不動産を共有で相続したけどいらない!他の相続人に「持分を買い取ってもらう方法」は?
「遺言で不動産をみんなで共有することになったが、持分だけでは意味がない。他の相続人に買い取ってもらえないか・・・」
「他の相続人に共有持分の買取りを求めたが、なかなか応じてくれない・・・」
今、あなたもこのように悩んでいませんか?
いらない不動産の共有持分に関して、同じような悩みを抱え、当事務所にご相談される方が多くおられますので、その気持ちはよく分かります。
そんな悩みを抱えるあなたに、この記事では以下の内容をご紹介します。
・いらない不動産の共有持分を他の相続人に買い取ってもらう方法
・共有物分割における判断基準や考慮要素
・相手の時間稼ぎに対抗する方法
実際、不動産共有の解消方法を知ることで、共有のまま塩漬けになっていた相続不動産の持分を現金化できた方もおられます。
この記事を読み終わった頃には、不動産共有をどのように解消したらいいのかが分かり、相続不動産を共有のまま塩漬けにすることを避けられるでしょう。
相続不動産が「いらない共有持分」になる理由
不動産は単独で所有するだけではなく、共同で所有する場合があります。
共同で所有している状態を「共有」といいます。
相続でよくあるのは、遺言書により、不動産を共有で相続する場合です。
遺言書に「不動産を相続人Aと相続人Bに各2分の1の割合で相続させる」といった記載があれば、その相続不動産は、相続人Aと相続人Bが2分の1ずつ共有することになります。
共同所有者は、共有不動産について、その持分に応じて使用・収益することができます(民法249条)。
たとえば、2人の相続人が賃貸マンションの持分を2分の1ずつ相続したとすれば、両方とも賃料を2分の1ずつ取得します。
相続人全員が賃貸マンションから平等に利益を得ていますので、不動産を共有で相続するメリットはあります。
しかし、共有になった相続不動産が実家で、現在、親と同居していた相続人がそのまま住み続けている場合はどうでしょうか。
相続不動産を使用しているのは相続人の一人だけで、その他の相続人は使用していません。
同じく共有持分を相続したにもかかわらず、相続不動産を使用する相続人と使用ししない相続人が出てくることになり、使用していない相続人にとっては「いらない共有持分」になります。
不動産を共有する負担とリスク
使用・収益できない不動産を共有することは、経済的に意味がないだけでなく、負担やリスクも負います。
たとえば、相続不動産の共有持分は、たとえ持分にすぎないとしても、相続財産であることには変わりありません。
共有持分から利益を得ていなくても、相続税だけはかかります。
不動産の場所がよければ、共有持分だけでもかなりの評価額になりますので、相続税の負担が無駄に重くなります。
また、不動産の共同所有者は、固定資産税等の税金につき、連帯納付義務(連帯債務のようなもの)を負います(地方税法10条の2)。
不動産を使用している共同所有者が固定資産税等を支払わなかった場合、他の共同所有者が支払わなければなりません。
それ以外にも、建物の倒壊で誰かを怪我させた場合の所有者責任(民法717条1項ただし書)など、たとえ不動産を使用していなかったとしても、共同所有者であるがゆえに負担を負います。
このように、不動産を共有すること自体、負担やリスクになります。
共有不動産を使用・収益できないのであれば、共有状態を早期に解消した方が安心できます。
不動産共有を解消する方法「共有物分割請求」
共有物分割請求とは?
地方の山林といった売却困難な不動産であれば、共有持分の評価額は低く、完全なる「負の遺産」になってしまいます。
そのような場合には、共有持分を放棄し(民法255条)、共有関係から抜けることも検討した方がいいでしょう。
しかし、共有持分の評価額が大きい場合、そのまま放棄してしまうのはもったいないです。
他の相続人に買い取ってもらうことを検討した方がいいでしょう。
共有持分を他の相続人に買い取ってもらい、不動産共有を解消する方法を法律は用意しており、「共有物分割請求」といいます(民法256条1項)。
共有物分割請求でできること
共有物分割請求は、あくまでも共有状態の解消を求める権利であり、他の共同所有者に共有持分の買取りを求める権利というわけではありません。
共有状態を解消する方法の一つとして、他の共同所有者が共有持分を買い取ることもできるということです。
共有持分の買取りだけでなく、共同で売却し、売却金を分け合うというのも共有物分割のやり方の一つです。
もっとも、他の相続人が共有不動産に住んでいるのであれば、通常、共同売却ではなく、共有持分の買取りを望むはずです。
そのため、まずは共有不動産に住んでいる他の相続人に対して共有物分割請求をし、共有持分の買い取りを求めることになります。
話し合いで納得できる買取り金額になるのであれば、特に問題はありません。
共有持分の名義変更をし、その代わりに買取り金額を支払ってもらうだけです。
しかし、不動産の評価方法で意見が異なったり、買取り金額の調整ができなかったりして、話し合いが平行線になる場合もあります。
特に、共有不動産に住んでいる相続人は、共有のままでも困りませんので、共有状態の解消に積極的にならないことも考えられます。
共有持分の買取りの話し合いが平行線になった場合には、裁判所を使って共有状態を解消します。
そのための手段が、共有物分割訴訟(民法258条)です。
裁判の中で話し合い(和解)がまとまることもありますし、それでもまとまらない場合、裁判官が最終的に分け方を決めてくれます。
共同所有者間の考え方に大きな違いがあるときには、特に有効な手段となります。
共有持分を不動産業者に売るのもありだが・・・
不動産業者の中には、共有持分をそのまま買い取ってくれるところもあります。
そういった不動産業者に共有持分を売却するというのも、ありといえばありです。
ただし、共有持分は売却市場が限られているため、買取り金額はかなり安くなる可能性があります。
また、買い取った後に不動産業者がやることは、結局、共有物分割請求です。
急いで現金化する必要がないのであれば、不動産業者に安く売るよりも、買取り交渉をしたり共有物分割訴訟をしたりした方が、経済的なメリットはあるかもしれません。
裁判による共有物分割の方法
話し合いで共有持分の買取り金額がまとまらない場合には、他の相続人に対し、共有物分割訴訟を起こすことになります。
裁判による共有物分割について、民法258条では、以下のように定められています。
(裁判による共有物の分割)
第二百五十八条 共有物の分割について共有者間に協議が調わないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
2 前項の場合において、共有物の現物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。
法律上は、共有物分割の方法として、「現物分割」と「競売」が挙げられています(民法258条2項)。
しかし、判例により、共有持分の買取りも認められています(価格賠償)。
現物分割
現物分割は、共有不動産を持分割合に応じて物理的に切り分けるという分け方です。
切り分けられた不動産は単独所有になりますので、普通に売却して現金化できるようになります。
土地は、線を引いて複数のエリアに切り分けます。
建物は、物理的に切り分けることが難しいのが通常ですが、構造上、複数の専有部分に分けられる場合には、区分所有にして切り分けることも可能です。
もっとも、民法258条2項では、
①現物分割ができないとき
②現物分割だと価値が著しく減少するおそれがあるとき
には、現物分割ではなく、競売を命じることができると定められています。
たとえば、元々狭い土地で、物理的に切り分けるとまともに使えなくなってしまう場合や、現物分割後の土地だと建築規制等がかかり、使用が著しく制限されてしまう場合には、現物分割は選択されないのが通常です。
競売(形式的競売)
競売(形式的競売)は、裁判所の手続で入札した人に共有不動産全体を売却し、その売却金を持分割合に応じて分配するという分け方です。
裁判所が強制的に売却を実現しますので、競売手続きで買う人さえいれば、確実に現金化できます。
ただし、競売手続きはただでできるわけではなく、裁判所にそれなりの費用を納める必要があります。
また、競売における入札額は、市場価格よりも低くなる傾向にあります。
競売は双方にとってデメリットが大きく、競売になるくらいなら、しぶしぶでも共同売却に同意するのが一般的です。
価格賠償
価格賠償は、他の共同所有者の共有持分を取得する代わりに、代償金を支払うという分け方です。
この価格賠償という分け方が、共有持分の買取りになります。
民法258条2項には挙げられていませんが、判例で認められている共有物分割の方法です。
ちなみに、価格賠償には、「部分的価格賠償」と「全面的価格賠償」の2種類があります。
「部分的価格賠償」とは、現物分割で共有不動産を分けたときの過不足の調整で代償金を支払うことをいいます。
「全面的価格賠償」とは、共有不動産を一人の共同所有者の単独所有ないし数人の共同所有とし、共有持分を取得した人が他の共同所有者に代償金を支払うことをいいます。
共有持分の代わりに代償金を支払うわけですから、共有持分の買取りをしたのと同じ結果になります。
共有持分の買取りの場面では、価格賠償といえば、「全面的価格賠償」を意味します。
全面的価格賠償の要件
いらない不動産の共有持分を現金化するためには、共有持分の買取りと同じ結果になる全面的価格賠償が最も簡単で、競売よりも価格面でのメリットがあります。
最判平成8年10月31日(民集第50巻9号2563頁)は、全面的価格賠償について、以下のとおりに判示しています。
当該共有物の性質及び形状、共有関係の発生原因、共有者の数及び持分の割合、共有物の利用状況及び分割された場合の経済的価値、分割方法についての共有者の希望及びその合理性の有無等の事情を総合的に考慮し、当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が存するときは、共有物を共有者のうちの一人の単独所有又は数人の共有とし、これらの者から他の共有者に対して持分の価格を賠償させる方法、すなわち全面的価格賠償の方法による分割をすることも許される
つまり、
特定の共同所有者に取得させるのが相当であり、共同所有者間の実質的公平を害しない特段の事情
が存することが全面的価格賠償の要件となります。
相当性
特定の共同所有者に取得させるのが相当かどうかは、様々な事情から判断されます。
具体的には、以下の考慮要素が挙げられています。
- 共有物の性質・形状(現物分割できるかなど)
- 共有関係の発生原因(相続で取得したなど)
- 共有者の数及び持分の割合
- 共有物の利用状況及び部活された場合の経済的価値
- 共有者の希望及びその合理性の有無
実質的公平
実質的公平の内容として、以下の考慮要素が挙げられています。
- 不動産価格の適正評価
- 代償金を支払う資力
つまり、共有持分を適正に評価した上で、取得者がその金額を支払えることが必要になります。
共有持分の買取りを実現するためには、裁判だけでなく話し合いにおいても、これらの判断要素を意識する必要があります。
相手の時間稼ぎには、賃料相当損害金で対抗する
共有不動産を使用している他の相続人は、共有のままでも特に不都合がないため、共有持分の買取りにはなかなか応じないのではないかと思うかもしれません。
しかし、共同所有者の一人が共有不動産を単独で使用していたとしても、他の共同所有者にも共有不動産を使用する権利があります。
そのため、単独で使用している共同所有者に対し、共有持分に応じた賃料相当損害金(使用料のようなもの)を請求できるとするのが判例です(最判平成12年4月7日)。
つまり、共有持分の買取りを長引かせれば長引かせるほど、賃料相当損害金も増えていきますので、こちらが「折れる」のを待ち続ければいいというわけでもありません。
賃料相当損害金をほのめかしながらプレッシャーを与えるなど、話し合いの進め方を工夫し、納得できる買取り金額に近づけましょう。