「死亡保険金は受取人のもの。遺産分割には関係ない。」その理解だけで進めて大丈夫ですか?

この記事のポイント

死亡保険金は、原則として受取人が受け取る固有の財産で、遺産分割の対象には入りません。ただし「だから関係ない」と言い切れるのは、ここまでです。死亡保険金が遺産全体に比べて著しく大きいときは、特別受益に準じて遺産分割の計算に組み込まれることがあります(民法903条の類推)。受取人が「相続人」とだけ指定されているときの分け方や、相続放棄を考えているときの解約返戻金の扱いにも、見落としやすい点があります。保険を見つけた後こそ、確認する順番があります。

相談に来られたのは、亡くなったお父様の次男にあたる方でした。葬儀の後、兄から「保険金は受取人の自分が受け取るから、遺産分けには関係ない」と言われたといいます。預貯金と自宅は分けるが、保険は別だと。調べてみると、保険金は3000万円。父が遺した預貯金と不動産の合計と、ほぼ同じ額でした。しかも兄は、その保険金とは別に、遺産も法定相続分どおり受け取るつもりだといいます。

この「保険は遺産分けに関係ない」という言い分、半分は合っています。半分は、そう単純ではありません。

目次

「保険金は受取人のもの」はどこまで本当か

原則として、兄の言い分は正しいです。死亡保険金は、受取人として指定された人が保険会社から直接受け取る、その人固有の財産です。遺産分割の対象には入りません。他の相続人の同意も、印鑑も要りません。受取人が決まっていれば、その人が請求すれば受け取れます(最判昭和40年2月2日)。

ですから「保険金は分けなくていい」という理解そのものは、入口としては間違っていません。つまずくのは、話がここで終わると思い込むことです。死亡保険金が遺産分割の外にあることと、相続全体に何の影響も及ぼさないことは、別の話だからです。

「関係ない」では済まなくなる3つの場面

死亡保険金が分割の対象外なのは確かです。ただ、その「外」にあっても、相続の中身に跳ね返ってくる場面があります。実務でよく問題になるのは、次の3つです。

場面1:保険金が大きすぎるとき

最高裁は、死亡保険金は原則として特別受益(一部の相続人だけが生前などに受けた特別な利益のこと)にはあたらない、としています。受取人固有の財産だからです。ただし、例外があります。死亡保険金の額が遺産全体に比べて著しく大きく、受取人とその他の相続人との不公平が「到底是認することができないほどに著しい」と評価される特段の事情があるとき。このときは、特別受益に準じて持戻し(生前の利益を遺産に加えて計算し直すこと)の対象になりえます(民法903条の類推適用、最判平16年10月29日)。

判断の物差しは、金額そのものだけではありません。遺産総額に対する比率、被相続人と同居していたか、介護にどれだけ関わっていたか――そうした事情を合わせて見ます。

冒頭のケースに当てはめてみます。保険金3000万円に対し、遺産も同程度。保険金が相続財産全体の半分近くを占める計算です。この規模になると、他の相続人が持戻しを主張する余地が出てきます。一方で、保険金が数十万円程度であれば、まず争点にはなりません。

場面2:受取人が「相続人」としか書かれていないとき

受取人欄に特定の名前ではなく「相続人」とだけ書かれている契約があります。この場合、相続人全員で均等に分けるものだと思い込んでいると、食い違いが起きます。

最高裁は、死亡保険金の受取人を単に「相続人」と指定したときは、各相続人が法定相続分の割合で保険金請求権を取得する、としています(最判平6年7月18日)。頭割りの均等ではなく、相続分に応じた割合です。たとえば配偶者と子2人なら、均等の3分の1ずつではなく、配偶者2分の1・子それぞれ4分の1になります。ここを取り違えると、受け取る額が想定とずれます。

場面3:相続放棄を考えているとき

借金のほうが多そうで相続放棄を検討している――そういうケースでは、保険金の「種類」に注意が必要です。

死亡保険金は、受け取っても相続放棄に影響しません。受取人固有の財産で、もともと相続財産ではないからです。問題は、解約返戻金や、契約者・被保険者本人が受け取るはずだった入院給付金など。これらは相続財産にあたりえます。受け取って使ってしまうと、相続財産を処分したとして法定単純承認(民法921条1号。相続することを認めたとみなされる扱い)となり、放棄ができなくなる可能性があります。「保険だから全部もらっていい」と一括りにすると、ここで足をすくわれます。

知らずに進めると、どこで損をするか

誤解したまま手続きを進めると、後からリスクや不利益が生じる場合があります。

受取人だけが大きな保険金を取り、そのうえ遺産も法定相続分で受け取る。これを他の相続人が「全体として不公平だ」と感じると、持戻しの主張をされる可能性があります。持戻しが認められれば、遺産分割での取り分が少なくなります。すでに遺産分割分割協議が成立している場合には、やり直しが必要になることもあります。

相続放棄でも同じです。放棄するつもりだった人が、知らずに解約返戻金を受け取って使ってしまう。後になって、放棄できず借金まで引き継ぐ事態になりかねません。

もう一つ見落とされやすいのが、相続税です。死亡保険金は、民法では受取人固有の財産ですが、相続税法では「みなし相続財産」として課税対象になります。「自分のものだから遺産じゃない」という民法の感覚で相続税申告から外してしまうと、後で発覚したときに過少申告加算税などのペナルティを受けるリスクがあります。

保険が出てきたら、確認する順番

では、どう動けばよいか。保険が絡む相続では、確認する順番があります。

保険の有無と内容を確定する

保険が見つからない場合は、生命保険協会の「生命保険契約照会制度」を使えば、加盟各社にまとめて契約の有無を照会できます。ただし、この制度で分かるのは契約があるかどうかまで。金額・受取人・契約内容は、見つかった会社に個別に請求して確認します。なお、JA共済や県民共済などの共済はこの照会の対象外なので、通帳の引き落とし履歴などから別に当たる必要があります。

保険金額と遺産総額の比率を出す

ここで持戻しの検討に入るかどうかが分かれます。

保険金額の規模持戻し(特別受益への準用)の検討
遺産総額に比べて小さいまず問題にならない
遺産総額と同程度、またはそれ以上特別受益に準じた持戻しを検討する余地がある

受取人の指定内容を確認する

特定の人が指定されていれば、その人固有の財産です。「相続人」とだけ指定されていれば、法定相続分の割合で分けます。

相続放棄を考えているなら、受け取る前に種類を仕分ける

死亡保険金は受け取って差し支えありません。解約返戻金や、本人が受け取るはずだった給付金には手をつけない。迷ったら、受領前に確認するのが安全です。

実務で見ていると、保険金が遺産総額に並ぶ、あるいは超えるようなケースで持戻しが争点になることが多く、保険金が小さい案件ではそもそも問題になりません。まず金額の規模感をつかむこと。そこから、自分のケースが「揉める保険」なのかどうかが見えてきます。

よくある質問

死亡保険金が遺産より多ければ、必ず持戻しの対象になりますか

必ずではありません。原則は対象外で、不公平が「到底是認できないほど著しい」と評価される特段の事情があるときに限られます。保険金額の遺産総額に対する比率や、被相続人への貢献度などを総合して判断されます。

受取人が自分だけの場合、他の相続人に死亡保険金を分ける必要はありますか?

原則としてありません。死亡保険金は受取人固有の財産だからです。ただし、金額が著しく大きいと、特別受益に準じて遺産分割の計算に組み込まれることがあり、結果として遺産の取り分が調整される場合があります。

相続放棄をしたら、死亡保険金も受け取れなくなりますか

受け取れます。死亡保険金は受取人固有の財産で、相続財産ではないためです。ただし解約返戻金や本人が受け取るはずだった給付金は相続財産にあたり、受け取って使うと、相続放棄ができなくなる可能性があります。

保険があるかどうか分からないのですが、何から始めればよいですか

まず通帳の引き落とし履歴と、毎年秋頃に届く生命保険料控除証明書を確認します。手がかりがなければ、生命保険協会の照会制度でまとめて照会できます。ただし、共済は対象外なので、その分は別途確認が必要です。

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