返済を求めなかった貸付金・預け金は特別受益になるか──黙示の債務免除を認めた事例|福岡家審令和5年6月14日

判例のポイント

被相続人が生前に渡した金銭の返還を求めないまま亡くなった場合、その経緯によっては債務免除の黙示の意思表示が推認され、免除額が特別受益として持戻しの対象になることがあります。本審判は、被相続人が住み替えのために養子へ預けた4000万円のうち、2600万円の返金による清算後も返還を求めなかった残額1400万円について、黙示の債務免除を認め、相続分の前渡しとしての生計の資本の贈与と同視できるとして特別受益を認定しました。あわせて、特別受益が相続分を上回る相続人(超過特別受益者)の取り分を0円とし、不足分を他の相続人に按分負担させる計算や、その相続分を譲り受けた相続人の扱いまで審判書上で確認できる、相続実務の参考になる審判例です。

目次

判例情報

  • 裁判所:福岡家庭裁判所
  • 審判日:令和5年6月14日
  • 事件番号:令和5年(家)第4017号
  • 関連条文:民法903条、519条

事案の概要

本件は、被相続人が住み替えのために養子へ預けた4000万円のうち、清算後も返還を求めなかった残額1400万円が、養子の特別受益に当たるかが争われた遺産分割審判の事案です。

登場人物

  • 被相続人:夫。自宅からの住み替えを計画し、養子Dの名義で新居を取得することにして資金を預けた。令和2年に死亡。
  • B(相手方・妻):被相続人の妻で、Dの実母。Dの特別受益を主張した。
  • C(相手方・実子):被相続人とBの間の子。
  • X(申立人・養女):Bの子で、被相続人と養子縁組をした養女。遺産分割を申し立て、手続中にDから相続分の譲渡を受けた。Dの特別受益を争った。
  • D(排除前相手方・養子):Bの子で、被相続人と養子縁組をした養子。住み替え資金4000万円の交付を受けた本人。自己の相続分をXに譲渡し、遺産分割手続の当事者から外れた。

時系列

  • 平成23年4月28日:被相続人がDに2820万円を交付。Dは同日頃、新たな住宅ローンを組むために必要だった自己名義のマンション(G)の残ローン2800万円を返済
  • 平成23年5月〜7月:被相続人がDにさらに合計1180万円を交付(交付額は計4000万円に)
  • 平成23年7月14日頃:Dが、交付金のうち900万円を被相続人の了解なく、妻と共有する別のマンション(H)のローン返済に充て、同日Hを売却
  • 平成23年7月15日:Dが新居(F)の土地の所有権移転登記を経由
  • 平成23年9月:Dが4850万円の住宅ローンを組んで代金を支払い、Fの建物の引渡しを受ける。建築費の増大で取得・建築代金は総額約5127万円となり、Dは被相続人に追加の負担を求めたが、被相続人は応じず
  • 平成23年10月16日:Dが、4000万円の領収書と、その使途内訳に加えて「Fの不動産は、被相続人夫妻から譲られるまで、あるいは同人らが他界するまでは同人らの家である」旨を記した覚書を作成
  • 平成23年11月〜平成24年1月:被相続人が、市の相談員、弁護士、税理士、税務署等にDとの関係や交付した金員の取扱いを相談し、Fの不動産への入居を断念
  • 平成24年2月12日:被相続人とDが合意書を作成(Dが建築費預り金のうち2600万円を現金一括で返金し、返金と同時に覚書を無効とする内容)
  • 平成24年5月25日:DがGのマンションを売却して被相続人に2600万円を支払い、被相続人はFの建物の鍵や関係書類等をDに交付。以後、被相続人が残額1400万円の返還を求めることはなかった
  • 令和2年:被相続人が死亡し、相続が開始
  • その後:Xが遺産分割を申立て。手続中にDが自己の相続分をXに譲渡して当事者から外れ、Dの特別受益の有無が争われる
  • 令和5年6月14日:福岡家庭裁判所が審判(確定)

経緯

被相続人は、自宅からの住み替えを計画し、新居(F)をD名義で取得し、D名義で住宅ローンを組むことにしました。そのために被相続人がDへ交付した資金は合計4000万円にのぼります。ところが、Dはそのうち900万円を被相続人の了解なく自分たち夫婦のマンションのローン返済に流用し、さらに建築費が想定より膨らんだことから被相続人に追加の負担を求めるなどしたため、両者の関係は悪化していきました。

被相続人は、市の相談員や弁護士、税理士、税務署等に対し、Dと不仲になったことや、追加の金員を交付しなければFの不動産への入居を認めないと言われたことなどを説明して対応を相談し、結局、Fの不動産への入居を断念します。そして平成24年2月、DがFの建物の建築費預り金のうち2600万円を一括返金し、これと引き換えに「Fの不動産は被相続人夫妻の家である」とした覚書を無効にする旨の合意書を取り交わしました。同年5月に2600万円の支払いが実行され、被相続人は鍵や関係書類をDに引き渡して、Fの不動産は名実ともにDのものとなりました。被相続人は、領収書や合意書などの原本を保管していましたが、その後、令和2年に死亡するまでの約8年間、残額1400万円の返還をDに求めることは一度もありませんでした。

遺産は自宅の土地・建物と預金・現金で、相続開始時の評価額は合計約2047万円です。相続人は妻B、実子C、養女X、養子Dの4名でしたが、Dが手続中に自己の相続分をXに譲渡したため、遺産分割の当事者はB(相続分2分の1)、X(同6分の2)、C(同6分の1)の3名となりました。ここで、Dに1400万円の特別受益が認められると、Dの具体的相続分は0円となり、Dから相続分を譲り受けたXの取り分に直接響く関係にあります。このため、Dの特別受益の有無は、これを主張するBと、これを争うXとの間で正面から争われました。

争点

被相続人がDに交付した4000万円のうち返金されなかった1400万円(あるいは交付金の一部)は、Dの特別受益に当たるか。それとも、被相続人のDに対する債権として相続されるにとどまるか。

渡したお金が返ってこないまま相続が開始した場合、その金銭を「未回収の債権」と見るか、「事実上贈与されたもの(特別受益)」と見るかで、遺産分割の計算は大きく変わります。債権のままであれば、貸付金のような金銭債権は遺産分割を経ることなく法定相続分に応じて各相続人に当然に承継されるだけで、持戻しは生じません。これに対して特別受益であれば、その額をみなし相続財産に持ち戻したうえで、受益者の取り分から差し引くことになります。

B側の主張:Bは、段階的に三つの主張を展開しました。第1に、交付金のうちDが自身のマンション2件のローン返済に充てた合計3720万円は、生前贈与と評価できる。第2に、そうでなくても、4000万円を交付して2600万円の返金を受けた後、差額の1400万円の返還を一切求めなかった経緯からすれば、1400万円はDへの贈与であり、贈与でないとしても共同相続人間の公平の観点から特別受益とすべきである。第3に、それも認められないとしても、少なくとも被相続人に無断でローン返済に流用された900万円については、被相続人が遺産の先渡しとして扱いたい意向を有していた(Dとの養子縁組の解消や遺留分放棄を求めることまで検討していた)のだから、特別受益と認めるべきである。

X側の主張:1400万円の贈与の事実は否認する。Bの主張する事実関係を前提にしても、被相続人はDに対して1400万円の債権を有しているにすぎない。現にB自身、相続開始後、被相続人がDに対する金銭債権を有することを前提に、その回収についてXに相談していた。被相続人が債務の免除や放棄をしていない以上、この債権は法定相続分に応じて各相続人が当然に相続するだけで、Dの特別受益には当たらない。

裁判所の判断

判旨の要約

  • 結論:福岡家庭裁判所は、被相続人がDの1400万円の返還債務を免除する旨の黙示の意思表示をしたものと推認し、これは相続分の前渡しとしての生計の資本の贈与と同視できるとして、Dに1400万円の特別受益を認めました(ローン返済充当分3720万円を生前贈与とするBの主張は採用していません)。
  • 理由:被相続人は、夫婦で住むためのFの不動産の取得・建築費用として4000万円を預けたところ、Dとの関係悪化後、2600万円の支払いを受けるのと引き換えにFの不動産を実質的にもDに取得させており、その清算の場である合意書の作成時に残り1400万円の返還に言及せず、その後も一切返還を求めなかったからです。

審判書の引用

審判は、特別受益について次のように判断しました。

前記3のとおり、被相続人は、排除前相手方に対して、被相続人夫婦が居住するためのFの不動産を取得・建築するための費用として4000万円を預けたものの、その後、排除前相手方との関係が悪化したため、対応について検討の上、2600万円の支払を受けるのと引き換えにFの不動産を実質的にも排除前相手方に取得させているところ、平成24年2月の本件合意書作成時、残り1400万円の返還について言及しなかったばかりか、その後も一切返還を求めていない。上記経緯に照らせば、被相続人は、この頃には排除前相手方の1400万円の返還債務を免除する旨の黙示の意思表示をしたものと推認され、これは相続分の前渡しとしての生計の資本の贈与と同視することができ、排除前相手方には、上記返還債務相当額の特別受益があると認めるのが相当である。

相続開始後にXらが1400万円の回収を検討していたという事情についても、次のように述べて、免除の認定は左右されないとしています。

なお、被相続人の死後、申立人等が上記1400万円の回収について検討したことがあったとしても、被相続人が、上記債務の免除をしていないことを裏付ける事情とはいえず、上記認定を左右しない。

他方、ローン返済に充てられた合計3720万円を生前贈与とするBの主張については、被相続人はFの不動産の取得のために金員を交付したにすぎないとして、Dが自身のマンションのローン返済に充てたとしても「生計の資本としての贈与と評価することはできず」、採用しませんでした。

判例の考え方

本審判の判断は、次の3点に整理できます。

第1に、「債権として残る」か「免除されて特別受益になる」かという分かれ目です。X側の枠組みは、免除がない以上、1400万円は被相続人の債権として残り、法定相続分に応じて当然に承継されるだけ、というものでした。これに対して審判は、交付の時点での贈与は否定しつつ、その後の清算の経緯から債務免除の黙示の意思表示を推認するという道筋で特別受益に到達しています。「お金を渡したこと」自体ではなく、「返してもらう権利を放棄したこと」を贈与に当たるものと捉えた点が、本審判の核心です。

第2に、黙示の債務免除を推認した事情です。審判が挙げる経緯は、4000万円が被相続人夫婦の居住する不動産の取得・建築費用として預けられた金銭であったこと、その目的が頓挫した後、2600万円の返金と引き換えにFの不動産を実質的にDに取得させるという清算がされたこと、その清算の場である合意書の作成時に残額1400万円の返還に言及しなかったこと、そしてその後も死亡まで一切返還を求めなかったこと、です。単に請求がなかったというだけでなく、金額を確定して清算する機会があったのにそこで残額に触れず、以後も長期間沈黙が続いた、という積み重ねが推認を支えています。なお、被相続人が領収書や合意書の原本を保管し続けていたことも認定されたうえで、それでも黙示の免除が推認されています。また、相続人が死後に回収を検討したことは「免除をしていないことを裏付ける事情とはいえ」ないとされており、免除の有無はあくまで被相続人の生前の意思の問題として判断されています。

第3に、債務免除と特別受益の結びつけ方です。免除によって、Dは1400万円の返還債務を免れるという経済的利益を受けました。審判はこれを「相続分の前渡しとしての生計の資本の贈与と同視することができ」るとし、免除された返還債務相当額である1400万円を持戻しの対象としました。贈与契約そのものを認定したのではなく、免除による利益を特別受益(民法903条1項)として扱った、という整理です。他方で、交付金がDのマンションのローン返済に流用された部分については、交付の目的がFの不動産取得である以上、流用されたからといって贈与にはならない、と切り分けています。「いつの、どの行為」を贈与と評価するかを丁寧に分けた判断といえます。

結論に至る処理

特別受益の認定を受けて、審判は具体的相続分を次のように計算しています。まず、相続開始時の遺産の評価額合計2047万1688円に、Dの特別受益1400万円を持ち戻し、みなし相続財産を3447万1688円とします。これに法定相続分を乗じると、Bが1723万5844円、X・C・Dが各574万5281円となりますが、Dは特別受益1400万円を差し引くとマイナス825万4719円となるため、取り分は0円です(いわゆる超過特別受益者)。

問題はこのマイナス分の処理ですが、審判は、不足分825万4719円を、B・X・Cの3名に、それぞれの相続分の割合(1723万5844円:574万5281円:574万5281円)で按分して負担させました。その結果、具体的相続分はBが1228万3012円、XとCが各409万4338円となります。

ここで注意したいのが、相続分の譲渡を受けたXの立場です。審判は、Dが特別受益として1400万円の限度で持戻しをすることになるとしたうえで、「申立人は、これを前提とする相続分の譲渡を受けたこととなる」と述べています。つまり、Xが譲り受けたDの相続分6分の1は、Dの超過特別受益を前提とすれば実質0円であり、譲受けによる取り分の上積みはありませんでした。Xの具体的相続分409万4338円は、X自身の相続分6分の1のみを基礎に計算されています。

その後、分割時の遺産の評価額(合計1318万3682円)に引き直した具体的取得分は、Bが791万0208円、XとCが各263万6737円とされ、最終的にXは、遺産を取得するBから代償金263万6737円の支払いを受ける形で決着しています。

判例の射程

本判例の射程について、判決文の表現に即して整理します。

家庭裁判所の審判という位置づけ

本件は最高裁判例ではなく、家庭裁判所の審判です。黙示の債務免除を特別受益と認めた具体例として参照価値がありますが、一般的な判断基準を定立したものではなく、本件の事実関係を前提とした事例判断です。

黙示の免除の推認は本件の経緯を前提とした事実認定

審判が免除を推認した基礎には、交付目的の特定(夫婦で住む家の費用としての預け金)、目的の頓挫と清算合意の存在、清算時に残額へ言及しなかったこと、その後の死亡までの不請求という、本件固有の経緯の積み重ねがあります。「長期間請求しなければ免除になる」「特別受益になる」という一般的な準則を示したものではありません。

交付金の贈与性を否定した部分も交付目的の認定が前提

ローン返済充当分3720万円について「生計の資本としての贈与と評価することはできず」とした判断は、被相続人が「Fの不動産の取得のために」金員を交付したにすぎないという交付目的の認定を前提としています。交付の名目や目的が異なる事案にそのまま当てはまるものではありません。

「贈与と同視」という表現

審判は、債務免除を贈与契約そのものと認定したのではなく、「相続分の前渡しとしての生計の資本の贈与と同視することができ」ると表現しています。免除による経済的利益を持戻しの対象とする処理を示したもので、持戻しの額も「免除された返還債務相当額」として特定されています。

実務での使い方

親が特定の子に渡したお金が返ってこないまま相続が開始した、という場面は、争族の定番ともいえる紛争類型です。本審判は、そうした金銭を「未回収の債権」ではなく「特別受益」として遺産分割に反映させる道筋を示した実例として参照できます。

使える場面

典型は、被相続人が特定の相続人に多額の金銭を渡していたものの、贈与契約書がなく、「贈与」の直接の立証が難しい場面です。本件でも、交付金そのものの贈与は認められませんでしたが、預け金の清算とその後の不請求という経緯を捉えて、黙示の債務免除という形で特別受益が認められました。「貸したのか、あげたのか」が水掛け論になりそうな事案で、交付から清算、不請求に至る時系列を丁寧に立証することで特別受益に到達できることを示しており、主張の組み立ての参考になります。

また、超過特別受益者がいる場合の具体的な計算方法(取り分を0円とし、不足分を他の相続人が按分負担)や、相続分の譲渡があった場合の処理まで審判書上で確認できるため、調停・審判での計算の見通しを立てる際にも使えます。

特別受益を主張する側

第1に、金銭交付の目的・名目を特定することです。「贈与」と断定できなくても、何のための金銭か(本件では夫婦で住む家の取得・建築費用としての預け金)を特定できれば、その目的が果たされなかった後の清算と不請求の経緯を捉えて、免除を主張する途が開けます。無理に当初の交付を贈与と構成するより、立論に無理がなく説得的な場合があります。

第2に、免除を推認させる事情を積み上げることです。本件で決め手になったのは、清算の機会(合意書の作成)があったのに残額に言及しなかったこと、その後死亡まで一切請求しなかったこと、そして関係悪化から清算に至る経緯が生前の相談記録等で裏付けられたことです。同種事案では、清算や精算の場面の有無、その場でのやり取り、以後の請求の有無を時系列で整理することが出発点になります。

第3に、段階的な主張の組み立てです。B側は、3720万円の生前贈与、1400万円の贈与または特別受益、900万円の先渡しという形で、金額と法律構成を段階的に主張しました。最終的に認められたのは1400万円の免除構成でしたが、複数の構成を用意しておくことで、裁判所が採りやすい認定の受け皿を作ることができます。

特別受益を争う側

第1に、債権としての承継を主張することです。免除の意思表示がない限り、金銭債権は法定相続分に応じて各相続人に当然に承継されるだけで、持戻しは生じません。免除を否定する方向の事情としては、被相続人が請求の意思を保ち続けていたことを示す言動や記録、返済交渉や督促の形跡などが考えられます。ただし本件では、被相続人が領収書等の原本を保管していた事実が認定されてもなお免除が推認されており、書類の保管だけでは足りないことに注意が必要です。

第2に、死後の事情では争えないことです。審判は、相続人が死後に回収を検討した事実は免除の不存在を裏付けないと明言しました。免除の有無は被相続人の生前の意思の問題ですから、争うのであれば、生前の時点の事情を示す証拠を探す必要があります。

第3に、相続分の譲渡を受ける場合の見極めです。本件のXは、Dから相続分の譲渡を受けましたが、Dの超過特別受益により、譲り受けた相続分の実質的な価値は0円でした。相続分の譲受けを検討する際は、譲渡人に特別受益(とりわけ相続分を超える規模のもの)がないかを事前に確認しておかないと、譲り受けたはずの取り分が計算上消えてしまうことがあります。

立証上のポイント

本件の認定を支えたのは、書面と記録の積み重ねです。まず、金銭の流れを示す客観資料として、交付の事実と金額を示す記録、領収書があります。次に、交付の目的と清算の内容を示すものとして、使途内訳を記した覚書と、2600万円の返金および覚書の無効化を定めた合意書が決定的な役割を果たしました。さらに、被相続人が市の相談員、弁護士、税理士、税務署等に相談した記録が、関係悪化から入居断念、清算に至る被相続人の認識と意向を示す同時代の資料として機能しています。

同種の事案では、「渡したとき」「もめたとき」「清算したとき」「その後」の各時点の資料を揃え、被相続人が残額をどう扱うつもりだったのかを時系列で再構成することが、主張する側・争う側の双方にとって立証の中心になります。

併せて検討すべき周辺論点

特別受益が認められる場合の次の争点として、持戻し免除の意思表示(民法903条3項)があります。被相続人が持戻しを免除する意思を表示していれば、特別受益があっても持戻しの計算はされません。本件では問題となっていませんが、同種事案では必ず確認すべき論点です。

また、令和5年4月1日に施行された改正民法904条の3により、相続開始の時から10年を経過した後にする遺産分割は、原則として特別受益や寄与分を考慮しない法定相続分(または指定相続分)によることとされました(経過措置があります)。古い金銭のやり取りを特別受益として主張する場合、遺産分割の時期によっては主張自体ができなくなるため、注意が必要です。

最後に、税務上の取扱いです。債務免除を受けた利益は、税務上、贈与とみなされて贈与税の課税対象となることがあります。免除の時期や金額の認定は課税関係にも影響し得るため、同種の主張を組み立てる際は、税理士との連携も視野に入れておくと安心です。

目次