共有不動産を使用する共有者は、善良な管理者の注意をもって共有物を使用する義務(善管注意義務)を負います(民法249条3項)。この規定は令和3年民法改正(2023年4月1日施行)で新設されたもので、使用中の共有物を毀損した場合の損害賠償責任の判断に影響します。
結論
共有不動産を使用している共有者は、建物を丁寧に扱う義務、正確には善管注意義務(ぜんかんちゅういぎむ=善良な管理者の注意をもって共有物を使用する義務)を負います(民法249条3項)。
共有物は、使用している共有者自身の所有物であると同時に、他の共有者の所有物でもあります。使用者は他人の財産を使用(管理)している側面をもつため、他人の物を管理する場合の一般的な水準である善管注意義務が求められるのです。
この規定は令和3年民法改正(2023年4月1日施行)で新設されました。改正前は、共有物を使用する共有者がどのような義務を負うのかについて、明文の規定がありませんでした。
根拠と条件
民法249条3項の内容
民法249条3項は、「共有者は、善良な管理者の注意をもって、共有物の使用をしなければならない」と定めています。
この義務を負うのは、共有物を現に使用しているすべての共有者です。共有者間の決定(合意)に基づいて使用しているかどうかにかかわらず、共有物を使用している以上、善管注意義務を負います。
改正の背景
令和3年改正では、共有物を使用する共有者の義務を明文で定めることが共有物の円滑な利用につながるという考えから、2つの規定が新設されました。1つは使用対価の償還義務(民法249条2項)であり、もう1つが善管注意義務(同条3項)です。
たとえば、共有者A・B・Cのうち、Aだけが共有建物を使用(居住)している場合を想定します。共有建物はAの所有物であると同時にB・Cの所有物でもあるため、Aは他人の財産を使用(管理)しているともいえます。そこで、他人の物を管理する場合の一般的な義務水準である善管注意義務を課すのが適切と考えられました。
注意義務の水準
民法上の注意義務には、善管注意義務のほかに、これより軽減された「自己の財産に対するのと同一の注意」(民法659条など)があります。共有物の使用者は自らも所有者の1人ですが、民法249条3項が求めるのは、軽減されない善管注意義務のほうです。
具体的な場面での適用
共有物を毀損した場合の損害賠償
善管注意義務の規定が実務に影響するのは、主に、使用している共有者が共有物を毀損(損傷)させてしまった場合です。
先ほどの設例で、共有建物に居住するAが、火の不始末により建物の内装を損傷させたとします。この場合、Aは他の共有者B・Cに対して、債務不履行(民法415条)または不法行為(民法709条)に基づく損害賠償義務を負います。損害賠償義務が発生するかどうかの判断において、善管注意義務の規定(民法249条3項)があることにより、Aの義務違反が認められやすくなります。
善管注意義務から直接の請求権は生じない
一方で、善管注意義務の規定そのものから、何らかの具体的な請求権が直接生じるわけではありません。令和3年改正の立法過程では、共有物を損壊した場合の損害賠償義務を条文で直接定める案も検討されましたが、共有物の損傷があれば通常は債務不履行や不法行為による損害賠償責任が発生するため、別途の規定は不要であるとして採用されませんでした。
合意書における確認条項
共有者間で共有物の使用方法について合意書を作成する際に、「使用者は、本件不動産を善良な管理者の注意をもって使用する義務を負う」というように、民法249条3項と同内容の条項を確認的に定める例があります。

