「正しい遺留分」を計算・請求するための5つのポイント

目次

ポイント1:預貯金口座を細かく調べる

生前贈与も遺留分の計算に反映する必要がある

弁護士や税理士などの専門家が遺言執行者になっている場合、遺産目録という書類が送られてきます。

遺産目録は被相続人(亡くなった方)が有していた財産のリストですが、あくまでも「亡くなった時点の」遺産と評価額が記載されているにすぎません。遺留分の請求金額を正しく算出するためには、遺産目録に出てこない「生前贈与」を発見し、遺留分の計算に反映させる必要があります。

たとえば、亡くなる前に預貯金口座から多額の送金があり、それが相続人の一人に対する生前贈与であった場合、原則として、その生前贈与は遺留分の計算に組み込まれます。
生前贈与を遺留分の計算に組み込むと、多くの場合、遺留分権利者の請求金額が増えます。

しかし、遺産目録に記載されている金額は、あくまでも「亡くなった時点の」預貯金額=生前贈与で減った預貯金額です。
その減った預貯金額を計算式に当てはめてみても、「正しい遺留分」の請求金額は出せません。

また、亡くなる前に定期預金や証券口座を解約し、相続人の一人に生前贈与していた場合も、原則として、その生前贈与は遺留分の計算に組み込まれます。

しかし、遺産目録に解約済みの定期預金や証券口座は出てきませんので、遺産目録だけ見ていても生前贈与の存在に気が付きません。

生前贈与を発見するには預貯金口座の調査が必須

生前贈与をもらった相続人が自分からカミングアウトすることは期待できませんので、遺留分を請求する相続人の方で積極的に調査をする必要があります。そして、生前贈与を発見するための最重要書類が、預貯金口座の通帳ないし取引明細書になります。

たとえば、相続人や親族への振込みがあれば、生前贈与の可能性があります。少なくとも、何のために振り込まれたのかは説明を求めるのが通常です(特に金額が大きい場合)。

定期預金への積立があれば、過去、定期預金があったことになります。その定期預金が解約されているのであれば、他の口座に入金されていないかを調査し、他の口座に入金されていないのであれば、解約金が生前贈与された可能性があります。

証券会社からの入金があれば、株式配当の可能性があり、株式取引をしていたことが分かります。証券会社からも取引明細を取り寄せ、証券口座が残っていれば、遺留分の計算に反映させます。証券口座が解約されていれば、定期預金と同様、お金の行方を調査し、生前贈与があれば、遺留分の計算に反映させます。

このように、生前贈与を遺留分の計算に反映させ、正しい遺留分の請求金額を算出するためには、預貯金口座を細かく調べ、「生前のお金の動き」を推測する作業が必須となります。

ポイント2:遺産目録に記載された評価額を鵜呑みにしない

遺産目録には不動産や同族株式の評価額が記載されるのが通常ですが、固定資産税評価額や相続税評価額が記載されていることがほとんどです。

結論から言えば、固定資産税評価額や相続税評価額は納税のための評価額であり、遺留分計算における評価額とは異なります。遺留分計算における評価額はあくまでも時価です。

特に、相続税申告の場面では、支払う相続税が少なければ少ないほど相続人全体にとってメリットがあります。そのため、相続税申告における遺産評価は、評価額を下げる方向に行くのが通常です。

たとえば、不動産であれば、「小規模宅地等の特例」という税務特例があります。相続税路線価から最大8割も評価額が下がる税務特例で、遺留分でもこの評価額を前提に計算すると、遺留分の金額は著しく下がります。

また、同族株式でも、会社資産を簿価で評価していれば、株式評価額が低く抑えられている可能性が高いため、不動産だけでも時価で評価し直すことを検討すべきです。

このように、遺産目録に記載された不動産・同族株式の評価額は、遺留分計算における評価額とは異なります。
遺産目録の評価額をそのまま鵜呑みにすると、遺留分が著しく減り、最悪、ゼロになる可能性もありますので、正しい評価方法で算定し直す必要があります。

ポイント3:遺留分の計算を自己流でやらない

遺留分についてインターネット等で調べ、法定相続分×1/2とだけ計算する方がいます。

しかし、前述したとおり、遺留分の計算においては、生前贈与も反映させる必要がありますし、不動産や同族株式を正しい評価方法で算定し直す必要もあります。

遺留分を自己流で計算してもそれっぽい金額が出てきますが、そもそもの前提が間違っている可能性がありますので、弁護士と相談しながら正しく計算することが必要です。

ポイント4:債権回収と同じ発想で考えることも必要

相続法の改正により、遺留分は金銭の請求になりました。
そのため、「正しい遺留分」の支払いを拒否された場合、債権回収と同じ発想で考える必要があります。

債権回収全般で言えることですが、「支払うお金がない」という主張があたかも正当な反論であるかのようになされる場合があります。
しかし、貸したお金を返すのは当然であるように、「正しい遺留分」を支払うのも当然です。
話し合いで落としどころを探るということであればいいのですが、反論の形で出されても困ります。

不動産を相続したのであれば、それを売却することができますし、売却が嫌であれば、担保に入れてお金を借りることもできます。そもそも、本当に支払うお金がないかどうかも分かりません。
1000万円持っていても、将来のことが心配だから、遺留分に支払うお金はないという意味かもしれません。

また、債権回収の大敵は財産隠しですが、2020年4月に施行された改正民事執行法により、債務者の財産の発見・特定が容易になりました。実際に強制執行までするかどうかはケースバイケースですが、今までよりも強制執行のハードルは下がりますので、「支払うお金がない」という一方的な反論に屈する必要はなくなりました。

ポイント5:交渉段階で諦めてしまわない

裁判はある程度時間がかかりますので、交渉で納得できる金額になるのであれば、交渉で終了させた方がいいのはもちろんです。また、遺留分は親族間のお話ですので、裁判といった大げさなことはしたくないという気持ちも分かります。

しかし、すでにもらうものをもらっている相続人がすんなり遺留分を支払ってくれるとは限りませんし、実際、なかなか支払おうとしないケースもよくあります。

また、支払うとしても、「正しい遺留分」を支払う保証は全くありません。
当事者間では白黒つけられない論点も多々ありますので、交渉段階でのやり取りではモヤモヤが残ってしまうのであれば、変に妥協するより裁判を起こした方がいい場合もあります。

さらに、前述のとおり、改正民事執行法により、強制執行のハードルが下がりました。
裁判になれば、相手も裁判の先にある強制執行を意識しなければなりませんので、裁判上の和解でも強い立場を維持できます。
判決が出れば、実際に財産を差し押さえ、強制的に遺留分を回収することもできます。

実際に強制執行までするかどうかはともかく、交渉での解決ありきですと、強制力を「意識」させることすらできず、相手のペースで話し合いが進みがちです。「正しい遺留分」を取り戻すためには、少なくとも相手に強制力を「意識」させることは必要です。そのため、交渉段階で簡単に諦めてしまわないことが重要なポイントになります。


目次