死亡により凍結された預金口座の調査と対応はどのようにしたらいいですか?

回答

金融機関が口座名義人の死亡を把握すると口座は凍結されますが、凍結後も残高証明書や取引履歴の請求などの相続調査は可能であり、調査に支障はありません。葬儀費用等の当面の資金が必要になった場合の対応策として、遺産分割前でも「相続開始時の預金額×3分の1×法定相続分」(1金融機関あたり150万円が上限)まで、相続人が単独で払戻しを受けられる制度があります(民法909条の2)。

目次

口座凍結の仕組みと相続調査への影響

金融機関は、口座名義人が亡くなった事実を把握すると、その口座の取引を停止します。これがいわゆる「口座凍結」です。全国銀行協会の案内でも、相続の連絡と同時に、被相続人の口座での入出金等は原則として制限されると説明されています。市区町村に死亡届を提出しても、その情報が金融機関に自動的に連携される仕組みは基本的になく、相続人や親族からの連絡が凍結の主な契機になります。

金融機関が払戻しに慎重なのは、最高裁が、共同相続された普通預金債権・通常貯金債権・定期貯金債権はいずれも相続開始と同時に当然に分割されることはなく、遺産分割の対象となると判断したためです(最大決平成28年12月19日)。預貯金の帰属は遺産分割を経てはじめて確定するため、金融機関は相続人単独での払戻しに応じない取扱いを基本としています。

相続調査の観点から押さえておきたいのは、凍結で止まるのは入出金などの取引であって、調査できなくなるわけではないという点です。むしろ凍結後は誰も預金を引き出せなくなるため、遺産である預貯金がその時点の残高で固定され、保全されるという側面があります。調査や協議が長引いても、凍結後の残高が原則として動くことはありません。

凍結後もできる相続調査

相続人は、口座が凍結された後も、単独で次の調査を進めることができます。

残高証明書の請求

相続開始日(死亡日)時点の残高を証明する書類で、遺産の範囲を確定する基礎資料です。後述する仮払いを検討する場合も、上限額の基準は「相続開始時の預金額」ですので、まず死亡日基準の残高証明書を取得して残高を固定しておくのが確実です。

取引履歴の取得

凍結が止めるのは凍結時点以降の取引ですので、死亡から凍結までの間にキャッシュカード等で出金が行われていることがあります。取引履歴で死亡日前後の入出金を確認し、凍結前の出金の有無を把握しておくことは、遺産の範囲を正確に捉えるうえで重要です。なお、相続開始後に遺産に属する預貯金が処分された場合、一定の要件のもとでこれを遺産分割の対象に含める制度があります(民法906条の2)。

口座の現存照会

そもそもどの金融機関に口座があるか分からない場合は、各金融機関への現存照会から調査を始めます。凍結の有無にかかわらず照会は可能です。

当面の資金が必要な場合の対応策(仮払い制度)

凍結自体は調査の支障にはなりませんが、調査や遺産分割協議が続いている間に、葬儀費用や当面の生活費の支払いに迫られることがあります。その場合の対応策が、民法909条の2の払戻し制度(いわゆる仮払い制度)です。平成30年の相続法改正で創設され、2019年(令和元年)7月1日から施行されています。

各相続人は、家庭裁判所の判断を経ずに、次の計算式で求められる額まで単独で払戻しを受けられます。

相続開始時の預金額(口座・明細ごと)× 3分の1 × 払戻しを行う相続人の法定相続分

ただし、同一の金融機関からの払戻しは合計150万円が上限です(平成30年法務省令第29号)。複数の支店・口座に預金があっても、同じ金融機関なら合算で150万円までです。たとえば相続人が長男・次男の2名(法定相続分各2分の1)で、相続開始時の普通預金が600万円(1口座)の場合、長男が単独で払戻しを受けられる額は600万円×3分の1×2分の1=100万円です。

区分内容
申請先口座のある各金融機関(相続人が単独で申請可。他の相続人の同意は不要)
必要書類①被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍(除籍・改製原戸籍を含む)謄本等、②相続人全員の戸籍謄本等、③払戻しを希望する相続人の印鑑証明書。このほか本人確認書類と金融機関所定の依頼書
備考戸籍一式に代えて法定相続情報一覧図の写しを利用できる金融機関が多い(取扱いは要確認)。遺言がある場合など制度を利用できないことがある

手続は、取引金融機関に連絡して所定の依頼書を受け取り、上記の書類とともに提出する流れです。内容確認のため払戻しまで一定の日数を要しますので、支払期限が迫っている場合は所要日数を金融機関に確認してください。払戻し手続自体の手数料は通常かかりません(※金融機関により要確認)。

なお、上限150万円を超える大口の資金需要がある場合は、家庭裁判所に遺産分割の調停・審判を申し立てたうえで、預貯金債権の仮分割の仮処分(家事事件手続法200条3項)を申し立てる方法があります。仮払いの必要性が認められ、かつ他の共同相続人の利益を害しない場合に、家庭裁判所の判断で仮取得が認められる制度です。

参考リンク

相続トラブルに備えたアドバイス

払い戻した分が「遺産の先取り」として精算されることへの留意

仮払いで払戻しを受けた預貯金は、その相続人が遺産の一部の分割により取得したものとみなされます(民法909条の2後段)。仮払いは立替金の補填ではなく遺産の先取りであり、後の遺産分割では取得済みとして取り分が調整されます。葬儀費用に充てた場合でも、葬儀費用を誰が負担するかは別途協議の対象となり得るため、この整理が曖昧なままだと協議段階で認識のずれが表面化しがちです。

相続放棄を検討している場合の慎重な判断

相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは、単純承認をしたものとみなされます(民法921条1号)。相続放棄を検討している段階で仮払いを受けて費消すると、相続財産の処分と評価され、放棄ができなくなるおそれがあります。被相続人に債務がある可能性が少しでもあるなら、債務の調査(信用情報機関への開示請求等)を先行させ、仮払いの利用は慎重に判断することが望まれます。

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