遺産をそのまま分ける「現物分割」はどんなときに使われますか?

回答

現物分割とは、個々の遺産の形状や性質を変更することなく、そのまま各相続人に割り振る分割方法です。遺産分割の原則的な方法とされ、遺産分割ではまず現物分割から検討されます。誰がどの財産を取得するかは、遺産の種類・性質や各相続人の事情その他一切の事情を考慮して決められます(民法906条)。

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現物分割の意味と趣旨

現物分割とは、個々の遺産の形状や性質を変更することなく、そのまま各相続人に割り振る分割方法です。たとえば、自宅の土地建物は長男が、預貯金は二男が取得するというように、遺産を現物のまま分ける方法がこれにあたります。1筆の土地を分筆して(2つ以上に分けて)複数の相続人がそれぞれ取得する場合のように、1個の財産を分けて取得させる方法も、現物分割に含まれます。

遺産は、その性質上、できる限り現物のまま相続人に受け継がせることが望ましいと考えられており、現物分割は遺産分割の原則的な方法とされています。審判では、はじめに現物分割ができないかを検討し、それが相当でない場合に、代償分割(特定の相続人が遺産を取得し、他の相続人にお金を支払って調整する方法)、換価分割(遺産を売却して代金を分ける方法)、共有分割(遺産を相続人の共有のままとする方法)の順で検討が進みます。これに対し、協議や調停では、相続人全員が合意すれば、この順序にかかわらずいずれの方法も選べます。

なお、最決昭和30年5月31日は、遺産の分割は現物分割を原則とし、分割によって著しくその価格を損なうおそれがあるときは、競売を命じて価格分割を行うことになると判断しています。

誰がどの財産を取得するかは、「遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情」を考慮して決められます(民法906条)。

もっとも、現物分割だけで各相続人の取得額を相続分どおりにそろえられる事案は、実際には多くありません。実務では、取得額の過不足を代償金の支払で調整する、現物分割と代償分割の併用が広く行われています。

現物分割が使われる場面

現物分割は、遺産の中に複数の財産があり、それぞれを各相続人に割り振ることで、各相続人の相続分(具体的取得分)におおむね見合った分割ができる場合に適した方法です。協議や調停では、各相続人がどの財産の取得を希望するかを確認し、できる限りその希望に沿う形で割り振りを調整していくのが基本です。

財産の種類ごとの基本的な取扱いは、次のとおりです。

財産の種類現物分割での基本的な取扱い
預貯金・上場株式などの金融資産換価しやすく現金に近い財産として扱われ、取得希望がない相続人にも、相続分を満たすために割り振られることがあります
不動産取得を希望する相続人に取得させるのが基本です。取得を希望しない相続人に割り振ることは、原則として行われません
区分所有登記された二世帯住宅被相続人(亡くなった方)名義の部分と相続人名義の部分は、それぞれ独立した不動産として扱われます。被相続人名義の部分は、その二世帯住宅に名義を持つ相続人が単独で取得するのが相当とされています
土地の分筆1筆の土地を分筆し、複数の相続人がそれぞれ取得する方法もあります。相続人全員が分筆に合意し、測量や地積測量図の作成に協力できることが前提になります
借地権借地権(建物を所有するために土地を借りる権利)を1人の相続人が単独で取得する場合、土地所有者(地主)の承諾は不要とされています。借地権を分けて複数の相続人が取得するには、地主の承諾が必要です
非上場株式会社経営の安定の観点から、経営を承継する相続人に単独で取得させ、他の相続人には代償金で調整するのが相当とされることが多くあります
名義預貯金名義預貯金(口座の名義人と実際にお金を出した人が異なる預貯金)が遺産として分割の対象とされた場合は、口座の名義人である相続人が取得するのが相当とされています
動産・現金実際に保管・占有している相続人が取得するのが相当とされることが多くあります。自動車のように登録が必要な動産では、所有権の移転登録手続も併せて取り決められます

もっとも、不動産については例外もあります。相続人が遺産である土地建物を自宅として利用しているとき、遺産である土地の上に自分の建物を所有してその土地を利用しているとき、遺産である不動産に被相続人と共有の持分を有しているときなどには、民法906条の分割の基準に従い、その相続人が取得を希望していなくても、その不動産を取得させることが相当とされる場合があります。

現物分割が適さない場合

現物分割が常に可能・相当というわけではありません。次のような場合には、現物分割以外の方法が検討されます。

第一に、現物分割をすると財産の経済的価値を著しく損なう場合です。たとえば、1筆の土地を細かく分けると、いずれの部分も利用しにくくなり価値が大きく下がってしまうような場合には、現物分割は適しません。

第二に、法律上、現物のまま分けることができない財産もあります。なお、最判平成12年7月11日は、上場株式について、新たに単位未満の株式(現在の単元未満株式に相当します)を生じさせる分割方法では、株式の現物分割の目的を全うすることができないと判断しています。

第三に、遺産が自宅の不動産1つしかない場合のように、現物のまま割り振ると各相続人の取得額と相続分との差が大きくなりすぎる場合です。

これらの場合には、代償分割や換価分割が検討されることになります。共有分割は、遺産をめぐる紛争の解決を先送りすることになりやすいため、他の方法がいずれも難しい場合の最後の手段と位置付けられています。

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