生命保険の解約返戻金はどのように調査したらいいですか?

回答

被相続人が契約者である、または被相続人が保険料を負担していた生命保険契約で、相続開始時にまだ保険事故が発生していないもの(被保険者が被相続人以外で生存中のもの)は、解約返戻金相当額が相続税の課税対象になります(評価基本通達214)。被相続人が契約者であった場合は本来の相続財産(相続税法基本通達3-36(1))、契約者が被相続人以外で被相続人が保険料を負担していた場合はみなし相続財産(相続税法3条1項3号)として申告に計上します。死亡保険金が支払われないため、申告漏れが起きやすい財産です。調査では、契約者・被保険者・保険料負担者の関係、相続開始日時点の解約返戻金額、契約者貸付金の有無を確認します。解約返戻金額は生命保険会社への照会で確認できます。

目次

調査の概要

生命保険は、被保険者の死亡によって死亡保険金が支払われる契約だけではありません。相続開始の時点でまだ保険事故(被保険者の死亡など、保険金の支払事由となる出来事)が発生していない契約であっても、その契約には「解約すれば解約返戻金を受け取れる」という財産的価値があります。この財産的価値を、相続税法では「生命保険契約に関する権利」と呼びます。

典型的な場面は、被相続人が契約者となって、配偶者や子を被保険者とする生命保険に加入していたケースです。この場合、被保険者(配偶者や子)は生存しているため、被相続人が亡くなっても死亡保険金は支払われません。しかし被相続人は、生前にその契約を解約すれば解約返戻金を受け取れる立場にありました。被相続人が契約者かつ保険料負担者であったこの権利は、被相続人本来の相続財産として相続税の課税対象になります(相続税法基本通達3-36(1))。

一方、契約者が被相続人以外(相続人など)であっても、保険料を実際に負担していたのが被相続人であった場合には、相続税法上、その契約者が「生命保険契約に関する権利」を相続により取得したものとみなされ、みなし相続財産として相続税の課税対象になります(相続税法3条1項3号)。

いずれの場合も、この権利の価額は、相続開始の時にその契約を解約したと仮定した場合に支払われることとなる解約返戻金の額によって評価します(評価基本通達214)。掛け捨て型で解約返戻金のない契約は、評価の対象になりません。

死亡保険金のように現実に金銭が支払われるわけではないため、この権利は相続財産の把握から漏れやすく、相続税の申告漏れにつながりやすい点に注意が必要です。調査は、(1)該当する生命保険契約の存在を確認し、(2)契約者・被保険者・保険料負担者の関係を整理し、(3)相続開始日時点の解約返戻金額と契約者貸付金の有無を確認する、という流れで進めます。

申請主体・申請先・必要書類

該当する契約の有無は、まず被相続人宛ての生命保険会社からの郵便物、保険証券、預貯金口座の保険料引き落とし履歴から確認します。契約の存在自体が分からない場合は、生命保険協会の「生命保険契約照会制度」で、被相続人が契約者または被保険者となっている契約を一括照会できます。

契約が判明したら、生命保険会社に対して、相続税申告に用いる相続開始日時点の解約返戻金額と、契約者貸付金の残高を照会します。主な申請先と必要書類は次のとおりです。

確認したいこと申請する人申請先主な必要書類
契約の有無(被相続人が契約者・被保険者の契約)法定相続人・遺言執行者等生命保険協会(生命保険契約照会制度)被相続人の死亡を確認できる書類、相続人であることを確認できる戸籍等、請求者の本人確認書類
相続開始日時点の解約返戻金額・契約者貸付金残高法定相続人等各生命保険会社保険証券、被相続人の死亡の記載がある戸籍(除籍)謄本、相続人であることを確認できる戸籍、請求者の本人確認書類
保険料負担者の確認法定相続人(被相続人の預貯金口座の取引履歴で確認)預金通帳、取引明細

※必要書類は保険会社により異なります。各社の相続手続案内ページで最新の様式を確認してください。

調査の流れ

ステップ1:契約の洗い出し

被相続人宛ての生命保険会社からの郵便物(契約内容のお知らせ、配当金支払通知など)、保険証券、生命保険料控除証明書(確定申告・年末調整の書類)、預貯金口座の保険料引き落とし履歴を確認し、契約している保険会社を特定します。

ステップ2:生命保険契約照会制度の利用(必要に応じて)

契約の存在が把握できない場合は、生命保険協会の照会制度を利用すると、加盟する生命保険会社に対して、被相続人が契約者または被保険者となっている契約の有無を一括照会できます。利用には所定の料金がかかります。

ステップ3:解約返戻金額・契約者貸付金の照会

契約が判明した保険会社に対し、相続開始日(被相続人の死亡日)時点の解約返戻金額の証明を請求します。あわせて、契約者貸付金(保険会社からの借入れ)の有無と残高も確認します。証明書の発行には数日から数週間かかることがあるため、申告期限から逆算して時間に余裕をもって請求します。

ステップ4:契約者・被保険者・保険料負担者の整理

取得した書類をもとに、各契約について契約者・被保険者・保険料負担者が誰であるかを整理します。この整理が、相続税申告における課税区分の判定につながります。

費用・期間の目安として、解約返戻金額証明書の発行手数料は無料または数百円程度の場合が多いものの、保険会社により取扱いが異なります。

取得した書類で確認すべき項目

保険事故が未発生の生命保険契約については、死亡保険金が支払われる契約とは確認の着眼点が異なります。とくに、契約者・被保険者・保険料負担者の三者の関係が、その契約が相続税申告でどの課税区分(本来の相続財産か、みなし相続財産か)になり、誰に課税されるかを左右します。

契約者

保険契約上の権利(契約を解約する権利、解約返戻金を請求する権利、契約者貸付を受ける権利など)を持つ名義人です。被相続人が契約者であり、かつ保険料を負担していた場合、その契約に関する権利は被相続人本来の相続財産として相続税の課税対象になります(相続税法基本通達3-36(1))。契約者が被相続人以外であれば、保険料を被相続人が負担していた場合に、その契約者がみなし相続財産を取得したものとして課税対象になります(相続税法3条1項3号)。まずは契約者が誰であるかを確認することが、その後の整理の出発点になります。

被保険者と保険事故の有無

被保険者は、その生死が保険の対象となる人です。被保険者が被相続人以外で、相続開始時に生存している場合、被相続人の死亡では保険金は支払われず、契約はそのまま継続します。この「保険事故が未発生」の状態であることが、当該契約を解約返戻金相当額で評価する前提になります。被相続人自身が被保険者で死亡している場合は、死亡保険金の問題になり、扱いが異なります。同じ生命保険でも、被保険者が誰で、保険事故が発生しているか否かによって、調査の整理が分かれる点に注意します。

保険料の負担者

実際に保険料を支払っていたのが誰かを確認します。契約者の名義と保険料の実際の負担者が一致しないことがあります(たとえば、契約者は子であるものの、保険料は被相続人の口座から引き落とされていた、という場合です)。被相続人が保険料を負担していた契約は、契約者が被相続人以外であっても、相続税法上は契約者がみなし相続財産を取得したものとして扱われます(相続税法3条1項3号)

保険料の負担者は、被相続人の預貯金口座の取引履歴(保険料の引き落とし記録)から確認します。被相続人名義の契約だけに目を向けると課税対象から漏れるおそれがあるため、被相続人が保険料を負担していた他人名義の契約がないかも確認します。

相続開始日時点の解約返戻金額

解約返戻金額は、その契約に関する権利の評価額そのものになります。相続税法上、相続開始の時にその契約を解約したと仮定した場合に支払われることとなる解約返戻金の額で評価します(評価基本通達214)。実際に解約するかどうかにかかわらず、相続人が契約を解約せずに引き継ぐ場合であっても、相続開始時の解約返戻金相当額で評価して申告に計上します。なお、解約返戻金のほかに前納保険料や剰余金の分配額がある場合はこれらを加算し、源泉徴収されるべき所得税相当額がある場合はこれを差し引いて評価します。金額は、保険会社が発行する相続開始日時点の解約返戻金額証明書で確認します。申告に用いる金額であるため、相続開始日(死亡日)を基準とした証明であることを必ず確認します。

契約者貸付金の有無と残高

契約者貸付とは、解約返戻金の一定範囲内で保険会社から貸付を受けられる制度です。被相続人が契約者として生前に契約者貸付を受けていた場合、その貸付金(借入金)は被相続人の債務になります。契約者貸付金は解約返戻金を担保とするもので、契約を解約する際には解約返戻金から差し引かれる扱いが一般的です(※約款の定めにより異なります。最新の取扱いは各保険会社に確認してください)。解約返戻金額だけで評価すると財産価値を過大に見積もるおそれがあるため、解約返戻金額とあわせて契約者貸付金の残高も確認しておきます。

参考リンク

相続トラブルに備えたアドバイス

死亡保険金が出ない契約は申告漏れに注意

被相続人が契約者で、被保険者が配偶者や子である契約は、被相続人の死亡では保険金が支払われないため、相続財産として見落とされがちです。しかし、解約返戻金相当額が相続税の課税対象になるため、計上が漏れると、後日の税務調査で指摘を受け、修正申告や過少申告加算税の対象になるおそれがあります。

相続人の間でも、後から保険契約の存在が判明すると「財産を隠していたのではないか」という不信を招きやすいため、被相続人が契約者になっている契約や、被相続人が保険料を負担していた他人名義の契約をもれなく洗い出し、早い段階で相続人間で共有しておくことをお勧めします。

課税区分(本来の相続財産かみなし相続財産か)の確認をする

被相続人が契約者であった契約は本来の相続財産、契約者が被相続人以外で保険料を被相続人が負担していた契約はみなし相続財産になります。みなし相続財産の場合は、契約上の地位が契約者(相続人など)に帰属するため、保険会社での契約者変更手続きは不要ですが、その契約者に相続税が課税されます。本来の相続財産の場合は、誰がその権利を取得するかを定めたうえで、保険会社で契約者変更の手続きを行います。

この区分は、保険料を実際に負担していたのが誰かを被相続人の口座履歴で確認することで判定できますので、契約者の名義だけで判断しないよう注意が望まれます。

契約者貸付金は債務として把握する

被相続人が契約者貸付を受けていた場合、その借入金は被相続人の債務です。解約返戻金額だけを見て財産価値を評価すると、実際より多く見積もってしまうおそれがあります。解約返戻金額と契約者貸付金の残高は必ずセットで確認してください。

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