遺留分と法定相続分についての誤解
法定相続分とは?
遺言などで遺産の分け方を決めていない場合、最終的に誰がどれだけ遺産を取得するかを決める必要があります。
話し合い(遺産分割協議)でまとまれば問題ありませんが、まとまらない場合には、何らかの形で遺産の分け方を決める必要があります。その分け方の基準として法律が定めた一定の割合が法定相続分です。
具体的には、以下のとおりに定められています(民法900条)。
配偶者 | 子供 | 直系尊属 | 兄弟姉妹 | |
配偶者と子供 |
1/2 |
1/2 | ||
子供のみ | 1 | |||
配偶者と直系尊属 | 2/3 | 1/3 | ||
配偶者と兄弟姉妹 | 3/4 | 1/4 |
*複数いる場合は人数で割ります。
たとえば、相続人が配偶者1人・子供2人であれば、配偶者グループで1/2、子供グループで1/2ですので、子供は人数で割り、法定相続分は配偶者:1/2、子供A:1/4、子供B:1/4となります。
なお、遺言書などで遺産の全てについて分け方が決まっている場合には、誰がどれだけ遺産を取得するかは確定していますので、遺産の分け方を決めるための法定相続分は特に考える必要はありません。
法定相続分と遺留分の違い
これに対し、遺留分とは、「遺言でも奪えない」相続人の最低限の取り分をいいます。
法定相続分は遺産の分け方を決めるための制度ですが、遺留分は、遺産の分け方が決まった後、少ししかもらえない相続人を保護するための制度です。問題となる場面も法の趣旨も異なります。
もっとも、遺留分と法定相続分が全く無関係というわけではありません。端的に言いますと、遺留分割合を算定するための要素として、法定相続分も考慮されます。
遺留分割合について、法律では以下のとおりに定められています(民法1042条)。
(遺留分の帰属及びその割合)
第千四十二条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
2 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第九百条及び第九百一条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。
民法1042条1項の割合を総体的遺留分といい、原則として遺産の1/2が相続人全体の遺留分となります。この全体の遺留分割合に法定相続分を乗じることにより、各相続人の遺留分割合(個別的遺留分)が算定できます。
たとえば、前述したとおり、相続人が配偶者1人・子供2人であれば、法定相続分は配偶者:1/2、子供A:1/4、子供B:1/4です。全体の遺留分割合である1/2にそれぞれの法定相続分を乗じれば、各相続人の遺留分割合(個別的遺留分)は配偶者:1/4、子供A:1/8、子供B:1/8となります。
つまり、遺留分権利者は、法定相続分を請求できるのではなく、法定相続分より少ない最低限の取り分のみを請求できることになります。
まとめ
このように、法定相続分と遺留分は、問題となる場面も法の趣旨も異なります。しかし、法定相続分は、全く遺留分と無関係なのではなく、各相続人の遺留分割合、ひいては遺留分額を算定するための要素となります。計算上の問題ではありますが、実際の請求金額に違いが現れますので、正しく理解しておく必要があります。