遺産分割は、共同相続人全員の話し合いで行う協議分割から始まります(民法907条1項)。協議がまとまらないときは家庭裁判所に調停を申し立て、調停も不成立となれば審判に移行します(同条2項、家事事件手続法272条4項)。いずれの手続でも、相続人の範囲、遺産の範囲、遺産の評価、特別受益・寄与分、分割方法という順序で内容を確定させます。
遺産分割手続の概要
相続人が複数いる場合、被相続人(亡くなった方)の財産は、相続の開始によって、各自の相続分に応じた割合で相続人全員の共有となります(遺産共有。民法898条1項)。共有のままでは、相続人の1人だけの判断でその財産を売ったり貸したりできません。この状態を解消し、個々の財産を誰が取得するのかを確定させるのが遺産分割です(民法907条)。
遺産分割を行う手続には、協議分割、調停分割、審判分割の3種類があります。表の下にいくほど、当事者の意思に反してでも分割の結果を実現する度合いが強くなります。
| 手続 | 当事者全員の合意が必要か | 家庭裁判所の関与 | 決まった内容を強制的に実現できるか |
|---|---|---|---|
| 協議分割 | 必要 | なし | できない(原則) |
| 調停分割 | 必要 | あり(調停委員会等) | できる |
| 審判分割 | 不要 | あり(裁判官) | できる |
協議分割は、共同相続人の話し合いで分割の内容を決める方法です(民法907条1項)。裁判所など第三者の関与なしに相続人だけで内容を決められる反面、成立には相続人全員の合意が要ります。また、合意した内容を相手が守らないとき、そのままでは強制執行ができないのが原則です(協議の内容を公正証書に記載しておけば、強制執行が可能となる余地があります。民事執行法22条5号)。
調停分割は、家庭裁判所の家事調停の手続による遺産分割です。調停委員会が第三者の立場で介在し、当事者全員が納得して解決の内容も相当であれば、審判では採用の難しい方法による分割もできます。反面、1人でも反対すれば調停による分割は実現しません。調停が成立すると、その内容によっては強制執行もできます。
審判分割は、家庭裁判所の家事審判の手続による遺産分割です。裁判官が分割の方法などを判断するため、当事者全員の合意がなくても分割が実現します。その分、決められた内容が当事者の一部の意に沿わないものとなることもあります。
調停分割と審判分割は、いずれも家事事件手続法の定める手続に従い、非公開で進みます(家事事件手続法33条本文)。遺産分割事件の判断の対象は相続財産の分け方にほぼ限られ、その財産は当事者が自由に処分できるものです。そのため、家庭裁判所の実務では、合意を尊重できる事項はその合意を基礎に審理を進めています。
遺産分割を始める前に確認すること
当事者となるのは誰か
遺産分割の当事者となるのは、原則として共同相続人です。包括受遺者(民法990条)や相続分の譲受人も当事者となります。相続人を1人でも除いてなされた遺産分割は全部が無効となるため、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本と相続人全員の戸籍謄本をそろえ、過不足がないかを確かめます。相続人の中に未成年者がいる場合は特別代理人の選任(民法826条1項)、判断能力に問題のある方がいる場合は後見開始の申立て、行方の分からない方がいる場合は不在者財産管理人の選任(民法25条、28条)が別に必要です。
何が分割の対象になるか
分割の対象となるのは、相続開始時に存在し、かつ分割の時点でも遺産共有状態にある未分割の財産です。不動産は登記事項証明書、預貯金は残高証明書、株式は取引残高報告書などから内容を確認します。
いつまでに進めるか
遺産分割そのものに期限は定められていません。ただし、相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月です。この期限までに分割がまとまらない場合は、未分割のまま法定相続分で申告することになり、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例は当初の申告では適用できません。申告の際に「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておけば、分割の成立後に更正の請求などによって適用を受けられます。
遺産の全部ではなく一部だけを先に分割することもできます(民法907条1項・2項)。納税資金の確保など、一部の財産について早く帰属を確定させたい事情がある場合の選択肢になります。
相続の開始の時から10年を経過した後にする遺産分割では、原則として特別受益と寄与分の主張ができなくなり、法定相続分または指定相続分による分割となります(民法904条の3。2023年4月1日施行)。施行日前に開始した相続にも適用されますが、経過措置が置かれています。
どこに申し立てるか
調停の管轄は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所、または当事者が合意で定める家庭裁判所です(家事事件手続法245条1項)。審判として申し立てる場合は、相続が開始した地を管轄する家庭裁判所となります(同法191条1項)。
遺産分割の流れ
家庭裁判所では、遺産分割調停・審判の審理で取り上げるテーマの標準的な順序が定められています(段階的進行モデル)。遺産分割のために解決すべき問題を実体法に従って整理したものなので、協議の段階でも同じ順序で検討すると、複数の争点が入り混じって話し合いが混乱する事態を防げます。
第1段階 相続人の範囲を確定する
当事者となるべき相続人の範囲を確認します。相続人でなくても当事者となり得る者や、相続人であっても当事者となり得ない者がいるため、過不足がないかもここで確かめます。あわせて相続分も確認し、遺言による指定があればそれにより、指定がなければ民法900条以下の法定相続分によります。
第2段階 遺産の範囲を確定する
分割の対象となる財産の範囲について、当事者全員の合意による確認を目指します。分割の時点で遺産共有状態にある相続財産だけが対象となりますが、相続人全員が合意すれば、本来は対象外の財産を調停・審判で分割の対象とできる場合もあります。
第3段階 遺産を評価する
個々の遺産を金銭で評価します。この評価がなければ、各相続人が取得する相続財産の総額が分からず、相続分に応じた分割ができているかを判断できないためです。ただし、分割方法によっては評価が不要となる場合もあります。不動産の評価額は当事者の合意、専門家調停委員の意見、鑑定といった方法で確定します。
第4段階 各相続人の取得額を決める(特別受益・寄与分)
特別受益(被相続人から生前に受けた贈与や遺贈などの特別な利益)や寄与分(被相続人の財産の維持・増加に特別の貢献をした相続人に認められる上乗せ分)があれば、これらを考慮して相続分を修正し、各相続人の取得額を決めます。相続開始から10年を経過した後の遺産分割では、原則としてこれらの主張ができません(民法904条の3)。
第5段階 分割方法を決める
誰にどの遺産を、どのような方法で帰属させるかを決めます。分割の方法は、遺産に属する物または権利の種類および性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態および生活の状況その他一切の事情を考慮して定めます(民法906条)。現物をそのまま配分する方法のほかにも種々の方法があり、実務ではこれらを組み合わせます。
協議がまとまった場合・まとまらない場合
各段階について相続人全員の合意ができれば、遺産分割協議書を作成して手続は終わります。
合意に至らないときは、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てます(民法907条2項)。調停でも段階的進行モデルに沿って手続が進み、当事者全員が合意に達し、その合意内容が相当と認められて調書に記載されたときに調停が成立します。合意が成立しないとき、または合意の内容が相当と認められないときは調停不成立となり(家事事件手続法272条)、家事調停の申立ての時に審判の申立てがあったものとみなされて審判手続に移行します(同条4項)。
審判手続では、裁判所が非公開で事実の調査・証拠調べを行い、審判という形式で判断を示します(家事事件手続法73条1項)。審判の内容に不服がある当事者は、即時抗告を申し立てることができます。
分割後の手続
遺産分割によって不動産を取得した相続人は、遺産分割の日から3年以内に所有権の移転の登記を申請しなければなりません(不動産登記法76条の2第2項)。正当な理由がないのに申請を怠った場合は過料の対象となります。

