出席しない相続人がいても、遺産分割調停の手続は止まりません。家庭裁判所は期日の通知などで出席を促し、それでも欠席が続く場合には、調停に代わる審判を行うか、調停を成立しないものとして審判手続に移行させることで、欠席した相続人の相続分を確保したうえで遺産分割を終えることができます。
結論
相続人の一部が調停期日に出席しなくても、そのことによって手続が終了したり、遺産分割ができなくなったりするわけではありません。
調停の期日には、事案をもっともよく知る当事者本人が出頭するのが原則です(家事事件手続法258条1項、51条2項)。ただ、遺産分割事件では、欠席した当事者がいても、その当事者の相続分を確保すれば分割を行って事件を終わらせられます。書面による意向の表明や主張、裁判所による意向の確認もできるため、当事者本人が出席して話し合うこと自体に意味がある夫婦関係調整調停や子に関する調停とは異なり、積極的な出頭勧告を要しない事件類型と位置づけられています。
もっとも、欠席したまま手続が進むと、その当事者の希望を反映しないまま分割の内容が決まることになります。家庭裁判所は、出席を促したうえで、それでも欠席が続く場合に次の段階へ進みます。
根拠と条件
出席の働きかけ
調停期日に欠席する当事者がいる場合、裁判所書記官からの期日の通知(呼出し)によって出席が促されます。欠席した当事者と敵対関係にない場合には、出席している当事者やその手続代理人弁護士から、出席するよう働きかけてもらう運用もあります。
家庭裁判所調査官による出頭勧告が行われることもありますが、遺産分割事件で実際に行われる例は多くありません。家庭裁判所調査官が積極的に出頭勧告を行うのは、調停に代わる審判を出す前の意向調査で反対などの積極的な意見が示された場合や、遺産である不動産に現に居住している当事者が欠席を続けている場合などです。後者について働きかけが行われるのは、居住している当事者の意見が出されないまま、換価分割(遺産を売却して代金を分ける方法)のようにその当事者が住み続けられない方法で分割してしまうことが、裁判所の手続として相当といえないからです。
なお、期日への出頭義務に違反した当事者について、5万円以下の過料の定めがあります(家事事件手続法258条1項、51条3項)。
出席しないまま手続に関与する方法
期日に本人が出席しない場合でも、次の方法で手続に関与できます。
| 方法 | 内容 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 代理人の出頭 | やむを得ない事由があるときは代理人を出頭させる。遺産分割調停では、調停を成立させる代理権を持つ代理人が出頭して合意すれば、本人が出頭しなくても調停を成立させられる | 家事事件手続法258条1項、51条2項ただし書 |
| 電話会議・ウェブ会議システム | 裁判所が相当と認めるときに、電話会議システムやウェブ会議システムで期日の手続に参加する。参加した当事者は期日に出頭したものとみなされる | 家事事件手続法258条1項、54条 |
| 書面による意向の表明 | 答弁書、主張書面、進行に関する照会回答書などで意向や主張を裁判所に伝える | ── |
| 調停条項案の書面による受諾 | 出頭が困難な当事者が、あらかじめ提示された調停条項案を受諾する旨の書面を提出し、出頭した当事者が同じ条項案を受諾したときに、合意が成立したものとみなされる | 家事事件手続法270条1項 |
電話会議システム・ウェブ会議システムの「相当と認めるとき」には、当事者の利便性を確保する場合のほか、当事者どうしが接触を避けるべき場合も含まれると解されています。実務では、近隣の家庭裁判所や手続代理人の事務所、当事者本人の自宅などから参加する方式がとられ、いずれの場合も本人の同一性の確認と、調停の非公開性を担保する措置が講じられます。遺産分割調停では、この方式による期日で調停を成立させることもできます(家事事件手続法268条3項参照)。
調停条項案の書面による受諾(受諾調停)は、当事者全員が実質的に合意しているのに、出頭が困難な当事者がいるために調停を成立させられない場合のための制度です。受諾書面が提出されたときは、その受諾が本人の真意によるものかどうかが確認され(家事事件手続規則131条2項)、実務上は、受諾書面に用いた印鑑の印鑑登録証明書の添付を求める例が多いとされます。調停が成立したときは、期日に出頭していない当事者に対し、裁判所書記官から調停成立の通知がされます(同規則130条1項)。もっとも、受諾の手続が使われることは現在はあまり多くなく、出頭が困難な当事者がいる事案は、次に述べる調停に代わる審判で処理されることが多くなっています。
調停に代わる審判
家庭裁判所は、調停が成立しない場合において相当と認めるときは、当事者双方のために衡平に考慮し、一切の事情をみて、職権で、事件の解決のために必要な審判をすることができます(家事事件手続法284条1項)。これを調停に代わる審判といいます。
遺産分割調停では、この審判が広く活用されています。令和6年に終了した全国の遺産分割調停事件のうち、約31パーセントが調停に代わる審判で終了しており、他の類型の家事調停と比べてかなり高い割合です(最高裁判所「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第11回)」)。欠席が続く事案では、分割案に賛成しているものの期日への出頭が事実上困難な当事者がいる場合や、当事者が多数の事案で分割案への賛否が不明な当事者が少数存在する場合などに用いられます。
この審判は当事者の衡平を考慮して行うことが求められるため(同法284条1項)、期日に出頭せず意向を明らかにしない当事者について、その遺産取得額が法定相続分を下回る内容とすることや、換価が容易でない遺産をその当事者に取得させる内容とすることは相当でないとされています。欠席したこと自体を理由に、その当事者の取り分が減らされるわけではありません。
調停に代わる審判は当事者への告知を要し、公示送達によって告知することはできません(同法285条2項)。告知ができない場合、裁判所はこの審判を取り消さなければならず(同条3項)、事件は調停不成立により終了します。
当事者は、告知を受けた日から2週間の不変期間内に、書面で異議を申し立てられます(同法286条1項・2項、279条2項・3項、家事事件手続規則138条1項)。適法な異議の申立てがあると審判は当然に効力を失い(同法286条5項)、調停の申立ての時に審判の申立てがあったものとみなされて、事件は審判手続に移ります(同条7項)。異議の申立てがないまま期間が経過すれば審判は確定し、遺産分割については確定した審判と同一の効力を持ちます(同法287条)。
調停不成立による審判移行
当事者間に合意が成立する見込みがないと認められる場合、調停委員会は、調停が成立しないものとして事件を終了させられます(同法272条1項本文)。ここでいう合意が成立する見込みがない場合には、当事者の意見が対立している場合だけでなく、出頭しない当事者がいて話合いができない場合も含まれます。
調停が不成立となると、調停の申立ての時に審判の申立てがあったものとみなされ、事件はそのまま審判手続に移行します(同条4項)。審判手続では家庭裁判所が職権で事実の調査を行うため(同法56条1項)、欠席する相続人がいても、最終的には審判によって分割の内容が定まります。
具体的な場面での適用
欠席者以外の当事者の間で合意ができている場合
被相続人Aの相続人がB・C・Dの3名で、Dが期日に出席せず、意向調査にも応じないとします。B・Cの間では分割の内容について合意ができ、Dの相続分も確保されていて、その内容が相当と認められるときは、家庭裁判所が調停に代わる審判を行うことが考えられます。Dは告知を受けてから2週間以内に異議を申し立てられ、適法な異議があれば審判は効力を失って審判手続に移ります。
争いのない遺産だけを先に分ける一部分割(遺産の一部だけを先に分割する方法)についても、欠席した当事者以外の当事者全員に異議がなく、家庭裁判所が他の当事者の利益を害するおそれがないと判断した場合には、調停に代わる審判で行われることがあります。
欠席が続き、合意の見込みがない場合
同じ事案で、Dの意向が把握できず、B・Cの間でも分割の内容がまとまらないときは、調停は不成立となり、事件は審判手続に移ります。審判では、家庭裁判所が相続人の範囲と遺産の範囲を確定したうえで、分割の内容を判断します。
相続人の所在が分からない場合
相続人が行方不明で連絡が取れない場合は、単なる欠席とは扱いが異なります。調停に代わる審判は公示送達によって告知できないため(家事事件手続法285条2項)、所在の分からない相続人がいる事案を、この審判で終わらせることはできません。不在者財産管理人の選任などの手続が必要になり、その進め方は「相続人が行方不明のとき、遺産分割はどう進めればいいですか?」で解説しています。

