共有不動産の賃貸借契約を解除するために、共有者全員の同意は必要ありません。賃貸借契約を解除するという意思決定は共有物の管理に関する事項にあたり、共有持分の価格の過半数で決められます(民法252条1項)。更新拒絶や合意解除も同じ扱いになります。ただし、過半数の賛成があっても、解除事由がなければ契約は終了しません。
結論
共有不動産の賃貸借契約を解除するかどうかは、共有物の管理に関する事項(共有物の性質を変えない範囲で利用・改良する行為)にあたります。そのため、共有者全員の同意がなくても、共有持分の価格の過半数の賛成があれば、解除するという意思決定ができます(民法252条1項)。
もっとも、これは共有者の内部で「解除する」と決めるために必要な賛成の範囲の問題にすぎません。過半数の賛成を得て借主に解除を通知しても、賃料の滞納などの解除事由がなければ契約は終了しません。賃料の滞納があった場合でも、最高裁は、催告期間内に延滞賃料の支払がなくても、信頼関係を破壊するに至る程度の不誠意が認められないときは賃料不払を理由とする解除は認められないと判断しています(最判昭和39年7月28日)。
根拠と条件
解除が「管理」に分類される理由
賃貸借契約を解除すれば、賃料を滞納したまま居座る借主を退去させ、新たな借主に貸すこともできます。強く保護される借主がいない状態のほうが不動産の経済的な価値は高いとされることが多く、この点だけを見れば、解除は共有物の現状を維持する保存行為(民法252条5項)にあたるという見方も成り立ちます。
しかし、借主が滞納している賃料を支払えば債務不履行の状態は解消されるため、解除が常に共有物の価値を保つとは限りません。そこで、解除は原則に戻って、共有物の管理に関する事項に分類されます。
なお、最高裁は、共有物を目的とする貸借契約の解除は共有物の管理に関する事項にあたり、この解除には民法544条1項が適用されないと判断しています(最判昭和39年2月25日)。この判断は令和3年改正の前のものですが、管理に関する事項を持分の価格の過半数で決めるという規律は現行の民法252条1項に引き継がれており、現行法のもとでも同様に解されます。
解除の不可分性との関係
民法544条1項は、契約の当事者の一方が複数いる場合、契約の解除はその全員から、または全員に対してのみできると定めています(解除の不可分性)。この条文だけを見ると、共有者全員の同意がなければ解除できないようにも読めます。
しかし、この規定は、共有者の内部で「解除する」と決めるために必要な賛成の範囲を定めたものではないと解されています。前記の最高裁判決も、共有物を目的とする貸借契約の解除は共有物の管理に関する事項にあたるとして、この解除には民法544条1項が適用されないとしています。持分の価格の過半数の賛成があれば、解除するという意思決定は成立します。
意思決定が成立した後、借主に対して行う解除の意思表示(通知)を誰の名義で行うかは、これとは別の問題です。 民法544条1項を通知の場面の規定と理解して、賃貸人(共有者)全員の名義によるべきとする考え方がある一方、全員の名義が必ず必要とは限らないという見解もあります。
過半数の賛成が集まらない場合
賛成する共有者の持分が過半数に達しない場合、借主に債務不履行があっても解除できません。共有者の中に所在等が不明な人や、催告しても賛否を明らかにしない人がいるために過半数に届かないときは、裁判所の裁判を得て、その共有者を除いた共有者の持分の価格の過半数で管理に関する事項を決められます(民法252条2項)。この手続は令和3年改正で新設されたもので、持分の過半数を持つ共有者と連絡が取れないために解除できないという事態への対応が、創設の背景の1つとされています。
反対に、賛成する共有者だけで既に持分の価格の過半数に達している場合は、反対する共有者や連絡の取れない共有者がいても、この手続を経る必要はありません。
更新拒絶・合意解除の場合
借地借家法が適用される賃貸借では、賃貸人の意思表示で契約を終了させる方法として、更新拒絶もあります。借地契約における更新請求や使用の継続に対する異議(借地借家法5条1項・2項)、期間の定めのある借家契約における更新しない旨の通知や使用の継続に対する異議(同法26条1項・2項)、期間の定めのない借家契約における解約の申入れ(同法27条1項)がこれにあたります。いずれも正当の事由がなければ効果は生じません(同法6条・28条)。また、賃貸人と借主が合意して契約を終了させる合意解除もあります。
更新拒絶や合意解除の意思決定がどう分類されるかについて、確立した議論は見当たりません。もっとも、いずれも契約を終了させるという点で解除と共通するため、解除と同様に管理(狭義)に分類するという考え方もあります。
| 契約を終了させる方法 | 意思決定の分類 | 必要な賛成 | 効果が生じるための要件 |
|---|---|---|---|
| 債務不履行を理由とする解除 | 管理(狭義) | 持分の価格の過半数 | 債務不履行があり、信頼関係が破壊されたこと |
| 更新拒絶 | 管理(狭義)と解される | 持分の価格の過半数 | 正当の事由があること(借地借家法6条・28条) |
| 合意解除 | 管理(狭義)と解される | 持分の価格の過半数 | 借主との合意が成立すること |
具体的な場面での適用
建物をA・B・Cが持分3分の1ずつで共有し、第三者Dに賃貸しているとします。Dの賃料の滞納が続いているため、AとBは解除して別の借主に貸したいと考えていますが、CはDの支払いを待ちたいと考えています。
この場合、A・Bの持分の合計は3分の2で過半数に達するため、Cが反対していても、解除するという意思決定は成立します(民法252条1項)。その後、Dに対して解除の意思表示(通知)を行い、通知がDに到達した時点で賃貸借契約が終了します。
解除後の明渡請求
賃貸借契約が終了すると、借主は共有不動産を占有する権原を失い、法的には不法占有者と同じ立場になります。そのため、共有者は借主に対して明渡しを請求できます。この明渡請求は、各共有者が自己の共有持分権を行使するものであるため、共有者の1人が単独で請求できます。

