遺産分割調停の申立先は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所、または当事者が合意で定める家庭裁判所です。申立てには、申立書とその写し、遺産目録、戸籍関係書類、遺産に関する資料が必要で、費用は被相続人1名につき収入印紙1,200円と連絡用の郵便切手です。
手続の概要
遺産分割調停は、家庭裁判所で遺産の分け方を話し合う手続です。遺産分割は家事調停の対象となる別表第2事件で(家事事件手続法244条、別表第2の12の項)、共同相続人の間で協議が調わないとき、または協議をすることができないときに、各共同相続人が家庭裁判所に分割を請求できます(民法907条2項)。
申立ては、申立書を家庭裁判所に提出して行います(家事事件手続法255条1項)。申立書の書式は、裁判所のウェブサイトから入手できます。申立ては被相続人ごとに別個に必要となるのが原則で、父と母が相次いで亡くなった場合には、それぞれの遺産分割について申し立てることになります。
申立書に必ず記載しなければならないのは、当事者および法定代理人(家事事件手続法255条2項1号)と、調停を求める事項を特定する申立ての趣旨および理由(同項2号)です。これらを欠くときは補正命令の対象となり、補正されなければ申立書が却下されます(同条4項、49条4項・5項の準用)。
このほか、家事事件手続規則により、次の事項の記載が求められます(家事事件手続規則127条1項による37条1項・102条1項の準用)。
| 記載事項 | 根拠 |
|---|---|
| 事件の実情 | 家事事件手続規則127条1項、37条1項 |
| 共同相続人 | 同規則127条1項、102条1項1号 |
| 特別受益(被相続人から生前に受けた贈与や遺贈などの特別な利益)にあたる遺贈または贈与の有無と、その内容 | 同規則127条1項、102条1項2号 |
| 遺産の一部の分割の有無と、その内容 | 同規則127条1項、102条1項3号 |
| 民法909条の2による分割前の預貯金債権の行使の有無と、その内容 | 同規則127条1項、102条1項4号 |
申立ての趣旨は、家庭裁判所に求める処分を端的に書くもので、遺産分割では「被相続人の遺産の全部(又は一部)の分割の調停を求める」という形になります。一部分割(遺産の一部だけを先に分割する方法。民法907条1項)を求める場合は、申立時に把握している遺産の全部を遺産目録に記載したうえで、一部分割を求める旨と、その対象となる遺産を目録の中で特定します。
なお、家事事件の手続は、令和8年5月21日に全面施行された民事訴訟手続のデジタル化の対象に含まれていません。インターネットによる申立ては令和10年6月までに家事事件にも導入される予定とされており、現時点では申立書を書面で提出します。
手続の要件・準備
申立先(管轄)
| 手続 | 申立先 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 遺産分割調停 | 相手方の住所地を管轄する家庭裁判所、または当事者が合意で定める家庭裁判所 | 家事事件手続法245条1項 |
| 遺産分割審判 | 相続開始地(被相続人の最後の住所地)を管轄する家庭裁判所 | 家事事件手続法191条1項 |
相手方が複数いる場合は、そのうち1名の住所地を管轄する家庭裁判所に調停を申し立てられます。相手方の住所地に管轄が認められているのは、相手方が調停期日に出席する機会を実質的に確保するためです。
管轄のない家庭裁判所に申し立てた場合、事件は、申立てによりまたは職権で、管轄のある家庭裁判所に移送されるのが原則です(家事事件手続法9条1項本文)。ただし、事件を処理するために特に必要があると認めるときは、申立てを受けた家庭裁判所が自ら処理することもできます(同項ただし書、274条3項。自庁処理)。自庁処理の裁判に対しては即時抗告ができないため、当事者に移送の申立ての機会を確保する趣旨で、あらかじめ意見が聴かれます(家事事件手続規則8条1項)。これに対し、移送の裁判に対しては即時抗告ができます(家事事件手続法9条3項)。
適法に申し立てられた事件であっても、手続の遅滞を避けるため必要があるときなどには、職権で他の裁判所に移送されることがあります(同条2項)。
遺産分割は当事者の合意によって解決できる事項が多いため、審判を申し立てても、家庭裁判所が職権で調停に付するのが通例です(付調停。家事事件手続法274条1項)。
必要書類
| 区分 | 主な書類 |
|---|---|
| 申立書関係 | 申立書とその写し(相手方の人数分)、遺産目録、事情説明書、進行に関する照会回答書、連絡先等の届出書(いずれも各裁判所の様式) |
| 戸籍関係 | 被相続人が生まれてから死亡するまでの間に在籍した全戸籍の除籍謄本・改製原戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本、相続人全員の戸籍の附票または住民票(取得後3か月以内) |
| 遺産関係 | 登記簿謄本または全部事項証明書(取得後3か月以内)、固定資産評価証明書(直近の年度のもの)、住宅地図・公図の写し、建物の平面図、借地借家に関する契約書の写し、預貯金の通帳の写しまたは相続開始時の残高証明書、株式・国債・投資信託等の内容を示す文書の写し |
| 前提問題関係 | 遺言書の写し、遺産分割協議書の写し、協議不成立に終わった遺産分割協議書の案の写し、前相続に関する遺産分割協議書の写し |
| 相続債務関係 | 消費貸借契約書・担保設定契約書の写し、支払予定表の写し |
申立書の写しは、原則として相手方に送付されるため(家事事件手続法256条1項本文)、申立人が相手方の数と同数を用意します(家事事件手続規則127条1項、47条の準用)。当事者全員が同じ資料をもとに議論できるよう、資料説明書や資料の写しの提出も求め、その写しを相手方に送付している例も多くみられます(同規則3条2項)。
戸籍については、法定相続情報証明制度(法定相続情報一覧図)が相続登記や金融機関の手続では有用ですが、数次相続の事案や、相続人の配偶者・孫に対する贈与などが争点となる事案では、相続人全員の戸籍謄本がなければ紛争の全体像をつかみにくいと指摘されています。
これらの書類の主な請求先は、次のとおりです。
- 戸籍関係書類・戸籍の附票:本籍地の市区町村役場(戸籍担当係)
- 住民票関係書類:住所地の市区町村役場(住民登録担当係)
- 登記簿謄本・全部事項証明書、土地の公図、建物の平面図:物件所在地の法務局、支局、出張所(不動産登記部門)
- 固定資産評価証明書:不動産所在地の都県税事務所または市区町村役場(固定資産税担当係)
裁判所が個人番号(マイナンバー)の記載された書面の提出を求めることはありません。相続税申告書の写しを提出するときは個人番号部分を黒塗りにし、住民票も個人番号の記載のないものを提出します。身分関係書類を除く資料は調停委員会が原本を確認することもあるため、調停期日には原本を持参します。
各地の家庭裁判所は、申立書と添付すべき目録について定型書式を用意しており、記載例や手続の説明書面とあわせて裁判所のウェブサイトに掲載しています。書面によって相手方への写しの送付の扱いが異なり、東京家庭裁判所の運用では次のように整理されています。
| 書面 | 提出する人 | 相手方への写しの送付 |
|---|---|---|
| 申立書 | 申立人 | 送付される(家事事件手続法256条1項本文) |
| 事情説明書 | 申立人 | 送付されない |
| 進行に関する照会回答書 | 申立人 | 送付されない |
申立書には第1回調停期日前に当事者全員が共有しておくべき事項を記載し、それ以外の情報は事情説明書などに記載する仕組みです。ただし、これらの書面も閲覧謄写は家庭裁判所の判断に委ねられているため(家事事件手続法254条)、他の当事者に知られたくない情報があるときは、非開示の希望に関する申出書を提出します(同条3項)。相手方には、申立ての趣旨と理由に対する意見を記載する答弁書の書式が用意されています。
費用
申立手数料は、1件(被相続人1名)につき1,200円分の収入印紙で、申立書に貼付して納めます(民事訴訟費用等に関する法律3条1項、別表第一の一五の二の項、8条)。
このほかに、裁判所が当事者への連絡に使用する郵便切手を予納します(家事事件手続法256条2項、67条3項・4項の準用)。金額と内訳は申立先の家庭裁判所ごとに定められています。戸籍謄本や登記事項証明書の取得費用、鑑定を実施する場合の鑑定費用は、これとは別にかかります。
手続の流れ
ステップ1 事前の協議と遺産の把握
家庭裁判所に分割を請求できるのは、協議が調わないとき、または協議をすることができないときです(民法907条2項)。当事者の数が多い、再転相続や代襲相続で普段の付き合いがないといった事情だけでは、「協議をすることができないとき」にあたるとはいえないと指摘されています。申立書の事件の実情や事情説明書には、事前の協議の経過や、協議ができなかった場合の具体的な理由を記載します。
遺産分割事件では、遺産の範囲や特別受益などを主張する当事者が、その裏付け資料を提出する運用がされています。相続人は、その立場で被相続人名義の預貯金口座の取引経過の開示や残高証明書の発行を求められるため、申立ての前に可能な範囲で遺産を確認し、特定しておくことになります。
ステップ2 申立書と附属書類の作成
申立書に当事者、申立ての趣旨、申立ての理由を記載し、遺産目録を作成します。事件の表示は「遺産分割調停(又は審判)申立」とし、附属書類として遺産目録と証拠書類の写しを添えます。各裁判所の様式に従って、事情説明書などもあわせて作成します。
ステップ3 家庭裁判所への提出
申立書に収入印紙を貼り、添付書類と郵便切手を添えて、管轄の家庭裁判所に提出します。手続代理人の権限は書面で証明する必要があるため、弁護士に依頼している場合は委任状の原本を提出します(家事事件手続規則18条1項)。
ステップ4 申立書の審査と手続の選別
裁判所は、管轄、必要的記載事項の記載の有無、添付書類の有無、申立手数料の納付の有無などを確認します。記載に不備があるときは裁判所書記官から補正を促され(家事事件手続規則127条1項、38条の準用)、被相続人の記載がない場合や遺産が全く記載されていない場合などには、裁判長が相当の期間を定めて補正命令を発します(家事事件手続法255条4項、49条4項の準用)。補正されないときは命令で申立書が却下されますが(同法255条4項、49条5項の準用)、この却下命令に対しては即時抗告が認められています(同法255条4項、49条6項の準用)。
補正が終わると、調停委員会で行うか裁判官のみで行うか、管轄のない事件を自庁処理するか移送するか、関連事件と併合するかといった選別を経て(手続選別)、期日の準備に入ります。
ステップ5 申立書の写しの送付と期日の指定
家庭裁判所は、相手方が早い段階で申立ての内容を把握できるように、原則として申立書の写しを相手方に送付します(家事事件手続法256条1項本文)。もっとも、写しの送付によって紛争が激化し、手続の円滑な進行が妨げられるおそれがあると認められるときは、写しの送付に代えて、調停の申立てがあったことを通知すれば足ります(同項ただし書)。
申立てが受理されると、家庭裁判所は調停期日を指定して当事者に通知します。第1回期日は、申立てから1か月から2か月後に指定されることが多くなっています。申立て後の進行は「遺産分割調停はどのような流れで進みますか?」で解説しています。

