相続した駐車場が共有名義でも、共有物分割の請求はいつでもでき、他の共有者の反対で封じられることはありません(民法256条1項)。目指すのは「全員で売って代金を分ける」か「自分の持分を買い取ってもらう」かの2つ。協議でまとまらなければ共有物分割請求訴訟に進み、最終的には裁判所が共有を解消します。ただし競売まで行くと手取りは減るため、その見通しを数字で示し、任意の売却・買取りでまとめるのが基本戦略です。
父の遺言に、駐車場は兄と妹で2分の1ずつ、と書かれていました。遺産分割の話し合いもしましたが、父がそう望んだのならと駐車場はそのまま共有名義にし、7年がたちました。
ご相談に来られた妹さんは、将来の生活資金に充てるため、持分を現金化したいと考え、兄に共同売却を持ちかけました。しかし、返ってきたのは「親父が遺した土地を売る気か」のひと言。しかも駐車場の賃料は、管理を任せた兄の口座に入ったまま、明細を見せてもらったことは一度もないといいます。
相続で共有になった駐車場が塩漬けになる理由
遺言や生前贈与できた共有には、独特の動きにくさがあります。親が決めたということもあり、誰も共有を解消しようとしないまま、年月だけがたちやすいです。また、共有不動産を丸ごと売るには、共有者全員の合意が必要です。一人でも「売らない」と言えば、それだけで話は止まります。
かといって共有のまま運用しようにも、管理会社の変更や賃料改定といった管理事項は持分価格の過半数で決めるルールなので(民法252条)、持分が半分ずつでは、どちらの案も過半数に届きません。売れない、決められない。この2つの縛りが重なった状態が、塩漬けの正体です。
その間も、現金は毎月動きます。賃料はどんぶり勘定になり、空き区画には誰かの車が停まり、不満だけが積もっていく。独り占めされた賃料は持分割合での精算を、共有者の「タダ停め」には持分を超える使用の対価を(民法249条2項)それぞれ請求できますが、共有が続く限り、毎年繰り返す対症療法にとどまります。
売却に反対されても、共有物分割はいつでも請求できる
出発点として押さえてほしいのは、共有には「やめる自由」が保障されていることです。各共有者はいつでも共有物の分割を請求でき(民法256条1項)、相手の同意は要りません。「兄が反対しているから売れない」が当てはまるのは、全員で一緒に売る場面の話で、共有関係そのものを解消する場面では、逆に拒否権はありません。
話し合いがまとまらなければ、裁判所に共有物分割請求訴訟を起こす道があります。訴訟までいけば、裁判所は現物分割・全面的価格賠償・換価分割(競売)のいずれかの方法で共有を解消します(民法258条)。相手が話し合いに応じなくても、手続を進めれば出口には必ずたどり着ける、ということです。
動く前に確認しておく3つのこと
1.不動産登記の内容
登記事項証明書の甲区で共有者と持分割合を、乙区で抵当権の有無を、あわせて分割禁止(不分割特約)の登記がないかを確かめます。
2.駐車場の収支
区画ごとの契約と月額、賃料の振込先、管理委託の有無、固定資産税や修繕費の負担者。資料は相手が握っているのが普通なので、分かる範囲で構いません。ここで整理した数字は、賃料の精算にも、買取価格の交渉にも使います。
3.駐車場の価値
現金化の話をするなら、いくらの土地なのかを先に押さえておきます。固定資産税の課税明細にある評価額はおおむね公示価格の7割水準とされるので、0.7で割り戻せばざっくりした目安が出ますし、国土交通省の「不動産取引価格情報検索」で近隣の取引事例も引けます。不動産業者の査定も複数取得しておきます。交渉の主導権を握るのは、数字を持っている側です。
現金化の進め方——4つのステップ
1.目指す分け方を決める
現金化するための選択肢は、大きく分けて2つです。全員で第三者に売って代金を持分割合で分けるか(共同売却)、共有を続けたい相手に自分の持分を時価で買い取ってもらうか。どちらも持分だけを業者に売るときに働く「共有減価」という値引きが生じません。手取りを最大にしたいなら共同売却が第一候補です。相手が「親父が遺した土地は手放せない」と言うなら、買取りを求める形になります。どちらを提案すべきかは、相手の意向も踏まえて検討します。
2.書面で協議を申し入れる
目指す分け方を明示して、日付の残る書面で提案します。「売るか売らないか」の水掛け論にせず、「全体を売って半分ずつ分けるか、私の持分を〇〇万円で買い取るか」と、査定に基づく数字を添えて選択肢で示すのがコツです。あわせて、これまでの賃料の精算も議題に載せます。
3.応じなければ、決裂した場合の見通しを数字で示す
相手が動かないときは、「このまま拒み続けるとどうなるか」を数字で比較して見せます。任意の共同売却なら市場価格で売れる。買取りなら時価が基準になる。どちらも拒んで訴訟になり、競売まで行けば、売却額は市場価格から大きく割り引かれることが多いです。拒み続けた先に待っているのは、いちばん手取りの少ない決着です。この見通しを脅し文句ではなく損得の比較として淡々と示すと、相手も自分の考えに固執できなくなることが少なくありません。
4.話しがまとまらなければ、共有物分割請求訴訟へ
協議が調わないこと、または協議ができないことが訴訟の前提となります(民法258条1項)。訴訟になった後も、実際には判決まで行かず、訴訟上の和解で共同売却にまとまる事案が少なくありません。独り占めされてきた賃料の精算(不当利得返還請求)も、あわせて請求することができます。
訴訟までいくと、裁判所はどのように決めるか
判決になった場合の分け方は3つで、駐車場での現実味には差があります。
| 分割方法 | 内容 | 駐車場での見通し |
|---|---|---|
| 現物分割 | 土地を物理的に分けて各自の単独所有にする | 車路が取れず区画数が減る、切り方次第で接道せず建物が建てられない土地になるなど価値を損ないやすく、選ばれにくい |
| 全面的価格賠償(代償分割) | 一方が全部を取得し、他方に持分相当の代金を払う | 取得を希望する側に支払能力があることが前提。価格は適正な評価による(最判平成8年10月31日) |
| 換価分割(形式的競売) | 競売で売却し、代金を持分割合で分ける | 上の2つが取れないときの受け皿。売却額は任意売却より大きく下がりがち |
どの方法になっても、共有状態は解消し、最終的に共有持分を金銭に変えることができます。訴訟までいけば、現金化そのものは実現するということです。ただし、競売は双方の手取りを減らす可能性が高いため、裁判所も当事者も、可能なら賠償か任意の売却でまとめる方向で動くのが通常です。だからこそ、ステップ3の損得の比較を交渉段階から出しておくことが、遠回りに見えていちばんの近道になります。
やってはいけないこと・よくある失敗
自分の持分だけを買取業者に売る
すぐ現金化できるメリットはありますが、持分単独の売却には共有減価が働き、価格は市場水準を大きく下回りがちです。しかも持分を譲り受けた業者との関係は共有物分割訴訟で処理されるため、残った家族は業者から分割請求を受ける側に回ります。検討するとしても、共同売却や買取りの交渉を尽くした後の最後の手段です。
タダ停めに腹を立て、締め出そうとする
共有者は持分に応じて共有物の全部を使えるため、勝手に停めている相手でも、明渡しは当然には求められません(最判昭和41年5月19日)。チェーンを張るような実力行使に出ると、逆にこちらが責任を問われかねません。取れるのは金銭です。持分を超える使用の対価を請求し(民法249条2項、最判平成12年4月7日)、賃料の精算については、共有の解消と一緒に話し合います。
口約束で進める
「まとまったら精算する」「時価で買い取るから」を書面にしないまま進めると、後で認識違いが生じます。合意した内容は書面にしておく方が安全です。
賃料を精算しないまま放置する
賃料の精算請求は、古い分から時効で消えていきます(原則5年)。塩漬けにした年数のぶんだけ、本来受け取れたはずのお金を捨ててしまうことになりかねません。

