遺留分を支払わない相手には遅延損害金で対抗!
遺留分の制度はお金の請求に変わった
遺留分は、法律で認められた相続人の最低限の取り分です。
被相続人(亡くなった人)の意思でも奪えない法的な権利ですので、たとえ不公平な遺言書があっても、最低限、遺留分までは請求できます。
過去、遺留分の請求は「遺留分減殺請求」と呼ばれていましたが、相続法の改正により、「遺留分侵害額請求」に変わりました。大きな変更点は、相続財産の一部を現物で請求するのではなく、お金の請求になったことです。この遺留分の性質変更は「遅延損害金」の発生時期にも影響を与えます。
遅延損害金とは?
遅延損害金とは、支払いが滞った場合の利息のようなものです。金銭債務を支払わなくてもペナルティがないのであれば、そのまま支払わない状態を続けたとしても問題ないことになります。しかし、支払いを遅らせれば遅らせるほど遅延損害金が膨らむのであれば、不合理な支払い拒絶を続けることはできなくなります。
遺留分もお金の請求ですので、支払いをしない場合、遅延損害金も併せて請求することで、支払いを促す効果があります。
なお、遅延損害金として請求できるのは、原則として年3%の割合の金銭です(民法404条2項)。
以前は5%でしたが、近時の民法改正により、原則として3%に変わりました。
(金銭債務の特則)
第四百十九条 金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。
(以下、省略)
(法定利率)
第四百四条 利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、その利息が生じた最初の時点における法定利率による。
2 法定利率は、年三パーセントとする。
3 前項の規定にかかわらず、法定利率は、法務省令で定めるところにより、三年を一期とし、一期ごとに、次項の規定により変動するものとする。
(以下、省略)
しかし、遺留分1000万円を1年間支払わなければ、遅延損害金として30万円が加算されますので、定期預金に入れておくよりも遥かに利率はいいです。相手の負担もそれなりにありますので、引き延ばし戦術への対抗手段になります。
遅延損害金の発生時期はいつ?
遺留分侵害額請求権は、遺留分の権利を行使する旨の意思表示をすることで発生します。
必ずしも最初の意思表示の時点で具体的な金額を示す必要はなく、権利行使の意思表示をすれば足ります。
しかし、この段階での金銭債務(遺留分をお金で支払う義務)は、支払期限の定めのない債務となり、遺留分権利者が具体的な金額を示して支払いを求めた時点で初めて履行遅滞(支払いが遅れること)になるものと考えられています(民法412条3項)。
したがって、遺留分侵害額請求で、遅延損害金も併せて請求するためには、遺留分侵害額を算定し、具体的な金額を示して支払いを求める必要があります。逆に言えば、それまでは遅延損害金を支払う必要がありませんので、相手ものんびりしていられます。
早く遺留分侵害額を算定し、遅延損害金も併せて請求すれば、相手にプレッシャーを与え、遺留分問題を早期解決に導くことができます。
ただし、遅延損害金を請求すれば、必ず早期解決ができるというわけではありません。
弁護士相手なら遅延損害金の圧力に屈することはまずありませんし、相手を刺激して逆に早期解決が遠のく場合もあります。
相手のキャラクターや今までの関係性なども考慮し、バランスを取りながら慎重に進める必要があります。