配偶者居住権を取得すると特別受益になりますか?

回答

配偶者居住権が特別受益(被相続人から受けた遺贈や生前贈与などの特別な利益)になるかは、取得の仕方によって異なります。遺産分割によって取得した場合は、遺産の一部として取得するものであるため、特別受益の問題は生じません。遺言による遺贈で取得した場合は特別受益となる余地がありますが、婚姻期間20年以上の夫婦間の遺贈では、持戻し免除の意思表示が推定されます(民法1028条3項)。

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結論

配偶者居住権(相続開始時に被相続人所有の建物に居住していた配偶者が、その建物の全部を無償で使用・収益できる権利。民法1028条1項)を遺産分割によって取得した場合、特別受益の問題は生じません。遺産分割による取得は被相続人からの遺贈や生前贈与ではなく、相続人としての権利にもとづき遺産の一部を取得するものだからです。

一方、被相続人の遺言による遺贈で取得した場合には、その遺贈は特別受益となる余地があります。もっとも、婚姻期間が20年以上の夫婦間の遺贈については持戻し免除の意思表示が推定されるため(民法1028条3項)、実際に持ち戻しの対象となる場面は限られます。

根拠と条件

特別受益の基本的な仕組み

特別受益とは、相続人が被相続人から受けた遺贈や、婚姻・養子縁組のためもしくは生計の資本としての贈与を指します(民法903条1項)。特別受益がある場合、相続人間の公平を図るため、その価額を相続財産に加算(持ち戻し)して各相続人の具体的相続分を計算するのが原則です。

配偶者居住権についてこの仕組みが問題になるかは、次のとおり取得方法ごとに整理できます。

取得方法特別受益になるか
遺産分割(協議・調停・審判)ならない(遺産分割の枠内で評価額が清算される)
遺贈なる余地がある(民法903条1項)。ただし婚姻期間20年以上の夫婦間では持戻し免除の意思表示が推定される(民法1028条3項)
死因贈与遺贈に準じて考えられる(民法554条参照)

遺産分割による取得:特別受益の問題は生じない

遺産分割によって配偶者居住権を取得した場合、それは遺贈でも贈与でもないため、特別受益として持ち戻す対象にはなりません。

もっとも、特別受益にならないからといって、配偶者が他の相続人より二重に利益を得るわけではありません。配偶者居住権を取得した配偶者は、その財産的価値に相当する金額を相続したものと扱われ、配偶者居住権の評価額は配偶者が取得する遺産の合計評価額に加算されます。そのため、居住建物以外の遺産からは、自己の具体的相続分から配偶者居住権の評価額を控除した残額について財産を取得することになります。つまり、持ち戻しをするまでもなく、遺産分割の枠内でその価値が清算され、相続人間の公平が図られる仕組みです。

遺贈による取得:特別受益となる余地があるが、持戻し免除の推定がある

被相続人が遺言によって配偶者に配偶者居住権を遺贈した場合、その遺贈は特別受益となる余地があり、特別受益に該当するときは、具体的相続分を定めるうえで配偶者居住権の財産評価が必要になります。この場合において、遺贈された配偶者居住権を特別受益として持ち戻すときは、その価額は遺産分割時ではなく相続開始時を基準に評価することになります。

しかし、婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他方に対して配偶者居住権を遺贈した場合には、持戻し免除の意思表示(その特別受益を相続分の計算に算入しなくてよいとする被相続人の意思表示)があったものと推定されます(民法1028条3項による903条4項の準用)。長年連れ添った配偶者への配偶者居住権の遺贈は、通常、長年の貢献に報い、配偶者の老後の生活保障を厚くする趣旨で行われるためです。この推定が覆されない限り、配偶者居住権は持戻し計算の対象とならず、配偶者はその分保護されることになります。

さらに、婚姻期間が20年に満たないなどの理由でこの推定が及ばない場合であっても、事案によっては、黙示の持戻し免除の意思表示があったといえるかを検討する余地があると指摘されています。

なお、死因贈与(贈与者の死亡によって効力が生じる贈与契約)により配偶者居住権を取得した場合については、死因贈与には遺贈に関する規定が準用されるため(民法554条)、遺贈の場合に準じて考えられます。

具体的な場面での適用

場面①:遺産分割で配偶者居住権を取得した場合

被相続人Aの相続人が妻Wと子Bの2名で、Wが遺産分割調停により配偶者居住権(評価額1,500万円)を取得したケースです。この場合、Wの取得は遺贈や生前贈与ではないため、特別受益として持ち戻す対象にはなりません。Wは、自己の具体的相続分から配偶者居住権の評価額1,500万円を控除した残額の範囲で、預貯金などの他の遺産を取得することになります。

場面②:婚姻期間20年以上の夫婦間で遺贈された場合

婚姻期間30年の夫婦で、夫Aが遺言により妻Wに配偶者居住権を遺贈したケースです。遺贈は特別受益となる余地がありますが、婚姻期間が20年以上であるため、持戻し免除の意思表示があったものと推定されます(民法1028条3項)。Aが遺言等でこの推定を覆す意思を示していない限り、Wの配偶者居住権は持戻し計算の対象とならず、Wは配偶者居住権に加えて、他の遺産からも相続分に応じた取得をすることができます。

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