名義預金か生前贈与か──同じ「贈与証」による入金で帰属の判断が分かれた事例|国税不服審判所令和3年9月17日裁決

判例のポイント

被相続人が「贈与証」と題する書面を作り、12年間にわたって子ら名義の預金口座へ毎年同額を入金していた事案です。国税不服審判所は、口座の存在すら知らされていなかった成人の子名義の預金については、被相続人に帰属する財産(いわゆる名義預金。口座の名義人と、実際にその預金を支配している人が異なる預金のことです)であり、贈与は晩年に金員と通帳を手渡した時点で成立したと判断しました。他方、口座開設当時に未成年だった子名義の預金については、唯一の親権者であった母が法定代理人として贈与を受諾していたとして、口座開設当初から子に帰属し、相続財産には含まれないと判断しています。同じ贈与証・同じ入金でも、受贈者側の「受諾」が認められるかどうかで帰属の結論が分かれることを示した裁決です。

目次

裁決情報

  • 審判機関:国税不服審判所
  • 裁決日:令和3年9月17日
  • 関連条文:相続税法19条1項、民法549条・550条(いずれも平成29年法律第44号による改正前)、民法824条

事案の概要

本件は、被相続人が生前に作成した「贈与証」に基づき子ら名義の口座へ毎年入金されていた預金について、成人の子名義の分は被相続人の財産、未成年だった子名義の分は贈与済みの財産と、帰属の判断が分かれた事案です。

登場人物

  • G(被相続人):複数の会社の代表取締役などを務めていた。平成29年1月に死亡。
  • J(Gの子):Gと妻Hの間の子。大学卒業後、G経営の会社に勤めていたが、Gとの関係悪化から平成10年に退職し、以後Gと疎遠になっていた。
  • X(審査請求人):GとLの間の子。口座開設当時(平成13年)は未成年。平成27年4月2日にGの認知を受けた。
  • L(Xの母):G関連の複数の法人で経理事務を担当。Xが成年に達するまで、Xの唯一の親権者だった。
  • H・K・M:Gの妻H、GとHの間の子K、GとLの間の子M。共同相続人はHと子4名(J・K・X・M)の計5名で、Lは相続人ではない。

時系列

  • 平成13年8月:Gが「贈与証」と題する書面を作成(毎年8月中に子4名へ各〇円を贈与する旨。金額は非公表)。Lがその保管を任される
  • 平成13年8月10日:LがGの依頼により、J・K・M・Xの4名名義の普通預金口座を開設。同日、1回目の入金
  • 平成13年〜平成24年:毎年1回、G名義の口座から出金した現金が、子ら名義の各口座へ同額ずつ入金される(計12回)
  • 平成25年以降:入金が途絶える(GはJにその理由を伝えていない)
  • 平成27年4月2日:GがXとMを認知
  • 平成27年6月:LがGの依頼により、J名義預金の残高全額を払い出してGに引き渡す
  • 平成27年8月:GがJに対し、払い出した金員とJ名義預金の通帳・印章を手渡す
  • 平成29年1月:Gが死亡(相続開始)
  • 令和元年9月:相続税の税務調査の過程で、JがLから「贈与証」を初めて示される
  • 令和2年6月:Xが、X名義預金などを相続財産に含める修正申告
  • 令和2年10月:Xが、X名義預金は相続開始の3年より前に贈与済みだったとして更正の請求
  • 令和3年1月:原処分庁が、X名義預金に係る部分について更正の請求を認めない処分
  • 令和3年9月17日:本裁決

経緯

Gは、平成13年8月、「私は、平成拾参年度より以後、毎年八月中に左記の四名の者に金、〇〇〇〇円也を各々に贈与する。但し、法律により贈与額が変動した場合は、この金額を見直す。」と記載した「贈与証」と題する書面を作成しました。書面にはGの署名押印があり、子4名の住所・氏名が記載されていましたが、子らの署名押印はいずれもありませんでした(なお審判所は、この金額について、平成13年に贈与税の基礎控除が110万円とされた税制改正を踏まえ、毎年贈与税がかからない範囲で贈与するつもりだったと推認しています)。

Gの依頼を受けたLは、同月10日、子ら4名名義の普通預金口座を開設し、以後平成24年まで毎年1回、Gの口座から出金した現金を各口座へ入金し続けました。Jはこの間、自分名義の口座が開設されたことも、入金されていることも知りませんでした。J名義口座の通帳や印章はGが保管し、平成25年以降は、Jへの説明のないまま入金自体が止まっています。Gは平成27年8月、Jに対し、残高全額を払い出した金員とともに通帳・印章を手渡し、Jはこのとき初めて自分名義の預金の存在を知りました。

他方、X名義口座の通帳・印章は、開設当初から一貫してLが保管していました。Xは口座開設当時未成年であり、Gの認知を受けたのは平成27年ですから、それまでの親権者は母Lだけです。X名義口座には、毎年1回の入金と利息のほかに入金はありませんでした。

Gの死後、相続税の税務調査を受けたXは、いったんX名義預金を相続財産に含める修正申告をしましたが、その後、この預金は相続開始の3年より前に贈与済みの財産だったとして更正の請求(申告した税額が過大だったとして減額を求める手続)をしました。原処分庁がX名義預金の部分についてこれを認めなかったため、Xが審査請求をしたのが本件です。なお、調査の過程では、会社の金庫から見つかった多額の現金の帰属や、Jへの贈与の時期もあわせて問題になっています。

争点

本裁決では、金庫内で発見された現金の帰属を含む三つの争点が扱われましたが、本稿では名義預金に関わる二つの争点(裁決でいう争点2と争点3)を、順に争点1・争点2として取り上げます。なお、現金については、被相続人の相続財産に含まれると判断されています。

争点1:成人の子J名義の預金は、毎年の入金時に贈与されていたのか

──贈与者が一人で作成した「贈与証」と、受贈者の知らない名義口座への入金だけで、贈与は成立するのか。

X側の主張:贈与証の作成によって書面による贈与が包括的に成立しており、平成13年から平成24年の各年に、その受諾と履行がされていた。Gは暦年贈与を始めることをJに口頭で申し出たうえで贈与証を作成し、毎年の入金の都度Jに知らせ、Jはこれを受諾していた。したがって、Jは各年に財産を取得済みである。

原処分庁の主張:書面による贈与が成立したというためには、その前提として贈与者と受贈者の合意が必要である。Jは相続開始後まで贈与証の存在を知らず、受諾の意思表示をしたと認められる証拠もない。J名義預金は、平成27年に通帳とともに金員が渡されるまでGが管理しており、自由に処分できたのはGだけだった。贈与は、Jが金員を受領した平成27年に成立した。

ここで注意したいのは、当事者の対立の向きです。審査請求をしたのはXですが、相続税は、相続人全員の課税価格を合算して税額の総額を計算し、各人に割り振る仕組みです。Jへの贈与が「相続開始前3年以内」の平成27年とされれば、その分が課税価格に加算され(相続税法19条1項)、Xの税額にも影響します。Xが、自分以外の相続人であるJへの贈与の時期を争ったのはこのためです。

争点2:未成年だった子X名義の預金は、相続財産に含まれるのか

──受贈者本人が贈与を知らない未成年者であっても、親権者が受諾していれば贈与は成立するのか。

X側の主張:贈与証が作成された平成13年当時、Xは未成年であり、認知を受けるまでは母Lが唯一の親権者として財産管理権を有していた。Lは贈与証の作成当時にこれを示されて贈与を受諾し、毎年の入金の際にも親権者として受諾していたから、各年に贈与が成立している。X名義預金は相続財産に含まれない。

原処分庁の主張:LはGの指示に従って入金していただけで、贈与証の存在は知っていたものの、その具体的内容を理解しておらず、入金が贈与であるという認識もなかった(LはXに通帳を渡す際、Gが積み立てていた金員だと説明している)。したがって未成年の期間に受諾はなく、成年後もXが贈与証の内容を把握していた証拠はない。Xが通帳を実際に取得したのは平成30年と認められ、X名義預金は相続開始時点でGに帰属する財産である。

審判所の判断

判旨の要約

争点1

  • 結論(J名義預金):J名義預金は被相続人Gに帰属する財産であり、贈与は、平成27年8月に金員と通帳が手渡された時点で成立・履行された。したがって、相続開始前3年以内の贈与として相続税の課税価格に加算される。
  • 理由(J名義預金):贈与証に受贈者の署名押印はなく、Jは調査開始後までその存在を知らなかったうえ、Gは約14年間、口座の存在すら知らせないまま通帳等を管理し続けており、毎年の入金時に贈与の意思の合致があったとは認められないから。

争点2

  • 結論(X名義預金):X名義預金は、口座開設当初からXに帰属する財産であり、相続財産には含まれない。
  • 理由(X名義預金):口座開設当時に未成年だったXの唯一の親権者Lが、法定代理人として贈与証による贈与の申込みを受諾し、以後、Xの代理人の立場で通帳・印章を管理していたと認められるから。

裁決文の引用

まず、J名義預金の帰属について、審判所は次のように述べました。

我が国において、親が子に伝えないまま子名義の銀行預金口座を開設の上、金員を積み立てておく事例が少なからず見受けられることに鑑みると、J名義口座は、本件贈与証に記載したとおりの贈与の履行がされているとの外形を作出するために本件被相続人により開設され、平成27年8月まで本件被相続人自身の支配管理下に置かれていたものと認められるから、J名義預金は、本件被相続人に帰属する財産であったと認めるのが相当である。

「毎年電話で贈与の連絡を受けて受諾していた」というJの陳述については、次のとおり信用性を否定しています。

かかる当事者の行動及び事実の経過からすれば、Jの陳述のうち、本件被相続人から電話で毎年贈与する旨の申込みがあり、その後も毎年、電話で贈与の連絡を受け、その都度、受贈の意思を示していたとする点は、不自然かつ不合理なものといわざるを得ず、他にこれら陳述の内容を直接裏付ける客観的資料もないから、信用することができない。

他方、X名義預金については、まず親権者Lによる受諾を認めました。

そうすると、Lは、平成13年当時、請求人の法定代理人として、本件被相続人からの本件贈与証による贈与の申込みを受諾し、その結果、平成13年から平成24年に至るまで、当該贈与契約に基づき、その履行として、Lが管理する請求人名義口座に毎年〇〇〇〇円が入金されていたものと認めるのが相当である。

そのうえで、X名義預金の帰属を次のとおり結論づけています。

そうすると、請求人名義預金は、本件贈与証に基づく入金が開始された当初から、Lが、請求人の代理人として自らの管理下に置いていたものであり、請求人が成人に達した以降も、その保管状況を変更しなかったにすぎないというべきである。
したがって、請求人名義預金は、平成13年の口座開設当初から、請求人に帰属するものと認められるから、本件相続財産には含まれない。

裁決の考え方

本裁決の考え方は、次の3点に整理できます。

第1に、贈与の成立には「申込み」と「受諾」の意思の合致が必要だという出発点です。贈与は、贈与者が財産を無償で与える意思を表示し、相手方が受諾することによって効力を生じます(本件当時の民法549条。現行法でも同じ枠組みです)。「贈与証」のような書面があっても、それは贈与者側の一方的な意思の表明にすぎません。本裁決も、贈与証に受贈者の署名押印がなく、Jがその存在自体を知らなかった事実関係のもとでは、「本件贈与証の存在のみをもって、直ちに」贈与の成立を認めることはできないとしています。なお、書面によらない贈与は、履行の終わった部分を除き各当事者が撤回できるとされていました(改正前民法550条。現行法では「解除」と表現が改められています)。

第2に、受諾の有無は、本人の事後の供述ではなく、同時代の客観的な事実経過から認定されるという点です。Jについては、贈与の申込みを受けたという割に自分の口座を提供せず、口座の開設にも協力していないこと、Gが約14年間にわたり金融機関名や口座番号すら知らせず、通帳・印章を手元に置き続け、入金を止める際も何の連絡もしなかったことなどから、GにはJ名義預金をJに自由に使用させる意思がなかったと認められました。こうした客観的経過と矛盾するJの陳述は排斥され、毎年の入金時の意思の合致は否定されています。その結果、J名義口座は贈与の履行の「外形」を作るための口座、すなわち実質は被相続人の財産と評価されました。

第3に、受贈者が未成年の場合には、親権者が法定代理人として受諾できるという点です(民法824条)。Lは口座開設当時から贈与証の保管を任され、関連法人の経理を担当していたことなどから、「毎年〇円を贈与する」という贈与証の単純な内容を理解していたとみるべきとされ、平成13年当時、Xの法定代理人として贈与の申込みを受諾したと認められました。そして、X名義口座が贈与の履行のためだけに使われ(毎年の入金と利息のほかに入金がない)、通帳・印章を当初からLが保管していたことから、この保管は受贈者側(Xの代理人)としての管理と評価されています。同じ「名義人本人以外による通帳の保管」でも、保管者がどの立場で保管していたかによって、評価が正反対になるわけです。Xが成年に達した後も保管状況が変わらなかった点や、X本人がいつ通帳を受け取ったかは、すでに贈与が成立している以上、帰属の判断を左右しませんでした。

結論に至る処理

J名義預金については、Gに帰属する財産だったことを前提に、平成27年8月の金員の手渡しによって贈与が成立し、履行されたとされました。これは相続開始(平成29年1月)前3年以内の贈与に当たるため、相続税法19条1項により相続税の課税価格に加算されます。他方、X名義預金は相続財産に含まれないため、これを相続財産とした課税は維持できません。審判所は、審査請求には理由があるとして、更正処分および過少申告加算税の賦課決定処分の一部を取り消しました。

裁決の射程

本裁決の射程について、裁決文の表現に即して整理します。

「贈与証の存在のみをもって、直ちに」贈与の成立を認めないという判断

審判所は、贈与証という書面を無意味だとしたわけではありません。判断の核心は、書面が贈与者側の意思の表明にとどまる以上、受贈者側の受諾(意思の合致)が別途認定できるかを問うた点にあります。受贈者の署名押印のある贈与契約書が交わされていた事案や、受贈者が書面の存在を当時から知っていた事案について、本裁決から直接の結論は導けません。

J名義預金についての判断は、当事者の認識や通帳の管理状況などの事実経過が前提

J名義預金を被相続人帰属とした判断は、Jが口座の開設に関与せず、Gが約14年間にわたり「金融機関名や口座番号も知らせることなく」通帳等を管理し続け、Jが「自由に使用できる状況には置かなかった」という一連の事実経過を前提とするものです。受贈者が口座の存在を知り、通帳を自分で管理していたような事案にまで、この判断が当然に及ぶものではありません。

X名義預金についての判断は、親権者による受諾と管理の認定の積み重ね

X名義預金をX帰属とした判断は、認知前は母Lが唯一の親権者だったこと、Lが贈与証の保管を任されその内容を理解していたとみるべきこと、口座が贈与の履行のために開設されたことが明らかであること、通帳・印章を当初からLが保管していたこと、という個別の認定の積み重ねによるものです。親権者が手続に関与してさえいれば未成年の子への贈与は常に成立する、という一般論を述べたものではありません。

裁判所の判例ではなく、国税不服審判所の裁決であること

本裁決は行政機関である国税不服審判所の判断であり、裁判所の判例のような先例としての重みを持つものではありません。もっとも、公表裁決として公開されているもので、同種事案の課税実務・審査実務を見通すうえで参考になります。

実務での使い方

名義預金は、相続税の税務調査で指摘されることが特に多い項目であると同時に、遺産分割や遺留分の場面でも「その預金は遺産なのか、それとも特定の相続人が贈与で取得済みの固有財産なのか」という形で争点になります。本裁決は、その分かれ目が「受諾」の認定にあることを、対照的な二つの結論によって示した素材として使えます。

使える場面

第1に、税務調査や審査請求で名義預金の指摘を受けた場面です。納税者側は、X名義預金についての判断枠組み、すなわち親権者による受諾と、親権者による通帳管理を受贈者側の管理と評価する考え方を、贈与済みであることの主張の支柱にできます。

第2に、遺産分割・遺留分の場面です。名義預金であれば被相続人の遺産として分割の対象になり、贈与が成立していれば受贈者の固有財産となって、今度は特別受益(相続人が受けた生前贈与等を遺産の前渡しとみて相続分の計算に反映させる仕組み。民法903条)や遺留分の算定の問題に切り替わります。税務と民事で手続は別ですが、「贈与が成立していたか」という出発点の枠組みは共通しており、本裁決の認定手法は民事の主張立証の参考になります。

第3に、これから暦年贈与を設計する場面です。本件の贈与証のように、贈与者が一人で書面を作って子名義の口座に入金を続けるやり方は、よかれと思って続けた十数年分の「贈与」がまとめて否定されかねないことを、本裁決は示しています。

贈与済み(受贈者の財産)と主張する側

第1に、受諾を裏付ける同時代の客観的資料を押さえます。受贈者の署名押印のある贈与契約書、贈与税の申告、受贈者側による通帳・印章・キャッシュカードの管理、受贈者本人が開設・利用している口座への振込などです。本裁決がJの陳述を排斥した理屈からすると、後から「受け取るつもりだった」「聞いていた」と供述しても、同時代の客観的事実と矛盾すれば通りません。

第2に、未成年の子・孫への贈与では、親権者の受諾を軸に組み立てることです。本裁決は、本人が贈与を知らなくても、親権者が法定代理人として受諾していれば贈与は成立するという処理を明確に示しました。Xについての認定を支えた要素、すなわち親権者が書面の保管を任されていたこと、内容を理解し得た立場だったこと、口座が贈与の履行専用だったこと、通帳・印章を親権者が一貫して管理していたことは、同種事案でそのまま主張の組み立ての確認項目になります。

名義預金と主張する側(遺産分割では他の相続人側)

第1に、間接事実の積み上げです。口座開設の手続を被相続人側が行ったこと、通帳・印章を被相続人が保管していたこと、名義人が口座の存在を知らなかったこと、名義人による入出金がないこと、連絡のないまま入金が止まったこと、名義人の事後的な行動(印章の紛失届の時期、いったん相続財産として申告したこと)などが、本裁決で実際に評価された事情です。

第2に、受贈者側の供述への反論です。本裁決は、贈与の申込みを受けたのに自分の口座を提供せず開設にも協力しないという行動を、「贈与の申込みを受諾した者がとる行動としては不自然」と評価し、陳述の信用性を否定しました。供述と客観的行動の食い違いを具体的に指摘していく進め方の、よい手本になります。

立証上のポイント

本裁決の対比から導かれる教訓は、「受諾」は内心の問題でありながら、その認定は主に外形からされるという点です。贈与のたびに、受贈者(未成年なら法定代理人である親権者)の署名のある契約書を作る、受贈者が管理する口座へ振り込む、必要に応じて贈与税の申告をする、といった記録の積み重ねが、十数年後の調査や争族の局面で決定的な意味を持ちます。なお、本件当時の成年年齢は20歳でしたが、令和4年4月からは18歳に引き下げられており、親権者が受諾・管理できる期間はその分短くなっている点にも注意が必要です。

併せて検討すべき周辺論点

第1に、生前贈与加算の期間延長です。本裁決当時の相続税法19条1項は、相続開始前「3年」以内の贈与を課税価格に加算するものでしたが、令和5年度税制改正により加算期間は「7年」へ延長され、令和6年1月1日以後の贈与から段階的に適用されています(延長された4年分の贈与は合計100万円まで加算対象外)。本件のJのように贈与の成立時期が晩年の一時点とされてしまうと、現行法ではより長い期間の加算リスクを負うことになります。

第2に、贈与税の課税の期間制限との関係です。贈与が古い年分に成立していたと認められる場合、贈与税の更正・決定には期間制限(原則として申告期限から6年)があるため、課税庁が過去の贈与にさかのぼって課税することは通常できません。名義預金か贈与済みかという帰属の争いの背後には、この期間制限の問題があります。

第3に、書面の作り方そのものの検討です。本件の贈与証のように「毎年〇円を贈与する」とまとめて約束する形については、定期金に関する権利の贈与として初年度に一括して贈与税が課されるのではないか、という指摘が課税実務上されることがあります。本裁決はこの点について判断していませんが、暦年贈与を設計する際は、毎年の贈与ごとに契約書を取り交わす方法も含め、書面の形式を慎重に検討するのが安全です。

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