遺産分割の調停・審判の費用は誰が負担しますか?

回答

裁判所の手続にかかった費用(手続費用)は、各自負担が原則です(家事事件手続法28条1項)。各自負担とは、自分が支出した費用を自分で持ち、他の相続人と精算しないという意味です。弁護士費用も、依頼した相続人がそれぞれ負担します。その額は事務所ごとに自由に定められていますが、廃止された旧報酬基準を参考にする例も多くみられます。

目次

調停・審判にかかる費用の内訳

遺産分割の調停・審判でかかる費用は、裁判所の手続に関する費用(手続費用)と、弁護士に依頼する場合の弁護士費用に分かれます。

手続費用にあたるのは、申立時に納める申立手数料(収入印紙)と連絡用の郵便切手、戸籍謄本などの必要書類の取得費用です。不動産の評価に争いがあって鑑定を実施する場合には、鑑定費用も手続費用に含まれます。

弁護士費用は、法律相談料、依頼時に支払う着手金、解決時に支払う報酬金のほか、事務所によっては裁判所への出頭ごとの日当が加わり、これらとは別に実費がかかります。

手続費用は各自負担が原則

家事事件手続法は、手続費用の負担について各自負担の原則を採用しています(同法28条1項)。申立手数料を納めた申立人が、後からその一部を他の相続人に請求することは、基本的にありません。

この原則がとられているのは、家事事件が職権探知主義(裁判所が職権で資料を集める建前)を基本としていることや、調停はもちろん審判についても「勝訴・敗訴」という概念になじまず、どのような結論になっても相続人全員にとって利益になり得るものだからです。旧家事審判法では申立人負担が原則とされていましたが、家事事件手続法はこれを改めました。

家庭裁判所は、事件を完結する裁判において、職権で、その審級における手続費用の全部について負担の裁判をしなければなりません(同法29条)。結論が各自負担になる場合も同じで、調停手続を経ている場合は、調停に関する手続費用もあわせて対象になります。審判では「手続費用は、各自の負担とする。」との主文が置かれます。調停が成立した場合も、特別な定めをしなければ各自負担とされますが(同条3項)、調停条項には「調停(手続)費用は、各自の負担とする。」との条項を必ず入れるのが実際です。

負担の裁判が漏れたときは、家庭裁判所が、申立てにより、または職権で、決定によって手続費用の負担を定めます(同法79条、民事訴訟法258条)。

費用負担のルール
申立手数料・郵便切手・書類の取得費用支出した相続人の負担(各自負担の原則。家事事件手続法28条1項)
鑑定費用(全員が予納した場合)各自負担
鑑定費用(予納に協力しない相続人がいた場合)各自負担とせず、原則として法定相続分に従った負担割合を定める(同法28条2項)
弁護士費用依頼した相続人がそれぞれ負担

鑑定費用が例外になる場合

各自負担には例外があり、裁判所が各自負担では公平に反すると判断した場合には、異なる負担を定められます(家事事件手続法28条2項)。遺産分割事件でこの例外の適用が考えられるのは、鑑定の実施に反対したり調停期日に欠席したりして鑑定費用の予納に協力しなかった相続人がいた場合くらいです。

相続人全員が法定相続分などに従って鑑定費用を予納し、負担について特別な定めをしなかったときは、他の手続費用と併せて各自負担とすれば足ります。これに対し、予納に協力しなかった相続人がいた場合には、正式審判の主文で、鑑定費用については各自負担とせず、法定相続分に従った負担割合が定められるのが原則です。

もっとも、鑑定費用を立て替えた相続人が早期に遺産分割を終えることを優先し、その精算を求めず、鑑定費用を含めて各自負担でよいとの意向を示すことも少なくありません。

各自負担以外の主文が出された場合に、実際に費用の償還を求めるには、裁判所書記官による手続費用額の確定処分を経る必要があります(家事事件手続法31条1項、民事訴訟法71条〜74条)。審判の主文に鑑定費用の額と負担割合が明記されていて計算自体は容易であっても、この手続は省略できません。確定処分を得てはじめて、これを債務名義として強制執行ができます(民事執行法22条4号の2)。

弁護士費用は誰が負担するか

令和7年に終局した遺産分割事件16,431件のうち、代理人弁護士が関与したものは13,062件で、全体の約8割にあたります(最高裁判所事務総局『司法統計年報 家事編』令和7年・第47表)。

弁護士は依頼した相続人の代理人であり、相続人全員の代理人ではありません。弁護士費用は、依頼した相続人がそれぞれ負担します。相手方の主張が退けられた場合でも、その相続人に自分の弁護士費用を請求することはできません。

弁護士に依頼するかどうかの判断材料については、「遺産分割調停に弁護士は必要ですか?弁護士をつけるメリットは何ですか?」で解説しています。

弁護士費用の相場

弁護士費用は、平成16年4月に報酬基準が廃止されて以降、各事務所が自由に定めています。現在も参考にされることが多いのが(旧)日本弁護士連合会報酬等基準で、依頼によって得ようとする(得られた)経済的利益の額に応じて、着手金と報酬金を算定します。

経済的利益の額着手金報酬金
300万円以下8%16%
300万円超〜3,000万円以下5%+9万円10%+18万円
3,000万円超〜3億円以下3%+69万円6%+138万円
3億円超2%+369万円4%+738万円

※消費税別。旧基準は「300万円以下の部分は8%、300万円を超え3,000万円以下の部分は5%」というように部分ごとの料率を定めており、上の表はこれを速算式にしたものです。着手金には10万円の最低額が定められていました。

遺産分割の場合、経済的利益は対象となる相続分の時価相当額で計算します。ただし、分割の対象となる財産の範囲と相続分の双方に争いのない部分については、その相続分の時価相当額の3分の1の額とされていました。また、調停事件については、上の表で算定した額を3分の2に減額できるものとされていました。

経済的利益の前提となる遺産の規模は、司法統計から把握できます。令和7年に審判の認容または調停成立で終わった遺産分割事件8,399件の内訳は、次のとおりです。

遺産の価額件数割合
1,000万円以下2,967件35.3%
1,000万円超〜5,000万円以下3,541件42.2%
5,000万円超〜1億円以下948件11.3%
1億円超〜5億円以下544件6.5%
5億円超60件0.7%
算定不能・不詳339件4.0%

※最高裁判所事務総局『司法統計年報 家事編』令和7年・第53表から作成。割合は小数第2位を四捨五入。

5,000万円以下が全体の8割弱を占めており、旧報酬基準にあてはめると、着手金・報酬金の料率は8%と16%または5%と10%の段階に収まる事件が大半ということになります。

【計算例】旧報酬基準による目安・消費税別
遺産6,000万円、相続人は子2名(法定相続分は各2分の1)
遺産の範囲・相続分に争いはなく、分け方だけが争いの場合

 経済的利益  3,000万円 × 1/3 = 1,000万円
 着手金     1,000万円 × 5%  +  9万円 =  59万円
 報酬金     1,000万円 × 10% + 18万円 = 118万円

 調停事件として3分の2に減額する場合
 着手金 約39万円 / 報酬金 約79万円

この計算を依頼の時点でそのままあてはめられるとは限りません。着手金も経済的利益を基準に算定する建前ですが、遺産分割では、依頼を受ける段階で遺産の全容が判明していないことが少なくありません。預貯金の取引履歴の取り寄せや不動産の調査は受任後に進めるのが通常で、不動産や非上場株式については、評価方法の選択そのものが争点になることもあります。

争いのない部分を3分の1として扱う特則も、同じ問題を抱えています。3分の1とするか時価相当額のままとするかで経済的利益は3倍変わりますが、相手方が遺産の範囲を争うか、特別受益や寄与分を主張するかは、手続が始まってみなければ分かりません。当初は争いがないとみられた部分が後から争点になることも、その逆もあります。加えて、裁判外の交渉が裁判所の手続に移行すれば別の事件として扱われるため、協議から調停へと段階が進むごとに着手金の要否が問題になります。調停が不成立となって審判に移行した場合の扱いは、事務所ごとの定めによって異なります。

こうした算定の難しさもあって、現在の各事務所の費用体系は、旧基準と同じく経済的利益に連動させる方式のほか、着手金を20万円から60万円程度の固定額として報酬金を経済的利益の10%前後(5%から15%程度)とする方式、着手金を無料として報酬金に一本化する方式、着手金と日当を置かず月額料金と報酬金で構成する方式など、さまざまです。

目次