「遺留分を算定するための財産の額」の重要性
遺留分の計算式(前提)
遺留分は、法律で認められた相続人の最低限の取り分です。被相続人(亡くなった人)の意思でも奪えない法的な権利ですので、たとえ不公平な遺言書があっても、最低限、遺留分までは請求できます。
ただし、いくら請求できるかについては、遺留分権利者の方で計算する必要があります。
遺留分の金額を計算するための計算式は法律で定められており、具体的には以下のとおりです。
「遺留分の金額」=「遺留分を算定するための財産の額」×(総体的遺留分=1/3 or 1/2×法定相続分)
つまり、遺留分の金額は、「遺留分を算定するための財産の額」、「総体的遺留分」、「法定相続分」で決まります。
「総体的遺留分」と「法定相続分」は法律で定めた割合がありますので、比較的容易に導き出すことができます(相続人調査は必要ですが)。
「遺留分を算定するための財産の額」は少し複雑ですが、こちらも法律で計算式が定められており、具体的には以下のとおりです。
「遺留分を算定するための財産の額」=相続開始時における相続財産(プラスの財産)の額+相続人に対する生前贈与の額(原則10年以内)+第三者に対する生前贈与の額(原則1年以内)-相続債務(マイナスの財産)の額
計算式だけ見ると何とか計算できそうですが、「遺留分を算定するための財産の額」については、事実関係・相続財産の存否・評価が錯綜し、単純な方程式では金額が決まりません。
請求する方も請求される方も、自分に有利な主張を戦わせることになり、交渉でも裁判でも主戦場になる論点です。
「遺留分を算定するための財産の額」のポイント
「遺留分を算定するための財産の額」は、以下の4つの要素から算定します。
- 相続開始時における相続財産(プラスの財産)の額
- 相続人に対する生前贈与の額(原則10年以内)
- 第三者に対する生前贈与の額(原則1年以内)
- 相続債務(マイナスの財産)の額
大きなポイントとなるのは、①と関係する「相続不動産の評価」「漏れている遺産の調査」、②③と関係する「生前贈与の調査」になります。
相続不動産の評価
相続不動産について、相続税申告書に記載されている金額を評価額と考える方もおられますが、結論から言うと違います。
遺留分の計算においては、不動産は時価で評価しますが、相続税の計算においては、通常、路線価をベースに評価します。
路線価ベースの計算だと「客観的な評価額」から下がることが多いですし、特に小規模宅地等の特例という税務特例が適用されると、評価額を最大8割も減らすことができます。そのため、相続税申告書に記載されている金額が相続不動産の評価額だと誤解すると、頑張って計算してみても、本来の遺留分からは金額が低くなる可能性が高いです。
漏れている遺産の調査
遺言書に具体的に列挙されていない遺産がある場合、表に出てきていない遺産が残っている可能性があります。もし財産目録から漏れている遺産があれば、「遺留分を算定するための財産の額」が本来より低くなり、請求できる遺留分の金額も少なくなります。
被相続人(亡くなった人)の自宅にある契約書や証券などの書類を確認するのがセオリーです。
しかし、紛失している場合がありますし、管理している親族が見せようとしない場合もあります。
そのような場合には、被相続人(亡くなった人)の通帳や預貯金口座の取引明細書を精査し、漏れている遺産を調査します。たとえば、通帳に証券会社からの振込があれば、証券口座が残っている可能性があります。
また、本来あるべき生活関連の引落しが見当たらない場合、引落しがなされている他の銀行口座があるかもしれません。
通帳には怪しい痕跡がない場合でも、近隣の金融機関に当たりをつけ、他に銀行口座があるかどうか確認するときもあります。
生前贈与の調査
相続人や相続人の親族などに対する生前贈与も「遺留分を算定するための財産の額」に加算されますので、生前贈与の存在に気が付かないと、本来の遺留分からは金額が低くなります。最大の問題は、生前贈与の有無が分からない場合です。
他の相続人が積極的に開示することはほぼありませんし、問い合わせに答えたとしても、金額があやふやな場合が多いです。そのような場合にまずしなければならないのは、生前贈与の痕跡を見つけることです。
具体的には、被相続人(亡くなった人)の預貯金口座の出金・送金状況を確認することです。
通帳を管理している親族が見せてくれれば通帳の記載を確認し、大きな出金・送金があれば、生前贈与の可能性があります。もし通帳を見せてくれなければ、金融機関から取引明細書を取得し、同じように出金・送金状況を確認します。
逆に、預貯金口座の残高証明書だけしか確認しなかった場合、相続開始前の出金・送金状況は分かりません。
生前贈与に気が付かず、本来の遺留分からは金額が低くなる可能性があります。
難点は、取引明細書の取得に結構な手数料がかかることです。
各金融機関によって異なりますが、3大メガバンクから10年分の取引明細書を取得すると、1支店分で3万円以上かかります。もっとも、信金や地銀は安いところが多い印象がありますし、ゆうちょ銀行は更に安いです。
取得手数料の負担が重いということであれば、まずは繋がりの深い金融機関や手数料が安い金融機関から取引明細書を取得してみて、そこから対象を広げるということでもいいでしょう。
まとめ
遺留分の金額は、単純な割合や方程式で機械的に出るものではなく、「遺留分を算定するための財産の額」でどこまで調査し、主張を工夫するかによって大きく変わります。
積極的に資料収集し、分析することで、初めて具体的な請求額に反映できる部分ですので、自力では難しいと感じる方は、早めに弁護士にご相談ください。