配偶者居住権の評価額はどうやって計算しますか?

回答

遺産分割における配偶者居住権の評価方法に民法上の定めはありません。実務では、建物とその敷地の現在価額から、配偶者居住権の負担が付いた建物・土地の所有権の価額を差し引く「簡易な評価方法」が広く用いられています。固定資産税評価額を基に、存続期間(終身の場合は平均余命)と法定利率(民法404条)に基づくライプニッツ係数を用いて計算します。

目次

配偶者居住権の評価方法の概要

配偶者居住権を遺産分割で取得する場合、その財産的価値は配偶者が取得する遺産の合計評価額に加算されます。そのため、遺産分割にあたっては配偶者居住権の評価額を確定させる必要があります。また、配偶者が遺贈や死因贈与により配偶者居住権を取得した場合も、それが特別受益に該当するときは、具体的相続分を定めるうえで配偶者居住権の財産評価が必要になります。

評価の方法としては、還元方式と簡易な評価方法の2つが考えられます。

還元方式とは、配偶者居住権の経済的利益(無償で居住できること)に着目し、存続期間中に配偶者が享受する経済的利益の現在価値の総和を求める方法です。

配偶者居住権の価額 =(正常賃料相当額 − 必要費)× 年金現価率(期間・利率)

もっとも、戸建住宅については賃貸市場が未成熟な地域が多く、賃貸事例等から市場賃料を把握することが困難な場合が少なくないため、還元方式で求めた価額には客観的信頼性に問題が生じ得ます。また、専門家でない者が賃料相当額や年金現価率を算出することも困難です。

これに対して簡易な評価方法とは、配偶者居住権の負担がない建物とその敷地(建物敷地)の現在価額から、配偶者居住権の負担が付いた建物所有権と土地所有権等(配偶者居住権付所有権)の価額を差し引いて、配偶者居住権の価額を算出する方法です。

配偶者居住権の価額
= 建物敷地の現在価額 − 配偶者居住権付所有権の価額(負担付建物所有権 + 負担付土地所有権等)

簡易な評価方法は、固定資産税評価額を基に、不動産評価の専門家でなくても算出できる方法であり、不動産鑑定士協会からも一定の合理性があるとの評価を得ています。遺産分割の調停・審判においても、鑑定を行う場合は別として、当事者が評価の合意を目指す際にはこの方法を用いるのが現実的かつ相当とされており、実務の標準的な計算方法といえます。以下では、簡易な評価方法による計算手順を解説します。

なお、相続税の申告における配偶者居住権の評価(相続税法23条の2)は、簡易な評価方法と考え方は類似していますが、存続年数や耐用年数について用いる数値が異なる部分があるため、本記事で解説する遺産分割における評価額とは異なる結論となり得ます。

簡易な評価方法による計算の流れ

ステップ1:建物敷地の現在価額を求める

まず、配偶者居住権の負担がない状態での建物と敷地の現在価額を求めます。建物については、実務上、評価基準時における固定資産税評価額が利用されることが多く、相続税評価においても家屋の評価は固定資産税評価額と同額とされていることから(財産評価基本通達89)、固定資産税評価額を基に算出することが想定されています。敷地については、通常の遺産分割事件と同様の土地の時価評価(必要があれば鑑定により確定させます)または固定資産税評価額を用います。事案に応じて、公示価格、相続税評価額、固定資産税評価額を70%で割り戻した額など、より適切な評価額を利用することも考えられます。

ステップ2:負担付建物所有権の価額を求める

次に、配偶者居住権の負担が付いた建物所有権の価額を求めます。これは、配偶者居住権を設定した場合に建物所有者が建物から得る利益の現在価値であり、第1に、建物の法定耐用年数・経過年数・配偶者居住権の存続年数を考慮して、配偶者居住権の負担が消滅した将来の時点の建物価値を算定し、第2に、この建物価値にライプニッツ係数を乗じて中間利息を控除し、現在価値に引き直して計算します。

負担付建物所有権の価額
= 建物の固定資産税評価額
  × {法定耐用年数 −(経過年数 + 存続年数)}÷(法定耐用年数 − 経過年数)
  × ライプニッツ係数
※ 計算結果がマイナスとなる場合には0円とする

計算に用いる数値は次のとおりです。

  • 法定耐用年数: 減価償却資産の耐用年数等に関する省令で構造・用途ごとに定められており、住宅用建物は木造22年、鉄筋コンクリート造47年です。
  • 存続年数: 配偶者居住権の存続期間です。存続期間が終身である場合には、簡易生命表記載の平均余命の値を使用します。
  • ライプニッツ係数: 将来の価額を現在価値に引き直すための係数で、法定利率(民法404条。令和2年4月1日施行時点で年3%、その後3年ごとに見直し)を前提とします。
存続年数ライプニッツ係数
5年0.863
10年0.744
15年0.642
20年0.554
25年0.478
30年0.412

ステップ3:負担付土地所有権等の価額を求める

敷地については、建物と異なり経年劣化を考慮する必要性が少ない一方、敷地の所有者は配偶者居住権の存続期間中は敷地を自由に使用収益できません。そこで、存続期間満了後に得ることになる負担のない敷地所有権等の価額を、ライプニッツ係数で現在価値に引き直して求めます。

負担付土地所有権等の価額
= 敷地の固定資産税評価額又は時価 × ライプニッツ係数

ステップ4:差し引いて配偶者居住権の価額を求める

ステップ1の建物敷地の現在価額から、ステップ2と3の合計額(配偶者居住権付所有権の価額)を差し引いた額が、配偶者居住権の価額となります。

計算例①:木造建物・存続期間20年の場合

一戸建て(築10年、木造、建物の固定資産税評価額1,000万円、敷地の固定資産税評価額4,000万円)に、存続期間20年の配偶者居住権を設定した場合の計算例です。

1 建物敷地の現在価額
  1,000万円 + 4,000万円 = 5,000万円
2 負担付建物所有権の価額
  0円(法定耐用年数22年 −(経過年数10年 + 存続年数20年)が
  マイナスとなるため)
3 負担付土地所有権等の価額
  4,000万円 × 0.554(存続期間20年のライプニッツ係数)= 2,216万円
4 配偶者居住権の価額
  5,000万円 − 2,216万円 = 2,784万円(建物敷地価額の約55%)

計算例②:鉄筋コンクリート造・終身の場合

一戸建て(築15年、鉄筋コンクリート造、建物の固定資産税評価額1,400万円、敷地の固定資産税評価額6,000万円)に、終身の配偶者居住権を設定した場合の計算例です。配偶者は76歳の女性で、令和2年簡易生命表上の平均余命15.43年から、存続年数を15年とします。

1 建物敷地の現在価額
  1,400万円 + 6,000万円 = 7,400万円
2 負担付建物所有権の価額
  1,400万円 × {47年 −(15年 + 15年)}÷(47年 − 15年)
  × 0.642(存続期間15年のライプニッツ係数)
  ≒ 1,400万円 × 0.341 = 477万4,000円
3 負担付土地所有権等の価額
  6,000万円 × 0.642 = 3,852万円
4 配偶者居住権の価額
  7,400万円 − 477万4,000円 − 3,852万円
  = 3,070万6,000円(建物敷地価額の約41%)

評価にあたっての留意点

評価の基準時

特別受益や寄与分の主張がない場合には、配偶者居住権について遺産分割時の一時点評価があれば足ります。特別受益や寄与分の主張がある場合には、相続開始時と遺産分割時の二時点評価が必要になるのが原則ですが、当事者全員が合意すれば遺産分割時の一時点評価で足ります。なお、遺贈等により取得した配偶者居住権を特別受益として持ち戻す場合には、遺産分割時の「現在」価額ではなく、「相続開始時」の価額を算出する必要があります。

配偶者居住権の設定日と存続期間の定め方

配偶者居住権の設定日は、特段の事情がない限り、相続開始日とすることを前提に遺産分割調停等の手続を進めるのが相当とされています。遺産分割の効力は相続開始の時に遡るため(民法909条本文)、相続開始日を始点とする方が早い段階で存続期間を確定させることができ、評価額の算出にあたっても明確であるという利点があるためです。もっとも、民法909条は強行規定ではないため、当事者が希望すれば設定日を遺産分割日とすることも可能です。

なお、終期を定めた場合、調停条項等に記載する存続期間(相続開始日から終期まで)と、評価額の算定に用いる年数(評価を行う現在時点から終期まで)は一致しないことがある点に注意が必要です。

評価合意は土地と建物それぞれについて行う

簡易な評価方法によることを合意する場合には、後の算定が可能となるように、土地建物全体の評価額で合意するのではなく、土地と建物それぞれの評価額について合意する必要があります。

評価の合意ができない場合は鑑定で確定させる

配偶者が配偶者居住権の取得を希望しているものの、その評価について合意できない場合には、配偶者居住権の評価を鑑定で確定させることになります。建物敷地の現在価額についても合意できていない場合には、建物敷地の評価額と配偶者居住権の評価額を併せて鑑定します。

鑑定を実施する場合、配偶者居住権の評価額は存続期間を基に算出されるため、事前に存続期間を合意しておく必要があります。存続期間を終身とする場合であっても、想定される余命として確定的な年数を合意しておくのが望ましいとされています。鑑定費用は、原則として当事者全員で法定相続分に従って負担し、その額を予納するのが相当とされています。

計算した評価額は遺産分割でどう使われるか

配偶者が遺産分割等により配偶者居住権を取得した場合、配偶者はその財産的価値に相当する金額を取得したことになります。配偶者居住権の評価額は居住建物の所有権を取得する場合よりも低廉なため、配偶者は、居住建物以外の遺産からは、自己の具体的相続分から配偶者居住権の評価額を控除した残額について財産を取得することができます。

簡単な数字例で確認します。相続人が妻と子2名、遺産総額1億円(建物敷地の現在価値4,200万円、預貯金・投資信託・株式の合計5,800万円)で、配偶者居住権の価額を1,500万円とする合意がある場合です。

妻の具体的相続分額:1億円 × 1/2 = 5,000万円
配偶者居住権(1,500万円)を取得
→ 他の遺産から 5,000万円 − 1,500万円 = 3,500万円を取得できる

(参考)建物敷地の所有権(4,200万円)を取得した場合
→ 他の遺産から取得できるのは 800万円にとどまる

このように、評価額の大きさは配偶者が取得できる他の遺産の額に直結します。配偶者居住権を利用することの利点と注意点については、「配偶者居住権を使うメリット・デメリットは何ですか?」で詳しく解説しています。

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