相続手続きは無料でできる?費用をかけずに自分で進める方法と注意点
大切な方がお亡くなりになり、深い悲しみの中、相続という現実に向き合わなければならない…
多くの方が、そんな経験をされることと思います。
相続手続きは、故人の遺志を継ぎ、遺された財産を次の世代へと引き継ぐための重要なプロセスですが、同時に「どんな手続きが必要なの?」「費用はどれくらいかかるのだろう?」といった不安や疑問も尽きないものです。
特に、専門家に依頼すると高額な費用がかかるというイメージから、「できれば費用をかけずに自分で手続きを済ませたい」と考える方も少なくないでしょう。
インターネットで情報を集めようとしても、断片的な情報が多く、全体像を掴むのが難しいと感じることもあるかもしれません。
この記事では、そんなお悩みをお持ちの方のために、相続手続きを自分で進めることで費用を抑える具体的な方法、ご自身で対応可能な手続きの種類、そしてその際に注意すべき点について、相続の流れに沿って分かりやすく解説します。
相続手続きを自分でやるための完全ガイドとして、手続きの全体像を理解し、費用を抑えながらも円滑に相続を進めるための一助となれば幸いです。
相続手続きは本当に「無料」でできるのか?
結論:すべて無料は難しいが、費用を大幅に抑えることは可能
まず、多くの方が疑問に思われる「相続手続きは完全に無料でできるのか?」という点についてお答えします。
結論から言うと、すべての手続きを完全に無料で行うことは難しいです。
なぜなら、戸籍謄本や住民票、不動産の登記簿謄本(登記事項証明書)といった公的な書類を取得するには、必ず実費(発行手数料など)がかかるからです。
また、不動産の名義変更(相続登記)には登録免許税という税金がかかりますし、相続税が発生する場合は納税も必要です。
しかし、弁護士や司法書士、税理士といった専門家に手続きの代行を依頼した場合にかかる「専門家報酬(手数料)」の部分は、自分で手続きを行うことで大幅に削減、あるいはゼロにすることが可能です。
つまり、「実費はかかるけれど、専門家への報酬を節約することで、相続手続きの費用を抑えることは十分に可能」と言えます。
専門家に依頼した場合にかかる費用の目安(参考情報として)
参考までに、専門家に相続手続きを依頼した場合、どのような費用がかかるのかを知っておくことも、自分でやるかどうかを判断する上で役立ちます。
依頼する専門家(弁護士、司法書士、税理士、行政書士など)や依頼内容(遺産分割協議の代理、相続登記のみ、相続税申告など)によって費用は大きく異なります。
- 司法書士
主に不動産の名義変更(相続登記)や、遺産分割協議書作成のサポートを行います。相続登記だけであれば数万円~十数万円程度が相場ですが、戸籍収集や遺産分割協議書作成も依頼すると費用は加算されます。 - 税理士
主に相続税の申告が必要な場合に依頼します。遺産総額に応じて費用が決まることが多く、数十万円~百万円以上になることもあります。 - 弁護士
相続人間での争い(遺産分割協議がまとまらない、遺留分侵害額請求など)がある場合に、代理人として交渉や調停・審判の手続きを行います。着手金と成功報酬が必要となる場合が多く、総額は高額になる傾向があります。 - 行政書士
主に遺産分割協議書の作成や、預貯金の解約手続きなどのサポートを行います。比較的費用は抑えられますが、登記申請や紛争解決の代理はできません。
これらの費用を節約できるのが、自分で手続きを行う最大のメリットと言えるでしょう。
相続手続きの費用を抑えるための考え方:自分でできることは自分でやる
費用を抑えるための基本戦略はシンプルです。
「自分でできることは、できる限り自分でやる」ということです。
もちろん、すべての手続きを一人で抱え込む必要はありません。
複雑で難しいと感じる部分や、どうしても時間がない場合は、その部分だけ専門家のサポートを検討するという方法もあります。
大切なのは、まず相続手続きの全体像を理解し、どの部分が自分で対応できそうか、どこに費用がかかるのかを知ることです。
その上で、ご自身の状況(時間的余裕、手続きの複雑さ、相続人間の関係など)に合わせて、最適な進め方を選択していくことが重要になります。
相続手続きの流れと「自分でやる」範囲
相続発生から完了までの一般的な流れ
相続手続きは、一般的に以下の流れで進んでいきます。
まずは全体像を掴みましょう。
- 死亡届の提出・葬儀
- 遺言書の有無の確認(あれば家庭裁判所で検認手続き ※公正証書遺言を除く)
- 相続人の調査・確定(戸籍謄本の収集)
- 相続財産の調査・評価(預貯金、不動産、株式、借金など)
- 相続方法の決定(単純承認、相続放棄、限定承認 – 3ヶ月以内)
- 遺産分割協議(相続人全員で遺産の分け方を話し合う)
- 遺産分割協議書の作成
- 各種財産の名義変更・解約手続き(預貯金、不動産、株式など)
- 所得税の準確定申告(必要な場合 – 4ヶ月以内)
- 相続税の申告・納付(必要な場合 – 10ヶ月以内)
- (遺留分侵害がある場合)遺留分侵害額請求(遺留分侵害を知ってから1年以内)
※上記は一般的な流れであり、個別のケースによって順番が前後したり、不要な手続きがあったりします。
相続手続きはどこまで自分でできる?主な手続き一覧
上記の流れの中で、比較的ご自身で進めやすい手続きと、専門的な知識が必要になる可能性がある手続きを見てみましょう。「自分でどこまでできるか」の目安になります。
手続きの種類 | 自分でやりやすいか? | 備考・注意点 |
---|---|---|
死亡届の提出 | ◎(比較的容易) | 通常、葬儀社が代行してくれることも多い |
遺言書の検認申立て | ○(書類作成・提出) | 手続き自体は可能だが、遺言書の有効性で争いがあれば複雑化 |
相続人の調査(戸籍収集) | △(時間と手間がかかる) | 故人の出生から死亡までの連続した戸籍が必要。古い戸籍(改製原戸籍・除籍謄本)の収集は大変な場合も |
相続財産の調査 | △(網羅性が重要) | 預貯金、不動産、株式、保険、借金など、すべての財産を漏れなく把握する必要がある |
相続放棄・限定承認の申立て | △(期限厳守・書類作成) | 家庭裁判所への申立てが必要。3ヶ月の期限は非常に短い |
遺産分割協議 | △(相続人間の合意形成) | 相続人全員の合意が必要。関係性が良好ならスムーズだが、揉めると長期化・複雑化しやすい |
遺産分割協議書の作成 | ○(書式・内容は重要) | 後々のトラブル防止のため、正確な記載が必要。無料テンプレートもあるが、内容の妥当性は自己責任 |
預貯金の解約・名義変更 | ○(金融機関ごとに手続き) | 必要書類を揃えれば可能だが、金融機関ごとに手順が異なる場合がある |
不動産の名義変更(相続登記) | △(専門知識・書類作成) | 法務局への申請が必要。2024年4月から義務化。必要書類が多く、申請書の作成も複雑な場合がある |
株式等有価証券の名義変更 | ○(証券会社ごとに手続き) | 証券会社や信託銀行への手続きが必要 |
相続税申告 | ▲(専門知識が必要) | 税額計算や特例適用の判断は複雑。税理士に依頼するのが一般的 |
準確定申告 | ▲(専門知識が必要) | 故人の所得税申告。税理士に依頼することが多い |
自分で進めやすい手続き、注意が必要な手続き
上の表からも分かるように、死亡届の提出や、相続財産が少なく相続人も限定されている場合の預貯金解約などは、比較的ご自身で進めやすい手続きと言えます。
遺産分割協議書の作成も、相続人全員が円満に合意できている状況であれば、無料のテンプレートなどを活用して自分で作成することは可能です。
一方で、戸籍謄本の収集は、故人の本籍地が転々としていたり、古い戸籍(読み取りにくい毛筆書きの「改製原戸籍」や、結婚・転籍で除かれた「除籍謄本」)が必要になったりすると、かなりの時間と手間がかかります。
相続財産の調査も、故人がどのような財産を持っていたか正確に把握していないと、漏れが生じるリスクがあります。特に不動産や非公開株式、借金などは見落としやすいポイントです。
遺産分割協議は、相続人同士の関係性が良好であれば問題ありませんが、少しでも意見の対立があると、話し合いが長期化し、感情的なしこりを残すことにもなりかねません。
また、相続登記は手続き自体が複雑な上、2024年4月1日から義務化され、正当な理由なく怠ると過料の対象となる可能性もあります。
相続放棄や相続税申告のように、明確な期限が定められている手続きは特に注意が必要です。
期限を過ぎてしまうと、多額の借金を背負うことになったり、納める必要のない税金を払うことになったりするリスクがあります。
【ステップ別】費用をかけずに自分で進める相続手続き
ここからは、相続手続きの各ステップについて、自分で進める場合の具体的な方法やポイント、かかる実費などを詳しく見ていきましょう。
ステップ1:相続の開始と初期対応
- 死亡届の提出
- 通常、亡くなった日から7日以内に市区町村役場へ提出します。
- 多くの場合、葬儀社が代行してくれます。自分で提出する場合も、費用はかかりません(診断書の費用は別途)。
- 遺言書の有無の確認
- 故人が遺言書を遺していないか確認します。自宅(仏壇、金庫、机の引き出しなど)や、貸金庫、公証役場、信託銀行などを探します。
- 自筆証書遺言(自分で書いた遺言書)が見つかった場合、勝手に開封してはいけません。家庭裁判所で「検認」という手続きが必要です。
- 検認申立ては自分で行えます。家庭裁判所のウェブサイトで書式を入手し、必要書類(申立書、遺言者の出生から死亡までの戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本など)を添えて提出します。
- 検認申立ての費用:遺言書1通につき収入印紙800円分と、連絡用の郵便切手代(裁判所によって異なる)がかかります。
- 公正証書遺言(公証役場で作成した遺言書)の場合は、検認は不要です。原本または謄本が公証役場に保管されています。
ステップ2:相続人の調査・確定
相続手続きを進める上で、まず最初に行うべき最も重要なステップの一つが「相続人の調査・確定」です。
故人の遺産を誰が相続する権利があるのかを正確に把握しなければ、遺産分割協議を進めることも、その後の名義変更手続きなども行うことができません。
「自分たちは家族だから相続人は分かっている」と思われるかもしれませんが、思いがけない相続人が存在する可能性もゼロではありません(例えば、前妻との間の子、認知している子など)。
後々のトラブルを防ぐためにも、戸籍謄本等を取り寄せて法的に相続人となる人を確定させる作業は必須です。
調査に必要な書類
相続人を確定するには、以下の戸籍謄本等が必要です。
- 被相続人(故人)
- 出生から死亡までの連続した戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本
- 相続人全員
- 現在の戸籍謄本
集めるのが楽になった!「広域交付制度」
以前は本籍地ごとに請求が必要でしたが、「広域交付制度」により、お近くの市区町村役場でまとめて取得できるようになりました。
- メリット
- どこでもOK: 全国のどの役所窓口でも請求可能。
- まとめて請求: 必要な戸籍を一度に請求できます(※)。
- 時間と手間を削減: 郵送や移動の手間が省けます。
相続人調査のステップ
広域交付制度を利用する場合、以下の流れで進めます。
- 最寄りの役所へ行く: 請求に必要なもの(本人確認書類など)を準備。
- 被相続人の戸籍を請求: 「出生から死亡まで」の戸籍謄本等を請求します。
- 相続人の戸籍を請求: 判明した相続人全員の「現在の戸籍謄本」も併せて請求します。
- 戸籍を読み解く: 収集した戸籍から相続人をリストアップし、確定します。
費用はかかるの?
相続人調査を自分で行う場合、専門家への報酬は不要ですが、戸籍謄本等の取得手数料は必要です(無料ではありません)。
- 目安:
- 戸籍謄本: 1通 450円
- 除籍・改製原戸籍謄本: 1通 750円
- 総額: 数千円程度かかるのが一般的です。
自分で調査するときの注意点
判断が複雑なケースもある: 代襲相続など、専門知識が必要な場合もあります。
【最重要】収集漏れはNG!: 一つでも足りないと手続きが止まります。必ず出生から死亡まで連続しているか確認しましょう。
古い戸籍は読みにくい: 手書きや旧字体の場合があり、判読が難しいことも。

ステップ3:相続財産の調査・確定
次に、故人が遺した財産(遺産)の内容をすべて正確に把握します。
これを怠ると、後で新たな財産が見つかって遺産分割協議をやり直すことになったり、借金を見落として相続してしまったりするリスクがあります。
自分でやる相続財産調査の主な方法
- 預貯金
- 故人の通帳やキャッシュカード、金融機関からの郵便物などを手がかりに、取引のあった金融機関(銀行、信用金庫、ゆうちょ銀行など)を特定します。
- 各金融機関の窓口で、相続人であることを証明する書類(戸籍謄本など)を提示し、「残高証明書」や「取引履歴(入出金明細)」の取得を依頼します。
- 残高証明書の発行には、1通あたり数百円~千円程度の手数料がかかります。
- ネット銀行なども忘れずに調査しましょう。
- 不動産
- 故人宛ての固定資産税納税通知書(通常、毎年4月~6月頃に市区町村から送付される)や、権利証(登記識別情報通知)を探します。これらに記載されている情報から、所有不動産の所在地番を特定します。
- 所在地番が分かれば、法務局で「登記事項証明書(登記簿謄本)」を取得します(1通600円、オンライン請求なら安価)。これで所有者や権利関係を確認できます。
- 市区町村役場で「名寄帳(なよせちょう)」を取得すると、その市区町村内で故人が所有していた不動産の一覧を確認できる場合があります(自治体によって対応が異なります)。
- 不動産の価値(評価額)は、固定資産税納税通知書に記載の「評価額」や、路線価(国税庁ウェブサイトで確認)、公示価格などを参考にします。正確な時価を知りたい場合は、不動産鑑定士への依頼も検討しますが、費用がかかります。
- 株式・投資信託など有価証券
- 証券会社からの取引報告書や残高報告書、配当金の通知書などを探します。
- 取引のあった証券会社や信託銀行に問い合わせ、残高証明書などを取得します(手数料がかかる場合あり)。
- 上場株式の評価額は、相続開始日(亡くなった日)の終値など、複数の基準から最も低い価額を選べます。
- 生命保険金・死亡退職金
- 保険証券や保険会社からの通知、勤務先の規程などを確認します。
- これらは厳密には相続財産ではありませんが、受取人が指定されている場合はその人の固有財産となり、相続税の課税対象になる場合があります(非課税枠あり)。
- 自動車・貴金属・骨董品など動産
- 車検証や購入時の書類、現物を確認します。
- 価値の評価が難しいものは、専門業者に査定を依頼することもあります(費用がかかります)。
- 借金・ローンなど負債(マイナスの財産)
- 非常に重要です。プラスの財産だけでなく、借金や未払金、保証債務なども相続の対象になります。
- 消費者金融やカード会社からの請求書・督促状、金銭消費貸借契約書などを探します。
- 信用情報機関(JICC、CIC、KSC)に情報開示請求を行うことで、ローンやキャッシングの契約状況を確認できる場合があります(手数料がかかります)。
財産調査の結果、プラスの財産よりも明らかにマイナスの財産が多い場合は、「相続放棄」や「限定承認」を検討する必要があります。
これらの手続きは、原則として相続の開始を知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所で行う必要があり、期限を過ぎると単純承認(すべての財産と負債を無条件に引き継ぐこと)したものとみなされてしまうため、迅速な対応が求められます。
ステップ4:遺産分割協議
相続人と遺産が確定したら、次は「誰が」「どの財産を」「どれくらい相続するか」を、相続人全員で話し合って決めます。これを遺産分割協議といいます。
なお、遺言書で分割方法が指定されている場合は、原則としてその内容に従いますが、相続人全員の合意があれば、遺言と異なる分割も可能です。
- 協議の参加者
確定した相続人全員が参加する必要があります。一人でも欠けた協議は無効です。未成年者や認知症などで判断能力が不十分な相続人がいる場合は、家庭裁判所で特別代理人や成年後見人を選任する必要があります。 - 協議の方法
直接集まって話し合うほか、電話やメール、手紙などでも可能です。全員が一堂に会するのが難しい場合もありますが、全員の合意形成が不可欠です。 - 法定相続分との関係
法律で定められた相続割合(法定相続分)はありますが、必ずしもこれに従う必要はありません。相続人全員が合意すれば、自由に分割割合を決めることができます。例えば、特定の相続人が家業を継ぐ、親の介護をしていたなどの事情(寄与分)や、生前に多額の援助を受けていた(特別受益)といった点を考慮して調整することもあります。 - 合意形成の重要性
遺産分割協議は、相続手続きの中でも最もトラブルになりやすい場面の一つです。特に不動産のように分けにくい財産がある場合や、相続人間で感情的な対立がある場合は、話し合いが難航しがちです。全員が納得できる結論を目指し、冷静に話し合うことが重要です。
もし、相続人全員での話し合いがどうしてもまとまらない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停や審判を申し立てることになりますが、時間も費用もかかり、精神的な負担も大きくなります。
できる限り、当事者間での話し合いによる解決を目指したいところです。
ステップ5:遺産分割協議書の作成
遺産分割協議で合意した内容は、後々のトラブル防止や不動産登記・預貯金解約などの手続きのために、「遺産分割協議書」という書面にまとめます。
遺産分割協議書の作成は無料でできる?自分で作る方法は?
- 自分で作成可能
特別な資格は不要で、相続人自身が作成できます。 - 記載すべき内容
- 被相続人の氏名、最後の住所、死亡年月日
- 相続人全員の氏名、住所
- 誰がどの財産を取得するのかを具体的に明記(預貯金は金融機関名・支店名・口座番号・金額、不動産は登記事項証明書通りに所在地番・地目・地積・家屋番号・構造・床面積など、正確に記載)
- 協議が成立した年月日
- 相続人全員が署名し、実印を押印
- 無料テンプレート・書式の活用
インターネット上には、遺産分割協議書のテンプレートや雛形が多数公開されています。これらを参考にすることで、作成の手間を省くことができます。ただし、あくまで一般的な書式なので、ご自身のケースに合わせて内容を修正・追記する必要があります。 - 注意点
- 記載内容が不明確だったり、漏れがあったりすると、後でトラブルになったり、手続き(特に不動産登記)で受理されなかったりする可能性があります。財産の特定は正確に行いましょう。
- 相続人全員が内容に納得した上で、署名・実印を押印することが重要です。
- 作成した遺産分割協議書は、相続人の人数分作成し、各自が保管するのが一般的です。
- 実際の相続手続きを行うためには、相続人全員の印鑑証明書も必要になります。
遺産分割協議書は、相続手続きにおいて非常に重要な書類です。
無料のテンプレートを利用する場合でも、記載内容の正確性や法的な有効性については、十分に確認するようにしましょう。
ステップ6:財産の名義変更・解約
遺産分割協議がまとまり、遺産分割協議書が完成したら、いよいよ具体的な財産の名義変更や解約手続きに進みます。これも基本的には自分で行うことが可能です。
預貯金の解約を自分で進める手順
- 金融機関への連絡
まず、取引のあった金融機関の支店窓口や相続センターに連絡し、相続が発生した旨を伝え、必要な手続きや書類を確認します。 - 必要書類の準備
一般的に以下の書類が必要となりますが、金融機関によって異なる場合があるので必ず確認しましょう。- 金融機関所定の相続手続依頼書
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑証明書
- 遺産分割協議書(ある場合)または遺言書
- 相続する人の実印、本人確認書類、通帳・キャッシュカードなど
- 手続きの実行
書類を提出し、不備がなければ、指定した相続人の口座への振り込み、または現金での払い戻しが行われます。手続き完了までには数週間かかることもあります。 - 費用
戸籍謄本や印鑑証明書の取得費用(実費)以外に、金融機関での手続き自体に手数料はかからないのが一般的です。
不動産の名義変更(相続登記)
- 義務化に注意
前述の通り、2024年4月1日から相続登記が義務化されました。原則として、相続により不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記申請をしなければなりません。 - 申請先
不動産の所在地を管轄する法務局です。 - 自分でやる場合の費用
- 登録免許税:不動産の固定資産税評価額の0.4%。例えば評価額が3,000万円の土地なら、12万円の登録免許税がかかります。収入印紙で納付します。
- 必要書類の取得費用:戸籍謄本、住民票、固定資産評価証明書などの実費
- 専門家報酬:司法書士に依頼しなければかかりません。
- 必要書類(主なもの)
- 登記申請書(法務局のウェブサイトで書式を入手可能)
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等
- 被相続人の住民票の除票(または戸籍の附票)
- 相続人全員の戸籍謄本
- 不動産を取得する相続人の住民票
- 遺産分割協議書(実印押印)と相続人全員の印艦証明書、または遺言書
- 固定資産評価証明書
- 自分でやる難易度
登記申請書の作成や必要書類の収集・チェックは、やや複雑です。法務局の登記相談を利用することも可能ですが、書類作成そのものを代行してくれるわけではありません。記載ミスや書類不備があると、補正(修正)が必要になり、時間がかかることもあります。
株式など有価証券の名義変更
- 故人が取引していた証券会社や信託銀行に連絡し、相続手続きについて確認します。
- 必要書類(戸籍謄本、遺産分割協議書、証券会社所定の書類など)を提出し、相続する人の口座へ株式などを移管します。
- 手続きにかかる費用は、書類取得の実費程度が主です。
さらに費用を抑える!無料で情報を得る方法
自分で相続手続きを進める上で、分からないことや疑問点が出てくるのは当然です。
費用をかけずに情報を得るための方法を知っておきましょう。
役所の窓口相談:相続の無料相談はどこへ行く?市区町村の相談窓口活用法
多くの市区町村役場では、弁護士や司法書士、税理士による無料相談会を定期的に開催しています。
広報誌やウェブサイトで日程を確認してみましょう。
- メリット:専門家から直接アドバイスを受けられます。一般的な手続きの流れや、簡単な疑問点について教えてもらえます。
- デメリット:相談時間が限られている(例:1回30分程度)ことが多く、込み入った相談や具体的な書類作成のアドバイスまでは難しい場合があります。予約が必要な場合が多いです。
- 活用法:相談したい内容を事前に整理し、具体的な質問を用意していくと効率的です。戸籍の取り方や、簡単な手続きに関する疑問解消に向いています。
法務局の登記相談:相続登記を自分でやる際の相談先
不動産の相続登記を自分で行う場合、管轄の法務局で登記手続きに関する相談(登記相談)を無料で利用できます。
- 相談できる内容:登記申請書の書き方、必要書類の種類や集め方など、手続きに関する一般的な説明を受けられます。
- 注意点:あくまで手続き案内であり、申請書の作成代行や、個別の権利関係に関する法的な判断はしてもらえません。「この遺産分割協議書で登記が通るか?」といった個別具体的な判断も避ける傾向があります。予約が必要な場合が多いです。
国税庁のウェブサイト・税務署の相談(相続税関連)
相続税に関する情報は、国税庁のウェブサイトに詳しく掲載されています。
相続税の計算方法、申告書の書き方、各種特例(配偶者の税額軽減、小規模宅地等の特例など)についての解説やパンフレットが充実しています。
また、税務署でも電話や面談での相談を受け付けていますが、こちらも一般的な説明が中心となり、具体的な税額計算や申告書の作成指導は行われません。
相続税申告は複雑なため、税理士への相談も視野に入れる方が多いのが実情です。
インターネット上の信頼できる情報源の見つけ方
インターネット上には相続に関する情報が溢れていますが、中には情報が古かったり、不正確だったりするものも存在します。無料の書式やテンプレートを探す際も注意が必要です。
- 信頼性の高い情報源
- 官公庁(法務局、国税庁、裁判所など)のウェブサイト
- 弁護士会、司法書士会、税理士会などの公的団体
- 信頼できる法律事務所や専門家のウェブサイト(情報発信元が明確なもの)
- 注意点
- 情報の最終更新日を確認し、最新の法改正に対応しているかチェックする(特に相続法は近年改正が多い)。
- 一般的な解説であり、個別のケースにそのまま当てはまるとは限らないことを理解する。
- 無料の書式・テンプレートは内容をよく確認し、自己責任で利用する。
相続手続きを「自分でやる」際のデメリットとリスク
費用を抑えられるという大きなメリットがある一方で、相続手続きをすべて自分で行うことには、デメリットやリスクも伴います。これらを理解しておくことも非常に重要です。
時間と手間がかかる:相続手続きを自分でやるデメリットの筆頭
これまで見てきたように、相続手続きには多くのステップがあり、それぞれに書類の収集や作成が必要です。
特に戸籍謄本の収集や財産調査は、想像以上に時間と労力がかかります。
平日に役所や法務局、金融機関などへ何度も足を運ぶ必要も出てくるでしょう。
お仕事をされている方や、遠方にお住まいの方にとっては、時間的な制約が大きな負担となる可能性があります。
専門家に依頼すれば、これらの手間を大幅に省くことができます。
書類の収集・作成の複雑さ:戸籍の読み解き、財産目録、遺産分割協議書など
古い戸籍謄本(改製原戸籍など)は手書きで読みにくかったり、独特の言い回しが使われていたりして、正確に読み解くのが難しい場合があります。
相続人を誤って確定してしまうと、遺産分割協議が無効になる可能性もあります。
また、財産目録や遺産分割協議書、登記申請書などの書類作成も、記載すべき事項が多く、法的に有効な形式で正確に作成するには、ある程度の知識が必要です。
不備があれば、手続きが進まなかったり、後々のトラブルの原因になったりします。
手続きの漏れ・間違いのリスク:相続トラブルの原因にも
相続手続きは多岐にわたるため、必要な手続きをうっかり忘れてしまったり、手順を間違えてしまったりするリスクがあります。
- 財産の見落とし:後から新たな財産が見つかり、遺産分割協議のやり直しが必要になる。
- 借金の見落とし:相続放棄の期限(3ヶ月)を過ぎてから多額の借金が発覚し、返済義務を負ってしまう。
- 遺産分割協議書の不備:内容が曖昧だったために解釈を巡って争いになったり、不動産登記などの手続きで使えなかったりする。
- 相続登記の放置:義務化された相続登記を怠り、過料の対象になったり、いざ売却しようとした時に手続きが複雑になったりする(相続人が増えて権利関係が複雑化するなど)。
これらのミスは、かえって時間や費用がかかる結果を招いたり、相続人間のトラブルを引き起こしたりする可能性があります。
期限のある手続き(相続放棄・限定承認、相続税申告)の管理
相続手続きの中には、厳格な期限が定められているものがあります。
- 相続放棄・限定承認:相続開始を知った時から3か月以内
- 所得税の準確定申告:相続開始を知った日の翌日から4か月以内
- 相続税申告・納付:相続開始を知った日の翌日から10か月以内
- 遺留分侵害額請求:遺留分侵害を知った時から1年以内
特に相続放棄の3か月という期限は非常に短く、財産調査が間に合わないこともあります。
自分で手続きを進める場合は、これらの期限をしっかりと管理し、遅れないように注意する必要があります。
期限を過ぎると、取り返しのつかない不利益を被る可能性があります。
相続人間での意見対立・感情的なしこりが発生する可能性
遺産分割協議を自分たちだけで進める場合、財産の評価方法や分け方を巡って意見が対立し、話し合いがまとまらないことがあります。
特に、不動産のように分けにくい財産がある場合や、特定の相続人に有利な遺言書がある場合、生前の貢献度(寄与分)や援助(特別受益)に関する認識の違いがある場合などは、トラブルに発展しやすい傾向があります。
お金の問題が絡むと、それまで良好だった関係が悪化し、感情的なしこりを残してしまうことも少なくありません。
第三者である専門家が入ることで、冷静な話し合いが促進される側面もあります。
まとめ:費用を抑えつつ、円満な相続手続きを進めるために
今回は、「相続手続きを費用をかけずに自分で進める方法」について、具体的な手順や注意点を詳しく解説してきました。
相続手続きのすべてを完全に無料で行うことは難しいですが、専門家への報酬を節約することで、費用を大幅に抑えることは可能です。
戸籍謄本の収集から財産調査、遺産分割協議書の作成、各種名義変更まで、多くの手続きをご自身で進めることができます。
しかし、そのためには相応の時間と手間がかかること、手続きの漏れや間違いのリスクがあること、期限の管理が重要であること、そして場合によっては相続人間のトラブルに発展する可能性があることも、十分に理解しておく必要があります。
大切なのは、ご自身の状況(時間的な余裕、相続財産の内容、相続人間の関係性など)を客観的に見極め、「自分でやる部分」と「難しいと感じる部分」を判断することです。
役所の無料相談や法務局の登記相談などを活用しつつ、無理のない範囲で手続きを進めていくことが、結果的に費用を抑え、円満な相続を実現するための鍵となるでしょう。
相続は、故人の想いを引き継ぐ大切な手続きです。この記事が、皆さまの相続手続きを少しでもスムーズに進めるためのお役に立てれば幸いです。