共有物分割で土壌汚染のある土地はどう評価されるか──法令上の除去義務がなくても対策費用の控除を認めた事例|東京地判令和2年3月30日

判例のポイント

共有物分割の裁判で一方の共有者が不動産を取得する場合、相手方に支払う代償金は、その不動産の適正な時価を基礎に算定されます。本判決は、土地から環境基準を大幅に超える六価クロムが検出された事案で、所有者が法令上の除去義務を負うかどうかにかかわらず、土壌汚染は土地の価格形成に重大な影響を与えるとして、汚染対策費用1830万円を控除した鑑定評価を採用し、全面的価格賠償(一方の共有者が不動産の全部を取得し、他方に持分の対価を金銭で支払う分割方法)による分割を命じました。離婚した元夫婦間の共有物分割の事案ですが、不動産評価の考え方そのものは、相続をきっかけに共有となった不動産の分割や、遺産分割における評価にも参考になります。

目次

判例情報

  • 裁判所:東京地方裁判所
  • 判決日:令和2年3月30日
  • 事件番号:平成29年(ワ)第15939号(本訴)・平成29年(ワ)第29872号(反訴)
  • 関連条文:改正前民法258条、環境基本法16条1項

事案の概要

本件は、離婚した元夫婦が共有する土地建物について、土地から環境基準を大幅に超える六価クロムが検出されたなかで、共有物分割における不動産の評価額が争われた事案です。

登場人物

  • X(本訴原告・反訴被告):元妻。本件土地建物について各5分の1の共有持分を有する。
  • Y(本訴被告・反訴原告):元夫。本件土地建物について各5分の4の共有持分を有し、離婚後も家族と共に本件建物を使用。
  • C(鑑定人):裁判所が選任した不動産鑑定士。本件土地建物の鑑定評価(C鑑定・C補充鑑定)を行った。

時系列

  • 平成9年7月:XとYが婚姻
  • 平成27年4月:XとYが別居
  • 平成29年1月5日:XとYの裁判離婚が成立
  • 平成29年:Xが本件土地建物の共有物分割等を求める本訴を提起(同年、Yが反訴を提起)
  • 令和元年8月:鑑定人Cが、土壌汚染の有無・状態を価格形成要因から除外した前提で、本件土地建物を合計3914万1000円と評価(C鑑定)
  • 令和元年12月:土壌汚染調査の結果を踏まえ、鑑定人Cが土壌汚染対策費用1830万円を控除して本件土地建物を合計2084万1000円と評価(C補充鑑定)
  • 令和2年3月30日:東京地方裁判所が全面的価格賠償による分割を命じる判決

経緯

XとYは平成9年に婚姻した夫婦でしたが、平成27年4月に別居し、平成29年1月5日に裁判離婚しました。両名は、東京都内の一戸建て住宅とその敷地(本件土地建物)を共有しており、持分はXが各5分の1、Yが各5分の4です。離婚後、本件土地建物の分け方について協議が調わなかったため、Xは競売による代金分割を求める形で共有物分割の訴えを提起しました。もっとも、審理では、Yが本件土地建物を取得してXに代償金を支払う全面的価格賠償の方法によること自体には双方とも異議がなく、争いはもっぱら評価額に集中することになります。

本件土地は、道路から細長い通路部分を通って奥の敷地に至る、いわゆる旗竿地で、奥の敷地の相当部分を占める形で一戸建ての本件建物が建っています。そして、本件土地の所在する地域は、昭和50年に大量の鉱さい(金属の精錬過程で生じる廃棄物)の埋立てが発表されたことをきっかけに、多くの六価クロム鉱さいが埋め立てられている事実が明らかになった地域でした。

訴訟では、裁判所が選任した不動産鑑定士Cによる鑑定が実施されました。当初の鑑定(C鑑定)は、土壌汚染の有無やその状態を価格形成要因から除外した前提で、本件土地建物を合計3914万1000円(土地3092万1000円、建物822万円)と評価しています。その後、指定調査機関(土壌汚染の調査を行う機関として法令上指定された機関)によるボーリング調査が実施され、一方の地点では地表から約3.8メートルの深さの土壌から鉱さい砕石が確認され、もう一方の地点では地表から約4.0メートルの深さの土壌から環境基準を大幅に超える六価クロム(土壌溶出量基準で基準値の1100倍、土壌含有量基準で基準値の4.4倍)が検出されました。他方で、地表から50センチメートルまでの土壌からは、環境基準を超える六価クロムは検出されていません。

この調査結果を受けて、鑑定人Cは補充鑑定(C補充鑑定)を行い、土壌汚染対策費用を合計1830万円(追加調査費用50万円、土壌対策処理費用1780万円)と査定したうえで、これを控除して本件土地建物を合計2084万1000円(土地1262万1000円、建物822万円)と評価しました。土壌汚染を考慮するかどうかで評価額に1830万円の差が生じ、Xの持分5分の1に引き直すと、代償金にして366万円の差になります。Xは当初のC鑑定の評価額によるべきだと主張し、YはC補充鑑定の評価額によるべきだと主張して、正面から対立しました。

争点

法令上の除去義務のない土壌汚染の対策費用を、評価額から控除できるか

本件では、分割方法そのもの(Yの単独取得・全面的価格賠償)に争いはなく、争いの中心は本件土地建物の評価、すなわち土壌汚染対策費用を控除すべきかどうかにありました。不動産を取得して代償金を支払うY側は評価額が低いほど有利になり、持分を手放して代償金を受け取るX側は評価額が高いほど有利になる、という関係です。

X側の主張:C補充鑑定には次の問題があり、土壌汚染対策費用1830万円を控除すべきではない。第1に、環境基準という行政上の政策目標への適合を確認する目的で行われた調査に基づく評価は、司法権の裁量の範囲を逸脱し、三権分立を定めた憲法に違反する疑いがある。第2に、土壌汚染対策法の定める調査方法は表層から50センチメートルまでの土壌の採取とされているのに、本件の調査は地表から10メートルまでの土壌を採取しており違法である。第3に、地下約4メートルから六価クロムが検出されても所有者等が直ちに法的な除去義務を負うわけではなく、法的義務のない除去費用を控除することは違法の疑いがあるうえ、土壌汚染対策法上は盛土が原則的な措置とされ、鉱さい砕石も1個見つかったにすぎないのに、全面的な掘削除去を前提に1780万円もの費用を計上するのは過大である。したがって、評価額は土壌汚染を考慮しないC鑑定の3914万1000円によるべきである。

Y側の主張:土地の所有者が法令上の除去義務を負わない場合であっても、土壌汚染が存在すれば、汚染の除去や拡散防止その他の措置に要する費用の発生、土地利用上の制約により価格形成に重大な影響を与えることがあり、不動産鑑定評価基準でもこれらの影響を考慮すべきものとされている。C補充鑑定が土壌汚染と対策費用を考慮したことに問題はなく、評価額は2084万1000円とすべきである。

裁判所の判断

判旨の要約

  • 結論:本件土地建物の適正価格は、土壌汚染対策費用を控除したC補充鑑定に基づき合計2084万1000円と認められ、Yに本件土地建物を取得させ、Xには持分の対価416万8200円を取得させる全面的価格賠償の方法による分割が相当である。
  • 理由:所有者等が土壌汚染対策法に基づく除去義務を負うか否かにかかわらず、環境基準を大幅に超える六価クロムの検出等の事情が本件土地の価格形成に重大な影響を与えることは否定し難く、土壌汚染を減価要因として考慮した鑑定が不合理であるとはいえないから。

判決文の引用

裁判所は、鉱さいの埋立てが明らかになった地域性と、鉱さい砕石の確認や環境基準を大幅に超える六価クロムの検出というボーリング調査の結果を踏まえ、次のように判示しました。

本件土地の所有者等が本件土地について土壌汚染対策法に基づく除去義務を負うか否かにかかわらず、このことが本件土地の価格形成に重大な影響を与えるものであることは否定し難いから、C補充鑑定が本件土地に六価クロムによる土壌汚染があることを減価要因として考慮したことが不合理であるとはいえない。

掘削除去を前提とした処理費用1780万円の計上についても、買主の視点から次のように述べて、その合理性を認めています。

土壌汚染が存在する土地の売買においては、買主は、当該土壌汚染が確実に除去されていることを望むことが多く、特に、本件では、本件土地の地表から4.0メートルの深さの部分から環境基準を大幅に超える六価クロムが検出されるなどしたことからすれば、本件土地を購入しようとする者は、通常、本件土地の土壌汚染部分が掘削除去されるか、又は土壌汚染の存しない場合の価格から土壌汚染部分の掘削除去費用を控除した価格でしか、本件土地を購入しないものと考えられる。

さらに、本件が離婚した元夫婦間の共有物分割であることとの関係でも、次のとおり明言しました。

本件土地が既に離婚した夫婦間の共有物であることは、本件土地の時価を評価するに際して本件土地の土壌汚染を考慮すべきではない理由となるものではない。

判例の考え方

本判決の考え方は、次の3点に整理できます。

第1に、法令上の除去義務と市場価値への影響を切り離した点です。土壌汚染対策法に基づく除去義務を負うかどうかという問題と、その土地が市場でどのように評価されるかという問題は、別のものです。本判決は、除去義務の有無にかかわらず、環境基準を大幅に超える六価クロムの検出等の事情が価格形成に重大な影響を与えることは否定し難いとして、汚染を減価要因として考慮することを認めました。不動産鑑定評価基準運用上の留意事項が、土壌汚染が存する場合には汚染の除去等の措置に要する費用の発生や土地利用上の制約により価格形成に重大な影響を与えることがあるとしている点も、この判断の裏付けとされています。

第2に、買主の視点から掘削除去費用の控除を基礎づけた点です。汚染のある土地の買主は、汚染が確実に除去されていることを望むことが多いため、汚染部分が掘削除去されるか、除去費用を差し引いた価格でなければ通常は土地を購入しない──本判決は、こうした市場の実情を根拠に、掘削除去を前提とした費用の控除を是認しました。土壌汚染対策法上は盛土が原則的な措置だという反論に対しても、盛土措置のみでは本件土地の価格形成への重大な影響を解消できるとは考え難いとして、退けています。

第3に、鑑定の合理性審査という判断の形を採った点です。本判決は、土壌汚染があれば必ず除去費用を控除するという準則を立てたのではなく、裁判所が選任した鑑定人の補充鑑定について、調査の方法・範囲、措置の選択、費用の査定が不合理といえないかを審査して、これを採用しました。調査方法についても、不動産鑑定評価基準は土壌汚染の有無に関する調査方法を土壌汚染対策法上の調査方法に限定していないとして、地表から10メートルの深さまでの調査を違法不当とはいえないと判断しています。対策の範囲・深度(対象面積約92平方メートル、深度3〜5メートル)についても、地域の履歴と、ボーリング調査で確認された土質の分布に裏付けられていることが確認されました。

結論に至る処理

裁判所はまず、本件土地が旗竿地であり、その相当部分を占める形で一戸建ての本件建物が建っていることから、持分割合に応じた現物分割はできないか、少なくとも現物分割によって価格を著しく減少させるおそれがあるとして、現物分割を否定しました。

次に、Yが持分の大部分(各5分の4)を有していること、離婚後は本件土地建物がYとその家族により利用されていること、Y自身が全面的価格賠償による取得を希望し、Xにも異議がないことから、本件土地建物はYに取得させるのが相当としました。そのうえで、C補充鑑定に基づき適正価格を2084万1000円と認定し、Xの持分5分の1に相当する416万8200円についてYに支払能力があることを確認して、共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情があると判断しています。

主文では、本件土地建物をYの所有とし、Xの持分移転登記手続と代償金416万8200円の支払を引き換えに命じる形(引換給付)が採られました。登記と支払のどちらか一方だけが先行する事態を避ける処理です。

判例の射程

本判例の射程について、判決文の表現に即して整理します。

「除去義務を負うか否かにかかわらず」という判示

本判決は、所有者等が土壌汚染対策法に基づく除去義務を負うか否かにかかわらず、環境基準を大幅に超える汚染の存在が価格形成に重大な影響を与えることは否定し難い、と判示しました。法令上の除去義務がないことは、評価にあたって土壌汚染を考慮しない理由にはならない──この点は判決文から確定的に読み取れます。なお、本判決は除去義務の存否そのものを判断したわけではなく、義務の有無という問題から評価の問題を切り離した点に意味があります。

鑑定の合理性を審査した事例判断であること

本判決は、「不合理であるとはいえない」という形で、裁判所が選任した鑑定人の判断の合理性を審査して是認したものです。土壌汚染があれば常に掘削除去費用の全額を控除すべきだという一般的な準則を立てたものではありません。本件の判断は、鉱さいの埋立てが明らかになった地域であるという土地の履歴、環境基準の1100倍という大幅な超過、指定調査機関の調査やボーリング調査で確認された土質の分布といった客観的な裏付けを前提としており、汚染の程度や調査の裏付けが異なる事案に当然に及ぶものではありません。

元夫婦間の共有であることは考慮を妨げない

本判決は、本件土地が既に離婚した夫婦間の共有物であることは、時価の評価にあたって土壌汚染を考慮すべきでない理由にならないと明言しました。共有に至った人的な経緯を理由に、評価のあり方が変わるわけではないという判示です。

実務での使い方

本判例は、土壌汚染やその疑いのある共有不動産について、分割時の評価額をめぐる主張・立証を組み立てる場面で参照する事例です。相続の現場でも、工場や店舗の跡地、埋立ての履歴がある地域の土地など、汚染リスクを抱えた不動産が遺産の中心になることは珍しくありません。

使える場面

第1に、共有物分割の訴訟・調停・協議で、対象不動産に土壌汚染の存在または疑いがある場面です。本判決は、法令上の除去義務がなくても汚染が時価に織り込まれることを示した実例として、評価をめぐる交渉や主張の出発点になります。

第2に、相続をきっかけに共有となった不動産を分割する場面です。本判決は元夫婦間の共有の事案ですが、判決自身が、元夫婦間の共有物であることは土壌汚染を考慮しない理由にならないと述べており、評価の考え方それ自体は、共有に至った経緯を問わず参考になるものと考えられます。遺産分割の調停・審判でも不動産は時価で評価することが前提となるため、汚染を踏まえた時価をどう主張・立証するかという課題は、相続の場面でも同じように生じます。

対策費用の控除を主張する側(不動産を取得し、代償金を支払う側)

取得側にとっては、評価額が下がるほど支払う代償金が減るため、汚染の考慮を求める立場になります。本判決を踏まえると、押さえるべき点は3つあります。

第1に、汚染の存在を客観的に裏付ける調査資料です。本件では、指定調査機関によるボーリング調査の結果(鉱さい砕石の確認、環境基準の1100倍に達する六価クロムの検出)が認定の基礎になりました。専門機関による調査を経ない抽象的な「汚染の可能性」だけでは、控除の主張は支えられません。

第2に、土地の履歴に関する資料です。本件では、所在地域で過去に鉱さいの埋立てが明らかになっていたという経緯が、深い地点まで調査したことの合理性や、対策範囲の想定を支えています。過去の土地利用や地域の経緯をたどる資料の収集が有効です。

第3に、対策費用の査定と調査結果との整合性です。本件で1780万円という処理費用の想定が過大とされなかったのは、対策の範囲・深度がボーリング調査で確認された土質の分布と整合していたからです。費用の見積りには、調査結果と結びついた具体的な根拠を持たせる必要があります。

そして、相手方から「法令上の除去義務はない」という反論が出た場合には、義務の有無にかかわらず価格形成への重大な影響は否定し難いとした本判決の判示が、直接の再反論になります。

控除に対抗する側(持分を手放し、代償金を受け取る側)

代償金を受け取る側にとっては、評価額が高いほど受領額が増えるため、控除を争う立場になります。注意すべきは、本件でX側が展開した、調査が違憲である、土壌汚染対策法所定の調査方法によっていない、法的義務のない除去費用の控除は違法である、といった形式面の主張が、いずれも排斥されたという経過です。義務の不存在や手続論だけで控除を退けることは、本判決の下では難しいといわざるを得ません。

争うのであれば、鑑定の前提に対する具体的な反証が必要です。考えられる方向としては、汚染の程度や範囲が限定的で対策範囲の想定が過大であること、より費用の低い措置でも市場性への影響を解消できる具体的な事情があること(ただし本判決は、盛土措置のみでは価格形成への重大な影響を解消できるとは考え難いと判断しています)、費用の査定が調査結果と整合していないことなどを、専門家の意見書等によって具体的に指摘していくことが考えられます。

立証上のポイント

本件の結論を実際に左右したのは、裁判所が選任した鑑定人による鑑定と、その過程で実施された客観的な土壌汚染調査でした。裁判所は、鑑定の基礎事情の指摘、算定手法、調整過程に不合理な点がないことを確認して鑑定を採用しており、これを覆すには具体的な不合理性の指摘が求められます。

また、当初のC鑑定と補充鑑定とでは評価額に1830万円、Xの持分に引き直して366万円の差が生じました。汚染リスクのある不動産では、調査を実施するかどうか自体が結論を直接左右することになります。調査や鑑定には相応の費用と時間がかかるため、どの段階でどこまでの調査を求めるか、費用の負担をどうするかを早期に見通しておくことが、訴訟運営上のポイントになります。

併せて検討すべき周辺論点

第1に、令和3年民法改正との関係です。本判決は、改正前民法258条の下で、判例法理として確立していた全面的価格賠償の方法による分割を命じたものですが、令和3年改正(令和5年4月1日施行)後の民法258条2項2号は、共有者に債務を負担させて他の共有者の持分を取得させる方法(賠償分割)を明文化しました。現在は同条に基づいて同様の分割が命じられることになりますが、その際の評価のあり方という問題は、現行法の下でも同じように生じます。

第2に、相続の場面での分割手続の選択です。相続で生じた共有(遺産共有)の解消は、原則として家庭裁判所の遺産分割の手続によります。もっとも、相続開始の時から10年を経過した場合には、共有物分割訴訟のなかで遺産共有持分の分割ができる場面もあります(民法258条の2第2項)。どの手続によるとしても不動産の評価は避けて通れないため、汚染リスクのある不動産では、本判決の考え方を踏まえた評価の検討が必要になります。

第3に、共有不動産をめぐるその他の清算です。本判決は、共有不動産を単独で使用する元配偶者に対する賃料相当額の不当利得返還請求や、固定資産税・修繕費の負担についても判断しています。共有不動産の分割では、評価の問題と併せて、こうした金銭の清算も一体として検討することが多くなります。

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