「介護したから払わない」は通用しない!遺留分請求を「寄与分」で拒否できない法的理由

「母さんの介護をすべて俺がやったんだ。俺には『寄与分』がある。だから何もしていないお前の遺留分なんて、相殺されてゼロになる。一銭も払わない」

遺留分を請求した途端、被相続人と同居していたきょうだいからこのような剣幕で拒絶され、心が折れそうになっていませんか?

「確かに介護を任せきりだったし、私が悪いのかな……」と罪悪感を抱き、引き下がるべきか迷っているなら、ちょっと待ってください。その「介護したから払わない」という理屈は、裁判所では通用しません。

なぜなら、法律の世界において、「遺留分の請求」と「寄与分(介護の功績)」は、計算方法も、決める場所(裁判所)も全く異なる別問題だからです。

この記事では、相手の「寄与分による支払い拒否」が法的に認められない理由と、情に流されず交渉を進めるための「反論封じの交渉術」を解説します。

目次

なぜ?「寄与分」が遺留分に影響しない2つの理由

相手がどれだけ「俺の寄与分は1000万円相当だ!」と主張しても、遺留分の請求額が減ることはありません。これには、法律で定められた明確な「計算方法のルール」と「手続きのルール」という2つの壁があるからです。

①計算方法のルール:遺留分の引き算項目に「寄与分」は入っていない

遺留分の計算方法は、法律で厳格に決まっています。

遺留分の額は、「遺留分を算定するための財産の価額」に、あなたの「遺留分割合」を掛けて算出します。

この「遺留分を算定するための財産の価額」を決める際、計算式は以下のようになります。

【遺留分算定の基礎財産】

=(相続開始時の財産 + 生前贈与した財産)- 相続債務

ここでお気づきでしょうか? この計算式の中に「- 寄与分」という項目は存在しません。

通常の遺産分割協議であれば、寄与分を考慮して取り分を調整することもあります。しかし、遺留分侵害額請求においては、条文上、寄与分を控除して基礎財産を減らす仕組みになっていません。

つまり、相手がどれだけ介護を頑張ったとしても、計算のスタート地点である「基礎財産」の数字は変わらないため、あなたの遺留分請求権も消滅しないのです。

②手続きのルール:地方裁判所は「寄与分」を決める場所ではない

これが最も強力な「反論封じ」の根拠です。

あなたが起こす「遺留分侵害額請求訴訟」は、地方裁判所が管轄する民事訴訟です。

一方で、「寄与分」を決めるのは、家庭裁判所での調停や審判です。

日本の裁判実務では、この2つを明確に区別しています。

もし、相手が遺留分の裁判(地方裁判所)で「俺の寄与分を考慮しろ!」と叫んでも、裁判官はこう返します。

「寄与分については当裁判所(地裁)の管轄ではありません。家庭裁判所で決まっていない以上、ここでは考慮しません」

つまり、手続きの場所が違うため、遺留分の裁判の中で「介護の苦労」を主張しても、門前払いされる運命にあるのです。

判例も支持。「相殺」による支払い拒否は認められない

「介護費として1000万円の価値がある。だからお前の遺留分1000万円と相殺(チャラ)だ」

相手がよく使うこのロジックも、過去の判例によって明確に否定されています。

「ここで介護の話をしても無駄です」と切り捨てる裁判所のスタンス

重要な判例として、東京高裁平成3年7月30日判決があります。

この判例では、遺留分減殺請求(現:遺留分侵害額請求)の訴訟において、被告(請求された側)が寄与分を主張したことに対し、以下のような判断を下しました。

「寄与分は、家庭裁判所の審判等により定められない限り、遺留分減殺請求訴訟において、これを抗弁(反論材料)として主張することは許されない

簡単に言えば、裁判所は「家庭裁判所で正式に決定した書類を持っていない限り、遺留分の裁判で『介護したから払わない』という反論は認めない」というスタンスです。

相手が口先だけで「俺には寄与分がある」と言っても、裁判ではそれを理由に支払いを拒むことはできません。

寄与分を主張したいなら、相手が「家庭裁判所」へ行くしかない

もし相手が本気で寄与分を認めさせたいなら、あなたとの遺留分争いとは別に、相手自身が家庭裁判所に「寄与分を定める申立て」を行わなければなりません。

しかし、これは相手にとって、以下の理由で「茨の道」です。

  • ハードルが高い:親族間の「世話」や「通院の付き添い」程度では寄与分とは認められません。「仕事を辞めて介護に専念した」レベルの「特別の寄与」とそれを裏付ける証拠が必要です。
  • コストがかかる:弁護士費用と年単位の時間がかかります。

多くの相手方は、この「証明の難しさ」と「裁判の手間」を知るとトーンダウンします。「寄与分」という言葉は、あくまであなたを諦めさせるための「ハッタリ」に使われていることが多いのです。

相手への正しい返し方。「話をごちゃ混ぜにしないで」

法的根拠がわかったところで、実際に相手から「介護したから払わない」と言われた際、どう返すのが正解でしょうか。以下、一般的な回答例を伝授します。

「介護の感謝はするが、遺留分は別問題」と伝える交渉術

相手の感情を逆なでせず、かつ、こちらの主張を崩さないためには、「感謝」と「権利」を切り離して伝えることが重要です。

【回答例】

「兄さんが母さんの介護をしてくれたことには、本当に感謝しているし、苦労もわかっているつもりです。

でも、弁護士に確認したところ、法律上『遺留分』と『寄与分(介護の対価)』は計算も手続きも全く別の問題で、相殺することはできない決まりだそうです。

介護の話と相続の権利の話は、分けて話し合わせてもらえませんか?」

「俺の苦労を無視するのか!」と怒鳴られたら、

「無視していません。ただ、寄与分を主張したいなら、それは家庭裁判所で決める必要があるそうです。今の話し合いで『だから払わない』というのは、法律上通らないと言われています」

と、あくまで「法律・ルールのせい」にして淡々と伝えましょう。

情に訴えられても、金額を譲歩する必要はない

相手は「人でなし」「恩知らず」といった言葉で、あなたの罪悪感を刺激してくるかもしれません。しかし、ここで金額を譲歩する必要はありません。

遺留分は、法律があなたに保障している「最低限の権利」です。

もし相手が本当に多額の寄与分(介護の対価)に自信があるなら、堂々と家庭裁判所で証明すればいいだけの話。それをせずにあなたへの支払いを拒むのは、単なる「遺産独り占め」の正当化に過ぎません。

「相殺」という言葉に惑わされず、法定の遺留分額をフルで請求し続けてください。それがあなたの正当な権利行使です。

まとめ:迷わず請求しよう。法はあなたの味方です

「介護の寄与分で相殺」という主張は、遺留分実務においては法的効力のない感情論にすぎません。

  1. 計算式:遺留分の計算において、寄与分を差し引くルールはない。
  2. 手続き:地方裁判所(遺留分)は、家庭裁判所(寄与分)の主張を聞く場所ではない。
  3. 判例:東京高裁などの判例も、家庭裁判所の決定なき寄与分の反論を認めていない。

この3つの盾があれば、相手の剣幕に怯える必要はありません。

相手が引かない場合は、「では、法的手続き(訴訟)で解決しましょう。裁判所は、あなたの寄与分の反論を認めないはずです」と伝え、粛々と請求を進めてください。

法律は、冷静に権利を主張するあなたの味方です。自信を持って交渉を進めましょう。

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