配偶者短期居住権と配偶者居住権の違いは何ですか?

回答

配偶者短期居住権(民法1037条)は、相続開始時に被相続人所有の建物に無償で居住していた配偶者に、遺産分割が終わるまでの間など短期間の無償使用を法律上当然に認める権利です。これに対し、配偶者居住権(民法1028条)は、遺産分割や遺贈などによって取得する権利で、原則として終身、建物を無償で使用・収益できます。両者は、成立の仕方、存続期間、権利の内容、遺産分割での評価の要否などが異なります。

目次

配偶者短期居住権と配偶者居住権のそれぞれの意味

配偶者短期居住権とは

配偶者短期居住権とは、一方の配偶者の死亡後、生存配偶者が遺産分割までの間などの一定の期間、それまで住んでいた居住建物を無償で使用することができる権利です(民法1037条)。配偶者の短期的な居住を保護するために政策的に設けられた権利で、被相続人の意思にかかわらず、要件を満たせば法律上当然に成立します。配偶者を債権者、居住建物の所有権を取得した者を債務者とする、使用借権類似の法定の債権であり、譲渡のできない配偶者の一身専属権です。平成30年の相続法改正で新設され、令和2年4月1日以後に開始した相続に適用されます(改正法附則2条)。

成立するためには、被相続人の配偶者(法律上婚姻していた者に限られます)が、相続開始の時に、被相続人が所有する建物に無償で居住していた(生活の本拠としていた)ことが必要です(民法1037条1項)。ただし、その建物について配偶者居住権を取得した場合や、相続欠格・廃除により相続権を失った場合には取得できません(同項柱書ただし書)。

配偶者短期居住権には、講学上、次の2つの類型があるとされています。

  • 1号配偶者短期居住権: 配偶者が居住建物について遺産分割の当事者となる場合の類型です。相続開始時から、遺産分割により建物の帰属が確定した日または相続開始時から6か月を経過する日のいずれか遅い日までの間、居住が認められます(民法1037条1項1号)。遺産分割が早期に終了しても、常に最低6か月間の無償使用が法律上保障されます。
  • 2号配偶者短期居住権: 遺言で建物が配偶者以外の相続人や第三者に取得された場合や配偶者が相続放棄をした場合など、配偶者が居住建物について遺産分割の当事者とならない場合の類型です。建物の所有権を取得した者はいつでも消滅の申入れができますが(同条3項)、配偶者は、その申入れの日から6か月を経過する日まで居住することができます(同条1項2号)。

なお、最高裁は、共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物に被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、相続開始後も遺産分割により建物の所有関係が確定するまでの間、これを無償で使用させる旨の合意があったものと推認されると判断しています(最判平成8年12月17日)。配偶者短期居住権は、この使用貸借の推認による保護では被相続人が反対の意思を表示した場合に配偶者の居住が保護されないことから、その保護を拡充するために設けられたものです。

配偶者居住権とは

配偶者居住権とは、相続開始の時に被相続人所有の建物に居住していた配偶者が、その建物の全部を無償で使用および収益することができる権利です(民法1028条1項)。配偶者短期居住権と異なり当然には成立せず、遺産分割、遺贈または死因贈与によって取得する必要があります。存続期間は原則として配偶者の終身の間であり(民法1030条本文)、長期的な居住の確保を目的とした権利です。制度の詳細は、「配偶者居住権とは何ですか?制度の内容をわかりやすく教えてください」で解説しています。

配偶者短期居住権と配偶者居住権の違い

両者の違いを整理すると、次のとおりです。

項目配偶者短期居住権配偶者居住権
根拠条文民法1037条民法1028条
成立の仕方要件を満たせば法律上当然に成立する遺産分割・遺贈・死因贈与によって取得する必要がある
権利の内容居住建物の無償での「使用」のみ(収益はできない)居住建物の全部の無償での「使用及び収益」
存続期間遺産分割で帰属が確定した日または相続開始から6か月のいずれか遅い日まで(1号)。消滅の申入れから6か月(2号)原則として終身(別段の定めも可。民法1030条)
遺産分割での評価財産的価値を具体的相続分から控除する必要がない評価額を配偶者の具体的相続分から控除する
登記・第三者への対抗力登記の制度がなく、第三者対抗力はない登記により第三者に対抗できる(民法1031条2項)
譲渡できない(民法1041条・1032条2項準用)できない(民法1032条2項)

特に重要な違いは、次の3点です。第一に、配偶者短期居住権は一定の要件を満たせば法律上当然に取得できるのに対し、配偶者居住権は遺産分割や遺贈などの取得行為が必要です。第二に、配偶者短期居住権は居住建物の「使用」に限られ、収益を目的とすることはできません。第三に、配偶者短期居住権は、遺産分割において配偶者の具体的相続分からその価値を控除する必要がありません。これに対し、配偶者居住権を取得した配偶者は、その評価額分の遺産を取得した扱いになります。

また、対抗力にも違いがあります。配偶者居住権の対抗要件は設定の登記であり(建物の引渡しでは対抗できません)、登記を備えれば、建物について権利を取得した第三者に配偶者居住権を対抗でき、妨害停止の請求や建物返還請求もできます(民法1031条2項)。居住建物の所有者は、配偶者に対してこの登記を備えさせる義務を負います(同条1項)。一方、配偶者短期居住権には登記の制度がなく、第三者対抗力はありません。

他方で、共通点もあります。いずれも法律上の婚姻をしていた配偶者のみが対象で、内縁の配偶者には認められません。また、相続開始時にその建物を生活の本拠としていたことが前提となり、権利の譲渡はいずれもできません。居住建物の通常の必要費(保存に必要な修繕費や建物・敷地の固定資産税など)を配偶者が負担する点も共通です(民法1034条1項・1041条)。

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