相続で必要な戸籍謄本はどこまで?自分で漏れなく取る方法を解説

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相続では戸籍謄本を漏れなく集める必要がある

相続の手続きを行うには、手続きを行う役所等に対して、

  1. 被相続人が亡くなったこと
  2. 誰が相続人であるか

を明らかにする必要があります。それを明らかにする資料が戸籍謄本です。

相続に必要だと口で言っても相手は判断できませんので、相続手続きを行うためには、何よりもまず戸籍謄本を集める必要があります。

相続手続きの内容によって必要とする範囲は異なりますが、最終的には、

  1. 自分の現在戸籍謄本
  2. 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本(除籍謄本、原戸籍謄本)
  3. 他の相続人の現在戸籍謄本

が必要です。

一つでも漏れてしまうと、追加の取り寄せが必要になり、相続手続きが遅れてしまいます。
相続手続きを円滑に進めるためには、戸籍謄本を漏れなく取り寄せる必要があります。

また、戸籍を遡っていると腹違いの兄弟がいることが明らかになったりしますが、同じく相続人ですので、遺産分割に加える必要があります。
相続人が漏れてしまうと、遺産分割は無効になりますので、一からやり直さなければならなくなります。
実際、遺産分割協議書を取り交わす直前で腹違いの兄弟がいることが分かり、今後の進め方を相談しに来られた方もいます。

このように、相続手続きでは、戸籍謄本を漏れなく取り寄せることがとても大事です。
とはいえ、戸籍謄本の集め方は、手順が分かれば誰でもできますので、そこまで難しく考える必要はありません。

以下では、一般的な相続(親が被相続人、子が相続人)を前提に、相続で必要な戸籍を自分で集める方法を徹底解説します。

自分の現在戸籍謄本を取り寄せる

自分の戸籍謄本を取り寄せる手順

まず、自分の現在戸籍謄本を取得します。郵送での取り寄せも可能です。

郵送請求の手続きについては、「●●市 戸籍 郵送」でネット検索すれば、役所の該当ページがヒットしますので、そこで必要書類や手数料等を確認します。そして、戸籍交付請求書、本人確認書類、手数料(定額小為替)及び返信用封筒を本籍地の市区役所に送り、戸籍謄本を取り寄せます。

なお、戸籍謄本の郵送請求は、自分の戸籍謄本よりも、むしろ親や兄弟姉妹の戸籍謄本を請求する際によくやりますので、ネット検索を活用できるようにしましょう。

具体例(本籍地が新宿区の場合)
STEP
「新宿区 戸籍 郵送」でネット検索し、郵送請求の手続きを調べる。

「新宿区 戸籍 郵送」でネット検索をすると、新宿区役所の「郵送にて請求される方」というページがヒットします。そこで戸籍謄本の郵送請求の手続を確認します。

なお、問い合わせ先(新宿区地域振興部戸籍住民課戸籍係 電話:03-5273-3509)も記載されていますので、不明点等があれば電話で確認できます。

STEP
戸籍謄本交付請求書をプリントアウトし、必要事項を記入する。

「戸籍の請求書等のダウンロード(郵送請求用)」のページに戸籍交付請求書のpdfファイルが置いてありますので、これをダウンロード&プリントアウトし、必要事項を記入します。

なお、自宅にプリンターがなくても、コンビニのネットワークプリントを利用してプリントアウトすることもできます。ユーザー登録なしでプリントアウトできますのでおすすめです。

STEP
本人確認書類を用意する。

本人確認書類として、免許証、健康保険証、マイナンバーカード等の写しが必要ですので、コンビニでコピーするなりして用意します。

STEP
郵便局で定額小為替を購入する。

発行手数料として、戸籍謄本1通450円かかりますので、郵便局で450円分の定額小為替を購入します。

STEP
返信用封筒を用意する。

戸籍謄本を返送してもらうため、返信用封筒が必要になります。封筒に自宅の住所・氏名を記入し、切手(戸籍謄本1通であれば84円か94円)を貼った封筒を用意します。

STEP
戸籍謄本交付請求書等を区役所に送る。

戸籍謄本交付請求書(郵送請求用)、本人確認書類、定額小為替及び返信用封筒を同封し、新宿区役所の戸籍住民課戸籍係に送付します。

STEP
戸籍謄本が返送されてくる。

通常、10日前後で戸籍謄本が返送されてきます。

正確な本籍地が分からない場合

自分の本籍地が分かっていればストレートに取得すればいいのですが、正確な本籍地が分からない場合は、以下の手順で取り寄せます。

  1. 自分の住所地の市町村役場から「本籍入りの住民票」を取得し、自分の本籍地を確認する。
  2. 自分の本籍地の市町村役場から現在戸籍謄本を取り寄せる。

被相続人(親)の出生から死亡までの戸籍謄本を取り寄せる

親の戸籍謄本(除籍謄本、原戸籍謄本)を取り寄せる手順

次に、親(被相続人)の出生から死亡までの戸籍謄本を取り寄せます。具体的な手順は、以下のとおりです。

  1. 親の最後の住所地の市町村役場から「本籍入りの住民票(除票)」を取り寄せ、親の最後の本籍地を確認する。
  2. 親の最後の本籍地の市町村役場から親の死亡除籍謄本を取り寄せる。
  3. 親の死亡除籍謄本を起点として一つずつ戸籍を遡り、親の出生までの除籍or原戸籍謄本をそれぞれの従前本籍地から取り寄せる。

出生から死亡までの戸籍の遡り方は、新宿区役所の戸籍住民課戸籍係が提供している「出生から死亡までの連続した戸籍のさかのぼり方について」に詳しく記載されています。中途半端にネットで調べるよりも、この資料を参考にした方が早いです。

親の戸籍謄本を取り寄せる際の注意点

合併による市区町村の編入

古い戸籍の場合、戸籍謄本に記載されている本籍地が合併で他の市区町村に編入している可能性があります。その場合、編入先の市区町村から戸籍謄本を取り寄せることになります。

ネット検索をすればウィキペディア等に市区町村合併の変遷の歴史や変遷表が記載されていますので、それで編入先の市区町村を特定します。念のため、編入先の市区町村の戸籍課に確認してから取り寄せた方が安全でしょう。

具体例(「鳥取県気高郡大正村」が従前戸籍として記載されている場合)
  1. 「鳥取県気高郡大正村」でネット検索→ウィキペディアの「気高郡」のページがヒット
  2. ウィキペディアのページで大正村は鳥取市に編入したことを確認
  3. 「鳥取市 戸籍 郵送」でネット検索→鳥取市の戸籍請求のページがヒット
  4. その後は、通常どおりに郵送請求する。

手数料の定額小為替

従前本籍地から取得できる戸籍謄本が何通か分からないため、定額小為替を少し多めに入れる必要があります。

不足分は追納すればいいのですが、余計な時間と手間と送料がかかります。
750円×3=2,250円分は入れておいた方が安全でしょう。

新制度「広域交付制度」を利用する

2024年3月1日から、「広域交付制度」という新しい制度がスタートしました。
広域交付制度を利用すれば、最寄りの市区町村で、親の出生から死亡までの戸籍謄本をまとめて取れますので、今後は、原則として、広域交付制度を利用することになります。

他の相続人(兄弟姉妹)の現在戸籍謄本を取り寄せる

兄弟姉妹の戸籍謄本を取り寄せる手順

最後に、兄弟姉妹(他の相続人)の現在戸籍謄本を取り寄せます。具体的な手順は、以下のとおりです。

  1. 兄弟姉妹の住所が分かる場合
    1. 兄弟姉妹の住所地の市町村役場から本籍入り住民票を取り寄せ、兄弟姉妹の本籍を確認する。
    2. 兄弟姉妹の本籍地から兄弟姉妹の現在戸籍謄本を取り寄せる。
  2. 兄弟姉妹の住所が分からない場合
    1. 親の戸籍謄本のうち、兄弟姉妹が親の戸籍から出る直前のものを探す。
    2. その戸籍に親の戸籍から出た先の本籍地が記載されているので、その本籍地の市区町村に兄弟姉妹の戸籍謄本を取り寄せる。
    3. そこからさらに本籍地が移っている場合は、現在の本籍地に辿り着くまで追いかける。

兄弟姉妹の委任状を求められた場合

兄弟姉妹の戸籍謄本を請求すると、担当者から兄弟姉妹の委任状を求められる場合があります。しかし、結論からいえば、相続手続きで必要としているのであれば、兄弟姉妹の委任状なしで戸籍謄本を請求することができます。

兄弟姉妹の戸籍謄本を請求できる根拠

兄弟姉妹の戸籍謄本を請求できる根拠は、戸籍法10条の2・1項1号ないし2号です。

相続において、

  • 「自己の権利を行使し、又は自己の義務を履行するために戸籍の記載事項を確認する必要がある場合」(1号)
  • 「国又は地方公共団体の機関に提出する必要がある場合」(2号)

であれば、第三者の立場であっても戸籍謄本を請求できます。

【戸籍法】
第十条の二 前条第一項に規定する者以外の者は、次の各号に掲げる場合に限り、戸籍謄本等の交付の請求をすることができる。この場合において、当該請求をする者は、それぞれ当該各号に定める事項を明らかにしてこれをしなければならない。

一 自己の権利を行使し、又は自己の義務を履行するために戸籍の記載事項を確認する必要がある場合 権利又は義務の発生原因及び内容並びに当該権利を行使し、又は当該義務を履行するために戸籍の記載事項の確認を必要とする理由

二 国又は地方公共団体の機関に提出する必要がある場合 戸籍謄本等を提出すべき国又は地方公共団体の機関及び当該機関への提出を必要とする理由

三 前二号に掲げる場合のほか、戸籍の記載事項を利用する正当な理由がある場合 戸籍の記載事項の利用の目的及び方法並びにその利用を必要とする事由

兄弟姉妹の戸籍謄本を取り寄せる際の注意点

戸籍謄本交付請求書に使用目的を具体的に記載する。

戸籍謄本交付請求書の使用目的欄に「根拠条文と根拠条文に当てはめた具体的な内容」を記載し、担当者から兄弟姉妹の委任状を求められる可能性をなくします。

なお、使用目的欄に書ききれない場合は、使用目的欄には「別紙参照」と記載し、具体的な内容を記載した別の用紙を別紙として添付します。

記載例(1号)

「私の父である●●が、○年○月○日、亡くなりました。△△は私の兄であり、私と同様、●●の相続人になります。今後、●●の相続について遺産分割協議をするため、△△の戸籍の記載事項を確認する必要があります(戸籍法10条の2・1項1号)。」

記載例(2号)

「私の父である●●が、○年○月○日、亡くなりました。△△は私の兄であり、私と同様、●●の相続人になります。●●の相続手続きで使う法定相続情報一覧図の交付申請をするため、◎◎地方法務局◉◉出張所に△△の戸籍謄本を提出する必要があります(戸籍法10条の2・1項2号)。」

「お上」が発行している資料を担当者に見せ、請求の根拠を説明する。

それでも担当者から委任状を求められた場合には、総務省が発行している「相続手続に必要な親族の戸籍謄本の交付請求において、親族等の委任状の提出を求めないで!」という資料を担当者に見せ、請求の根拠を説明します。

この資料は、相続手続きなどの権利行使を目的とした戸籍謄本の請求に委任状は不要であることについて、総務省が注意喚起を呼びかける資料です。「お上」が言っていることですので、担当者の誤解を解消するのに役に立ちます。

被相続人よりも先に亡くなった相続人がいる場合(代襲相続)

被相続人よりも先に亡くなった相続人がいる場合、当初の相続人のさらに相続人が今回の相続人になります。

たとえば、父よりも先に亡くなった兄弟姉妹がいる場合、先に亡くなった兄弟姉妹の相続人(たとえば兄弟姉妹の子=父の孫)が父の相続人になります。これを「代襲相続」といい、先に亡くなった兄弟姉妹の相続人を「代襲相続人」といいます。

代襲相続が発生している場合、先に亡くなった当初の相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を集める必要があります。具体的な手順は、以下のとおりです。

  1. 自分が代襲相続人の場合
    自分の親(元々の相続人)の出生から死亡までの戸籍謄本が必要。
    被相続人の戸籍謄本と同様に、出生まで遡って取り寄せる。
  2. 他の相続人が代襲相続人の場合
    他の相続人の親(元々の相続人)の出生から死亡までの戸籍謄本が必要。
    兄弟姉妹の戸籍謄本と同様、第三者の立場で請求し、出生まで遡って取り寄せる。

「法定相続情報一覧図」も作っておく

法定相続情報一覧図とは、端的にいえば、「お上が認めた家系図」です。

親族関係をただ説明するだけの相続関係説明図とは異なり、法定相続情報一覧図は、法務局に認証された公的な家系図であり、相続手続きにおいて「戸籍謄本の代わり」として使うことができます。

多少手間がかかるという以外にはメリットしかありませんので、せっかく戸籍謄本を集めるのであれば、法定相続情報一覧図も作ることを強くお勧めします。

法定相続情報一覧図を自分で作る方法は、以下の記事に詳しく記載してありますので、ご参照ください。

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