません。これに対し、預貯金3,000万円については遺言が何も定めていないため、BとCで遺産分割協議を行い、分け方を決めることになります。

設例2:割合だけを指定した遺言の場合

被相続人Aの相続人が子B・Cの2名で、Aの遺言には「Bに3分の2、Cに3分の1の割合で相続させる」と記載されているとします。遺産は甲土地4,000万円と預貯金2,000万円です。

この遺言は相続分の指定にあたり、B・Cの相続分は3分の2と3分の1になります。もっとも、どの財産を誰が取得するかは遺言では決まっていないため、遺産分割協議が必要です。

【設例2】
遺産    甲土地 4,000万円 + 預貯金 2,000万円 = 6,000万円
指定相続分 B 3分の2 / C 3分の1

Bの取得額の目安 6,000万円 × 2/3 = 4,000万円
Cの取得額の目安 6,000万円 × 1/3 = 2,000万円

→ この金額に沿って、誰がどの財産を取得するかを遺産分割協議で決める
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