証券保管振替機構(ほふり)への「登録済加入者情報の開示請求」により、被相続人が上場株式等の口座を開設していた証券会社・信託銀行等の一覧を確認できます(社債、株式等の振替に関する法律に基づく株式等振替制度。手数料は1件6,050円、法定相続情報一覧図の提出により4,950円)。ただし、国債・外国株式等の口座は開示の対象外のため、郵便物(取引残高報告書等)・預金通帳の配当金入金・確定申告書控の確認を並行して行います。
調査の概要:ほふりへの開示請求と手掛かり資料の確認を並行する
上場株式や上場投資信託(ETF)、不動産投資信託(REIT)などは、2009年1月の株券電子化以降、紙の株券ではなく、証券会社・信託銀行等(口座管理機関)に開設された口座の電子的な記録で管理されています(社債、株式等の振替に関する法律。以下「振替法」)。この振替制度を運営する振替機関が、株式会社証券保管振替機構(通称「ほふり」)です。
ほふりは、発行会社への総株主通知(振替法151条)などの準備として、どの証券会社等に誰が口座を開設しているかという情報(加入者情報)をあらかじめ受領し、登録簿で管理しています。この登録情報の開示を相続人が請求できる制度が「登録済加入者情報の開示請求」です。取引先の手掛かりが全くない場合でも、この開示請求により、口座が開設されている証券会社・信託銀行等の一覧を確認できます。
ただし、開示の対象は振替株式等(上場株式・ETF・REIT等)の口座に限られ、国債・社債・外国株式等の口座は対象外です。また、開示されるのは請求時点の口座開設先のみで、過去に解約された口座は分かりません。そのため、証券口座が不明な場合の調査は、次の2つの方法を並行して進めるのが基本です。
| 方法 | 内容 | 分かること |
|---|---|---|
| 方法1:ほふりへの開示請求 | 登録済加入者情報の開示請求 | 振替株式等の口座が開設されている証券会社・信託銀行等の一覧 |
| 方法2:手掛かり資料の確認 | 郵便物・預金通帳・確定申告書控等の確認 | 取引のあった金融機関の手掛かり(ほふり開示の対象外資産を含む) |
方法1:ほふりへの登録済加入者情報の開示請求
開示請求で確認できる情報・できない情報は、次のとおりです。銘柄や残高までは分からないため、開示結果で判明した各証券会社等に対し、残高証明書の請求等を別途行うことになります。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 確認できる情報 | 振替株式等(上場株式・新株予約権付社債・REIT・ETF等)の口座が開示時点で開設されている証券会社・信託銀行等の一覧、担保の受入れ・差入れに関する情報 |
| 確認できない情報 | 銘柄名・取引履歴・保有残高、国債・社債・外国株式等の口座、機構取扱対象でない非上場株式の口座 |
法定相続人が請求する場合の申請先と必要書類は、次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 請求できる人 | 法定相続人(法定代理人・任意代理人による請求も可能) |
| 申請先 | 株式会社証券保管振替機構 開示請求事務センター(郵送のみ) |
| 必要書類 | ①開示請求書(ほふりのウェブサイトから様式を取得)、②請求者の本人確認書類のコピー、③法定相続情報一覧図のコピー(または被相続人との関係を示す戸籍等一式のコピー)、④被相続人の住所の確認書類のコピー(戸籍の附票、被相続人宛の議決権行使書・配当金計算書等) |
| 手数料 | 1件6,050円(税込)。法定相続情報一覧図のコピーを提出した場合は1件4,950円(税込)。同一の被相続人につき複数の住所・氏名の組合せで請求する場合、2件目以降は1件あたり1,100円(税込)を加算 |
| 結果の受取り | 「登録済加入者情報通知書」が郵便局の代金引換(簡易書留)で届き、受取時に手数料を支払う |
| 所要期間 | 書類受付から開示結果の送付まで1か月程度(混雑状況・書類の不備により変動) |
※手数料・必要書類は改定される場合があるため、請求前にほふりの最新の案内をご確認ください。
ほふりは被相続人の氏名・住所・生年月日を基に登録情報を検索します。被相続人が転居後に証券会社へ住所変更を届け出ていなかった場合、旧住所のままの登録に該当が出ることがあるため、転居歴がある場合は戸籍の附票で住所履歴を確認し、複数の住所を対象に請求しておくと漏れを防げます。
方法2:身の回りの資料から取引先を絞り込む
開示請求と並行して、被相続人の自宅等に残された資料から取引金融機関の手掛かりを探します。有価証券の取扱機関は、証券会社のほか、銀行・信託銀行・信用金庫・ゆうちょ銀行など多岐にわたるため、証券会社だけを念頭に置かず幅広く確認します。
| 資料 | 確認のポイント |
|---|---|
| 郵便物 | 取引残高報告書、特定口座年間取引報告書、投資信託の運用報告書、株主総会招集通知・議決権行使書、配当金計算書・配当金領収証など。相続開始後半年から1年程度は、届く郵便物の差出人に注意を払う |
| 預金通帳 | 配当金・投資信託の分配金・債券の利金の入金記録。過去5年から10年分を可能な範囲で確認する |
| 確定申告書控 | 株式等の譲渡所得・配当所得の記載、特定口座年間取引報告書の添付の有無 |
| その他の遺品 | 証券会社のカレンダー・粗品、口座開設申込書の控え、取引担当者の名刺、日記・手帳、香典帳・芳名録など |
証券会社等には、取引内容と預り残高を記載した「取引残高報告書」を顧客に定期的に交付することが法令上義務付けられています(金融商品取引業等に関する内閣府令98条1項3号)。郵便物の中に取引残高報告書があれば、その証券会社に口座が存在することが直接分かります。もっとも、報告書類は郵送に代えて電子交付(ウェブサイト上での閲覧)に切り替えることができ、インターネット取引中心の口座では紙の郵便物がほとんど届かないことがあります。郵便物が見当たらないことは、証券口座がないことを意味しない点に注意してください。
取得した書類で確認すべき項目
開示結果や手掛かり資料は、記載内容を読み解くことで初めて調査として機能します。確認すべき主要な項目は次のとおりです。
登録済加入者情報通知書に記載された口座管理機関の名称
ほふりから届く「登録済加入者情報通知書」には、口座が開設されている口座管理機関の名称が一覧で記載されます。証券会社の名称があれば、その証券会社に口座があるということです。一方、信託銀行の名称が記載されている場合は、株券電子化の際に証券会社の口座に預託されなかった株式を発行会社が信託銀行等に開設した「特別口座」で管理されている可能性があります。特別口座のままでは株式の売却ができず、換価には証券会社口座への移管が必要になるため、記載された信託銀行に照会して特別口座かどうかを確認します。
加入者口座コード
通知書には、口座管理機関ごとに「加入者口座コード」が記載されます。証券会社等へ照会する際にこのコードを伝えると、口座の特定が速やかに進みます。証券会社の支店窓口では当該支店内の口座しか調べられないことがあるため、照会は本社の電話窓口など全店を対象に調べられる窓口に対し、加入者口座コードを示して行うのが確実です。
「残高がない場合を含む」という通知書の注記
通知書に記載されるのは請求時点の口座開設先であり、残高がない口座も含まれます。つまり、通知書に証券会社名が載っていることは、そこに財産が残っていることを意味しません。逆に、生前に解約された口座は表示されないため、載っていないことが過去の取引の不存在を意味するわけでもありません。財産の有無と金額は、各証券会社等への残高証明書の請求と取引履歴の確認によって確定させます。この確定作業を経て初めて、遺産分割の対象となる有価証券の範囲が固まります。
郵便物の差出人と書類の種類
証券会社からの取引残高報告書・特定口座年間取引報告書は、その証券会社に口座があることを直接示します。これに対し、信託銀行の証券代行部門からの議決権行使書・配当金計算書・配当金領収証は、株式の保有自体は示すものの、差出人は発行会社から株主名簿の管理を受託している株主名簿管理人であり、被相続人が口座を開設している証券会社とは限りません。この場合の口座の所在は、ほふりの開示結果で確認します。投資信託の運用報告書が届いていれば、販売会社(証券会社・銀行等)での投資信託保有の手掛かりになります。
預金通帳の配当金・分配金等の入金記録
通帳に「ハイトウキン」「トウシシンタクブンパイキン」「リキン」等の摘要で入金があれば、株式・投資信託・債券を保有していたことが分かり、振込元の名称から取引先や発行会社を推測できます。注意すべきなのは、被相続人が配当金の受取方法として「株式数比例配分方式」(配当金を証券会社の口座で受け取る方式)を選択していた場合、銀行の通帳には配当金の入金記録が一切残らないことです。通帳に配当の形跡がないことは、株式を保有していなかったことを意味しません。通帳に痕跡が見つからない場合ほど、ほふりへの開示請求の必要性が高まります。
確定申告書控の所得区分と添付書類
過年分の所得税の確定申告書控に「株式等に係る譲渡所得等」や配当所得の記載があれば、証券会社等での取引がまず想定されます。特定口座年間取引報告書の控えが保管されていれば、証券会社名がそのまま判明します。申告書から判明した取引がほふりの開示結果に表れない場合は、既に解約された口座か、国債・外国株式等の対象外資産の取引であった可能性を検討し、該当する金融機関への個別照会につなげます。
参考リンク
- 登録済加入者情報の開示請求(証券保管振替機構)
- 【相続人(又は相続人の代理人)用】登録済加入者情報の開示請求に係るお手続について(証券保管振替機構・PDF)
- 登録済加入者情報通知書の見本(証券保管振替機構・PDF)
相続トラブルに備えたアドバイス
ほふりの開示請求と手掛かり調査の併用による漏れの防止
有価証券は、不動産のように所在が登記で公示されず、預貯金のように通帳という分かりやすい手掛かりが必ず残るわけでもないため、相続財産の中でも調査漏れが起きやすい類型です。
ほふりの開示請求は強力な調査手段ですが、対象は振替株式等に限られ、国債・社債・外国株式等は表れません。また、電子交付や株式数比例配分方式の普及により、郵便物や通帳に紙の痕跡が残らないケースは年々増えています。一つの方法に頼らず、開示請求と手掛かり調査を必ず併用することをお勧めします。遺産分割協議の成立後に有価証券が見つかると、その財産について協議をやり直す必要が生じ、分割内容の蒸し返しや相続人間の不信を招く火種になります。
開示結果・残高証明書の保管と相続人間での共有
登録済加入者情報通知書と、それに基づき取得した各社の残高証明書(死亡日時点)は、遺産の範囲を裏付ける基礎資料となるため、原本を適切に保管してください。調査を担った相続人だけが情報を握り、他の相続人に開示しない状態が続くと、実際には漏れがなくても財産隠匿の疑いを持たれ、協議が感情的に紛糾しがちです。開示結果と残高証明書を早い段階で全相続人に共有し、調査の網羅性について認識をそろえておくことが、円滑な遺産分割協議への近道になります。

