【初心者向け】遺留分の計算方法|簡単3ステップで分かる計算式と具体例
「遺言書の内容を見たら、自分の相続分が予想よりずっと少なかった」
「他の兄弟ばかりに生前贈与があったみたいだけど、自分の取り分はどうなるのだろう…」
相続に直面したとき、このような疑問や不安を感じる方は少なくありません。
特に、故人が遺した財産に不動産などが含まれ、ある程度の額になる場合、ご自身の権利について正確に知っておきたいと思うのは当然のことでしょう。
日本の法律では、一定の相続人に対して、最低限保障される相続財産の割合が定められています。
これを「遺留分(いりゅうぶん)」といいます。
この制度を知っているかどうかで、受け取れる財産額が変わってくる可能性もあるのです。
この記事では、相続の知識にあまり自信がない初心者の方でも理解できるように、遺留分とは何か、そしてその計算方法を、簡単3ステップで分かりやすく解説します。
計算式や具体例も交えながら説明しますので、ご自身の状況を把握するための一助となれば幸いです。
はじめに:遺留分とは?計算の前に知っておきたい基本知識
まず、「遺留分」という言葉自体を初めて聞く方もいらっしゃるかもしれません。
遺留分とは、簡単に言うと「亡くなった方(被相続人)の財産について、一定の相続人に法律上最低限保障されている取り分」のことです。
日本の法律では、遺言によって財産の分け方を自由に決められる「遺言自由の原則」があります。
しかし、それによって特定の相続人が全く財産を受け取れなくなったり、生活に困窮したりする事態を防ぐため、また、相続人間の公平を図るために、遺留分という制度が設けられています(民法第1042条)。
では、どのような場合に遺留分の計算が必要になるのでしょうか?
具体的には、以下のようなケースが考えられます。
- 遺言書に「特定の相続人に全財産を相続させる」と書かれている場合
- 遺言書に書かれた自分の相続分が、法定相続分(法律で定められた相続割合)より著しく少ない場合
- 生前に、他の相続人や第三者へ多額の贈与がされていたことが判明した場合
もし、ご自身の受け取る相続分が、本来保障されているはずの遺留分よりも少ない(これを「遺留分が侵害されている」状態といいます)可能性がある場合には、その不足分を取り戻すための請求(遺留分侵害額請求)を検討することになります。
その第一歩として、ご自身の遺留分がいくらになるのかを知ることが重要です。
遺留分は誰がもらえるの?権利者の範囲をまず確認
遺留分は、全ての相続人に認められているわけではありません。
法律で遺留分を持つ権利者(遺留分権利者)と定められているのは、以下の範囲の相続人に限られます(民法第1042条第1項)。
- 配偶者(法律上の夫または妻)
- 子(子が既に亡くなっている場合は、その子、つまり孫などの代襲相続人)
- 直系尊属(父母、祖父母など。子がいない場合に相続人となる)
重要な点として、被相続人の兄弟姉妹には遺留分は認められていません。
たとえ遺言で兄弟姉妹に全く財産が与えられなかったとしても、遺留分を主張することはできません。
また、後ほど詳しく説明しますが、遺留分として保障される財産の割合(遺留分割合)は、誰が遺留分権利者になるかによって異なります。
まずは、ご自身が上記の遺留分権利者に該当するかどうかを確認しましょう。
遺留分計算の基礎となる財産(基礎財産)を把握しよう
遺留分の具体的な金額を計算する上で、まず「いくらの財産を基準に計算するのか」を明らかにする必要があります。
この計算の基準となる財産のことを「基礎財産」と呼びます。
基礎財産は、以下の計算式で求められます。
基礎財産 = ① 相続開始時の積極財産(プラスの財産) + ② 考慮される生前贈与 - ③ 相続債務(マイナスの財産)
それぞれ詳しく見ていきましょう。
① 相続開始時の積極財産(プラスの財産)
これは、亡くなった方が亡くなった時点(相続開始時)で所有していたプラスの財産のことです。
具体的には、以下のようなものが含まれます。
- 現金、預貯金
- 土地、建物などの不動産
- 株式、投資信託などの有価証券
- 自動車、貴金属、骨董品など
- 貸付金などの債権
これらの財産は、原則として、相続開始時の時価(市場価格)で評価されます。
もっとも、不動産や非上場株式などは評価が難しい場合もあります。
② 考慮される生前贈与
遺留分の計算では、亡くなる前に特定の相続人や第三者へ贈与された財産の一部も、基礎財産に含めて計算します。
これは、生前贈与によって遺留分が不当に少なくなることを防ぐためです。
どのような生前贈与が対象になるかは、贈与の相手や時期によって異なります。
- 相続人に対する贈与(特別受益に該当するもの):
原則として、相続開始前10年間に行われたものが対象となります(民法第1044条第3項)。
例えば、特定の子供だけにマイホームの購入資金を援助した場合などがこれに当たります。 - 相続人以外(第三者)に対する贈与:
原則として、相続開始前1年間に行われたものが対象となります(民法第1044条第1項)。
ただし、贈与した側(被相続人)と受け取った側の双方が、その贈与によって遺留分権利者の遺留分を侵害することを知っていた(悪意)場合は、1年以上前の贈与も対象となる可能性があります。
生前贈与の扱いは遺留分計算の中でも複雑な部分ですので、どのような贈与があったかを正確に把握することが大切です。
③ 相続債務(マイナスの財産)
亡くなった方が負っていた借金や未払いの税金などのマイナスの財産(相続債務)は、基礎財産の計算上、プラスの財産から差し引かれます。
- 借入金(ローンなど)
- 未払いの医療費、税金など
これらのプラスの財産、考慮すべき生前贈与、マイナスの財産を全て把握し、上記の計算式に当てはめることで、遺留分計算の基礎となる「基礎財産」の額が確定します。
遺留分の計算方法を簡単3ステップで実践!
基礎財産の額が分かったら、いよいよ具体的な遺留分の計算に入ります。
ここでは、簡単3ステップで計算を進めていきましょう。
ステップ1:基礎財産の価額を計算する
これは、前のセクション「遺留分計算の基礎となる財産(基礎財産)を把握しよう」で説明した計算です。
まずは、この基礎財産の総額を確定させます。
基礎財産 = 相続開始時の積極財産 + 考慮される生前贈与 - 相続債務
ステップ2:総体的遺留分(全体の遺留分額)を計算する
次に、基礎財産全体に対して、遺留分として確保されるべき割合(総体的遺留分割合)を掛け合わせて、遺留分権利者全体で保障される遺留分の総額(総体的遺留分)を計算します。
総体的遺留分割合は、原則として基礎財産の2分の1です。
ただし、遺留分権利者が直系尊属(父母や祖父母)のみの場合は、3分の1となります(民法第1042条)。
遺留分権利者の構成 | 総体的遺留分割合 |
---|---|
配偶者のみ、子のみ、配偶者と子、配偶者と直系尊属など | 1/2 |
直系尊属のみ | 1/3 |
計算式は以下の通りです。
総体的遺留分 = 基礎財産 × 総体的遺留分割合 (1/2 または 1/3)
ステップ3:個別的遺留分(自分の遺留分額)を計算する
最後に、ステップ2で計算した遺留分権利者全体の遺留分総額(総体的遺留分)に、ご自身の法定相続分(法律で定められた相続割合の目安)を掛け合わせます。
これにより、個々の遺留分権利者が持つ具体的な遺留分の金額(個別的遺留分)が算出されます。
法定相続分は、誰が相続人になるかによって異なります。
例えば、相続人が配偶者と子供2人の場合、配偶者の法定相続分は1/2、子供1人あたりの法定相続分は1/4(= 子全体の1/2 × 1/2)となります。
個別的遺留分の計算式は、以下のとおりです。
個別的遺留分 = 総体的遺留分 × 法定相続分
このステップ3で算出された金額が、あなたが法律上最低限保障されている遺留分の額となります。
具体例で理解!遺留分の計算シミュレーション
ここまでの計算ステップを、具体的なケースに当てはめてシミュレーションしてみましょう。
シミュレーション1:相続人が配偶者と子供2人、基礎財産が6000万円のケース
- ステップ1:基礎財産の価額
→ 6000万円 - ステップ2:総体的遺留分の計算
→ 基礎財産 6000万円 × 総体的遺留分割合 1/2 = 3000万円 - ステップ3:個別的遺留分の計算
→ 配偶者の法定相続分は1/2、子供1人あたりの法定相続分は1/4(= 子全体の1/2 × 1/2)
・配偶者の遺留分:総体的遺留分 3000万円 × 法定相続分 1/2 = 1500万円
・子供1人あたりの遺留分:総体的遺留分 3000万円 × 法定相続分 1/4 = 750万円
シミュレーション2:相続人が子供3人のみ、基礎財産が9000万円のケース
- ステップ1:基礎財産の価額
→ 9000万円 - ステップ2:総体的遺留分の計算
→ 基礎財産 9000万円 × 総体的遺留分割合 1/2 = 4500万円 - ステップ3:個別的遺留分の計算
→ 子供1人あたりの法定相続分は1/3
・子供1人あたりの遺留分:総体的遺留分 4500万円 × 法定相続分 1/3 = 1500万円
シミュレーション3:相続人が配偶者と子供1人、相続財産4000万円、子供への生前贈与(10年以内)2000万円のケース
- ステップ1:基礎財産の価額
→ 相続財産 4000万円 + 生前贈与 2000万円 - 相続債務 0円 = 6000万円 - ステップ2:総体的遺留分の計算
→ 基礎財産 6000万円 × 総体的遺留分割合 1/2 = 3000万円 - ステップ3:個別的遺留分の計算
→ 配偶者の法定相続分は1/2、子供の法定相続分は1/2
・配偶者の遺留分:総体的遺留分 3000万円 × 法定相続分 1/2 = 1500万円
・子供の遺留分:総体的遺留分 3000万円 × 法定相続分 1/2 = 1500万円
(※このケースでは、子供は既に2000万円の生前贈与を受けているため、自身の遺留分1500万円は満たされています。もし遺言で配偶者の取り分が1500万円未満だった場合、配偶者は遺留分侵害額請求を検討することになります。)
これらのシミュレーションのように、ご自身の状況に合わせてステップごとに計算を進めることで、遺留分の目安額を把握することができます。
遺留分計算で注意すべきポイント
遺留分の計算は、基本的なステップを理解すればご自身でもある程度の概算は可能です。
しかし、実際の相続ではさらに注意すべき点がいくつかあります。
- 不動産や非上場株式などの評価
これらは現金や預貯金と違い、評価額の算定が難しい場合があります。
特に不動産は評価方法によって金額が大きく変わることもあり、基礎財産の額に影響します。
専門家による評価が必要となるケースも少なくありません。 - 生命保険金の扱い
亡くなった方が契約者・被保険者で、特定の相続人が受取人に指定されている生命保険金は、原則として受取人固有の財産とされ、遺留分計算の基礎財産には含まれません。
ただし、保険金額が極端に高額で、他の相続人との間に著しい不公平が生じるような特別な事情がある場合には、例外的に考慮される可能性も判例(裁判所の過去の判断例)で示されています。 - 遺留分侵害額請求の期限(時効):
もし、ご自身の遺留分が侵害されていることが分かり、その不足分を請求(遺留分侵害額請求)する場合、期限(時効)があることに注意が必要です。
具体的には、「遺留分を侵害されている事実」と「遺留分を侵害する贈与や遺贈があったこと」の両方を知った時から1年間、または相続開始の時から10年間が経過すると、請求する権利が消滅してしまいます(民法第1048条)。
遺留分が気になる場合は、早めに状況を確認することが大切です。
これらの点は、遺留分の計算や権利主張において重要な要素となります。
まとめ:遺留分計算の基本を押さえ、ご自身の状況を確認しましょう
この記事では、初心者の方にも分かりやすく、遺留分の基本的な考え方と計算方法を3つのステップで解説しました。
- 遺留分とは、法律で最低限保障された相続人の取り分であること。
- 遺留分権利者は配偶者、子(代襲相続人)、直系尊属に限られること。
- 計算は、①基礎財産を把握し、②全体の遺留分額を算出し、③ご自身の法定相続分を掛けて個別額を出す、という3ステップで行うこと。
- 計算の基礎となる財産には、生前贈与の一部も含まれる場合があること。
相続、特に遺留分に関する問題は、感情的な対立も絡みやすく、精神的な負担を感じることも少なくありません。
しかし、ご自身の正当な権利である遺留分について、まずは基本的な計算方法を知っておくことは、冷静に状況を把握し、次の一歩を考える上で非常に重要です。
今回の記事を参考に、まずはご自身のケースで遺留分の概算を試してみてはいかがでしょうか。
財産の評価が複雑だったり、生前贈与の状況が不明瞭だったりして正確な計算が難しい場合もあるかもしれませんが、基本的な仕組みを理解することは、きっと今後の助けになるはずです。
相続に関する悩みは複雑ですが、正しい知識を持つことで、少しでも前向きに進むための一助となれば幸いです。