いらない不動産の共有持分をお金に変える方法

相続によって相続不動産を共有(共同所有)することがありますが、その不動産を使っているのが相続人のうちの一人だけであれば、他の相続人にとってはあまり意味のない財産です。その上、相続時には無駄に相続税がかかりますし、固定資産税等は共同所有しているだけで連帯納付義務を負います。

このように、いわば「負の遺産」にもなってしまう共有持分ですが、実は、お金に変える方法があります。今回は、いらない不動産の共有持分をお金に変える方法をお話しします。

目次

意味のない不動産の共有が生じる原因

不動産は単独で所有するだけではなく、共同で所有する場合があります。
たとえば、夫婦の名義で不動産を共同購入する場合がありますし、遺言で不動産を子供達に2分の1ずつ相続させる場合もあります。

各共同所有者は、共有不動産全部について、その持分に応じた使用をすることができます(民法249条)。
しかし、共同所有者全員が同時に全部使用できるわけではなく、使用する人と使用しない人が出てくる場合が当然あります。
共同使用していれば問題になりにくいですが、共同所有者の一人だけが不動産を使用している場合、使用していない残りの共同所有者にとって、共有持分はあまり意味のない財産となります。

共有持分を持つことのリスク

使用していない共有持分を無駄に持っていても、財産的にあまり意味がないだけでなく、リスクを負うことにもなります。

たとえば、不動産の共有持分も相続財産になりますので、使用していないにもかかわらず、相続税だけはかかります。
場所がよければ、共有持分だけでもかなりの評価額になりますので、相続税の負担が重くなります。

また、固定資産税等は共同所有者の連帯納付義務(連帯債務のようなもの)を負います(地方税法10条の2)ので、不動産を使用している共同所有者が支払えなかったりすると、他の共同所有者が支払わなければなりません。

それ以外にも、建物の倒壊で誰かを怪我させた場合の所有者責任(民法717条1項ただし書)など、たとえ不動産を使用していなかったとしても、共同所有者であるがゆえに負担を負いますので、共有持分を無駄に持つことはリスクになります。

共有を解消する共有物分割

地方の山林など売却困難な不動産であれば、共有持分の評価額は低く、完全なる「負の遺産」になります。
そのような場合には、共有持分の放棄(民法255条)により、共有関係から離脱することも検討すべきです。
しかし、共有持分の評価額が大きいのであれば、そのまま放棄してしまうのはもったいないので、お金に変えられるのであれば変えたいところです。

まず考えるのは、不動産を使用している共同所有者に共有持分の買い取りを求めたり、共同で売却して売却金を分配するよう求めたりすることです(協議による共有物分割)。
納得できる金額で買取り金額や売却金額がまとまるのであれば、特に問題はありません。しかし、買取り金額が低すぎたり、不動産の評価方法を誤解し、売却金額の調整ができなかったりすることもありますので、協議だけでは解決しない場合があります。

協議で解決しない場合、強制的に共有持分を現金化する必要があります。そのための手段が共有物分割訴訟(民法258条)です。
裁判の中で話がまとまらなかったとしても、最終的には裁判官が分け方を決めてくれますので、共同所有者間で考え方に大きな違いがあるときには特に必要な手段となります。

なお、共有持分の買取りをしてくれる不動産業者もありますが、買取り金額はかなり安くなる場合がありますし、買い取った後に業者がやることは同じ(=共有物分割)です。
急いで現金化する必要がないのであれば、業者に安く売るよりも、訴訟を意識させた買取り交渉や共有物分割訴訟をした方が金銭的なメリットはあるかもしれません。

共有物分割訴訟における分け方

協議で分け方がまとまらない場合、共有物分割訴訟を起こすことになりますが、裁判による共有物分割について、民法258条では以下のように定められています。

(裁判による共有物の分割)
第二百五十八条 共有物の分割について共有者間に協議が調わないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
2 前項の場合において、共有物の現物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。

法律上は、共有物分割の方法として、「現物分割」と「競売」が挙げられています(民法258条2項)。
しかし、それ以外にも、判例によって認められている分け方もあります。

現物分割

現物分割は、共有不動産を共有持分割合に応じて物理的に切り分けるという分け方です。
そして、切り分けられた不動産を売却し、お金に変えることになります。

土地は、線を引いて複数のエリアに切り分けます。

建物は、物理的に切り分けることが難しいのが通常ですが、構造上、複数の専有部分に分けられる場合には、区分所有にして切り分けることも可能です。

もっとも、民法258条2項では、
①現物分割ができないとき
②現物分割だと価値が著しく減少するおそれがあるとき
には、現物分割ではなく、競売を命じることができると定められています。

たとえば、元々狭い土地で、物理的に切り分けるとまともに使えなくなってしまう場合や、現物分割後の土地だと建築規制等がかかり、使用が著しく限定されてしまう場合には、現物分割は選択されないのが通常です。

競売(形式的競売)

競売(形式的競売)は、裁判所の手続で入札した人に共有不動産全体を売却し、その売却金を共有持分に応じて分配するという分け方です。

裁判所の手続で売却を実現しますので、買う人さえいれば確実に現金化できます。
もっとも、入札額が市場価格より低くなる傾向にありますので、価格面では共同売却の方にメリットがあるのが一般的です。

価格賠償

価格賠償は、他の共同所有者の共有持分を取得する代わりに、代償金を支払うという分け方です。
民法258条2項には挙げられていませんが、判例で認められている共有物分割の方法になります。

価格賠償は「部分的価格賠償」と「全面的価格賠償」に分けられます。
しかし、実務では、「全面的価格賠償」、つまり、共有不動産を一人の共同所有者の単独所有ないし数人の共同所有とし、共有持分を取得した人が他の共同所有者に代償金を支払うという分け方がよくとられます。
共有持分の代わりに代償金を支払うわけですから、共有持分の買取りをしたのと同じ結果になります。

全面的価格賠償の要件

いらない不動産の共有持分をお金に変えるためには、共有持分と同じ結果になる全面的価格賠償が最も簡単で、競売よりも価格面でのメリットがあります。

最判平成8年10月31日(民集第50巻9号2563頁)は、全面的価格賠償について、以下のとおりに判示しています。

当該共有物の性質及び形状、共有関係の発生原因、共有者の数及び持分の割合、共有物の利用状況及び分割された場合の経済的価値、分割方法についての共有者の希望及びその合理性の有無等の事情を総合的に考慮し、当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が存するときは、共有物を共有者のうちの一人の単独所有又は数人の共有とし、これらの者から他の共有者に対して持分の価格を賠償させる方法、すなわち全面的価格賠償の方法による分割をすることも許される

つまり、「特定の共同所有者に取得させるのが相当であり、共同所有者間の実質的公平を害しない特段の事情」が存することが全面的価格賠償の要件となります。

相当性

特定の共同所有者に取得させるのが相当かどうかは様々な事情から判断されますが、以下の考慮要素が挙げられています。

  • 共有物の性質・形状(現物分割できるかなど)
  • 共有関係の発生原因(相続で取得したなど)
  • 共有者の数及び持分の割合
  • 共有物の利用状況及び部活された場合の経済的価値
  • 共有者の希望及びその合理性の有無

実質的公平

実質的公平の内容として、以下の考慮要素が挙げられています。

  • 不動産価格の適正評価
  • 代償金を支払う資力

つまり、共有持分を適正に評価した上で、取得者がその金額を支払えることが必要になります。

賃料相当損害金のプレッシャーで買取り交渉を有利に進める

共有物分割が決まるまで共有持分のまま塩漬けになるのであれば、時間稼ぎできる相手方の方が有利ではないかと思うかもしれません。
しかし、共同所有者の一人が不動産を単独で使用していたとしても、他の共同所有者にも使用できる権利があります。
そのため、単独で使用している共同所有者に対し、共有持分に応じた賃料相当損害金(使用料のようなもの)を請求できるとするのが判例です(最判平成12年4月7日)。

つまり、共有持分の買取りを長引かせれば長引かせるほど、賃料相当損害金も増えていきますので、時間稼ぎをすればいいというわけではありません。
増え続ける賃料相当損害金のプレッシャーで時間稼ぎをさせないなど、交渉の進め方を工夫し、納得できる買取り金額に近づけましょう。

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