相続分の全部を譲渡した相続人は遺産確認の訴えの当事者にならないとした事例|最判平成26年2月14日

判例のポイント

遺産確認の訴えは、共同相続人全員が当事者として関与すべき固有必要的共同訴訟と解されています。本判例は、この基本的な枠組みを前提としつつ、共同相続人のうち自己の相続分の全部を譲渡した者は遺産確認の訴えの当事者適格を有しないと判断しました。理由は、相続分全部を譲渡した者は遺産全体に対する割合的持分を全て失っており、遺産分割審判等で遺産の分割を求めることができないため、その者との間で遺産帰属性を確定する必要性がないという点にあります。共同相続人が相続分全部を譲渡した場合の当事者適格について、初めて明示的な判断を示した実務上重要な判例です。

目次

判例情報

  • 裁判所:最高裁判所第二小法廷
  • 判決日:平成26年2月14日
  • 事件番号:平成23年(受)第603号
  • 関連条文:民法898条、民法905条、民事訴訟法40条、民事訴訟法134条の2

事案の概要

被相続人Aの共同相続人らが提起した遺産確認の訴えにおいて、被告とされた共同相続人のうち一部の者が既に自己の相続分の全部を他の共同相続人に譲渡していたことが判明し、同人らに対する訴えの取下げの効力が問題となった事案です。

登場人物

  • A:被相続人(本件不動産を所有)
  • 原告ら(被上告人ら):Aの共同相続人で、本件不動産がAの遺産であることの確認を求める訴えを提起した者
  • 被告ら(上告人ら):Aの共同相続人で、原告らとの間で本件不動産の遺産帰属性を争った者
  • Eら:Aの共同相続人だが、自己の相続分の全部を他の共同相続人に譲渡していた者(4名)

時系列

  • 昭和28年1月26日:A死亡(本件不動産を所有)
  • (訴え提起前):Eらが自己の相続分の全部をそれぞれ他の共同相続人に譲渡
  • 平成18年:原告らがEらを含む共同相続人を被告として、本件不動産がAの遺産であることの確認を求める訴え(第1事件)を提起。第1事件には、Y1がX1に対して建物明渡等を求める第2事件が併合
  • 第1事件係属後:Eらが相続分全部を譲渡していたことが判明し、原告らがEらに対する訴えを取り下げ
  • 平成22年2月25日:第1審判決(取下げ有効を前提に請求棄却)
  • 平成22年12月10日:原審判決(取下げ無効として原判決取消し、第1審差戻し)
  • 平成26年2月14日:本判決(原判決破棄、原審差戻し)

経緯

被相続人Aは、昭和28年に死亡し、複数の不動産を残しました。Aの共同相続人らは、本件不動産がAの遺産であることの確認を求めて、他の共同相続人を被告として訴えを提起しました。

ところが、訴え提起後、被告のうち4名(Eら)が既に自己の相続分の全部を他の共同相続人に譲渡していたことが明らかになり、原告らはEらに対する訴えを取り下げました。第1審はこの取下げを有効と判断しましたが、原審は、固有必要的共同訴訟である遺産確認の訴えにおいて共同被告の一部に対する訴えの取下げは効力を生じないとした最判平成6年1月25日に照らし、相続分譲渡には遡及効がなく譲渡人は共同相続人としての地位を失わないとして、Eらも当事者適格を喪失していないと判断し、第1審判決を取り消して差し戻しました。これに対して上告受理申立てを受けた最高裁が判断を示したのが本判決です。

争点

共同相続人のうち自己の相続分の全部を譲渡した者は、遺産確認の訴えの当事者適格を有するか

争点の本質的な問いは、相続分の譲渡には遺産分割や相続放棄のような遡及効がなく、譲渡人は共同相続人としての地位そのものは失わない(債権者との関係では債務を免れない等)とされるなか、それでもなお、固有必要的共同訴訟である遺産確認の訴えの当事者適格を肯定すべきか、それとも、遺産分割手続との関係で「事実上、相続放棄と同様」と扱って当事者適格を否定すべきかという点にあります。

【当事者適格肯定説(原審・被上告人らの立場)】
相続分の譲渡には相続放棄のような遡及効がなく、譲渡人は共同相続人としての地位を失うわけではない。固有必要的共同訴訟である遺産確認の訴えの当事者適格を喪失するともいえないから、共同被告の一部に対する訴えの取下げは効力を生じない。

【当事者適格否定説(上告人らの立場)】
相続分の全部を譲渡した者は、遺産全体に対する割合的持分を全て失っており、遺産分割審判等で遺産の分割を求めることができない。遺産確認の訴えは遺産分割の前提問題として遺産帰属性を確定するためのものであるから、譲渡人との間で確定する必要性はなく、当事者適格を有しない。

裁判所の判断

判旨の要約

共同相続人のうち自己の相続分の全部を譲渡した者は、遺産確認の訴えの当事者適格を有しない。なぜなら、相続分全部を譲渡した者は遺産全体に対する割合的持分を全て失い、遺産分割審判等で遺産の分割を求めることができないから、その者との間で遺産分割の前提問題である遺産帰属性を確定すべき必要性がないからである。

判決文の引用

遺産確認の訴えは、その確定判決により特定の財産が遺産分割の対象である財産であるか否かを既判力をもって確定し、これに続く遺産分割審判の手続等において、当該財産の遺産帰属性を争うことを許さないとすることによって共同相続人間の紛争の解決に資することを目的とする訴えであり、そのため、共同相続人全員が当事者として関与し、その間で合一にのみ確定することを要する固有必要的共同訴訟と解されているものである(中略)。しかし、共同相続人のうち自己の相続分の全部を譲渡した者は、積極財産と消極財産とを包括した遺産全体に対する割合的な持分を全て失うことになり、遺産分割審判の手続等において遺産に属する財産につきその分割を求めることはできないのであるから、その者との間で遺産分割の前提問題である当該財産の遺産帰属性を確定すべき必要性はないというべきである。そうすると、共同相続人のうち自己の相続分の全部を譲渡した者は、遺産確認の訴えの当事者適格を有しないと解するのが相当である。

判例の考え方

本判決の論理は、(1)遺産確認の訴えの目的・性質と、(2)相続分全部譲渡の効果という、二つの観点から構成されています。

まず(1)について、遺産確認の訴えは、特定財産が遺産分割の対象であるか否かを既判力をもって確定し、これに続く遺産分割審判等で遺産帰属性を争えなくすることによって紛争解決に資することを目的とする訴えと位置付けられています(最判昭和61年3月13日、最判平成元年3月28日)。この目的からすれば、遺産確認の訴えの当事者適格は、その後に予定される遺産分割手続の当事者となるべき者と一致するのが自然です。

次に(2)について、相続分の譲渡における「相続分」とは、積極財産と消極財産を包括した遺産全体に対する割合的な持分または法律上の地位を指すと解されています。したがって、相続分の全部を譲渡した者は、遺産全体に対する割合的持分を全て失い、遺産分割審判等で分割を求めることはできなくなります。

この二つを組み合わせると、相続分の全部を譲渡した者は、後続する遺産分割手続の当事者にならず、その者との間で遺産帰属性を確定する必要性はないことになります。よって、遺産確認の訴えの当事者適格も否定されるという結論が導かれます。

結論に至る処理

本判決は、Eらは自己の相続分の全部を譲渡しており、第1事件の訴えの当事者適格を有しないから、原告らのEらに対する訴えの取下げは有効であるとしました。これと異なる判断をした原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反があるとして、原判決中上告人らに関する部分を破棄し、本案の審理をさせるため原審に差し戻しました。

判例の射程

本判例の射程について、判決文の表現に即して整理します。

第一に、本判決は「自己の相続分の全部を譲渡した者」についての判断であり、相続分の一部のみを譲渡した者については本判決の射程外です。判決文は「積極財産と消極財産とを包括した遺産全体に対する割合的な持分を全て失う」ことを当事者適格否定の根拠としていますので、一部譲渡では同じ理由づけは当てはまりません。

第二に、本判決は遺産確認の訴えに関する判断です。譲渡人が遺産不動産の登記移転義務や占有移転義務を負う場合の取扱い、また、相続分譲渡があった場合の遺産分割手続そのものにおける当事者の取扱いについては、判決文上は触れられていません。

第三に、本判決は相続分全部譲渡の対外的効果(債権者との関係で譲渡人が債務を免れないこと等)については判断しておらず、譲渡人の共同相続人としての地位を全面的に否定したものではありません。あくまで遺産分割の前提問題としての遺産帰属性確定との関係で、当事者適格を否定したものという位置付けになります。

関連判例

本判決が判決文中で明示的に引用した先例は次のとおりです。

  • 最判昭和61年3月13日(民集40巻2号389頁):遺産確認の訴えは、特定財産が現に共同相続人による遺産分割前の共有関係にあることの確認を求める訴えとして適法であるとした判例。本判決は、遺産確認の訴えの目的・性質を確認するためにこの判例を引用しています。
  • 最判平成元年3月28日(民集43巻3号167頁):遺産確認の訴えは、共同相続人全員が当事者として関与し、その間で合一にのみ確定することを要する固有必要的共同訴訟であるとした判例。本判決は、遺産確認の訴えの訴訟形態を確認するためにこの判例を引用しています。

実務での使い方

使える場面

本判例は、争族案件で遺産確認の訴えを提起する場合や、訴え提起後に共同相続人の一部について相続分譲渡の事実が判明した場合の処理に直接関わります。具体的には、遺産帰属性に争いがある共同相続人を相手取って遺産確認の訴えを起こす際、相続分を全部譲渡した者を被告に含める必要があるかどうかの判断、また、訴え提起後にそうした事実が明らかになった際の訴訟整理(訴えの取下げの可否)に活用できます。

遺産確認の訴えを提起する側の整理

訴え提起の準備段階では、共同相続人全員について相続分譲渡の有無を確認することが大切になります。相続分の全部を譲渡した者は当事者適格を欠くため、被告に含める必要がなく、含めれば当事者適格の点で問題が生じます。譲受人が共同相続人であれば、その者は譲受け分も含めて当事者となります。

訴え提起後に相続分譲渡が判明した場合は、譲渡人に対する訴えを取り下げる手続を進めます。本判決により取下げの有効性は認められるため、固有必要的共同訴訟における共同被告の一部に対する訴えの取下げが効力を生じるかという点での不安は解消されています。

対抗する側(被告側)の整理

被告とされた共同相続人の側で、共同被告のなかに相続分を全部譲渡した者がいる場合、本案前の主張として当事者適格の欠缺を指摘することが考えられます。固有必要的共同訴訟である遺産確認の訴えで当事者適格を欠く者が含まれていれば、訴え全体の適法性に影響します。ただし、原告側で取下げによる対応が可能であるため、攻防の現実的な意味は限定的です。

むしろ実務上意味が大きいのは、相続分の譲受人が誰であるかの確認です。譲受人が共同相続人であれば、その者の譲受け分が単に増えた形となり、譲渡人とは別途、譲受人は当事者として関与することになります。

立証上のポイント

相続分譲渡の有無は、相続分譲渡証書の有無や戸籍・遺産分割協議への関与状況、印鑑証明書の交付状況などから立証することになります。譲渡証書がない場合や、譲渡の範囲(全部か一部か)が争われる場合には、譲渡当時の事情や当事者の認識についての書証・人証を慎重に収集する必要があります。

「全部譲渡」と「一部譲渡」の区別は、本判決の射程に関わる重要な区別です。譲渡証書の文言が曖昧な場合、譲渡当事者の意思解釈が問題になります。

また、相続分譲渡は債権者との関係では譲渡人が債務を免れないため、債務を含む包括承継としての譲渡なのか、あるいは積極財産のみについての譲渡なのかという点も、書面の文言や経緯から確認しておくべきポイントになります。

併せて検討すべき周辺論点

本判決と密接に関連する論点として、相続分譲渡があった場合の遺産分割手続における当事者の取扱いがあります。家事事件手続法43条1項により、家庭裁判所は当事者となる資格を有しない者および当事者である資格を喪失した者を家事審判の手続から排除することができるため、遺産分割審判では相続分を譲渡した者を排除する取扱いが可能です。本判決は、遺産確認の訴えについて、これと整合的な処理を可能にしたものといえます。

また、相続分の一部譲渡の場合の取扱いは本判決の射程外であり、別途検討が必要です。一部譲渡の場合、譲渡人にも持分が残るため、当事者適格は否定されないと考えられますが、確定的な最高裁判例はありません。

さらに、相続分譲渡をめぐる論点としては、譲渡証書の解釈、譲渡時期、譲渡対象の範囲(積極財産のみか債務を含む包括的譲渡か)、譲受人の資格(共同相続人か第三者か)など、多岐にわたります。争族案件で相続分譲渡が登場する場合は、これらの点を丁寧に確認することが、後の手続選択を間違えないために大切になります。

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