特別受益を主張するにはどんな証拠が必要ですか?立証方法を教えてください

回答

特別受益(被相続人から生前に受けた贈与や遺贈などの特別な利益)を主張するには、①贈与の事実があったこと、②その贈与が婚姻・養子縁組のため又は生計の資本としてされたものであること、の2点を具体的に主張し、裏付けとなる証拠資料を提出する必要があります(民法903条1項)。立証の負担は、特別受益を主張する側の当事者にあります。

目次

手続の概要

遺産分割調停・審判において、特定の相続人に特別受益があると主張する場合、その主張と立証の負担は、特別受益を主張する当事者が負います。

民事訴訟でいえば「請求原因」に位置付けられるもので、特別受益を主張する当事者は、①贈与の事実があったこと、②その贈与が婚姻若しくは養子縁組のため、又は生計の資本としてされたものであることについて、具体的に主張し、裏付けとなる証拠資料の提出が必要です(民法903条1項)。

調停委員会や裁判官は、家事事件について職権主義が適用されているとはいえ、当事者が特別受益の主張をしていないにもかかわらず、職権で特別受益を探り出して認定・算定することはありません。証拠資料等から贈与の可能性が窺える場合であっても、当事者が主張しない限り、調停委員会が特別受益を検討し判断することはないのが原則です。

もっとも、調停で手続代理人弁護士が就いていない当事者から「特別受益」という言葉が明確に出てこなくても、他方の当事者の特別受益を窺わせるような事実を述べたときには、調停委員会としては後見的立場から、その内容を具体的に確認していくことが求められています。

手続の要件・準備

立証が必要な2つの要件

特別受益が認められるためには、以下の2点を立証する必要があります。

要件①:贈与の事実があったこと

被相続人から相続人(当事者)に対して、財産の移転(贈与)があった事実を立証します。金銭の贈与が主張された場合には、実際に金銭の動き(交付)があったこと、それが被相続人の財産からのものであること、貸付けや対価の支払ではなく贈与であることのいずれもが認められる必要があります。

要件②:婚姻・養子縁組のため又は生計の資本としての贈与であること

贈与の事実が認められたとしても、その贈与が民法903条1項に規定する「婚姻若しくは養子縁組のため」又は「生計の資本として」されたものでなければ、特別受益には該当しません。実務上は、ほとんどの主張が「生計の資本としての贈与」として行われています。

贈与の種類ごとに必要な証拠

特別受益の立証に用いる証拠は、贈与の対象(金銭、不動産など)によって異なります。主な証拠を種類ごとに整理すると、次のとおりです。

金銭の贈与の場合

金銭の贈与を立証するには、贈与の年月日、額の主張も必要です。具体的な証拠としては、被相続人名義の預貯金口座の取引履歴(出金記録)、相続人名義の口座への入金記録、送金記録、贈与契約書、被相続人の日記や家計簿の記載などが考えられます。贈与の目的(趣旨)、金額(特別受益の額)、遺産総額の評価との比率等を検討し、遺産の前渡しとして評価できた場合に、生計の資本としての贈与と認められます。

不動産の贈与の場合

不動産の贈与については、被相続人から当事者に対し贈与を原因として所有権移転登記がされているなど、登記記録から明確であることが多く、金銭の贈与に比べて事実の認定も判断もしやすいといえます。証拠としては、不動産の登記事項証明書(登記記録)が中心となります。また、特別受益額を確定するための資料として、相続開始日が属する年の固定資産評価証明書の提出が求められます。

土地の無償使用の場合

当事者が被相続人所有の土地上に建物を建てて所有している場合は、使用借権に相当する額の特別受益として認められるのが原則です。証拠としては、土地上の建物の登記記録が中心となります。

預貯金の払戻しと特別受益の主張

生前に被相続人名義の預貯金口座から払戻しがあったことから特別受益であるとの主張もよくされます。しかし、これが特別受益と認められるためには、被相続人が自ら引き出してそれを相続人に贈与したか、又はあらかじめ被相続人が相続人に対し預貯金の管理を任せて自由に使っていいと許可していたことが認められなければなりません。相続人が勝手に払い戻して自分のものにしたという主張は、贈与の主張ではありませんから、特別受益として認められることはなく、使途不明金の問題となります。

手続の流れ

特別受益の主張・立証は、遺産分割調停の段階的進行モデルに従い、遺産の評価を確定した後に本格的に取り上げられます。具体的な流れは次のとおりです。

ステップ1:特別受益の主張

当事者が、特定の相続人に特別受益があることを主張します。申立時に申立人が自ら特別受益を認めて遺産目録に記載する場合や、答弁書に相手方が自らの特別受益を認める記載をする場合もあります。また、他方当事者から、特定の相続人に特別受益があると主張されることもあります。

ステップ2:具体的な主張の整理

調停委員会は、特別受益を主張した当事者に対し、①贈与の事実があったこと、②その贈与が婚姻・養子縁組のため又は生計の資本としてされたものであることについて、具体的に主張するよう求めます。金銭の贈与であれば、贈与の年月日と金額の特定も必要です。

ステップ3:証拠資料の提出

主張が整理された後、裏付けとなる証拠資料の提出を求めます。金銭の贈与であれば、預貯金口座の取引履歴や送金記録など。不動産の贈与であれば、登記事項証明書などです。

ステップ4:相手方の確認

特別受益があると主張された当事者に対しては、これらの主張や証拠資料について認めるか認めないかを確認し、認めない場合には反論をしてもらい、必要な証拠資料の提出を促すことになります。

ステップ5:特別受益の判断

調停委員会や裁判官は、特別受益又は持戻し免除の意思表示について、主張を踏まえ、証拠資料によって認められるかどうかを検討していくことになります。

なお、特別受益があると主張された当事者が事実を認めた場合、又は特別受益が認められた場合に、当該当事者が持戻し免除の意思表示の主張をすることもあります。持戻し免除の意思表示についても、これを主張する当事者に「主張立証責任」があります。

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