変わります。相続税の総額は、どの分割方法を選んでも原則として変わりませんが、各相続人が納める相続税額は取得した財産の課税価格に応じて決まり、代償分割では代償財産の授受をふまえて課税価格を調整します。譲渡所得税は、換価分割で売却益が出た場合のほか、代償金の支払いに代えて固有の財産を引き渡した場合にも課されます。
結論
遺産分割の方法によって、税金の扱いは変わります。ただし、相続税と譲渡所得税とでは、変わり方が異なります。
相続税の総額は、課税対象になる遺産の総額と法定相続人の構成をもとに計算されるため(相続税法16条)、どの分割方法を選んでも原則として変わりません。各相続人が実際に納める相続税額は、この総額を、それぞれが取得した財産の課税価格(相続税の計算の基礎となる財産の価額)の割合に応じてあん分した金額です(同法17条)。分割方法そのものではなく、誰がどの財産をどれだけ取得したかに応じて、各相続人の負担額が決まります。
もっとも、配偶者の税額軽減(相続税法19条の2)や小規模宅地等の特例(租税特別措置法69条の4)のように、誰が取得するかによって適用できるかどうかが変わる制度があるため、分割の内容しだいで相続税の負担額が変わることはあります。これらの特例は、相続税の申告期限(相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月)までに分割されていない財産には、当初の申告では適用できません。分割がまとまらないまま申告期限を迎えた場合には、いったん法定相続分などに従って相続したものとして申告し(相続税法55条)、その際、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておけば、分割成立後に更正の請求をすることにより、特例の適用を受けられます。
これに対して譲渡所得税(財産を売却して得た利益に課される税金)は、分割方法によって課税されるかどうか自体が異なります。現物分割や代償分割では、遺産の取得自体に譲渡所得税は課されません。換価分割では、売却により利益が出ると譲渡所得税が課され、代償分割でも、代償金の支払いに代えて不動産などの固有の財産を引き渡した場合には、引き渡した相続人に課されます。
根拠と条件
現物分割(遺産をそのままの形で分ける方法)、代償分割(特定の相続人が遺産を取得し、他の相続人にお金を支払って調整する方法)、換価分割(遺産を売却し、その代金を分ける方法)、共有分割(遺産を相続人の共有名義で取得する方法)の課税の基本は、次の表のとおりです。4つの分割方法の内容そのものは、「遺産を分けるにはどのような方法がありますか?それぞれの特徴を教えてください」で解説しています。
| 分割方法 | 相続税 | 譲渡所得税 |
|---|---|---|
| 現物分割 | 取得した財産の相続税評価額に応じて課されます | 取得の時点では課されません |
| 代償分割 | 代償財産の授受をふまえて各相続人の課税価格を調整したうえで課されます | 代償金を金銭で支払う限り課されません。金銭に代えて固有の財産を引き渡すと、引き渡した側に課されます |
| 換価分割 | 遺産の相続税評価額を、換価代金の取得割合に応じて配分した金額に対して課されます | 売却により利益(譲渡益)が出ると、各相続人に課されます |
| 共有分割 | 取得した共有持分の評価額に応じて課されます | 取得の時点では課されません。後に共有物を売却すると、各共有者に課されます |
代償分割では、代償財産(代償金など、代償として交付される財産)の授受を反映して、各相続人の課税価格を計算します(相続税法基本通達11の2-9)。代償財産を交付した相続人は、相続により取得した遺産の価額から交付した代償財産の価額を差し引いた金額が、代償財産の交付を受けた相続人は、相続により取得した現物の財産の価額に交付を受けた代償財産の価額を加えた金額が、それぞれの課税価格になります。
この計算に使う代償財産の価額は、原則として代償金の額です。ただし、代償分割の対象となる財産を特定したうえで、その財産の時価(代償分割の時の通常の取引価額)をもとに代償金の額を決めた場合には、次の算式で調整した金額を使います(同通達11の2-10)。
【算式】
代償財産の価額= 代償金の額 × 相続開始の時の相続税評価額 ÷ 代償分割の時の時価
【計算例】
相続人はB・Cの2人。遺産は自宅のみ
(相続開始の時の相続税評価額4,000万円、代償分割の時の時価5,000万円)
Bが自宅を取得し、時価の2分の1にあたる代償金2,500万円をCに支払う場合
C(代償金を受け取った側)の課税価格
2,500万円 × 4,000万円 ÷ 5,000万円 = 2,000万円
B(自宅を取得した側)の課税価格
4,000万円 − 2,000万円 = 2,000万円
この調整によって、時価を基準に2分の1ずつ分けたという分割の実質と、課税価格の割合とが一致します。調整をせずに代償金の額をそのまま使うと、Bの課税価格は1,500万円、Cの課税価格は2,500万円になります。
このほか、共同相続人の全員の協議に基づいて、この算式に準じた方法など合理的と認められる方法で代償財産の価額を計算し、申告した場合には、その申告額によります(同通達11の2-10(1))。
換価分割では、相続税の課税価格は、受け取った換価代金の額そのものではなく、遺産の相続税評価額を基礎に計算します。相続税の申告期限までに換価代金の取得割合が相続人間で決まっていればその割合で、決まっていなければ法定相続分で、各相続人に配分した金額が課税価格です。
これに加えて、売却益が譲渡所得税の対象になります。譲渡所得は各相続人がそれぞれ申告するもので、譲渡代金・取得費・譲渡費用を換価代金の取得割合に応じてあん分して計算します。その際、被相続人がその財産を取得した時期と取得費(取得に要した金額)を引き継ぎます(所得税法60条1項1号)。
具体的な場面での適用
第一に、代償金の支払いに代えて、不動産などの財産を引き渡す場合です。代償分割で負担した代償金支払債務の履行として、相続人が自分の固有の不動産や株式などを他の相続人に引き渡したときは、代償金支払債務の消滅を対価としてその財産を譲渡したものとして扱われ、引き渡した側に譲渡所得税が課されます(所得税基本通達33-1の5)。金銭で支払う場合には生じない課税です。
もっとも、相続税の課税価格の計算は、代償財産が金銭であるか他の財産であるかによって変わりません。代償財産の交付を受けた相続人は、それが交付した相続人の固有財産であっても、遺産分割を原因として取得したものとして扱われるため、取得した現物の財産の価額に代償財産の価額を加えた金額が課税価格になります。
第二に、代償分割で取得した財産を後日売却する場合です。たとえば、相続人Bが遺産である自宅を取得し、相続人Cに代償金1,500万円を支払った後、Bがその自宅を売却したとします。この場合、Bの譲渡所得の計算では、Cに支払った代償金1,500万円を取得費に加えられません。
なお、最決平成6年9月13日は、代償分割により遺産を取得した相続人が後にその財産を売却した場合、譲渡所得の計算上、他の相続人に支払った代償金や、その支払いのために借り入れた借入金の利息相当額を取得費に算入することはできないと判断しています。
これをふまえて、調停では、当事者間の合意により、不動産の評価額からあらかじめ譲渡所得税や手数料相当額を差し引いた残額をもとに代償金の額を定める例もあります。
第三に、換価分割で遺産を売却する場合です。売却益には譲渡所得税が課されますが、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売却したときは、譲渡所得の計算上、相続税額のうち売却した財産に対応する部分の金額を取得費に加算できる特例があります(取得費加算の特例。租税特別措置法39条)。この期間内に売却すれば、譲渡所得税の負担を抑えられる場合があります。
第四に、いったん成立した遺産分割をやり直す場合です。課税実務では、当初の遺産分割で各相続人に帰属した財産を、分割のやり直し(再分割)によって他の相続人に移転すると、その移転は相続による取得ではなく、贈与や交換などによる新たな取得として扱われ、贈与税や譲渡所得税の対象になりえます。
なお、最判平成2年9月27日は、共同相続人の全員が、すでに成立した遺産分割協議を合意により解除したうえで、改めて分割協議を成立させることは法律上妨げられないと判断しています。しかし、民法上やり直しができることと税務上あらためて課税が生じうることは、別の問題になります。

