被相続人がどの銀行に口座を持っていたか分からない場合、どのように調査したらいいですか?
まず、被相続人が生前にマイナンバーを紐づけた口座については、口座管理法に基づく「相続時預貯金口座照会」を使い、預金保険機構を通じて複数の金融機関の口座の所在を一括で確認できます(令和7年〔2025年〕に開始された制度)。ただし、マイナンバーを紐づけていない口座は対象外となるため、通帳・郵便物等の手がかりをもとに、心当たりのある金融機関へ個別に照会(現存照会・残高証明書の取得)することもあわせて行います。相続人は一人でも申込み・照会ができます(口座管理法、民法896条本文)。取得した情報で確認すべき主要項目は、①相続時照会の結果には残高が含まれないため判明した口座は別途残高証明書を取得すること、②把握できた口座の網羅性、③残高証明書の基準日(死亡日基準か)、④定期預金・出資金等の有無、⑤名義預金の可能性、の5点です。
調査・手続の概要
被相続人の口座調査には、現在、大きく2つのアプローチがあります。
第1に、相続時預貯金口座照会です。これは、被相続人が生前にマイナンバーを紐づけた口座について、預金保険機構を通じて、複数の金融機関にまたがる口座の所在を一括で確認できる制度です。
第2に、金融機関への個別照会(現存照会)です。マイナンバーを紐づけていない口座は相続時照会では把握できないため、通帳や郵便物などの手がかりをもとに、心当たりのある金融機関へ一つひとつ照会します。
両者は排他的なものではなく、組み合わせて使います。相続時照会で全体像をつかんだうえで、紐づけのない口座を個別照会で補い、最終的に判明した各口座について残高証明書を取得する、という流れが基本です。
なお、信用金庫・信用組合・農業協同組合(JA)は、地域ごとに独立した別々の法人です。全国に支店網を持つ銀行とは異なり、これらは法人(組織)ごとに個別の照会が必要になるため、被相続人の生活圏にある地域金融機関は一つひとつ確認します。
個別照会の法的な根拠は、相続人が相続開始の時から被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継すること(民法896条本文)にあります。預金契約上の地位もこれに含まれるため、相続人は金融機関に対して口座の確認や残高証明書の発行を求めることができます。共同相続人が複数いる場合でも、各相続人が単独でこれらを求めることができ、他の相続人の同意書は不要です。この点について最高裁は、共同相続人の一人が、被相続人名義の預金口座の取引経過の開示を単独で求めることができると判断しており(最判平成21年1月22日)、残高証明書の発行請求も、実務上これと同様に扱われています。一方、相続時預貯金口座照会は、口座管理法(後述)に基づく制度です。
口座を見つける手がかりの探し方
相続時照会で把握できるのはマイナンバーを紐づけた口座に限られるため、それ以外の口座を見つけるには、「どの金融機関に口座がありそうか」の手がかりを集めることが重要です。次のような資料・痕跡が糸口になります。
- 自宅に残された物: 預金通帳、キャッシュカード、金融機関名の入った郵便物・粗品・カレンダー、取引のお知らせや明細
- 書類からの手がかり: 確定申告書や源泉徴収票(利子所得の記載から取引銀行が推測できることがあります)、固定資産税・公共料金・保険料などの口座振替の記録、年金の振込先
- デジタルの手がかり: パソコンやスマートフォンに残るメール(取引明細の通知)、銀行アプリ、ブラウザのブックマーク。通帳を発行しないネット銀行は、これらの痕跡からしか分からないことが多いため、特に注意して確認します。
- 貸金庫: 通帳や定期預金証書が貸金庫に保管されている場合があります。
手がかりが乏しい場合でも、まずは地元の主要金融機関(メガバンク・地方銀行・信用金庫・ゆうちょ銀行)を一通り照会するという進め方が現実的です。被相続人の生活圏にある金融機関は口座を持っていた可能性があります。
相続時預貯金口座照会(マイナンバーを使った一括照会)
制度の概要と根拠
相続時預貯金口座照会は、口座管理法(預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律。令和3年〔2021年〕法律第39号)に基づく制度です。被相続人が生前にマイナンバーを紐づけた(付番した)預貯金口座について、相続人が預金保険機構を通じて、複数の金融機関にまたがる口座の所在を一括で確認できます。
この照会は、令和7年(2025年)4月1日に預貯金口座付番制度等が拡充されたことに伴い、利用できるようになりました。預貯金口座付番制度とは、本人がマイナンバーを金融機関に届け出て口座に付番する制度で、これにより、相続時や災害時に、一つの金融機関の窓口を通じて、付番された口座の所在を確認できるようになっています。
申込主体・申込先・手数料・必要書類
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申込みできる人 | 相続人(包括受遺者を含む)、またはその代理人。相続人の一人から申込み可能で、他の相続人全員の同意は不要です。国内に通知先(住所)があることが必要です |
| 申込先 | 預金保険機構から受付事務の委託を受けた金融機関。取引のない金融機関でも申込みできます(委託先に限ります)。窓口・電子的手段・郵送など、申込方法は金融機関により異なります |
| 手数料 | 1件につき5,060円(消費税込)。複数の被相続人について照会する場合は、被相続人ごとの申込みとなります。記載の不備等で結果が得られなくても返金されません(※最新の金額は各機関の公式情報を要確認) |
| 必要書類(一般例) | ①相続時口座照会申込書(各金融機関所定様式) ②被相続人の死亡および申込者が相続人であることが確認できる書類(戸籍謄本一式、または認証文付き法定相続情報一覧図の写し) ③被相続人の住民票の除票の写し(本人特定事項の確認のため) ④申込む相続人の本人確認書類 ※被相続人のマイナンバーは、預金保険機構が地方公共団体情報システム機構(住基ネット)から取得するため、申込時の提示は不要です |
何が分かり、何が分からないか
申込みから通知まではおおむね1か月程度で、預金保険機構から相続人等あてに、簡易書留(転送不要)で「相続時照会結果通知書」が郵送されます。通知される情報は、金融機関名・支店名・預貯金の種類(普通・定期など)・口座番号等です。
一方で、次の点に注意が必要です。
- 残高は通知されません。 通知されるのは口座の所在のみです。残高を確認するには、判明した口座について、改めて各金融機関に残高証明書を請求する必要があります(被相続人のマイナンバーそのものも通知されません)。
- マイナンバーを紐づけた口座に限られます。 被相続人が生前に付番していない口座は、結果に表示されません。制度の開始から間もないため、付番されていない口座が多く残っている点に留意が必要です。
- 対象外の金融機関があります。 デジタル庁が指定する特定の金融機関の口座は、この照会の対象になりません(対象外の金融機関はデジタル庁のウェブサイトで公表されています)。
- 死亡後10年を経過すると照会できません。 被相続人の死亡から10年を経過している場合は、照会の対象外となります。
- 照会結果は口座の存否や権利を証明するものではありません。 あくまで調査の手がかりです。
また、申込みによって被相続人が亡くなったことが照会対象の金融機関に伝わるため、金融機関によっては口座の取引停止措置がとられる場合があります。
このように、相続時照会は便利な一方で、これだけで全口座を把握できるとは限りません。後述の個別照会と組み合わせることが重要です。
金融機関への個別照会(現存照会)
相続時照会で判明した口座、および手がかりから心当たりのある金融機関について、個別に照会し、残高証明書を取得します。マイナンバーを紐づけていない口座は、この個別照会でしか把握できません。
申請主体・申請先・必要書類
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申請できる人 | 相続人(共同相続人の一人でも単独で可)、遺言執行者、相続財産清算人など |
| 申請先 | 各金融機関の相続専用窓口(取引店、または相続事務センター・相続オフィス等)。取引店が不明な場合は、本支店や相続専用ダイヤルに相続発生を連絡します |
| 必要書類(一般例) | ①被相続人の死亡が確認できる戸籍(除籍)謄本、または法定相続情報一覧図の写し ②申請者が相続人であることが確認できる戸籍謄本(法定相続情報一覧図の写しがあれば戸籍の提出を省略できる場合があります) ③申請する相続人の実印・印鑑証明書 ④運転免許証等の本人確認書類 ⑤各金融機関所定の依頼書 |
法定相続情報一覧図の写しを取得しておくと、相続時照会・個別照会のいずれでも、複数の金融機関に提出する戸籍一式を都度そろえる手間が省け、調査全体が効率化します。
申請の流れ
ご自身で進める場合、おおむね次のステップになります。
- 相続発生の連絡
取引店または各金融機関の相続専用窓口に、口座名義人が亡くなった旨を連絡します。電話やWebで受け付けている金融機関が多くあります。この連絡により、対象口座は原則として凍結され、入出金が停止します。 - 口座の有無の確認(現存照会)
支店名や口座番号が分からなくても、被相続人の氏名・生年月日・住所などの情報から照会できます。実務上は、相続発生日(死亡日)を基準日とする残高証明書を請求すると、その金融機関が把握している被相続人名義の口座(複数の支店にまたがる場合を含む)がまとめて証明される運用が一般的です。これにより、支店や口座番号が不明でも、その金融機関に口座があるかどうかを確認できます。 - 残高証明書・取引明細の取得
死亡日基準の残高証明書を取得します。必要に応じて取引明細(取引履歴)も請求します。
所要期間は、書類受付後おおむね1〜4週間程度です(金融機関により異なります)。
手数料の目安は、残高証明書が1通あたり数百円程度、既経過利息の証明はこれと別に1通あたり2,000円台、取引明細は1口座1か月あたり300円台が一例です。たとえば三菱UFJ銀行では、残高証明書770円・経過利息計算書2,200円・取引推移表330円/1か月(いずれも消費税込)とされています。手数料の額・体系は金融機関により異なり、改定されることもあるため、各金融機関の公式ページで最新の情報をご確認ください。
取得した書類で確認すべき項目
相続時照会の結果と残高証明書の照合(残高は別途取得)
相続時照会の結果通知には、口座の所在(金融機関名・支店名・種類・口座番号)は記載されますが、残高は含まれません。通知で判明した口座それぞれについて、各金融機関に死亡日基準の残高証明書を請求し、残高を確定させます。相続時照会だけで終わらせず、必ず残高の確認まで進めてください。
把握できた口座の網羅性(銀行・支店・口座種別)
相続時照会で把握できるのはマイナンバーを紐づけた口座だけです。紐づけのない口座や対象外の金融機関の口座は表示されないため、手がかりから判明した金融機関を個別照会で補い、心当たりのあるものを網羅できているかを点検します。残高証明書には、その金融機関内の口座が支店・口座種別(普通・当座・貯蓄・定期・外貨預金など)ごとに記載されます。網羅性の確認漏れは、後の遺産分割で大きな問題につながりかねません。
残高証明書の基準日(死亡日基準になっているか)
遺産の範囲は、相続開始の時(死亡日)を基準に確定します。残高証明書を請求する際は、基準日を「死亡日」と指定するのが原則です。受け取った証明書の基準日が死亡日になっているかを必ず確認してください。基準日が異なると、後の協議や相続税申告で残高がずれる原因になります。
定期預金・定期積金・外貨預金・投資信託・出資金等の有無
普通預金だけに目を奪われず、定期預金・定期積金・外貨預金、さらに同じ金融機関で扱う投資信託などの有無を確認します。定期預金には既経過利息(解約時点までに発生している利息)があり、これも遺産を構成します。普通預金しか見ていなかったために定期預金を見落とす、という事態を避けます。 加えて、被相続人が信用金庫・信用組合・農業協同組合(JA)の会員・組合員であった場合は、これらに払い込んだ「出資金」が残っていることがあります。出資金は預金ではなく出資(持分)であり、相続財産になります。預金の残高証明書とは別に確認・請求が必要な場合が多いため、見落とさないよう注意してください。預金口座はないのに出資金だけが残っている、というケースもあります。
名義預金の可能性
配偶者・子・孫など被相続人以外の名義であっても、原資が被相続人の資金で、被相続人が管理していた預金(いわゆる名義預金)は、実質的に被相続人の遺産と評価される場合があります。そのため、家族名義の口座についても、原資や管理状況に着目する必要があります。
参考リンク
相続時預貯金口座照会(口座管理法)
金融機関への個別照会・残高証明書
- 一般社団法人 全国銀行協会「預金相続の手続に必要な書類」
- 三菱UFJ銀行「相続のお手続き」
- 三井住友銀行「大切な方が亡くなられたら(相続)」
- みずほ銀行「相続預金の残高証明書の発行」
- ゆうちょ銀行「ゆうちょ銀行の相続手続き」
相続トラブルに備えたアドバイス
口座調査は「漏れなく把握する」ことが何より重要です。確認した内容が、その後の遺産分割協議や相続税申告にどう影響するかを意識しておくと、後の争いを未然に防げます。
相続時預貯金口座照会の結果だけに頼らない
相続時預貯金口座照会は便利な制度ですが、把握できるのは被相続人がマイナンバーを紐づけた口座に限られます。制度が始まって間もない現状では、紐づけのない口座も多く、「照会したが該当なしだったが、実際には口座があった」という事態も起こり得ます。相続時照会で「すべて把握できた」と即断せず、通帳・郵便物等の手がかりや、生活圏の金融機関への個別照会で補完することをお勧めします。照会結果は残高を含まないため、判明した口座については必ず残高証明書まで取得してください。
口座の見落としと遺産分割協議の蒸し返しリスク
口座を見落としたまま遺産分割協議を成立させてしまうと、後から別の口座が判明した場合に、協議のやり直しが問題になることがあります。協議は「遺産の全体が判明していること」を前提に進めるのが安全です。死亡日基準の残高証明書で網羅的に把握し、心当たりのある金融機関は早い段階ですべて照会しておくことをお勧めします。判明していない口座が残っているという不安が、相続人間の不信感の火種になることも少なくありません。
ネット銀行・デジタル資産の見落とし
ネット銀行(住信SBIネット銀行・楽天銀行・PayPay銀行など)は、紙の通帳や郵便物が発行されないことが多く、被相続人が利用していた事実を家族に伝えていなければ、その存在に気づかないまま見落とされがちです。パソコンやスマートフォンのメール・アプリ・ブックマークを確認することが、発見の手がかりになります。
名義預金の取扱い
家族名義の預金であっても、原資と管理の実態によっては被相続人の遺産と評価される場合があります。「名義」だけで自分や他の相続人の固有財産と決めつけず、原資の出どころと管理状況を確認しておくことが望まれます。その預金が遺産に含まれるかどうかは、相続人間で争点になりやすい論点です。なお、相続時照会で把握できるのは被相続人名義の口座であり、家族名義の口座は表示されない点にも留意が必要です。
取引履歴(取引明細)の早期取得
残高証明書や預貯金口座照会の結果は、「口座の所在」や「死亡日時点の残高」を示すものにすぎません。生前の入出金の流れを確認したい場合は、別途、取引履歴(取引明細)の取得が必要です。取引履歴の保存期間には限りがあるため、必要が見込まれる場合は早めに請求しておくと安心です。
相続人単独での照会と通帳保管者との関係
通帳を同居の相続人が管理していて見せてもらえない、という場面でも、他の相続人は預貯金口座照会の申込みや、金融機関への直接照会(残高証明書の取得)ができます。相続時照会は相続人の一人から申込みでき、残高証明書も共同相続人の一人が単独で請求できるためです。
なお、最高裁は、共同相続人の一人が、被相続人名義の預金口座について、その取引経過の開示を単独で求めることができると判断しています(最判平成21年1月22日)。

