遺産分割審判に不服がある相続人は、即時抗告(上級の裁判所に審判の取消しや変更を求める不服申立て)ができます(家事事件手続法85条1項、198条1項1号)。期間は審判の告知を受けた日から2週間の不変期間で(同法86条1項)、この期間が満了するまでに即時抗告がされなければ、審判は確定します(同法74条4項)。
結論
遺産分割審判の内容に不服がある相続人は、即時抗告の方法で不服を申し立てられます(家事事件手続法85条1項)。
審判に対する即時抗告は、法律に特別の定めがある場合に限って認められる不服申立てです。遺産分割の審判とその申立てを却下する審判は、その対象として明文で定められています(同法198条1項1号)。遺産分割審判は、相続人の合意ではなく裁判所の判断で遺産の分け方が決まる手続ですから、その判断を上級の裁判所に見直してもらう機会が用意されています。
ただし、即時抗告ができる期間は2週間しかありません。これは裁判所の裁量で延長できない不変期間で、経過すると審判の内容を争えなくなります(同法86条1項)。
根拠と条件
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 不服申立ての方法 | 即時抗告(家事事件手続法85条1項) |
| 対象となる審判 | 遺産分割の審判、その申立てを却下する審判など(同法198条1項各号) |
| 申立てができる人 | 相続人(同法198条1項1号) |
| 期間 | 審判の告知を受けた日から2週間の不変期間(同法86条1項・2項) |
| 抗告状の提出先 | 審判をした家庭裁判所(原裁判所)(同法87条1項) |
| 審理する裁判所 | 原裁判所を管轄する高等裁判所(裁判所法16条2号) |
| 申立手数料 | 1,800円(民事訴訟費用等に関する法律3条1項、別表第1の18の項(1)) |
| 抗告理由書 | 抗告状に抗告理由の記載がない場合、抗告の提起後14日以内に原裁判所へ提出(家事事件手続規則55条1項) |
即時抗告の対象となる審判と申立てができる人
遺産分割に関する審判のうち、即時抗告の対象になるのは次のものです(家事事件手続法198条1項)。
- 遺産分割の審判、およびその申立てを却下する審判(1号)
- 遺産分割の禁止の審判(2号)
- 遺産分割の禁止の審判を取り消し、または変更する審判(3号)
- 寄与分(被相続人の財産の維持・増加に特別の貢献をした相続人に認められる上乗せ分)を定める処分の審判(4号)
- 寄与分を定める処分の申立てを却下する審判(5号)
このうち1号から4号までを申し立てられるのは相続人で、5号は寄与分を定める処分事件の申立人です。相続人以外の利害関係人は、申立権者に含まれません。なお、特別の寄与に関する処分の審判も即時抗告の対象になります(同法216条の4)。
反対に、遺産分割禁止の申立てを却下する審判については、即時抗告を認める規定がないため、不服を申し立てられません。
寄与分を定める処分事件は遺産分割事件と併合して審理されますが(家事事件手続法192条前段)、寄与分の審判は遺産分割の審判の前提となる判断ですから、寄与分の部分だけを取り出して独立に即時抗告することはできません(同法198条2項)。
期間と起算点
即時抗告の期間は2週間で、不変期間とされています(家事事件手続法86条1項)。この期間は、各当事者が審判の告知を受けた日からそれぞれ進行します(同条2項)。
審判の告知は、相当と認める方法によるとされていますが(同法74条1項)、実務では審判書の謄本または正本を送達する方法で行われています。したがって、審判書の送達を受けた日が2週間を数える起点になります。
各相続人への送達の日がずれることは珍しくありませんが、その場合でも、いちばん遅く告知を受けた相続人を基準に期間が一律に進行するわけではありません。
なお、最決平成15年11月13日は、各当事者に対する審判の告知の日が異なる場合、即時抗告期間は当事者ごとに各自が告知を受けた日から個別に進行すると判断しています。
調停や調停に代わる審判との違い
即時抗告の対象になるのは、裁判所の判断として出される審判です。成立した遺産分割調停は相続人全員の合意に基づくものですから、不服申立ての制度はありません。
調停に代わる審判(調停が成立しない場合に家庭裁判所が職権でする審判。家事事件手続法284条1項)に不服がある場合の申立ては、即時抗告ではなく異議の申立てであり、期間は告知を受けた日から2週間です(同法286条1項・2項、279条2項 ※要確認)。適法な異議の申立てがあると、調停に代わる審判は当然に効力を失い、遺産分割の審判の申立てがあったものとみなされて、審判手続へ移行します(同法286条5項・7項)。
具体的な場面での適用
被相続人Aの相続人がB・C・Dの3名で、Bが自宅の土地建物を取得し、BがC・Dに代償金を支払う内容の審判がされたとします。
期間内に即時抗告をした場合
この分割方法に不服があるCは、自分が審判書の送達を受けた日から2週間以内であれば、審判をした家庭裁判所に抗告状を提出して即時抗告ができます。
期間内に即時抗告が提起されると、審判の確定が遮断されます(家事事件手続法74条5項)。即時抗告ができる審判は確定しなければ効力を生じませんから(同条2項ただし書)、審判の内容は実現されないまま、上級の裁判所の判断を待つことになります。
遺産分割審判では当事者全員が手続に関与する必要があるため、Cひとりが即時抗告をした場合でも、B・Dを含む全員について事件全体の確定が遮断され、事件全体が高等裁判所へ移審します。
抗告審は第一審の続審で、第一審でされた手続行為は抗告審でも効力を持ちます(同法93条3項、民事訴訟法298条1項)。抗告裁判所は、即時抗告が不適法なときや理由がないことが明らかなときを除き、原審の当事者(抗告人を除く)の陳述を聴かなければなりません(家事事件手続法89条2項)。この設例でいえば、B・Dに反論の機会が保障されます。
抗告裁判所の裁判は、審判に代わる決定という形で示されます(同法91条1項)。内容は、即時抗告の却下、即時抗告の棄却、原審判の取消しの3つに分かれ、原審判を取り消す場合は、抗告裁判所が自ら審判に代わる裁判をするのが原則で、家庭裁判所への差戻しは例外です(同条2項)。
家事審判の抗告審では、不利益変更禁止の原則(不服を申し立てた者にとって、原審判より不利な内容に変更されないという原則)は適用されません。家事事件では裁判所が公益的・後見的な見地から裁量によって権利関係を形成することが求められ、その範囲が当事者の申立てに拘束されないためです。
期間内に即時抗告がされなかった場合
即時抗告の期間が満了するまで審判は確定しないとされていますから(家事事件手続法74条4項)、B・C・Dの誰からも即時抗告がされずに期間が経過すれば、その満了によって審判が確定します。
確定した審判のうち、代償金の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命じる部分は、執行力のある債務名義と同一の効力を持ちます(同法75条)。Bは、確定した審判に基づいて自宅の相続登記を単独で申請でき、C・Dは代償金が支払われない場合に強制執行を申し立てられます。
高等裁判所の決定に対する不服申立て
高等裁判所がした審判に代わる決定に対して、再度の即時抗告はできません。この決定は告知によって確定します。
残された不服申立て手段は、憲法の解釈の誤りその他憲法違反を理由とする最高裁判所への特別抗告(家事事件手続法94条1項)と、最高裁判所の判例と相反する判断がある場合などに高等裁判所の許可により行われる許可抗告(同法97条1項〜3項)だけです。いずれも期間は5日の不変期間で、これらの申立てに決定の確定を遮断する効力はありません。

