相続不動産の「代償金」をカンタンに計算する方法

目次

遺産分割における代償分割とは何か?

遺言書などで遺産の分け方を決まっていない場合、相続人全員で遺産の分け方を決める必要があります。これを「遺産分割」といいます。

代償分割は、遺産分割のうちの一つになります。

簡単に言えば、

遺産の現物をもらう代わりに、他の相続人にはお金を支払う

という分け方です。

実質的には買取りのようなもので、現物の代わりに支払うお金を「代償金」といいます。

代償分割でよくあるのが、まさに相続不動産です。
なぜなら、現物を分けるのは大変である反面、評価額が大きいので、相続人の一人が相続不動産を取得すると、他の相続人の相続分が減ってしまいます。その減った分を補填しないと、不平等になってしまうからです。

代償分割のメリット

代償分割のメリットは、以下のとおりです。

  • 相続不動産をもらう側:不動産の共有や売却を避け、単独で取得・使用できること
  • 代償金をもらう側:売却の手間をかけずにお金をもらえること

賃貸物件であればともかく、自宅不動産は、住んでいない人にとっては、取得したい遺産ではありません。
むしろ固定資産税や修繕費などの経費がかかりますので、代償金をもらった方がメリットが大きいです。

相続不動産の代償分割で注意すること

相続不動産の代償分割で最も注意すべきことは、

不動産の評価額

です。

たとえば、相続人が2人で、相続財産として自宅不動産があったとします。
一人の相続人から、1億円の不動産だから、2分の1である5000万円を支払うと言われた場合、平等なので問題ないと考えるかもしれません。

しかし、それが平等と言えるのは、不動産の評価額が本当に1億円だったときの話です。
もし不動産の正しい評価額が1億5000万円だったとすれば、本来、代償分割で支払うべきお金は7500万円になります。

つまり、あなたが代償分割で損しないためには、その前提として、

遺産を正しく評価しなければならない

ということです。

相続不動産の評価方法

時価で評価するのが正しい

誤解されがちですが、不動産の評価方法は複数あります。主なものは、公示価格、固定資産税評価、相続税評価(路線価)、不動産業者の簡易査定、不動産鑑定です。

ここで問題なのは、

代償分割における正しい不動産の評価方法

です。結論から言えば、

時価で評価

することになります。

相続税の評価方法とは違うので要注意

税理士から遺産分割協議書が送られてきた場合、相続税評価(路線価)で不動産を評価していることがほとんどです。
相続税申告では、不動産の評価を相続税路線価で算定するからです。

司法書士や行政書士から遺産分割協議書が送られてきた場合は、固定資産税評価で不動産を評価していることが多いです。
固定資産税評価額をお上がバシッと決めていて、評価額の裏付け資料として出しやすいからです。

しかし、相続税評価額も固定資産税評価額も、あくまでも税金を納めるための評価額です。
遺産分割における評価額ではありません。

専門家が言っている評価額ということで、遺産分割でもそのまま受け入れてしまう人がいます。
しかし、先に述べたとおり、遺産分割における評価額は時価です。

そもそも、税理士の仕事は、なるべく相続税を少なくすることといえます。
そのため、遺産の評価額を減らし、相続税を少なくする方向に向いています。

相続税との関係ではいいのですが、代償分割との関係では、

代償金を減らす方向に向いている

ともいえますので注意が必要です。

素人でもカンタンに(一応の)時価を計算できる方法

ここまで言うと、じゃあどうやって時価で評価するんだ、素人でもできるのか、と考えるのではないかと思います。

あります。
素人でもカンタンに(一応の)時価を計算する方法が。

一つ目は、

固定資産税評価額や路線価基準価額を利用し、より時価に近づける方法

です。

固定資産税評価額は公示価格の7割、路線価は公示価格の8割を目途に設定されています(市区町村や国税庁のホームページにも記載されています)。公示価格が時価に近いものと考え、これを逆算すれば、以下のように時価を計算することができます。

  • 固定資産税評価額×10/7
  • 路線価×10/8

二つ目は、

不動産業者の簡易査定を利用する方法

です。

不動産業者の簡易査定書を2~3社から取得し、その平均を時価として考えます。
通常、無料で取得できますので、ハードルは低いです。
特に、相続不動産がマンションの場合、簡易査定を利用することになります。

これらの方法は、小学校レベルの算数で計算できます。
しかも、根拠がありますので、代償金の計算根拠としても成り立ちます。

実際はそこまで単純ではなく、絶対のものと考えると危険ですが、素人相手の説得材料としては通用すると思います。

代償分割には相続人の支払能力が必要

もっとも、代償分割について、家事事件手続法195条は以下のように定めています。

(債務を負担させる方法による遺産の分割)
第百九十五条 家庭裁判所は、遺産の分割の審判をする場合において、特別の事情があると認めるときは、遺産の分割の方法として、共同相続人の一人又は数人に他の共同相続人に対する債務を負担させて、現物の分割に代えることができる。

条文上は「債務を負担させる」とありますが、その典型がお金の支払いになります。

そして、遺産分割の原則は現物分割であり、裁判で代償分割が認められるためには、「特別の事情」が必要です(家事事件手続法195条)。

裁判においては、「特別の事情」は以下の考慮要素で判断されていると解されています。

  1. 以下の①~④のいずれかの事情があるとき
    ①現物分割が不可能
    ②現物分割をすると分割後の財産の経済的価値を著しく損なうため不適当
    ③特定の遺産に対する特定の相続人の占有、利用状態を特に保護する必要がある
    ④代償金を支払う方法によることについて、相続人同士でおおむね争いがない
  2. 代償金を支払うことになる相続人に代償金を支払う能力があること

価値のある遺産を現物でもらう代わりにお金で補填する分け方である以上、そのお金が用意できること、つまり支払能力があることが前提です。

逆に、支払能力がないのであれば、支払義務だけ負担させてもあまり意味はありませんので、代償分割以外の方法を模索した方がいいでしょう。

相続の正しい理解が大事

相続不動産の正しい評価方法を知っていれば、よく分からないまま遺産分割協議書にサインし、代償分割で損をしていまうことを避けられます。しかも、高度な専門知識までは必要ないため、素人でもある程度までは対応できます。

とはいえ、もし話し合いの進め方で悩むことがあれば、遠慮なくご相談ください。
一緒に解決策を考えましょう。

あなたが形だけの円満相続で後悔せず、「法の下の相続」を実現することを祈っています。

目次