その財産、遺留分に含まれる?計算の土台となる「基礎財産」の範囲と4つの構成要素
「遺留分は遺産の2分の1(または3分の1)」という計算式を知っていても、その元となる遺産の金額を間違えれば、答えは大きく狂ってしまいます。
遺留分の計算の土台となる財産を、「基礎財産」と呼びます。
「亡くなった時に手元にあった預金残高」だけで計算すると思われがちですが、実は過去の贈与や借金なども合算して考える必要があります。判断に迷いやすい「あの財産」の扱いについて、法的ルールに基づき整理していきましょう。
遺留分の大きさを決める「基礎財産」とは?
今ある遺産だけじゃない。「過去の贈与」も合算してパイを広げる
遺留分を計算する際、亡くなった時点(相続開始時)に残っている財産だけを見ていては不十分です。なぜなら、亡くなる直前に全財産を誰かに贈与してしまえば、遺留分制度自体が骨抜きになってしまうからです。
そのため、法律では、「相続開始時に有していた財産」に「生前に贈与した財産」を加え、そこから「借金などの債務」を差し引いたものを、遺留分を算定するための基礎財産と定めています(民法1043条1項)。
構成する4つの要素(プラス財産、相続人贈与、第三者贈与、マイナス財産)
基礎財産に含まれる要素は、大きく分けて以下の4つです。特に②と③で「遡れる期間」が違う点に注意してください。
- 相続開始時のプラスの財産
- 不動産、預貯金、株式など、亡くなった時点で保有していた財産
- ※遺言で誰かに譲る(遺贈する)ことになっていた財産もここに含まれます。
- 相続人に対する贈与(原則:過去10年分)
- 「特別受益」に該当する贈与(結婚資金、住宅資金、生計の資本など)に限られます。
- 期間は原則として相続開始前の10年間に行われたものが対象です。
- 第三者に対する贈与(原則:過去1年分)
- 相続人以外(息子の嫁、孫、友人、愛人など)への贈与です。
- 期間は原則として相続開始前の1年間に行われたものに限られます。
- 相続債務(マイナスの財産)
- 借金、未払いの税金、未払いの医療費など、被相続人が負担していた債務全額を差し引きます。
これって対象?よくあるグレーゾーン資産の「〇×判定」
ここからは、判断に迷う具体的な資産について、基礎財産に含まれるかどうか(〇か×か)を解説します。
【生命保険金】原則は「×(対象外)」。ただし不公平すぎる場合は…?
受取人が指定されている死亡保険金は、原則として「遺留分の基礎財産には含まれません(×)」。
判例上、保険金は受取人の固有の財産であり、遺産そのものではないとされるためです。
例外:著しく不公平な場合は「〇(対象)」
ただし、保険金の額が遺産総額に比べてあまりに高額で、他の相続人との間に著しい不公平が生じる場合は例外です。「特段の事情」があると認められれば、特別受益に準じて持ち戻しの対象(計算に含まれる)となる可能性があります。
- 判断要素:死亡保険金の額、遺産総額に対する比率、同居の有無、介護の貢献度などを総合的に判断します。
- 目安:明確な基準はありませんが、遺産総額の大部分が保険金になっているような極端なケースでは、対象となるリスクが高まります。
【学費・留学費用】大学費用は「特別受益」になる?
親が子供に出した学費は、原則として「扶養義務の範囲内であれば対象外(×)」です。
親子には扶養義務があり、通常の教育費は「贈与」ではなく「生活費・教育費の分担」と考えられるためです。
例外:医学部の学費や海外留学費用など
親の資力や社会的地位、他の兄弟とのバランスを考慮し、「通常の範囲を超えた特別な出費」とみなされる場合は、「生計の資本」としての贈与(特別受益)にあたり、計算に含まれる(〇)可能性があります。
【祝い金・小遣い】結婚祝や入学祝は「扶養の範囲」なら対象外
入学祝い、結婚祝い、日々の小遣いなどは、社会通念上相当な範囲(常識的な金額)であれば、贈与(特別受益)にはあたらず、計算には含まれません(×)。
ただし、結婚に際して持参金として数百万円を渡した、住宅購入資金を援助したといったケースは「婚姻のための贈与」や「生計の資本」として、対象(〇)になります。
間違いやすい「第三者への贈与」のルール
「長男の嫁」や「孫(養子縁組していない場合)」は、法律上は相続人ではなく「第三者」として扱われます。この区別は、計算に含められる期間に大きな影響を与えます。
息子の嫁や孫への贈与は「1年前」までしか遡れない
相続人(子など)への贈与は「10年前」まで遡れますが、第三者(嫁、孫など)への贈与は、原則として「相続開始前の1年間」になされたものしか計算に含めることができません。
したがって、2年前に孫へ贈与した教育資金などは、原則として遺留分の請求対象からは外れることになります。
ただし「悪意(損させる意図)」があれば10年以上前でも対象に
第三者への贈与であっても、「当事者双方(あげる人と貰う人)が、遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をした場合」は例外です。
この場合は、1年前という期間制限がなくなり、はるか昔の贈与であっても計算に含まれます(〇)。
- 「損害を加えることを知って」とは?:単に「遺留分が減る」と知っていただけでなく、「将来財産が増える見込みもなく、この贈与によって確実に遺留分を侵害する」という予見があった場合などを指します。
まとめ:迷ったら「含めて計算」してから専門家に相談を
遺留分の基礎財産は、「亡くなった時の財産」に「特定の生前贈与」を足し合わせることで算出されます。
特に判断が難しいのが、生命保険金の扱いや、扶養の範囲を超えるかどうかの学費・祝い金、そして第三者への贈与における「悪意」の有無です。
ご自身で計算を試みる際は、迷う項目はいったん「計算に含まれる(〇)」と仮定して最大のリスクを見積もっておくのが無難ですが、数百万単位で金額が変わることも珍しくありません。
正確な範囲を確定させるためには、お手元の資料(保険証券や通帳など)を持参し、専門家に相談することをお勧めします。

