共有物分割の換価分割で行われる形式的競売では、法定地上権(競売で土地と建物の所有者が分かれたときに、建物のために法律上当然に成立する土地利用権)は成立しないと解釈されています(民事執行法195条・188条・81条、民法388条参照)。裁判例はいずれも成立を否定していますが、学説や競売実務の運用には成立を認める動きもあります。
結論
共有物分割の換価分割として行われる形式的競売(共有物分割のために裁判所が命じる競売)では、法定地上権は成立しないと解釈するのが裁判例の一致した立場です。形式的競売について民事執行法は「担保権の実行としての競売の例による」と定めていますが(民事執行法195条)、そこから参照される条文の構造上、法定地上権の規定が働かないためです。
その結果、土地を買い受けた人は、建物のための利用権原(土地を使う法律上の根拠)を引き継ぎません。対抗力のある借地権が設定されているなどの事情がない限り、建物の所有者が土地を使い続けられる法律上の根拠は当然には認められず、建物の存続そのものが問題になります。
根拠と条件
法定地上権が問題になる状況
土地と建物の一方だけが共有になっている、あるいは両方とも共有だが共有者の顔ぶれが異なる、というケースは珍しくありません。このような不動産について共有物分割訴訟の結果として換価分割となった場合、その後の形式的競売では、建物のための土地利用権をどう扱うかが問題になります。
対抗力のある借地権(賃借権や地上権)がすでに設定されていれば、土地が競売されても建物が競売されても、借地権は買受人に引き継がれます。問題になるのは、土地と建物の所有者が一部重なっているために借地権を設定できない場合や、地代のやり取りがなく使用貸借や共有土地の使用方法の合意にとどまっている場合です。これらの利用権原は競売の買受人に引き継がれないため、建物を守る最後の手段として、法定地上権が成立するかどうかが問われます。
法定地上権とは
法定地上権とは、土地とその上の建物が同じ所有者に属していた場合に、競売によって土地と建物の所有者が別々になったとき、建物のために法律上当然に成立する地上権(土地を使用する権利)です。建物は土地の利用権がなければ存立できないため、競売をきっかけに建物を取り壊さざるを得なくなることを防ぐ目的で設けられています。抵当権の実行としての競売については民法388条が、強制競売については民事執行法81条が、それぞれ法定地上権の成立を定めています。
形式的競売で成立が否定される理由
形式的競売に関する条文をそのままあてはめると、法定地上権の根拠となる規定はどこにもありません。
民事執行法195条は、形式的競売について「担保権の実行としての競売の例による」と定めています。担保不動産競売の規定である同法188条は、強制競売に関する規定の多くを準用していますが、法定地上権を定める同法81条だけは、括弧書きで準用の対象から除かれています。担保権の実行の場面では民法388条が直接適用されるため、81条まで準用すると規定が重なってしまうからです。
これを形式的競売にあてはめると、民事執行法81条は準用されず、抵当権の実行を前提とする民法388条の適用もありません。公刊された裁判例は、いずれもこの文理解釈(条文の形式的な適用)を理由に、形式的競売における法定地上権の成立を否定しています。
成立を認める見解と競売実務の運用
一方で、この文理解釈には反対する学説も少なくありません。同法188条の括弧書きは民法388条との重複を避けるために置かれたものにすぎず、形式的競売から法定地上権を締め出す意図で設けられたわけではないと考えられるからです。建物を保護する必要性は、担保権実行や強制執行としての競売と形式的競売とで変わらないことも、根拠として挙げられています。
競売実務にも、これと呼応する動きがあります。東京地方裁判所や千葉地方裁判所の競売手続では、売却条件として法定地上権が成立する旨を定めた例が指摘されています。これは判決として成立を認めたものではなく、執行裁判所が競売手続上の処理として定めたものです。裁判例は否定で一致していますが、執行実務の運用では成立を認めた例があります。
抵当権が設定されている場合の例外
形式的競売の対象不動産にあらかじめ抵当権が設定されている場合は、判断の枠組みが変わります。この場合、競売手続の中で抵当権者への配当が行われ、抵当権は消滅する扱い(消除主義)が原則です。抵当権付きの不動産を強制競売にかけた場合と同じ状況になるため、民法388条の法定地上権の規定が適用されます。具体的には、最も先順位の抵当権が設定された時点を基準として要件を判定し、要件を満たせば法定地上権が成立します。ただし、競売手続の売却の時点まで抵当権が存続していることが前提です。
この扱いは消除主義が採用されていることを前提にしています。例外的に抵当権が消滅せず買受人に引き継がれる処理(引受主義)がとられた場合には、抵当権の設定がない場合と同じ議論に戻り、法定地上権の成否について見解が分かれます。
抵当権付きの共有不動産の分割そのものについては、「共有持分に住宅ローンの担保が付いていても、共有不動産を分割できますか?」で解説しています。
具体的な場面での適用
土地をAとBが共有し、その上にAが単独で所有する建物が建っているとします。Aは土地の共有者の1人であるため、自分の土地に自分で借地権を設定するという形をとれず、地代のやり取りもなく建物を使ってきました。土地について共有物分割訴訟が起こされ、換価分割の判決に基づく形式的競売で、第三者Cが土地を買い受けたとします。
Cは、Aの建物のための利用権原を引き継ぎません。裁判例の立場では法定地上権も成立しないため、Aが土地を使い続ける法律上の根拠は当然には認められず、建物の扱いが争いになります。
なお、最高裁は、形式的競売について法定地上権の成立を否定した原審の判断を是認しています(最判平成6年4月7日)。令和3年民法改正より前の判例ですが、この論点を左右する民事執行法の条文構造は現在も変わっていません。
反対に、対抗力のある借地権が設定されているケースでは、法定地上権を持ち出すまでもなく、借地権はそのまま存続し、買受人に引き継がれます。建物の利用が問題になるのは、上の設例のように共有関係のために借地権を設定できない場合や、地代のやり取りのない使用貸借にとどまる場合です。

