特別受益財産であることの確認訴訟は提起できるか──確認の利益を欠くとして訴えを却下した事例|最判平成7年3月7日

判例のポイント

特別受益財産に当たることを、独立の確認訴訟で先行的に確定することはできません。本判例は、特定の財産が民法903条1項所定の特別受益財産に当たることの確認を求める訴えは、確認の利益(確認訴訟を提起するための法律上の利益)を欠くものとして不適法であると判断した重要判例です。特別受益の存否は、遺産分割審判事件や遺留分減殺請求訴訟(現行法の遺留分侵害額請求訴訟)など、具体的相続分または遺留分の確定を必要とする手続の前提問題として審理判断されるべきものとされました。

目次

判例情報

  • 裁判所:最高裁判所第三小法廷
  • 判決日:平成7年3月7日
  • 事件番号:平成3年(オ)第252号
  • 関連条文:民法903条1項

事案の概要

本件は、共同相続人の一人が、他の共同相続人らに対して、被相続人から生前贈与された各不動産が「民法903条所定のみなし相続財産」(=特別受益財産)であることの確認を求めて、独立の民事訴訟を提起した事案です。すでに家庭裁判所では遺産分割審判の手続が係属していました。

登場人物

  • A(被相続人):昭和45年11月26日死亡。相続人らに対して生前、不動産を贈与していた。
  • X(上告人・原告):Aの相続人の一人。本件確認訴訟の原告。
  • B(被上告人・被告):Aの相続人の一人。Aから不動産の生前贈与を受けたとされる。昭和63年12月19日死亡。
  • C・D・E・F(被上告人ら):Bの相続人(妻・子ら)。Bの死亡により本件訴訟手続を承継。
  • G(被上告人・被告):Aの相続人の一人。Aから不動産の生前贈与を受けたとされる。
  • H(被上告人・被告):Aの相続人の一人。Aから不動産の生前贈与を受けたとされる。

時系列

  • 昭和45年11月26日:A死亡
  • (生前):AからB・G・Hに対し、それぞれ不動産を贈与
  • 昭和47年10月:B・G・HらがXを相手方として、Aの遺産分割審判を申立て(東京家庭裁判所)
  • 昭和62年:XがB・G・Hを相手方として、本件確認訴訟を提起(東京地方裁判所)
  • 昭和62年11月24日:B・G・Hらが昭和47年に申し立てた遺産分割審判を取下げ
  • 昭和62年:Xが別途、B・G・Hらを相手方として遺産分割審判を申立て(東京家庭裁判所)
  • 昭和63年12月19日:B死亡(C・D・E・Fが承継)
  • 平成元年10月6日:第一審判決(東京地方裁判所、訴え却下)
  • 平成2年10月30日:控訴審判決(東京高等裁判所、控訴棄却)
  • 平成7年3月7日:最高裁判決(上告棄却)

経緯

被相続人Aは昭和45年11月26日に死亡し、共同相続人らの間で遺産分割を巡る紛争が生じました。被上告人らは昭和47年10月、Xを相手方として家庭裁判所に遺産分割審判を申立てましたが、その手続は長期にわたって続きました。

Xは、被上告人B・G・Hがそれぞれ生前にAから不動産の贈与を受けており、これらが特別受益財産(民法903条1項所定の「生計の資本としての贈与」に当たる財産)に該当すると主張していました。しかし被上告人らは贈与の事実そのものを争っていたため、特別受益の存否についての争いは膠着状態にありました。

Xは、遺産分割審判の前提問題として家庭裁判所で審理判断されるのを待たず、地方裁判所に対して、当該各不動産が「民法903条所定のみなし相続財産」であることの確認を求める独立の確認訴訟を提起しました。これが本件です。

第一審(東京地方裁判所)は、本件訴えは確認訴訟の対象適格を欠くなどとして訴えを却下し、控訴審(東京高等裁判所)もこれを支持して控訴を棄却しました。Xが上告し、最高裁が上告棄却の判決を下したのが本件です。

争点

特定の財産が特別受益財産に当たることの確認を求める訴えに、確認の利益が認められるか

──ある財産が民法903条1項所定の特別受益財産に当たるかどうかは、共同相続人の具体的相続分の算定に影響する事項です。この点を、遺産分割審判や遺留分の手続とは別に、独立の民事訴訟(確認訴訟)で先行的に確定することができるか。

X側(上告人)の主張:特別受益(民法903条所定の生計の資本としての贈与)の存否は、共同相続人の具体的相続分(実体的権利)の算定の基礎となる事項であるから、これを訴訟事項として確認の対象とすることは許されるべきである。仮に特別受益の存否が地方裁判所で裁判されず、家庭裁判所の専属管轄事項であるとすれば、当事者は最後まで公開の法廷における裁判を受ける機会を奪われ、憲法82条1項に違反することになる。

被上告人側の主張:特定の物件が民法903条所定のみなし相続財産に当たるか否かは、遺産分割審判の前提事項として、家庭裁判所が審理判断すべきものである。すでに遺産分割審判が係属している以上、訴訟経済の見地からも、地方裁判所での独立の確認訴訟は認められるべきではない。

裁判所の判断

判旨の要約

  • 結論:特定の財産が特別受益財産であることの確認を求める訴えは、確認の利益を欠くものとして不適法である。
  • 理由:当該確認は「現在の権利又は法律関係」の確認には当たらず、過去の法律関係の確認としても、相続分または遺留分をめぐる紛争を直接かつ抜本的に解決することにはならず、別個独立に判決によって確認する必要もないから。

判決文の引用

最高裁は、まず民法903条1項の規定の性質について、次のように判示しました。

右規定は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額に特別受益財産の価額を加えたものを具体的な相続分を算定する上で相続財産とみなすこととしたものであって、これにより、特別受益財産の遺贈又は贈与を受けた共同相続人に特別受益財産を相続財産に持ち戻すべき義務が生ずるものでもなく、また、特別受益財産が相続財産に含まれることになるものでもない。そうすると、ある財産が特別受益財産に当たることの確認を求める訴えは、現在の権利又は法律関係の確認を求めるものということはできない。

そのうえで、過去の法律関係の確認の利益について、次のように述べています。

過去の法律関係であっても、それを確定することが現在の法律上の紛争の直接かつ抜本的な解決のために最も適切かつ必要と認められる場合には、その存否の確認を求める訴えは確認の利益があるものとして許容される(最高裁昭和四四年(オ)第七一九号同四七年一一月九日第一小法廷判決・民集二六巻九号一五一三頁参照)が、ある財産が特別受益財産に当たるかどうかの確定は、具体的な相続分又は遺留分を算定する過程において必要とされる事項にすぎず、しかも、ある財産が特別受益財産に当たることが確定しても、その価額、被相続人が相続開始の時において有した財産の全範囲及びその価額等が定まらなければ、具体的な相続分又は遺留分が定まることはないから、右の点を確認することが、相続分又は遺留分をめぐる紛争を直接かつ抜本的に解決することにはならない。また、ある財産が特別受益財産に当たるかどうかは、遺産分割申立事件、遺留分減殺請求に関する訴訟など具体的な相続分又は遺留分の確定を必要とする審判事件又は訴訟事件における前提問題として審理判断されるのであり、右のような事件を離れて、その点のみを別個独立に判決によって確認する必要もない。

判例の考え方

本判決の論理は、次の3段階で整理できます。

第1に、民法903条1項の規定の性質。同項は、被相続人が相続開始時に有した財産に特別受益財産の価額を加えたものを「相続財産とみなす」と規定しますが、これは具体的相続分を算定するために行う観念的な操作にすぎません。最高裁が明確に判示したとおり、この規定によって特別受益を受けた共同相続人に特別受益財産を相続財産に持ち戻すべき実体的な義務が生じるわけではなく、特別受益財産そのものが現実の相続財産に含まれることになるわけでもありません。したがって、ある財産が特別受益財産に当たることを確認しても、それ自体としては具体的な実体的権利義務を確定するものではない、という点が出発点です。

第2に、「現在の権利又は法律関係」に当たらないこと。確認訴訟の対象は原則として「現在の権利又は法律関係」とされていますが、特別受益財産該当性は具体的相続分算定上の一要件にすぎず、現在の権利または法律関係そのものではありません。これが、確認訴訟の対象適格に関する最高裁の整理です。

第3に、過去の法律関係の確認の例外的許容性についても要件を満たさないこと。最高裁は、過去の法律関係であっても「現在の法律上の紛争の直接かつ抜本的な解決のために最も適切かつ必要と認められる場合」には確認の利益が認められる(最判昭和47年11月9日)という枠組みを示したうえで、本件はこの要件を満たさないと判断しました。理由は、①特別受益財産該当性が確定しても、その価額や被相続人が相続開始時に有した財産の全範囲・価額が定まらなければ具体的相続分や遺留分は定まらないから、紛争の直接かつ抜本的な解決にはならない、②特別受益財産該当性は遺産分割審判事件や遺留分減殺請求訴訟の前提問題として審理判断されるから、別個独立に確認する必要もない、というものです。

結論に至る処理

最高裁は、以上を理由として、特定の財産が特別受益財産であることの確認を求める訴えは、確認の利益を欠くものとして不適法と判断しました。本件訴えを却下すべきとした原審の判断は、結論において是認することができるとして、上告を棄却しています。

判例の射程

本判例の射程について、判決文の表現に即して整理します。

「現在の権利又は法律関係」に当たらないことの根拠

最高裁は、民法903条1項について「具体的な相続分を算定する上で相続財産とみなすこととしたもの」と性格づけたうえで、これにより「特別受益財産を相続財産に持ち戻すべき義務が生ずるものでもなく、また、特別受益財産が相続財産に含まれることになるものでもない」と明示しました。この判示は、特別受益財産該当性が「現在の権利又は法律関係」に当たらないことの根拠として、射程の中核に位置します。

裏を返せば、本判例の射程は、民法903条1項の「みなし相続財産」が観念的操作の所産にすぎないという理解を前提に成り立っています。

過去の法律関係の確認としても許容されない範囲

最高裁は、過去の法律関係の確認が許容されるための要件として、「現在の法律上の紛争の直接かつ抜本的な解決のために最も適切かつ必要と認められる場合」という基準(最判昭和47年11月9日)を引用しつつ、本件はこの基準を満たさないとしました。基準を満たさないとされた具体的な根拠は、判決文上、次の2点に整理されています。

第1に、特別受益財産該当性が確定しても、その価額・被相続人が相続開始時に有した財産の全範囲・その価額等が定まらなければ、具体的相続分や遺留分は定まらないこと。第2に、特別受益財産該当性は、遺産分割審判事件や遺留分減殺請求訴訟など、具体的相続分または遺留分の確定を必要とする手続の前提問題として審理判断されるべきものであること。

この2つの論拠は、本判例の射程を画する基本軸です。

遺留分減殺請求訴訟への言及(改正前の事案)

判決文中に「遺留分減殺請求に関する訴訟」との記述があります。これは平成30年改正(令和元年7月1日施行)前の制度を前提とするものであり、現行法では「遺留分侵害額請求訴訟」に置き換わっています。本判例の射程としての結論──特別受益財産該当性は前提問題として審理判断されるため、別個独立の確認訴訟は不要であるという結論──は、遺留分制度が金銭債権化された現行法でも基本的に妥当すると考えられます。

ただし、現行法における遺留分侵害額請求訴訟の前提問題としての特別受益の主張については、改正後の特別受益の主張可能期間制限(民法904条の3)等との関係で別途の検討も必要となります。この点は本判例の直接の射程外です。

関連判例

本判決が判断の根拠として引用した先例は、次のとおりです。

  • 最判昭和47年11月9日(民集26巻9号1513頁):過去の法律関係であっても、それを確定することが現在の法律上の紛争の直接かつ抜本的な解決のために最も適切かつ必要と認められる場合には、その存否の確認を求める訴えに確認の利益が認められるとした先例。本判決は、本件の確認訴訟が同先例の枠組みを満たさないことを根拠付けるために引用しました。

実務での使い方

本判例は、共同相続人間で特別受益の存否を巡る紛争が生じた場面で、確認訴訟という手続選択の可否を判断する際の中心判例です。相続案件における典型的な使いどころを整理します。

使える場面

典型的なのは、共同相続人の一部が他の共同相続人の生前贈与を「特別受益だ」と主張し、これが認められないと自身の具体的相続分が大きく減少する、という場面です。本判例は、こうした特別受益の主張を、遺産分割審判や遺留分侵害額請求訴訟とは別の独立の確認訴訟で先行的に確定することを認めません。したがって、特別受益の存否を巡る争いは、原則として遺産分割審判の前提問題として家庭裁判所で、または遺留分侵害額請求訴訟の前提問題として地方裁判所で、それぞれ審理判断する形になります。

特別受益の主張を予定する側

特別受益の存在を主張して具体的相続分の修正を求める側は、本判例を踏まえると、次の点を意識する必要があります。

第1に、手続選択を誤らないこと。独立の確認訴訟を提起しても、本判例によって確認の利益を欠くとして却下されます。家庭裁判所での遺産分割審判が係属していない場合は、まず審判を申立てたうえで、その手続内で特別受益の主張を行うのが原則になります。すでに審判が係属している場合は、審判手続内で特別受益の主張を行います。

第2に、前提問題として審理されることを念頭に置いた立証準備。特別受益の存在を裏付ける同時代証拠──贈与契約書、登記原因証明情報、預金の入出金記録、関係者の供述など──を早期に確保しておくことが重要です。判決文に整理されているとおり、特別受益財産該当性は遺産の範囲・価額の確定とあわせて総合的に判断される事項ですから、特別受益のみを切り出して主張するのではなく、遺産全体の評価との連動を意識した立証計画が必要になります。

特別受益の主張を否認する側

逆に、自分が受けた贈与について「特別受益ではない」と主張する側は、本判例によって独立の確認訴訟を提起される心配がない点で、防御戦略上の余裕が生まれます。具体的には、他の共同相続人が地裁に「特別受益財産であることの確認訴訟」を提起してきた場合には、本案前の主張として確認の利益を欠くことを主張し、訴え却下を求めることができます。

ただし、遺産分割審判または遺留分侵害額請求訴訟の中で特別受益が前提問題として審理されることまで防げるわけではありません。贈与の趣旨が「生計の資本」等に該当しないという主張・立証準備は別途必要です。例えば、贈与が「親としての扶養義務の履行の範囲内」「祝儀・贈答の社会通念上の範囲内」「対価関係に立つ譲渡」等であった、という主張・立証によって、特別受益該当性そのものを否定する余地は残されています。

立証上のポイント

本判例は手続選択の問題(独立の確認訴訟の可否)を扱うものですが、その背後にある実体判断──特別受益の存否──は、最終的にどの手続で判断されるとしても重要です。

実務上、特別受益の存否を判断する際には、贈与時点の事実関係を詳細に把握する必要があります。被相続人の生前の資産・収入・家庭状況、贈与時の社会状況、贈与の経緯・目的、贈与額の妥当性、他の共同相続人への贈与の有無など、総合的な事情の検討が求められます。最高裁が本判例で「具体的な相続分又は遺留分を算定する過程において必要とされる事項にすぎず」と整理したとおり、特別受益該当性の判断は相続全体の枠組みの中で総合的になされるべき事項であり、ある特定の財産だけを切り離して確定することは制度上想定されていない、という点は実務上常に意識する必要があります。

併せて検討すべき周辺論点

本判例は、独立の確認訴訟の可否のみを扱っており、いくつかの隣接論点については判断を示していません。

第1に、遺産の範囲確認の訴えとの違い。判例上、ある財産が遺産に属することの確認を求める訴え(遺産の範囲確認の訴え)については、確認の利益が認められています。本判例は、この遺産の範囲確認の訴え自体を否定する趣旨ではなく、あくまで「特別受益財産該当性の確認」に限った射程を持ちます。両者は確認対象が異なる別の訴訟類型であり、混同しないことが訴訟戦略上の重要な分岐点です。実際には、ある財産が「遺産に属する」のか「すでに生前贈与された特別受益財産」なのかが争われる場面も少なくありませんが、その場合の手続選択は、当該財産の現在の権利関係をどう構成するかによって変わってきます。

第2に、遺言無効確認の訴えや相続人の地位の確認の訴えとの違い。これらは判例上、独立の確認訴訟として確認の利益が認められていますが、本判例の射程外です。確認対象が「現在の権利又は法律関係」に該当するかどうかが分かれ目となります。

第3に、改正民法における持戻し免除との関係。令和元年7月1日施行の改正民法は、婚姻期間20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与等について持戻し免除の意思表示の推定規定(民法903条4項)を新設しました。持戻し免除の意思表示の存否や効力を独立の確認訴訟で先行的に確定することについても、本判例の論理が同様に妥当する可能性が高いと考えられますが、本判例の直接の射程外であり、慎重な検討が必要です。

第4に、特別受益の主張可能期間の制限との関係。令和5年4月1日施行の民法904条の3により、相続開始から10年経過後は原則として特別受益の主張ができなくなりました。本判例は手続選択の問題を扱うものですが、現行法下では、特別受益の主張をどの手続で行うとしても、まずこの期間制限の充足を確認する必要があります。

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