遺産分割協議書とは、共同相続人全員が合意した遺産の分け方を書面にまとめたものです。遺産分割協議そのものは要式行為ではなく、口頭の合意でも成立します(民法907条1項)。もっとも、相続登記や預貯金の払戻しなどの手続では、相続人全員が署名押印した遺産分割協議書の提出が求められます。
手続の概要
遺産分割協議書は、共同相続人が遺産の分け方について話し合い(遺産分割協議)、合意した内容を記載した書面です。
遺産分割協議は、共同相続人が被相続人の遺言による禁止がない限りいつでも行うことができ、遺産の全部だけでなく一部について行うこともできます(民法907条1項)。
遺産分割協議は要式行為(一定の方式を踏まなければ効力が生じない行為)ではありません。遺産分割協議書に署名押印することは協議の成立要件ではなく、相続人全員の口頭の合意だけでも協議は成立します。
しかし、口頭の合意しかない場合や、署名押印が欠けている協議書しかない場合、登記等の名義変更手続や預貯金の払戻手続は認められません。遺産分割協議による取得を理由に所有権確認訴訟等を提起することも考えられますが、口頭の合意の内容を立証することには困難が伴います。合意した内容を実現するためには、相続人全員が署名押印した遺産分割協議書を作成しておく必要があります。
なお、遺産分割協議書は、当事者間の合意を証する私文書です。家庭裁判所の遺産分割調停が成立したときに作成される調停調書とは異なり、それ自体に強制執行の基礎となる効力(債務名義としての効力)はありません。調停調書の記載は確定した審判と同一の効力を有し、金銭の支払や登記義務の履行を定めた給付条項には執行力が認められます(家事事件手続法268条1項、75条)。この違いは、代償金の支払を定める場合などに意味を持ちます。
手続の要件・準備
協議が有効に成立するための前提
遺産分割協議書を作成する前提として、次の3点を満たしている必要があります。
第一に、共同相続人の全員が協議に参加していることです。一部の相続人を除外して行われた遺産分割協議は無効です。戸籍謄本を収集して相続人の範囲を確定しておく必要があります。
第二に、分割の対象となる遺産の範囲が把握できていることです。
第三に、遺産の分け方について相続人全員の合意があることです。一人でも合意しない相続人がいれば協議は成立せず、家庭裁判所の遺産分割調停を申し立てることになります(民法907条2項)。
必要な書類
遺産分割協議書の作成と、その後の名義変更手続のために、一般に次の書類を準備します。
| 書類 | 主な取得先 | 用途 |
|---|---|---|
| 被相続人の出生から死亡までの戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本 | 本籍地の市区町村 | 相続人の範囲の確定 |
| 相続人全員の戸籍謄本 | 本籍地の市区町村 | 相続人であることの確認 |
| 被相続人の住民票の除票(または戸籍の附票) | 最後の住所地の市区町村 | 被相続人の同一性の確認 |
| 相続人全員の印鑑登録証明書 | 住所地の市区町村 | 実印による押印の証明 |
| 不動産の登記事項証明書 | 法務局 | 遺産である不動産の特定 |
| 固定資産評価証明書 | 不動産所在地の市区町村 | 登録免許税の算出等 |
| 預貯金の残高証明書 | 各金融機関 | 遺産である預貯金の特定 |
※提出先(法務局・金融機関・証券会社等)によって求められる書類や有効期限の扱いは異なります。
手続の流れ
ステップ1:相続人と遺産を調査する
被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本をたどって相続人を確定し、あわせて不動産・預貯金・有価証券などの遺産を調査します。協議書には遺産を特定して記載する必要があるため、この段階で登記事項証明書や残高証明書を取得しておきます。
ステップ2:相続人全員で協議する
相続人全員で遺産の分け方を話し合います。全員が一か所に集まる必要はなく、電話や書面、電子メールなどによるやり取りでも構いません。最終的に全員の合意が得られていれば、協議は成立します。
ステップ3:合意した内容を書面にする
遺産分割協議書の書式に法律上の決まりはありません。もっとも、記載が不明確だと、その解釈をめぐって新たな争いが生じるおそれがあります。遺産分割調停で用いられる調停条項の考え方が参考になり、誰が、どの遺産を、どのように取得するのかを、後から読んで一義的に確定できる書き方をしておく必要があります。
一般に記載する事項は次のとおりです。
| 記載事項 | 記載の考え方 |
|---|---|
| 被相続人の特定 | 氏名・最後の住所・本籍のほか、死亡年月日を必ず記載する(登記原因の特定に用いられるため) |
| 相続人(当事者)の確定 | 被相続人の相続人が誰であるかを確認する条項を置く。数次相続や相続放棄があった事案では、その経緯も記載する |
| 遺産の範囲 | 別紙の遺産目録などで対象財産を特定する。目録記載以外に遺産が存在しないことまで確認する趣旨であれば、その旨の文言を別に記載する |
| 分割方法 | 各相続人が取得する遺産を個別に記載する。遺産を取得しない相続人がいる場合も、その旨を記載しておく |
| 代償金 | 支払う金額のほか、支払期限、支払方法(振込先の金融機関・支店・口座番号・名義)、振込手数料の負担を記載する。分割払とする場合は、支払を怠ったときの取扱いもあわせて定める |
| 相続債務の負担 | 相続債務は相続開始により法定相続分に応じて各相続人に当然に分割帰属する。相続人間で負担者を定めても、債権者に対しては当然には効力を主張できない(民法470条2項・3項、472条2項・3項) |
| 相続開始後の賃料等 | 相続開始後に生じた賃料などの法定果実は、当然には分割の対象にならず、相続人全員の合意があって初めて対象になる。対象とする場合はその旨を記載する |
| 後日遺産が見つかった場合 | 目録に記載のない遺産が判明したときの取扱い(別途協議する、法定相続分で分ける、特定の相続人が取得する等)を定めておく |
| 作成年月日 | 協議が成立した日を記載する |
不動産は登記事項証明書の記載どおりに、所在・地番・地目・地積(土地)、所在・家屋番号・種類・構造・床面積(建物)を書き写します。預貯金は金融機関名・支店名・預金種別・口座番号で特定します。
遺産の一部だけを分割する協議書を作成する場合は、対象となる遺産を明示したうえで、その一部分割が残りの遺産の分割にどう影響するか(別個独立に相続分に従って分けるのか、残部の分割の際に先の取得分を考慮するのか)を定めておきます。
ステップ4:相続人全員が署名押印する
完成した協議書に、相続人全員が署名し、実印で押印します。印鑑登録証明書を添付するのが通常で、認印では登記や払戻しの手続が受け付けられません。
相続人が各地に住んでいる場合には、1通の協議書を順次郵送して署名押印を集める方法のほか、同一内容の書面を人数分作成し、各相続人がそれぞれ1通に署名押印する方法(持ち回りによる作成)もあります。
ステップ5:名義変更などの手続に使う
署名押印がそろった遺産分割協議書は、相続登記、預貯金の解約・払戻し、有価証券の名義書換えなどに使用します。相続登記の手続と申請義務については、「遺産分割後の不動産の名義変更(相続登記)はどうすればいいですか?」で解説しています。

