遺留分の支払を寄与分で拒否できないのはなぜ?
遺留分の計算では寄与分は考慮されない
寄与分とは、被相続人(亡くなった人)の遺産形成に貢献した相続人の取り分を増やし、実質的な公平を図る制度で、ごく簡単に言うと、貢献をした相続人の相続分が増えます(民法904条の2)。
このように考えると、遺留分でも寄与分が考慮されるようにも思えます。特に、遺言で多くの遺産をもらう相続人は、最後に被相続人の面倒を見ていた相続人であることが多く、寄与分を主張しがちです。しかし、結論から言うと、遺留分の算定においては、寄与分は考慮されません。
遺留分算定の基礎となる財産(「遺留分を算定するための財産の価額」)は、法律上、以下のとおりに計算します。
「遺留分を算定するための財産の価額」
=相続開始時における相続財産の額+相続人に対する生前贈与(婚姻・養子縁組のための贈与と生計の資本として受けた贈与のみ)の額(原則10年以内)+相続人以外の第三者に対する生前贈与の額(原則1年以内)-被相続人(亡くなった方)の債務の額
この計算式において、寄与分は入っていません。
つまり、遺留分の算定において、法律上、生前贈与や相続債務は影響しますが、寄与分は影響しないことになります。
裁判所の寄与分認定に対して遺留分は請求できないが…
寄与分は、相続人同士で協議が整わない場合、家庭裁判所が審判で定めます。
仮に家庭裁判所の審判で遺留分を侵害する程度の寄与分が認められた場合、裁判所の認定に対して遺留分を請求できるかが一応問題になります。
この点、民法904条の2第2項では、「前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項に規定する寄与をした者の請求により、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める。」とされており、遺留分についての言及はありません。
また、遺留分の対象として明示されているのは贈与と遺贈(いわゆる「相続させる遺言」も含む)であり、寄与分の審判は対象とされていません。つまり、理論上は、遺留分を侵害する寄与分を認定することは可能で、それに対して遺留分を請求できないことになります。
もっとも、実務上は、寄与分の認定に際し、民法904条の2第2項の「その他一切の事情」の中で遺留分が考慮されることが多く、遺留分を侵害する寄与分が認定されるのは、極めて限定的な場合に限られると考えられています。
遺留分請求訴訟では、寄与分を理由に支払いを拒否できない
上記のとおり、理論的には、遺留分を超えた寄与分を認定することは可能なため、遺留分侵害額請求訴訟において、寄与分を反論として出すことも考えられます。
しかし、寄与分の認定は家庭裁判所の審判手続において行われますが、遺留分侵害額請求(旧遺留分減殺請求訴訟)は地方裁判所の訴訟手続において行われます。東京高判平成3年7月30日は、この裁判管轄の違いを考慮し、遺留分減殺請求訴訟において、寄与分を反論として出すことはできないと判示しました。
話し合いレベルで事実上主張してくることは考えられますが、訴訟では認められないため、請求する側が寄与分の主張に応じる必要はありません。
ただし、法律を振りかざし、相手がしてきた寄与そのものを否定するかような態度はよろしくありません。
寄与そのものは素直に認め、そうはいっても最低限の相続分はあるというスタンスの方がうまく行きます。
相続はとにかく「バランス感覚」が大事です。
まとめ
寄与分は、遺留分の算定そのものには影響しませんが、寄与分審判では、理論上、遺留分を侵害する可能性もあるということになります。
少し分かりにくい理屈ですが、実務上、寄与分が遺留分に影響を与えることはほぼありません。多くを相続した時点で、寄与分も考慮されていると考えることになります。