家業を手伝った相続人に寄与分は認められるか──相応の給与と同居の利益を理由に否定した事例|札幌高決平成27年7月28日

判例のポイント

家業に長年従事してきた相続人であっても、その労務に見合う対価を得ていたと評価される場合には、寄与分(被相続人の財産の維持や増加に特別の貢献をした相続人の取り分を増やす制度)は認められません。本決定は、被相続人が経営する簡易郵便局の事業に従事してきた相続人について、夫婦で月25万円から35万円という相応の収入を得ていたことに加え、被相続人と同居して家賃や食費の負担を免れていたことを考慮し、特別の寄与を否定しました。原審が遺産総額の約3割にあたる3100万円と認めた寄与分を抗告審でゼロとした事例であり、家業従事型の寄与分の認定がいかに厳格かを示す実例といえます。

目次

判例情報

  • 裁判所:札幌高等裁判所
  • 判決日:平成27年7月28日(決定)
  • 事件番号:平成27年(ラ)第6号
  • 関連条文:民法904条の2、903条、907条

事案の概要

本件は、被相続人が経営していた簡易郵便局の事業に長年従事してきた相続人が、寄与分を主張した事案です。原審の家庭裁判所は遺産総額の約3割にあたる寄与分を認めましたが、他の相続人がこれを不服として抗告し、抗告審で寄与分の成否が改めて争われました。

登場人物

  • 被相続人:昭和45年から簡易郵便局を開設・経営していた父。平成23年死亡。
  • A(抗告人):被相続人の子。かつて郵便局で勤務していたが、平成11年以降は出勤していなかった。原審判を不服として抗告した。
  • B(被抗告人):被相続人の子。平成元年から郵便局で勤務し、平成18年に事業を引き継いだ。妻とともに業務に従事し、被相続人と同居していた。寄与分を主張する側。
  • C(被抗告人):被相続人の子。遺産を取得せず、Bから代償金の支払いを受ける形での解決を希望した。

時系列

  • 昭和45年:被相続人が簡易郵便局を開設し、経営を開始(当初はAが勤務して業務を手伝う)
  • 平成元年頃:Bが、被相続人の指示を受けて勤務先の会社を退職し、郵便局での勤務を開始(以後、妻とともに従事)
  • 平成11年:Aが郵便局に出勤しなくなる(平成12年に正式に退職)
  • 平成18年:被相続人が郵便局事業から引退し、Bが事業を引き継ぐ
  • 平成21年:被相続人が、がんのため膀胱と前立腺の全部摘出手術を受ける
  • 平成23年:被相続人が死亡し、相続が開始
  • 平成25年:Aによる遺産分割の申立てと、Bによる寄与分を定める処分の申立てが札幌家庭裁判所に係属
  • 平成26年12月15日:札幌家庭裁判所が、Bの寄与分を3100万円と定めたうえで遺産を分割する審判(原審判)
  • 平成27年7月28日:札幌高等裁判所が原審判を取り消し、Bの寄与分申立てを却下する決定(確定)

経緯

被相続人は、昭和45年から簡易郵便局を開設して経営しており、当初はAが郵便局で勤務して被相続人の業務を手伝っていました。平成元年頃、被相続人がBに郵便局の仕事を手伝うよう指示し、Bは当時勤めていた会社を退職して郵便局で働き始めます。以後、Bは妻とともに業務に従事し、夫婦で被相続人から給与を受け取っていました。Aは平成11年に郵便局へ出勤しなくなり、平成12年に正式に退職しています。

平成18年、被相続人は郵便局事業から引退し、Bが事業を引き継ぎました。B夫婦は被相続人と同居しており、家賃や食費は被相続人が負担していました。被相続人は平成21年にがんのため膀胱と前立腺の全部摘出手術を受け、平成23年に死亡します。相続人は子であるA・B・Cの3名で、法定相続分は各3分の1です。遺産は、郵便局の局舎を含む土地建物(本件不動産〈1〉)、別の土地建物(本件不動産〈2〉)および現金等で、相続開始時の評価額は合計約1億370万円でした。本件不動産〈1〉にはBとCが、本件不動産〈2〉にはAが居住していました。

遺産分割の手続では、Bが寄与分を定める処分を申し立て、遺産の4割に相当する寄与分を主張しました。原審の札幌家庭裁判所は、Bが被相続人の指示で会社を退職して郵便局に勤務したこと、平成11年頃からは事業を事実上取り仕切る立場にあったこと、事業の売上や経費の状況、給与額や関与期間などを考慮して、相続開始時の遺産総額の約3割にあたる3100万円をBの寄与分と認めました。これに対し、Aが原審判の取消しと法定相続分に基づく分割を求めて抗告したのが本件です。

争点

本件の中心的な争点は、Bに寄与分が認められるかどうかです。Bは、寄与分の根拠として、家業である郵便局事業への従事、事業承継後に被相続人へ支払ったとする専従者給与、被相続人の療養看護という三つの事情を主張しました。これに対しAは、原審判を取り消したうえで法定相続分に基づいて遺産を分割するよう求め、寄与分の成立を争っています。

争点1:家業の簡易郵便局に従事したことは「特別の寄与」に当たるか

──給与を受け取りながら長年家業に従事してきた相続人は、その労務提供を理由に寄与分を主張できるのか。

B側の主張:Bは、被相続人の求めに応じて勤めていた会社を退職し、平成元年から郵便局に勤務した。Aが郵便局を退職した平成11年頃には被相続人も郵便局に全く顔を出さなくなり、業務は完全にB夫婦が行っていた。B夫婦の給与は二人で月25万円から35万円にとどまる一方、郵便局の売上は毎年1000万円ほどあり、大きな経費はB夫婦の給与くらいだったから、年間500万円から600万円ほどが被相続人の収入になっていたと推測される。B夫婦が受け取っていた給与は、賃金センサス(国の統計に基づく平均賃金)による大卒46歳時の平均年収514万9000円の半分にも満たない。

A側の主張:Bに寄与分は認められず、遺産は法定相続分に基づいて分割すべきである。

争点2:事業承継後に支払ったとする「専従者給与」は寄与分の根拠になるか

──事業を継いだ相続人が、引退した被相続人に給与を支払い続けていたとすれば、その支払いは被相続人の財産形成への「寄与」と評価できるのか。

B側の主張:被相続人が郵便局事業から引退した平成18年から平成23年まで、被相続人に対し専従者給与(個人事業主が生計を一にする親族従業員に支払う給与)として合計795万9000円を支払った。被相続人に勤務実態はなかったのだから、この支払いは実質的には被相続人への贈与であり、被相続人の資産形成に資するものとして、寄与分算定の根拠となる(抗告審で追加された主張)。

A側の主張:この専従者給与分は、むしろBの特別受益に当たる。

争点3:被相続人の療養看護は寄与分の根拠になるか

──手術後の被相続人の世話を担ったことは、財産の維持・増加に対する「特別の寄与」と評価されるのか。

B側の主張:被相続人は平成21年にがんのため膀胱と前立腺の全部摘出手術を受け、その後死亡するまでの間、Bが中心となって、ストーマ用装具(手術で腹部に造設した排泄のための開口部に装着する用具)の交換や入浴介助等の術後のケアに追われた。

A側の主張:争点1と同じく、Bに寄与分は認められないという立場である。

裁判所の判断

判旨の要約

  • 結論:札幌高等裁判所は、原審判を取り消し、Bの寄与分を定める処分申立てを却下しました(寄与分は認められませんでした)。
  • 理由:B夫婦は月25万円から35万円という相応の収入を得ており、さらに被相続人と同居して家賃や食費も被相続人が負担していたのだから、Bは郵便局事業への従事により相応の給与を得ていたというべきで、被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をしたとは認められない、というものです。

判決文の引用

家業への従事(争点1)について、裁判所は次のように判断しました。

平成一八年○月までの前記郵便局の業務主体は被相続人であったこと、給与水準は従事する事業の内容、企業の形態、規模、労働者の経験、地位等の諸条件によって異なるから、賃金センサスによる大卒四六歳時の年収の平均額に充たなかったとしても、被抗告人B夫婦の収入が低額であったとはいえず、むしろ月二五万円から三五万円という相応の収入を得ていたことが認められること、更に被抗告人B夫婦は被相続人と同居し、家賃や食費は被相続人が支出していたことをも考慮すると、被抗告人Bは、上記郵便局の事業に従事したことにより相応の給与を得ていたというべきであり、被抗告人Bの郵便局事業への従事が、被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をしたとは認められない。

専従者給与の支払い(争点2)については、税務上の処理と実際の支給とを区別し、次のように述べています。

被相続人が使用していた預貯金通帳の取引履歴には、被相続人の給与等が振り込まれた記録がなく、そのほかにも、上記期間、被相続人に専従者給与が現実に支給されたことを認めることができる的確な資料はない

なお、Aが主張した「専従者給与分はBの特別受益に当たる」という点についても、Bが費消したと認められる的確な資料はなく、仮に費消していたとしても直ちに特別受益とはいえない、として退けられています。

療養看護(争点3)については、次のとおり判断しました。

ストーマ用装具交換の図によると、ストーマ用装具は被相続人がひとりで交換ができたと考えられることや、そのほかの資料を総合しても、被抗告人Bの被相続人に対する療養看護について、被相続人の財産の維持又は増加に特別の寄与があったと認めることはできない。

判例の考え方

本決定の判断は、次の三つの点に整理できます。

第1に、相応の対価を得ていた労務提供は「特別の寄与」に当たらない、という判断の軸です。 民法904条の2が定める寄与分は、被相続人の事業に関する労務の提供などにより、被相続人の財産の維持又は増加について「特別の寄与」をした相続人に認められるものです。本決定は、Bが長年従事してきた事実自体は前提としつつ、平成18年まで郵便局の業務主体が被相続人であったこと、つまりBは被相続人の事業に給与を得て従事する立場だったことを指摘したうえで、その給与が労務の対価として相応のものであった以上、特別の寄与は認められないと判断しました。働いた事実があるかどうかではなく、働きに見合う対価を得ていたかどうかが決め手になっています。

第2に、給与が「相応」かどうかの測り方です。 Bは、賃金センサスによる大卒46歳時の平均年収との比較で給与の低さを主張しましたが、本決定は「給与水準は従事する事業の内容、企業の形態、規模、労働者の経験、地位等の諸条件によって異なる」として、統計上の平均額との単純な比較を退けました。そのうえで、金銭の給与だけでなく、被相続人と同居して家賃や食費の負担を免れていたという利益「をも考慮」しています。対価性は、その事業の実情に即して、現物の利益も含めた生活全体で判断される、ということです。

第3に、寄与の前提となる事実を客観資料で厳格に認定する姿勢です。 専従者給与の主張について、本決定は、税務上は被相続人に専従者給与を支給した処理がされていたことを認めながら、被相続人の通帳に振込記録がないことを指摘し、現実の支給を認めるに足りる的確な資料はないとして主張を退けました。療養看護についても、装具の説明図という客観資料から、被相続人がひとりで装具を交換できたと考えられると認定しています。当事者の供述や書類上の体裁ではなく、お金の流れや介護の必要性を裏付ける客観資料を求める判断手法です。

結論に至る処理

裁判所は、Bの寄与分申立てを却下したうえで、寄与分を前提としない具体的相続分(法定相続分を特別受益や寄与分で修正した実際の取り分)を計算し直しました。相続開始時の遺産の評価額にAの特別受益299万5000円を加えたみなし相続財産1億669万3635円を基礎に各相続人の相続分を算定し、これを分割時の遺産の評価額(9156万6366円)に引き直すと、具体的な取り分はAが2875万9056円、BとCが各3140万3655円となります。

遺産の割り付けは、各当事者の希望や不動産の使用状況などを踏まえ、原審判と同じく、Aが本件不動産〈2〉を、Bが本件不動産〈1〉と現金を単独取得し、Cは遺産を取得しない形としました。そのうえで、取り分との差額は代償金(遺産を多く取得した相続人が他の相続人に支払う調整金)で清算することとし、BがAに1415万円、Cに3140万円を支払うよう命じています。原審判での代償金はAに568万円、Cに2301万円(合計2869万円)でしたから、寄与分が否定されたことで、Bの代償金負担は合計4555万円へと大きく増えたことになります。

なお、この代償金はBが保管する遺産の現金を約1960万円上回るものでしたが、裁判所は、当事者相互の関係や本件に関する意見などの事情からB・C間では任意の解決が見込めること、Bが取得する不動産が無担保であることを挙げて、Bに支払いを命じることは不当ではないとしています。

判例の射程

本判例の射程について、判決文の表現に即して整理します。

本件の事実関係を前提とした事例判断であること

本決定は、高等裁判所が抗告審として行った判断であり、家業従事型の寄与分について一般的な基準を定立したものではありません。「相応の収入を得ていた」「被相続人と同居し、家賃や食費は被相続人が支出していた」という本件の事実関係を前提に、特別の寄与を否定した事例判断です。したがって、無償または著しく低い対価で家業に従事していた事案にまで、本決定の結論が当然に及ぶものではありません。

賃金センサスとの単純比較を退けた点

本決定は、「給与水準は従事する事業の内容、企業の形態、規模、労働者の経験、地位等の諸条件によって異なる」と述べています。統計上の平均賃金を下回ることのみをもって対価の不足を基礎づけることはできない、という判断方法は、判決文から確定的に読み取れる部分です。

同居の利益を対価性の判断で考慮した点

本決定は、B夫婦が被相続人と同居し、家賃や食費を被相続人が負担していたことを「をも考慮すると」という形で判断に織り込んでいます。給与額そのものに加えて、同居に伴う生活費負担の免除という利益も、相応の対価を得ていたかどうかの評価に含まれることが読み取れます。

本決定が判断していないこと

専従者給与の点は、現実に支給されたことを認める的確な資料がないという立証の問題として処理されており、現実の支給が立証された場合に寄与分の根拠となり得るかについて、本決定は判断していません。また、療養看護の点も、被相続人がひとりで装具を交換できたと考えられるという本件の事実認定に基づく判断であり、療養看護型の寄与分一般について基準を示したものではありません。

実務での使い方

本決定は、家業に従事してきた相続人の寄与分が争われる場面で、主張する側・争う側の双方にとって判断の目安となる裁判例です。争族案件での典型的な使いどころを整理します。

使える場面

家業従事型の寄与分は、農業、商店、家族経営の事業などを長年手伝ってきた相続人から、遺産分割の調停・審判で主張されることが非常に多い類型です。もっとも、主張されることの多さに比べて、審判で認められるハードルは相当に高く、本件のように「給与をもらいながら手伝っていた」場合には、対価性が最大の関門になります。

本決定は、まさにこの場面で参照される裁判例です。原審が遺産総額の約3割という大きな寄与分を認めながら、抗告審でゼロになったという経過は、寄与分の評価が審級によって大きく変わり得ることを示しており、主張する側にとっても争う側にとっても、解決水準の見通しを立てる際の参考になります。なお、審判では本件のように厳格に判断される一方、調停の段階では、他の相続人の納得を前提に、寄与の事情を取得割合に反映させる柔軟な解決もあり得ます。寄与分の主張は、審判までもつれた場合に認められる水準を見据えて組み立てることが肝心です。

寄与分を主張する側(家業に従事してきた相続人側)

第1に、対価の不足を具体的に立証することです。本決定を前提とすると、賃金センサスなど統計上の平均賃金との比較だけで「給与が低かった」と主張しても足りません。その事業の規模・収益・業務内容に照らして、受け取っていた給与が担っていた労務に見合わないことを、事業の決算資料や業務の実態(労働時間、業務の範囲、責任の程度)から具体的に示す必要があります。

第2に、同居の利益を織り込んで主張を組み立てることです。被相続人と同居して家賃や食費の負担を免れていた場合、その利益は対価性の判断で不利に働きます。同居していたのであれば、生活費は自分たちで負担していた、むしろ被相続人の生活費をこちらが支えていたといった事情を、家計の支出記録や振込記録で示せるかを検討します。

第3に、被相続人の財産の維持・増加との結び付きを示すことです。寄与分は、労務を提供した事実だけでなく、それによって被相続人の財産が維持または増加したことを要件とします(民法904条の2)。事業の収益が被相続人の資産としてどのように蓄積されたのかまで資料で示せると、主張の説得力が増します。

寄与分を争う側(他の相続人側)

第1に、給与の支払事実を客観資料で押さえることです。源泉徴収簿、確定申告書(専従者給与の記載)、給与の振込記録などから、従事した相続人が対価を得ていたことを示します。

第2に、同居と生活費の負担関係を明らかにすることです。本決定が家賃・食費の被相続人負担を考慮したように、同居の利益は対価性を基礎づける有力な事情です。誰の名義の家に住み、生活費を誰が負担していたかを、できる限り資料で特定します。

第3に、事業の主体が被相続人であったことを示すことです。本決定は、平成18年まで郵便局の業務主体が被相続人であったことを指摘しています。事業の名義、契約や許認可の主体、税務申告の主体などから、従事した相続人は「被相続人の事業を給与を得て手伝う立場」だったことを裏付けます。

立証上のポイント

本件で特に目を引くのは、税務上の処理と実際のお金の流れが厳格に区別された点です。Bが事業を引き継いだ後、税務上は被相続人に専従者給与を支払った処理がされていましたが、被相続人の通帳に振込記録がなく、現実の支給を認めるに足りる的確な資料がないとして、この主張は退けられました。寄与分を巡る主張・反論のいずれの立場でも、申告書類の記載をそのまま前提にせず、通帳や振込記録といった客観資料と突き合わせる作業が欠かせません。

療養看護の主張についても、本決定は装具の説明図という客観資料から、被相続人がひとりで交換できたと考えられると認定しています。介護を寄与分の根拠とする場合には、介護の必要性(診断書、医療記録、要介護認定の資料など)と介護の実態(介護の記録、サービスの利用状況など)の両面を、当時の資料で裏付けておくことが重要です。

併せて検討すべき周辺論点

第1に、相続人の配偶者の労務です。本件ではBの妻も郵便局の業務に従事していましたが、妻は相続人ではないため、本件当時は妻自身が寄与を主張する制度はなく、相続人であるBの寄与分の中で考慮するほかありませんでした。平成30年の相続法改正により、相続人ではない親族が無償で療養看護その他の労務を提供した場合の特別寄与料の制度が新設されています(民法1050条、令和元年7月1日施行)。現在であれば、相続人の配偶者が自ら特別寄与料を請求する余地がありますが、同条も「無償で」労務を提供したことを要件とするため、本件のように給与を得ていた場合には、やはり認められにくいと考えられます。

第2に、特別受益との関係です。本件では、寄与分と並んで各相続人の特別受益も争われており、専従者給与については、Bが「被相続人への贈与であり寄与分の根拠になる」と主張する一方、Aが「むしろBの特別受益に当たる」と主張するという、同じお金の流れが正反対の制度に引き直されて争われる場面が現れています。家業の承継や親からの援助が絡む相続では、寄与分の主張と特別受益の主張・反論を一体で組み立てる必要があります。

第3に、寄与分の主張には期間の制限ができたことです。令和3年の民法改正により、相続開始から10年を経過した後の遺産分割では、原則として特別受益や寄与分の主張ができなくなりました(民法904条の3、令和5年4月1日施行)。10年経過前に家庭裁判所へ遺産分割の申立てをした場合などの例外はありますが、家業に尽くしてきた相続人ほど、遺産分割を先送りにしないことがこれまで以上に重要になっています。

第4に、代償分割と支払能力です。本決定は、Bが支払うべき代償金が手元の遺産の現金を約1960万円上回る状況でも、無担保の不動産を取得することなどを踏まえて支払いを命じています。不動産を単独取得して代償金を支払う解決を目指す場合には、代償金の資金をどう手当てするかまで含めて、分割案を検討しておく必要があります。

目次