遺産分割調停はどのような流れで進みますか?

回答

遺産分割調停は、相続人間の協議が調わないとき、または協議をすることができないときに、家庭裁判所に遺産の分割を求める手続です。調停委員会が当事者の間に入り、相続人の範囲、遺産の範囲、遺産の評価、特別受益・寄与分、分割方法の順に合意を積み重ねます。合意に至れば調停成立、至らなければ審判手続に移ります。

目次

手続の概要

遺産分割の方法は、遺言による指定分割(民法908条)、相続人の協議による分割(民法907条1項)、家庭裁判所による分割の3つです。協議が調わないとき、または協議をすることができないときは、各共同相続人が家庭裁判所に分割を請求でき(民法907条2項)、その手続として調停(家事事件手続法244条)と審判(同法39条、別表第2)があります。

調停は、裁判所が判断を示す手続ではなく、当事者の合意によって紛争を解決する手続です。担当するのは、裁判官と、民間から任命された2人以上の家事調停委員で組織される調停委員会で、その役割は、当事者が納得できる解決方法を自分で検討し判断できるように、事案に応じた支援を行うことにあります。遺産である不動産の評価が争点となる事件では、不動産鑑定士の資格を持つ調停委員が3人目として指定される例もあります。

相続人の範囲を除けば、遺産の範囲も評価も、特別受益(被相続人から生前に受けた贈与や遺贈などの特別な利益)・寄与分(被相続人の財産の維持・増加に特別の貢献をした相続人に認められる上乗せ分)も、分割方法も当事者の合意で決められます。そのため、当事者が審判を申し立てた場合でも、家庭裁判所は職権で事件を調停に付するのが通常です(同法274条1項)。

申立ての対象は遺産の全部に限られません。平成30年の相続法改正で民法907条1項・2項の文言が「遺産の全部又は一部の分割」と改められ、申立ての段階で遺産の一部だけを対象にできることが明文化されました(令和元年7月1日以後に開始した相続に適用)。争いのない遺産を先に分ける一部分割の要件は、「遺産の一部だけを先に分割することはできますか?」で解説しています。

手続の要件・準備

申立てができる人と申立先

申立てができるのは各共同相続人で(民法907条2項)、包括受遺者(民法990条)や相続分の譲受人も当事者になります。申立先は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所、または当事者が合意で定める家庭裁判所です(家事事件手続法245条1項)。申立ては被相続人ごとに行うのが原則です。

申立ての時期と2つの期限

申立ての時期そのものに制限はありませんが、次の2つの期限が進め方に影響します。

第一に、相続開始の時から10年を経過した後にする遺産分割では、原則として特別受益(被相続人から生前に受けた贈与や遺贈などの特別な利益)と寄与分(被相続人の財産の維持・増加に特別の貢献をした相続人に認められる上乗せ分)の規定が適用されず、法定相続分または指定相続分による分割になります(民法904条の3)。10年経過後は、調停の申立ての取下げにも相手方の同意が必要です(家事事件手続法273条2項)。期間制限の例外と、施行日前に開始した相続への適用関係は、「相続から10年経つと遺産分割はどうなりますか?特別受益・寄与分が主張できなくなるって本当ですか?」で解説しています。

第二に、相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月です。期限までに分割がまとまらなければ、未分割のまま法定相続分で申告することになり、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例は当初の申告では適用されません。「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しておけば、分割の成立後に更正の請求などでこれらの特例の適用を受けられる場合があります争いのない遺産だけを先に分割する一部分割は、この期限との関係でも選択肢になります。遺産分割と期限の関係は、「遺産分割に期限はありますか?いつまでに手続きすべきですか?」で解説しています。

申立書に記載する事項と提出する資料

申立書には、当事者および法定代理人と、申立ての趣旨および理由を記載します(家事事件手続法255条2項)。この2つを欠くと補正命令の対象となり、補正しなければ申立書は却下されます(同条4項、49条4項・5項)。このほか、事件の実情、共同相続人、特別受益に該当する遺贈または贈与の有無と内容、遺産の一部の分割の有無と内容、民法909条の2による分割前の預貯金の払戻しの有無と内容も記載事項とされ、遺産目録と証拠書類の写しを添付します(家事事件手続規則127条1項、37条1項・2項、102条1項)。一部分割を求める場合も、遺産目録には把握している遺産の全部を記載したうえで、申立ての趣旨で対象の遺産を特定します。

調停では職権探知主義がとられ、調停委員会は必要に応じて自ら資料を集めることもできます(家事事件手続法258条1項、56条1項)。もっとも、遺産分割調停は遺産を捜す場ではないため、遺産の存在を確かめるための調査嘱託や文書提出命令は原則として行われません。遺産の調査は、申立ての前に済ませておくことになります。

提出した書面がすべて相手方に渡るわけではありません。申立書の写しは原則として相手方に送付されますが、それが紛争を激化させ手続の円滑な進行を妨げるおそれがあると認められるときなどは、申立てがあったことの通知で足ります(同法256条1項)。東京家庭裁判所の実務では、事情説明書と進行に関する照会回答書は相手方に写しを送付しない扱いです。もっとも、これらの書面の閲覧謄写は家庭裁判所の判断に委ねられているため(同法254条)、開示されたくない情報があるときは、非開示の希望に関する申出書を添えて提出します。

手続の流れ

ステップ1 調停の申立て

申立書と添付書類を、管轄の家庭裁判所に提出します(家事事件手続法255条1項)。裁判所と東京家庭裁判所のウェブサイトには申立書と目録の定型書式および記載例が掲載されており、手続代理人がついている場合でも定型書式の利用が望ましいとされています。

ステップ2 期日の指定と実情の照会

家庭裁判所は、調停期日を指定して当事者に通知し、相手方に申立書の写しを送付します。あわせて双方に、遺言の有無、相続人と遺産の範囲、協議の有無、相続債務、遺産の管理状況、特別受益・寄与分の主張、遺産取得の意向などを照会します。相手方は答弁書で申立ての趣旨と理由に対する意見を述べ、当事者双方が事情説明書や進行に関する照会回答書を提出します。

調停委員会は、原則として全件について第1回期日の前に事前評議を行い、事案の内容、進行の障害となる事情、特別受益や寄与分についての暫定的な見方、協議が不成立となった原因と対応策などを協議します。

ステップ3 第1回調停期日

第1回期日の開始時には、調停委員から当事者全員の立会いのもとで手続の説明が行われます。一般的な調停のルールに加え、後述する段階的進行モデルによる進め方が説明されます。全当事者が立ち会うのは、調停委員会が中立の立場であることを示すためで、当事者間に暴力被害のおそれがある事案などでは、この方式をとらないこともあります。

期日は非公開で行われ、呼出しを受けた当事者は出頭する義務を負います。やむを得ない事由があるときは、手続代理人を出頭させることができます。当事者の意見を聴いたうえで相当と認められれば、電話会議システムやウェブ会議システムで期日の手続を行うこともできます。この方法で参加した当事者は期日に出頭したものとみなされ、遺産分割調停では、この方法による調停成立も可能です。かつては当事者が遠隔の地に居住していることが要件でしたが、この遠隔地要件は削除されています。

ステップ4 争点の整理と調整(段階的進行モデル)

調停委員会は、遺産分割を「誰が(相続人の範囲)、何を(遺産の範囲)、どのような割合で(具体的相続分)、どのように分けるか(分割方法)」という枠組みで捉え、次の順序で主張を整理し、対立点を調整しながら合意を積み重ねます。これを段階的進行モデルといいます。

  1. 相続人の範囲を確定する
  2. 遺産の範囲および遺産に付随する法律関係を確定する
  3. 遺産を評価する
  4. 特別受益・寄与分を確定する
  5. 遺産の分割方法を確定する

前の段階が固まらないまま先へ進むと議論が錯綜するため、この順序がとられます。相続人の一部が欠けたまま成立した遺産分割は無効ですし、分割の対象が定まらなければ分け方の議論もできません。遺産の評価は、当事者の合意によるほか、専門家である調停委員の意見や鑑定で確定します。特別受益・寄与分については、主張を整理するための一覧表のひな型が当事者に交付され、作成を求められることがあります。相続開始から10年を経過していれば、原則としてこれらを考慮しない相続分による分割になります(民法904条の3)。

段階ごとに合意ができたときは、その内容を中間合意として調書に記載する運用が広く行われています。遺言の効力や解釈、遺産分割協議の効力、遺産の範囲、遺産の評価といった前提問題の合意や、鑑定の前提条件の合意、分割方針の合意が対象です。中間合意をしておきながら後にこれを撤回した場合には信義則(家事事件手続法2条)違反の問題が生じ、審判に移行した後の審判で撤回の効力が生じないと判断される場合があります(東京高決昭和63年5月11日参照)。

ステップ5 調停の終了

当事者間に合意が成立し、調停委員会がその合意を相当と認めて調停調書に記載すると、調停が成立します(家事事件手続法268条1項)。調停条項は確定した審判と同一の効力を持ち、金銭の支払や登記義務の履行などの給付を定めた記載は、執行力のある債務名義と同一の効力を有します(同法75条)。不動産の分割の条項が記載された調停調書があれば、相続人は単独で登記を申請でき、戸籍謄本等の添付は不要です。

調停の終わり方は、次の5つです。

終了の形内容根拠条文
調停成立合意が調停調書に記載され、確定した審判と同一の効力が生じる家事事件手続法268条1項
調停不成立合意が成立する見込みがないとして事件を終了させる家事事件手続法272条1項
調停に代わる審判家庭裁判所が職権で、当事者双方のために衡平に考慮し、一切の事情をみて行う審判家事事件手続法284条1項
申立ての取下げ事件終了までいつでも取り下げられる(相続開始から10年経過後は相手方の同意が必要)家事事件手続法273条1項・2項
調停をしない措置性質上調停を行うのに適当でない場合などに、調停をしないものとして終了させる家事事件手続法271条

調停が不成立となった場合は、調停申立ての時に審判の申立てがあったものとみなされ、事件はそのまま審判手続に移ります(同法272条4項)。審判で遺産を分割するには相続人の範囲と遺産の範囲が確定していることが前提となるため、調停の段階で遺産の範囲や評価を確定しておくことが求められます。調停に代わる審判に対しては、告知を受けた日から2週間以内に異議を申し立てられ、適法な異議があると審判は効力を失います(同法286条2項、279条2項・3項)。

期日の回数と期間の目安

遺産の範囲は、原則として第3回調停期日までに確定することが目標とされています。第1回期日で申立人の主張を確認し、第2回で相手方の反論、第3回で申立人の再反論と意見の調整を行うという進行が想定されているためです。申立てから第7回期日までにはおおむね1年を要するとされ、当事者が多数の事件では期日の間隔が広がりやすいことから、次回期日と次々回期日を同時に指定する運用をしている裁判所もあります。

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