遺産を売却してお金で分ける「換価分割」とは何ですか?

回答

換価分割とは、遺産を売却して換金(換価処分)した後に、その売却代金を相続人の間で分配する分割方法です。売却の方法には、相続人全員の合意に基づく任意売却と、裁判所が命じる競売による方法があります。換価分割では、売却に伴い、相続税とは別に譲渡所得税が課され得る点に特徴があります。

目次

換価分割の意味と趣旨

換価分割とは、遺産を売却して換金し、その売却代金を相続人の間で分配する分割方法です。売却代金から仲介手数料などの売却に要する費用を控除した残額を、各相続人の相続分に応じて分配します。

遺産分割では、遺産をそのままの形で取得させる現物分割が原則的な方法とされ、遺産を取得する相続人が代償金を支払って調整する代償分割がこれに次ぐと解されています。換価分割が検討されるのは、その二つが難しい場合、たとえば取得を希望する相続人がいない場合や、取得希望者に代償金を支払う資力がない場合です。遺産を金銭に換えることで、相続分に応じた公平な分配がしやすくなる点に、この方法の意義があります。

なお、最判昭和30年5月31日は、遺産の分割には共有に関する民法の規定が適用されると判断しています。競売による換価分割の根拠条文が、共有物分割について定める民法258条3項とされるのは、この判例の考え方を前提とするものです。

厳密には、換価分割とは、調停または審判において、遺産そのものを売却することが分割方法として選択されたものをいいます。調停の途中で遺産を売却して現金化した場合には、調停成立時には、その売却代金である現金(代償財産)を分ける現物分割として扱われます。

換価分割の2つの方法と手続

換価分割における売却の方法には、任意売却と競売の2つがあります。

方法内容特徴
任意売却相続人全員の合意に基づき、不動産業者等を通じて第三者に売却する競売に比べて高額での売却が見込まれ、早期の売却が期待できる。協議・調停で用いられ、審判で命じることはできない
競売(形式的競売)裁判所が競売を命じ、民事執行の手続に従って売却する(民事執行法195条)審判で換価を命じる場合はこの方法に限られる。売却価格が低くなりやすく、競落されないこともある

任意売却による換価分割

任意売却は、相続人全員の合意に基づいて遺産を第三者に売却する方法です。競売による場合に比べて減価要因の考慮が少なく、高額での売却が見込まれ、早期に売却が進むことが期待できるため、換価分割で合意ができた場合には、任意売却によるのが基本となります。

もっとも、任意売却を進めるには、土地の測量、売買契約の締結、相続人全員への相続分での共有持分登記、売却先への所有権移転登記など、手続の各場面で相続人全員の協力が欠かせません。実務では、不動産業者や特定の相続人に売却手続を委任する方法が通常で、調停では、売却担当者、最低売却価額、売却期限、売却代金から控除する費用の項目などを取り決めたうえで、調停条項とされます。期限までに売却できなかった場合に備えて、期間経過後は競売を申し立てることができる旨の条項を入れることもあります。

これに対し、審判で任意売却による換価分割を命じることはできないと解されています。民法上、共有物の分割方法として定められているのは競売による分割のみであるうえ(民法258条3項)、相続人全員の協力が前提となる任意売却は、裁判所が分割方法を命じる審判にはなじまないためです。

競売による換価分割

競売による換価分割とは、裁判所が遺産の競売を命じ、民事執行の手続に従って売却が進められる方法です。担保権の実行としての競売の手続を利用して行われるため、「形式的競売」と呼ばれます(民事執行法195条)。取得を希望する相続人がおらず、任意売却の合意もできない場合などに、この方法が選択されます。競売は審判で命じられるのが原則的な姿ですが、調停でも、競売による換価分割を定めることがあります。

審判や調停が成立しても、自動的に競売の手続が始まるわけではありません。相続人の誰かが、審判書正本または調停調書正本を換価権を証明する文書として地方裁判所に提出し(民事執行法181条)、手続費用を予納して申し立てることによって、手続が開始されます。不動産が被相続人(亡くなった方)の名義のままの場合には差押えの登記ができないため、申立ての前に、相続人全員への共有持分移転登記をしておく必要もあります。

競売の手続が開始されても、その不動産が競落されないこともあり、その場合には手続費用だけがかかる結果となりかねません。このため、競売による換価分割は、できる限り避けたい分割方法とされています。

このほか、遺産分割の審判に先立つ中間的な処分として、遺産の競売や任意売却による換価を命じる裁判の制度もありますが(家事事件手続法194条)、実際にはほとんど利用されていません。

換価分割と税金

換価分割では、各相続人が遺産をいったん相続したうえで、他の相続人とともに第三者に売却するという構成になるため、遺産の取得について相続税が課されることに加えて、売却によって利益(譲渡益)が出た場合には譲渡所得税も課されます。

相続税の申告期限(相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月)の後3年を経過する日までに売却した場合には、譲渡所得の計算にあたり、相続税額のうち売却した財産に対応する部分の金額を取得費に加算できる特例(取得費加算の特例。租税特別措置法39条)があります。このため、換価分割により遺産を売却する場合には、この期間内に売却すると譲渡所得税の負担が軽くなる場合があります。

目次