共有不動産の賃料を変更する方法は、賃借人との合意による方法と、借地借家法に基づく増減額請求の2つがあります。いずれも原則として共有物の管理(狭義)に分類され、共有持分の価格の過半数の賛成で決めます(民法252条1項)。賃借人に対する請求は、賛成した共有者から行います。
手続の概要
共有不動産の賃料を変更する方法は、2つに分かれます。
1つは、賃貸人と賃借人が合意して賃料の額を変更する方法です。もう1つは、賃貸人または賃借人が一方的に増額または減額の意思表示をする方法で、賃料増減額請求と呼ばれます(借地借家法11条1項・32条1項)。増減額請求は、借地借家法が適用される賃貸借契約について、現在の賃料が不相当となったことを前提に、一方的な意思表示だけで賃料が変わるという効果を生じさせるもの(形成権)です。
賃貸人が共有者全員である場合、どちらの方法をとるにしても、まず共有者の間で意思決定をする必要があります。この意思決定が保存・管理(狭義)・変更のどれに分類されるかによって、必要な賛成の割合が変わります。
手続の要件・準備
賃料変更の合意は管理にあたる
一般的な賃貸借契約について、賃借人との間で賃料の増額または減額を合意することは、共有物の管理(共有物の性質を変えない範囲での利用・改良に関する行為)に分類されます。したがって、共有持分の価格の過半数の賛成で決めます(民法252条1項)。
賃料を増減額する合意に至るまでには、通常、周辺の賃料相場の動きを踏まえて賃借人と交渉し、増額幅または減額幅を調整するという過程があります。特定の金額で合意するということは、賃貸人・賃借人の双方が一定の譲歩をしたことを意味します。賃貸人にとっては、増額の合意であっても不利益な要素を含むため、保存行為とはいえず、管理に分類されます。
たとえば、A・B・Cが各3分の1の持分で建物を共有し、Dに月額30万円で賃貸しているとします。Aが窓口となってDと交渉し、Dは33万円まで上げることに応じる姿勢を示していますが、B・Cは35万円でなければ納得できないという状況では、Aの持分は3分の1にとどまって過半数に達しないため、Dとの間で33万円とする合意はできません。BまたはCの賛成を得る必要があります。
なお、賃料債権は可分であり、この例ではA・B・Cがそれぞれ10万円分の賃料債権をもっています。もっとも、賃貸借契約は1個であって賃料も総額として定まっているため、AとDの間だけでAの取り分を11万円に上げるという処理はできません。
サブリース方式では全員の同意が必要となる場合がある
サブリース方式(業者が建物全体を一括して借り上げ、自らの計算で第三者に転貸する方式)のマスターリース契約については、賃料変更の合意に共有者全員の同意が必要とされる場合があります。原賃貸人である共有者の権利内容が実質的に賃料を受け取ることに尽きる一方、期間中の解約が制限され、賃貸運営の工夫によって賃料収入を増やすこともできないため、賃料の変更が共有者の権利に与える影響が大きいからです。この場合は共有物の変更として扱われ、共有者全員の同意が必要になります(民法251条1項)。
なお、裁判例には、大規模ビルを目的とするサブリース契約について、賃貸人・賃借人間の合意により賃料を変更するには賃貸人である共有者全員の同意を要すると判断したものがあります(東京地判平成14年7月16日)。ただし、この裁判例は、サブリース方式一般について判断したものではなく、中途解約権が契約上否定されていることや賃料改定条項の内容など、個別の契約内容を踏まえた判断です。令和3年改正前の裁判例ですが、賃料変更の合意が一般には管理行為にあたるという前提は、現行民法252条1項のもとでも変わりません。
賃料増減額請求も管理にあたる
賃料増減額請求は、単に増額(減額)の意思表示をするだけで、金額を特定しません。この点で賃貸人側に譲歩の要素がなく、賃料を相当な額に是正する行為として、保存に分類する余地があるようにも見えます。
しかし、賃料額は本来、賃貸人と賃借人の合意によって決まるものであり、賃料を一方的に増額することは、賃借人がいつまで借り続けるかにも影響します。共有不動産をどのように利用して収益を上げるかに関わる問題であって、他の共有者に不利益を生じさせないとはいえません。また、賃料の減額請求は他の共有者に不利益を及ぼすことが明らかであり、同じ条文に定められた増額請求だけを保存として扱うことも整合しません。したがって、増減額請求についても、共有持分の価格の過半数の賛成で意思決定を行います(民法252条1項)。
なお、裁判例には、共有持分の2分の1を有するにとどまる共有者は単独で賃料増額請求権を行使できないと判断したものがあります(東京地判平成28年5月25日)。改正前の裁判例ですが、管理に関する事項を持分の価格の過半数で決するという枠組みは、現行民法252条1項に引き継がれています。
| 賃料変更の方法 | 行為の分類 | 必要な賛成 | 根拠条文 |
|---|---|---|---|
| 賃借人との合意(一般的な賃貸借) | 管理(狭義) | 持分の価格の過半数 | 民法252条1項 |
| 賃借人との合意(サブリースのマスターリース) | 変更にあたる場合がある | 共有者全員の同意 | 民法251条1項 |
| 賃料増減額請求 | 管理(狭義) | 持分の価格の過半数 | 民法252条1項 |
手続の流れ
ステップ1 共有者間で意思決定をする
賃料を変更するかどうか、変更するとしてどちらの方法をとるかについて、共有者間で意思決定をします。管理に分類される場合は、共有持分の価格の過半数の賛成で決めます(民法252条1項)。
賛成する共有者の持分がすでに過半数に達していれば、それ以上の手続は必要ありません。他方、賛否を明らかにしない共有者がいるために過半数に届かない場合には、相当の期間を定めて賛否を明らかにすべき旨を催告したうえで、その共有者以外の共有者の持分の過半数で決することができる旨の裁判を求める方法があります(民法252条2項2号)。
ステップ2 賃借人に意思表示(通知)をする
過半数の賛成で意思決定ができたら、賃借人に対して賃料増額請求(または減額請求)の意思表示(通知)を行います。この通知が賃借人に到達した時点で、相当な額まで賃料が変更されるという効果が生じます。効果は将来に向かって生じるものであり、通知が到達する前の期間にさかのぼることはありません(借地借家法32条1項)。
このとき、反対している共有者を通知書の「賃貸人」として記載するかどうかが問題となります。この点は、賃貸借契約を解除する場合の通知と同じ方法によることになります。
ステップ3 賃借人が応じない場合は訴訟による
意思表示をしても、賃借人が新しい賃料額に応じない限り、実際の支払額は変わりません。最終的には、適正な賃料額を確認する訴訟を申し立てることになります。
この訴訟は、賃貸人である共有者の全員が原告となる必要はありません。ただし、共有者Aと共有者Bが別々に訴訟を申し立てた場合には、弁論が併合される(類似必要的共同訴訟となる)ことになります。もっとも、通常共同訴訟であるとする見解もあり、その立場では別々に申し立てられた訴訟が必ずしも併合されないことになります。

