遺産分割審判で遺産を共有のままとする分割は許されるか──安易な共有分割を戒めた事例|東京高決平成3年10月23日

判例のポイント

東京高等裁判所は、相続人間の対立が深く協調が期待し難い事案で、遺産の一部を相続人全員の共有とし、その余を競売による換価とした家庭裁判所の審判を取り消し、事件を差し戻しました。相続分に応じた共有と定めるだけでは何ら根本的な解決にならず、共有物分割という新たな課題と使用収益の精算という新たな紛争の種を残す、問題の先送りにすぎないというのが理由です。個々の遺産と各相続人との利害関係を十分に審理し、特定の相続人への分与など根本的かつ具体的な分割方法を検討すべきことを示した、安易な共有分割を戒める裁判例です。

目次

判例情報

  • 裁判所:東京高等裁判所
  • 判決日:平成3年10月23日(決定)
  • 事件番号:平成3年(ラ)第124号
  • 関連条文:民法907条(平成30年改正前)/(当時)家事審判規則7条・104条

※本決定当時の遺産分割審判は家事審判法・家事審判規則に基づく手続でした。現在の遺産分割審判には家事事件手続法が適用されます。

事案の概要

本件は、約30筆の土地(大半が田畑)を巡る遺産分割審判で、家庭裁判所が「競売による換価に適さない土地は相続人全員の共有、それ以外は競売による換価」とする審判をしたところ、相続人の一人がこれを不服として即時抗告(審判に対する不服申立て)をした事案です。

登場人物

  • A(被相続人):約30筆の土地(大半が田畑)を遺して死亡した。
  • X(相続人・抗告人):遺産の競売による換価を主張し、原審判に対して即時抗告をした。
  • Y1(相続人・相手方):競売に反対し、現物での取得を希望した。
  • Y2(相続人・相手方):自身が使用している土地を除き、競売を希望した。
  • その他の相続人ら(相手方):審理中に死亡した相続人の地位を承継した者を含め、当事者は合計10名に上った。

時系列

  • 昭和60年:Aの遺産分割審判事件が千葉家庭裁判所に係属する
  • 平成2年12月27日:千葉家庭裁判所が、遺産の一部を相続人全員の共有とし、その余を競売による換価とする審判をする(原審判)
  • 平成3年:Xが原審判を不服として即時抗告する
  • 平成3年10月23日:東京高等裁判所が原審判を取り消し、事件を千葉家庭裁判所に差し戻す決定をする

経緯

Aの遺産は約30筆の土地で、その大半の地目は田畑でした。相続人は多数にのぼり、審理が長期化する間に相続人の一部が死亡してその地位の承継も生じ、当事者は合計10名に達していました。遺産の管理を巡っては管理人が選任されており、相続人間の利害や意見の対立は、協調を期待し難いほど深刻な状況でした。

分割方法についての意見もまとまりませんでした。Xを含む4名は一部の土地を除いて競売による換価を希望し、Y1は競売に反対して現物での取得を希望し、Y2は自身が使用中の土地を除けば競売でよいという意見でした。

原審の千葉家庭裁判所は、分割方法やその前提事実についての審理・検討が十分にされないまま長期間が経過しており、当事者も事件の早期解決を希望しているとして、遺産を二つに分ける審判をしました。賃貸中で大部分に道路建設が予定されていた土地、Y1が単独で使用している土地、建物が建っていて一部の相続人が使用している土地、相続人の大半が事実上持分を売却済みの土地については「競売による換価が適当でない」として相続人全員の相続分による共有とし、それ以外の土地は競売に付して、売却代金を相続分に応じて分配する、という内容です。

これに対しXは、共有のまま残された土地は現に使用する相続人だけが利益を受け続け、使用しない相続人は競売代金の分配にあずかるだけになる、使用者の利得は本来、不当利得(法律上の原因なく得た利益で、他の共有者への償還の対象となるもの)として精算すべきものだが、その請求を逐一行うのは不便かつ困難で、紛争を後に残すことになる、と主張して即時抗告しました。Xは抗告審で、遺産全部の一括競売が最も公平と考えるものの、現物取得の希望を容れるのであれば、利害を共通にする相続人をグループに分けてグループごとに土地を取得させる方法が妥当だとして、具体的な分割案も提示しています。

争点

遺産分割審判において、遺産を相続人全員の共有とする分割は許されるのか。

相続人は、相続の開始によって法律上当然に、相続分に応じた持分で遺産を共有する状態(遺産共有)に入ります。遺産分割は、この共有状態を解消して「誰が何を取得するか」を確定するための手続です。その手続の結論として「相続分に応じた共有とする」と定めることは、紛争の解決といえるのか、それとも単なる問題の先送りなのか。これが本件の本質的な問いです。

X(抗告人)の主張:共有とする分割では、現に物件を使用する者が将来も使用を続ける一方、使用しない者は競売代金の分配にあずかるだけになり、使用者の利得の精算を巡って複雑な関係が残る。遺産全部の競売による換価か、特定の物件と関係の深い相続人にその物件を取得させて他の物件の配分額で調整する方法、あるいは利害を共通にする相続人のグループごとに物件を取得させる方法によるべきである。

原審判の立場:審理が長期化し、当事者も事件の早期解決を希望している以上、競売による換価に適さない物件は相続人全員の共有とし、それ以外を競売による換価とするのが現実的である。

抗告審では、このXの主張と原審判の考え方の当否が正面から問われました。

裁判所の判断

判旨の要約

  • 結論:原審判を取り消し、事件を千葉家庭裁判所に差し戻す。
  • 理由:相続人間の協調が期待し難い本件で、遺産を単純に相続分に応じた共有とする分割は何ら根本的な解決にならず、問題の解決を先送りにするだけとの非難を免れないから。

判決文の引用

東京高等裁判所は、まず遺産分割の方法についての考え方を次のように示しました。

遺産分割の方法として、現物分割が困難な場合等、特別の事情がある場合には、共有とする分割方法も許されるとしても、本件にあっては相続人間で利害や意見の対立があり、遺産の管理についても管理人が選任されるなど相続人間の協調が期待し難い状況にある上、遺産のうちの個々の具体的な物件についてみれば、現に居住等していてその物件につき現実に深い利害関係を有する者とそうでない者があることは明らかであるから、こうした事情を十分審理してできる限り適切な分割方法を定めるよう努めるべきであるといわなければならない。

そのうえで、共有とする分割の問題点を次のように具体的に指摘しています。

単純に相続分に応じた共有とすることは一見公平なようではあるが、もともと相続人らは遺産については相続分に応じた持分を有することは当然のことであって、このことを前提として具体的な分割を求めているのであるから、相続分に応じた共有と定めるだけでは何ら根本的な解決にならないばかりか、相続人らの間で改めて共有物分割という課題を残し、しかもその際には共有者間において現実に物件を使用し収益を得た者とそうでない者との間で精算をめぐって新たな問題が生じ、いたずらに問題を複雑にすることにもなりかねない。要するに問題の解決を先送りにするだけとの非難を免れないものである。

判例の考え方

本決定の論理は、次の4点で整理できます。

第1に、共有とする分割は例外的な方法だという位置づけです。本決定は、「現物分割が困難な場合等、特別の事情がある場合には」共有とする分割も許される、ということを前提にしています。裏を返せば、共有分割は特別の事情があるときに限って選択できる方法であって、原則的な分割方法ではない、ということです。

第2に、共有と定めるだけでは遺産分割の目的を果たせないという指摘です。相続人はもともと相続分に応じた持分を有しており、それを前提に「具体的な分割」を求めて審判を申し立てています。審判が「相続分に応じた共有」と定めるのは、いわば出発点を確認するだけで、申立ての目的には何も応えていません。しかも、共有のまま残された財産については、相続人間に改めて共有物分割という課題が残り、現実に物件を使用して収益を得てきた者とそうでない者との間で精算を巡る新たな紛争まで生じかねません。「問題の解決を先送りにするだけ」という表現は、この点を端的に言い当てたものです。

第3に、競売による換価にも本件では難点があるという指摘です。遺産の大半の地目が田畑であるため、すぐに買受人が見つかるかどうか不安があり、決して望ましい分割方法とはいえません。さらに本決定は、競売を主張する相続人の中に「希望する相続人が買受人となればよい」という意見があることを捉え、それならば買受けを希望する相続人にその物件を分与する方法も考慮できるはずだ、と指摘しました。当事者の意見の細部から、より根本的な分割方法の手がかりを引き出しています。

第4に、当事者の協力不足は安易な分割を正当化しないという判断です。本決定は、相続人らが早期解決を希望しながら十分な協力をしなかったとしても、協力が十分でない者の希望が容れられない結果になることは別として、原審判のような「安易な分割の定めを許す事由と解することはできない」と述べました。審理に協力しない当事者がいても、裁判所が適切な分割方法を探求すべき責務は軽減されない、ということです。

結論に至る処理

以上を踏まえ、東京高等裁判所は次のように述べて原審判を取り消し、事件を千葉家庭裁判所に差し戻しました。本決定は確定しています。

本件においては、具体的事情を更に審理し、前記遺産との利害関係をも比較考慮して判断すれば、個々の遺産を特定の相続人に分与し、或いは数個の物件を数人の共通する利害関係を有する相続人に分与する等の根本的かつ具体的な分割の方法も十分考えられるはずであり、このような配慮を一切していない原審判は相当でない。

差戻し後の審理では、個々の土地と各相続人との利害関係(居住や使用の実情)を比較考慮したうえで、特定の相続人への分与、あるいは利害を共通にする複数の相続人への分与といった、根本的で具体的な分割方法が検討されることになります。

判例の射程

本判例の射程について、判決文の表現に即して整理します。

共有とする分割そのものを否定したわけではない

本決定は、「現物分割が困難な場合等、特別の事情がある場合には、共有とする分割方法も許される」ことを明示的に前提としています。否定されたのは、特別の事情の裏付けがないまま安易に共有と定めることであって、共有分割という方法それ自体ではありません。

本件の具体的な事情を前提とした判断である

本決定が共有とする分割を許されないとしたのは、判決文が挙げる本件の事情、すなわち、相続人間で利害や意見の対立があり管理人が選任されるなど協調が期待し難いこと、個々の物件について現実に深い利害関係を有する者とそうでない者の区別が明らかであることを前提とした判断です。逆にいえば、相続人間の協調が期待でき、共有とすることに支障のない事案についてまで判断したものではありません。

競売による換価を一般的に否定したものでもない

競売による換価への消極的な評価は、大半の地目が田畑であって買受人の確保に不安があるという本件遺産の特性を踏まえたものです。換価分割という方法を一般的に否定する趣旨は、判決文からは読み取れません。

当事者の協力不足は安易な分割を許す事由にならない

本決定は、当事者が早期解決を希望しながら十分な協力をしないという事情があっても、「安易な分割の定めを許す事由と解することはできない」としました。事件が長期化し、早期解決の要請が強い場合であっても、分割方法についての審理を尽くす必要があることを示すものです。

なお、本決定は東京高等裁判所による事例判断であり、どのような場合に共有分割を許す「特別の事情」が認められるのかについて、一般的な基準を示したものではない点には留意が必要です。

実務での使い方

本判例は、遺産分割の調停・審判で「ひとまず共有」という方向に話が流れそうなとき、その問題点を指摘する場面で引用する裁判例です。相続案件における典型的な使いどころを整理します。

使える場面

遺産分割の調停や審判が長期化すると、「これ以上争うくらいなら、共有のままにしておこう」という案が浮上することがあります。当事務所が扱う相続案件でも、対立が深い事案ほどこの種の妥協案が出てくることが多いというのが実感です。しかし本決定が指摘するとおり、共有のまま残すことは紛争の解決ではなく先送りであり、共有物分割や使用収益の精算という形で紛争が再燃する火種を残します。

本決定は、この問題点を裁判所自身の言葉で明確に述べた先例として、調停での説得材料にも、審判移行後に裁判所の分割案へ意見を述べる際の論拠にもなります。特に、裁判所の心証が共有とする分割に傾いているとみられる場合に、本決定を引用して具体的な分割の検討を促す、という使い方が考えられます。

共有とする分割を避けたい側

共有とする分割を避けたい側は、本決定の論理をそのまま主張の柱にできます。具体的には、相続人間の対立状況(調停の経過、管理人の選任、使用収益を巡る紛争の有無)を示して協調が期待できないことを基礎づけたうえで、共有とすれば共有物分割と精算の問題が残ることを指摘します。

あわせて重要なのは、実現可能な代替案を示すことです。本決定自身が、特定の相続人への分与や、利害を共通にする複数の相続人への分与を具体的な選択肢として挙げています。自分が取得を希望するのであれば、物件との利害関係と代償金の支払能力を、換価を求めるのであれば売却の現実性を、それぞれ裏付けて示すことが説得力につながります。

共有とする分割を求める側

他方、共有とする分割を求める側は、「特別の事情」を具体的に主張立証する必要があります。たとえば、関係する相続人が共有の継続を望んでいること、現物分割や代償分割が困難な事情(物件の性質、代償金を支払う資力の不足など)があることなどです。本決定の下では、「審理が長引いたから」「他の相続人の協力が得られないから」という理由だけで共有とする分割が認められる余地は乏しいと考えられます。

立証上のポイント

本決定が差戻し後の審理に求めた事項は、そのまま当事者の立証活動の指針になります。すなわち、物件ごとの利用・管理の実情(誰が居住し、耕作し、収益を得ているか、賃貸の有無)、各相続人の取得希望の有無と代償金の支払能力、相続人間の対立の程度を示す事情(管理人選任の経緯、調停・審判の経過)です。

換価分割を主張する場合には、地目や市場性を踏まえた売却の見込み、買受けを希望する相続人の有無も意識しておくべきでしょう。本決定は、競売希望者の中に「希望する相続人が買い受ければよい」との意見があったことを、その相続人への分与を検討し得る事情として捉えており、当事者の意向の細部が分割方法の選択に影響することを示しています。

併せて検討すべき周辺論点

第1に、分割方法の検討順序です。実務では、現物分割(遺産をそのままの形で分ける方法)を基本としつつ、代償分割(特定の相続人が財産を取得し、他の相続人に代償金を支払う方法。家事事件手続法195条)、換価分割(売却して代金を分ける方法。同法194条)を順に検討し、共有とする分割は最後の手段と位置づけるのが一般的です。本決定の「特別の事情がある場合には許される」という判示は、この実務の考え方と整合するものです。

第2に、共有とする審判が確定した後の法律関係です。審判で相続人の共有とされた財産は、その後は遺産分割の対象ではなく通常の共有財産となり、その解消は共有物分割(民法258条)、すなわち家庭裁判所ではなく地方裁判所等での訴訟手続によることになります。使用収益の精算も別途問題になり得ます。本決定のいう「課題を残す」ことの実際の姿が、ここにあります。

第3に、一部分割の明文化です。本決定の後、平成30年の相続法改正(令和元年7月1日施行)により、民法907条は遺産の一部のみの分割を明文で認めました。ただし、一部を分割することで他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合には、家庭裁判所への一部分割の請求はできません。一部分割を活用する場合でも、残部の共有状態をどう解消するのかという道筋を描いておくことが、根本的な解決を求める本決定の考え方にかなうといえます。

第4に、遺産を未分割のまま放置することのリスクです。令和3年の民法改正(令和5年4月1日施行)により、相続開始から10年を経過すると、原則として特別受益(生前贈与等を踏まえた相続分の調整)や寄与分(被相続人の財産の維持・増加への貢献を踏まえた調整)の主張ができなくなりました(民法904条の3)。また、相続開始から10年を経過した場合には、相続人から異議の申出がない限り、遺産に属する共有持分も通常の共有物分割訴訟で処理できることとされています(民法258条の2第2項)。「共有のまま残すことは問題の先送りである」という本決定の問題意識は、現行法の下でいっそう重みを増しているといえるでしょう。

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